連載①「公共空間をコストからエンジンへ」 総務省猿渡官房審議官に聞く!

総務省が7月にスタートした「公共施設再生ナビ(以下、再生ナビ)」、「公共施設オープンリノベーションマッチングコンペティション(以下、コンペ)」の2つの取り組み。公共空間を舞台に新たな試みを仕掛けた総務省猿渡審議官にその真相と思いを聞く。

URL:https://www.gservice.cloudjp.net/renovation/

 

公共施設再生ナビのウェブサイト
公共施設再生ナビのウェブサイト

 

コストかエンジンか。

馬場 正尊(以下、馬場):そもそも、再生ナビとコンペを始めようと思ったきっかけや問題意識をお聞きできればと思います。

猿渡:財政が厳しい中で地方創生を行わなければならないとすると、地域にある宝、すなわち今ある公共施設を上手く使わなくては、という問題意識は持っていました。公共施設は、有名な建築家の設計に限らず相当資本をかけて作っているので、これを地域の宝として、もう少し活用しなければいけない。

馬場:今、総務省は平成28年度までに公共施設等総合管理計画を作るよう自治体に要請するなど、公共空間の利活用に対して問題意識を投げかけたりしていますよね?

猿渡:地方の経済を強くして税収を上げるためにも、仕事を作らなければ意味がない。

そう考えたとき、公共施設は良い場所にあることが多く、地域に賑わいを生む新たな事業の立ち上げ等を考えたときに、有利だと思うのです。そこを民間の人にも使ってもらい、自治体はそれを支援するという構図を考えられるのではないでしょうか。

今問いたいのは、公共空間はコストなのかエンジンなのかということです。税収を使うだけではコストになってしまう。そうではなく、税収増につながる、すなわち経済活動が循環することによって社会のエンジンになってほしいのです。地方のGDPの底上げを図りたいのです。

 

民間が公共空間を運営するビジネスモデル

馬場:では、もっと民間企業に公共空間・公共施設をどんどん使ってもらうにはどうしたらよいでしょうか。

猿渡:図書館だ、公民館だ、市役所だ、ではなく、この場所にある建物でどのくらい人が集まるのか、本来の可能性に着目し、民間の人に使ってもらう枠組みを考えてほしいのです。

馬場:とは言っても、まだ民間が公共空間を使う事例はたくさんはないですよね。

猿渡:そこで、私がまず見に行ったのが、アーツ千代田3331ですね。秋葉原という素晴らしい場所なんですけど、中学校の跡に数千万の投資を民間組織で行い、リノベーションして、お金を返していきながら千代田区に賃料を払う。こんなに素晴らしいビジネスモデルがあるのかと。行ってみると非常に洒落ているけど、学校の跡の匂いも残っていて、こういう場所が地方にあれば色々なビジネスが起きるなという刺激を受けた。

 

みんなの活力を引き出す

馬場:具体的に再生ナビを作ったり、コンペをするというところまでには、どんな思いや過程があったのですか。

猿渡:結局は、これからはみんなの活力を引き出していくしか無いので、総務省としてやるべきだと思ったのは、自治体とクリエイターをマッチングするポータルサイトを作って、コンペティションをやって、意識を公共空間の利活用に向けていきたいと思ったