公共R不動産のプロジェクトスタディ公民連携のしくみとデザイン

公共空間の活用が加速している。
規制緩和が進み、使い方の可能性が広がり、行政と民間の連携も進化。
本書は企業や市民が公共空間を実験的/暫定的/本格的に使うためのノウハウを、国内外のリノベーション活用事例、豊富な写真・ダイアグラムで紹介。
公共空間をもっとオープンに、公民連携をもっとシンプルに使いこなそう。

『公共R不動産』スタートから3年。行政が持っている物件/資産を民間企業のニーズとマッチングさせる試行錯誤を続けてきた。現段階で得られた経験や知識、そして整備しなければならないと思える方法論を一冊の本にまとめた。
今後、この本が行政や民間企業が新たな公民連携プロジェクトを起こすときのヒントになったらうれしい。

公共R不動産が生まれた時代背景

日本のさまざまな街で公共空間再生の動きは広がりを見せているが、その動きをさらに加速させようと、使われていない公共空間と使いたい人や企業をマッチングさせるしくみとして2015年に立ち上げたのが「公共R不動産」というメディアだ。現在、日本中の自治体や国土交通省、総務省、内閣府等からさまざまな相談や掲載依頼が寄せられるようになった。このような変化のなかに身を置いて感じるのは、今から日本の公共空間、そしてそのつくり方は大変革期を迎える、ということだ。公共R不動産を始めてから3年。この変化の兆しは、瞬く間に実践モードに変わっている。

自治体と省庁で進む公共空間の再編

まず、日本の自治体が置かれている状況に公共空間再編の原因の一つがある。現在、日本の基礎自治体の数は約1700。そのうち、約1300が自主財源を義務的経費が上回る、事実上の破産状態にある。福祉や医療費が増大するなかで、公共施設への再投資は今後さらに難しくなる。これから間違いなく、堰を切ったように公共空間は民間に開放され始めるはずだ。各省庁も相次いで、公共施設のあり方について、今後10年スパンの予想や方針を発表している。今、全国各地の公共空間がその方法論を求めている。

国内外のプロジェクトを二部構成で紹介。「1.風景をつくってみる-社会実験」で紹介するアーバンピクニックは社会実験から始まり日常の風景に。(左上、写真提供:山脇和哉)、「5.シビックプライドをつくる オープンプロセス」ではコペンハーゲンのスーパーキーレンのデザインプロセスを紹介。(左下、写真提供:PARKFUL)

この本の使い方

この本は、国内外の事例をプロジェクトスタディ、コラム、インタビュー、妄想企画4つのコンテンツで構成している。管理する人、運営する人、使う人、誰にとっても読みやすいようプロジェクトの解説を写真とダイアグラムを加えて紹介している。
前半は、「公共空間を使う4つのステップ」。
1.風景をつくってみる/2.仮説で使ってみる/3.使い方を提案する/4.本格的に借りて の4つの段階に分けてまとめた。楽しい風景の舞台裏にある、プロセスや仕組み、組織のつくり方を理解し、自らのチャレンジの手法としてヒントにしてほしい。

後半は、「公共空間をひらく3つのキーワード」として、
5.シビックプライドをつくる/6.領域を再定義する/7.“公共”を自分事にする 新しい公共空間の可能性を広げる3つのメッセージでまとめた。使用することが目的なのではなく、公共空間を活用して、どのようなことを目指しているのか、その本質を貫いているプロジェクトを選んだ。

[インタビュー] 丹埜倫さん(左上)、町田誠さん(左下)、長谷川浩己さん(右上)、長谷川さんが手掛けたオガールプロジェクト(右下)

さらにインタビューでは、実践で活躍するキーマン3人に話しを聞いた。公共施設を活用し、合宿事業で新たなマーケットを創造するR.projectの丹埜倫さん。国土交通省で公園の規制緩和を推し進める町田誠さん(国土交通省都市局公園緑地・景観課緑地環境室長)、公民連携のモデルとされるオガールプロジェクトでランドスケープを手掛けたオンサイト計画設計事務所の長谷川浩己さん。実践者だからこそ語ることができる、壁の突破法やこれから描く未来の展望を聞いた。

[コラム]変革によって生まれた日本版BIDを解説

コラムでは、個別事例で紹介しきれなかったキーワードを紹介する。「道路を解放するストリートファニチャー」「暫定利用と連動したクリエイティブな再開発」「公募プロセスを変革する民間提案制度」「公共空間の質を保つデザインコントロール」「健全な公共投資のしくみ、BID/TIF」少しプロ向けではあるが、これからの公共空間活用で欠かせない視点を基礎から解説。

本書は、国内外の先進事例を題材に、そうした複雑なプロセスをなるべくわかりやすく解説し、こうすればもっとスムーズになるというアイデアも提案している。新しい公共空間の使い方を発見するヒント集として本書を活用してほしい。


『公共R不動産のプロジェクトスタディ 公民連携のしくみとデザイン』

編集:公共R不動産
著者: 馬場正尊、飯石藍、菊地マリエ、松田東子、加藤優一、塩津友理、清水襟子
出版社:学芸出版社
総頁:208頁
判型:四六判
定価:本体2,000円+税
ISBN:ISBN978-4-7615-2682-5

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〈目次〉

はじめに―複雑だから面白い、公共空間のダイナミズム
この本の使い方

1部 公共空間を使う4つのステップ

1 風景をつくってみる―社会実験

タイムズスクエア―大混雑した車道を世界一の広場に
座り場@ひろさき―可動椅子の魔法
アーバンピクニック―毎年進化する市民主導の社会実験
グリーンループ仙台―イベントの連鎖でまちを盛り上げる
スライド ザ シティ―道路を最高のエンターテインメント空間に
ねぶくろシネマ―河川敷で一夜限りの映画鑑賞
ミンホカオ―高速道路の歩行者天国
〈コラム1〉 道路を開放するストリートファニチャー
〈妄想企画その1〉 使える公共空間データベース
〈妄想企画その2〉 公募プロセスをひっくり返す逆提案制度

2 仮設で使ってみる―暫定利用

下北沢ケージ―まちのコンテンツと出会う高架下
COMMUNE 2nd―暫定利用地をポジティブに変える屋台村
あそべるとよたプロジェクト―中心市街地を使いつくす壮大な実験
BETTARA STAND日本橋―フレキシブルな「動産」活用
テンペルホーフ空港―市民の自由を守る都市の余白
〈コラム2〉 暫定利用と連動したクリエイティブな再開発

3 使い方を提案する―サウンディング

Shibamata FU-TEN Bed and Local―所有×運営×設計の新たなフレームワーク
Kaikado Cafe―公共施設のブラックボックスをあける
THE BAYS―クリエイティブな公民連携で最適解を引きだす
〈コラム3〉 公募プロセスを変革する民間提案制度
〈妄想企画その3〉 暫定利用しながらトライアル・サウンディング
〈妄想企画その4〉 事業者と自治体をつなぐコーディネート・エージェント

4 本格的に借りてみる―民間貸付

吉本興業東京本部―小学校を遊び心溢れるオフィスに
ONOMICHI U2―日本初!?バイクと泊れるホテル
タルマーリー―保育園が経済循環の起点となるパン屋に
INN THE PARK―日本初、泊まれる公園
てんしば―民間が運営する公園の実力
グッドネイバーズ ジャンボリー―よき隣人たちが変えるまち
浜松ワインセラー―トンネルが天然の貯蔵庫に
〈コラム4〉 公共空間の質を保つデザインコントロール
【インタビュー】 丹埜 倫(R.project)
―遊休公共施設×合宿事業で新たなマーケットを創出

2部 公共空間をひらく3つのキーワード

5 シビックプライドをつくる―オープンプロセス

スーパーキーレン―プロセスからまちを変えた公園
KaBOOM! ―公園づくりのレシピ公開、全米でムーブメントに
マックメナミンズ ケネディ スクール―廃校のポートランド的解釈
南池袋公園―都心に現れた、まちのリビング
ハイライン―2人の若者の情熱が都市計画を変えた
パークキャラバン―キャンプから始まる小さな公園革命
〈妄想企画その5〉 クリエイティブに選ぶ審査員
〈妄想企画その6〉 ハコモノの呪縛から解く、ハードとソフトの一体発注
【インタビュー】 町田 誠 (国土交通省都市局公園緑地・景観課緑地環境室長)
―公園の使い方を開放するルールづくり

6 領域を再定義する―新しい公民連携

立川市子ども未来センター―市役所×まんがの幸せな関係
オガールプロジェクト―PPPエージェントの日本モデル
ブルックリンブリッジパーク―自力で稼ぐ、独立採算の公園
台東デザイナーズビレッジ―廃校で起業を学ぶ
〈コラム5〉 健全な公共投資のくみ、BID/TIF
【インタビュー】 長谷川浩己(オンサイト計画設計事務所)
―オープンスペースのデザインからエリアを変える

7 “公共”を自分事にする―パブリックシップ

西予市役所―オフィス改革から始まる行政改革
氷見市役所―世界初、体育館を活用した市役所
台東山海鐵馬道―再発見された、まちの裏側のポテンシャル
アブサロン教会―教会を現代的な公民館にバージョンアップ
〈妄想企画その7〉 硬直した公共資産を動かすローカルファイナンス
〈妄想企画その8〉 公共施設のポジティブな閉じ方

公共空間活用のための用語集

おわりに

連載

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公共R不動産の本のご紹介

クリエイティブな公共発注のための『公募要項作成ガイドブック』

公共R不動産のウェブ連載『クリエイティブな公共発注を考えてみた by PPP妄想研究会』から、初のスピンオフ企画として制作された『公募要項作成ガイドブック』。その名の通り、遊休公共施設を活用するために、どんな発注をすればよいのか?公募要項の例文とともに、そのベースとなる考え方と、ポイント解説を盛り込みました。
自治体の皆さんには、このガイドブックを参照しながら公募要項を作成していただければ、日本中のどんなまちの遊休施設でも、おもしろい活用に向けての第一歩が踏み出せるはず!という期待のもと、妄想研究会メンバーもわくわくしながらこのガイドブックを世の中に送り出します。ぜひぜひ、ご活用ください!

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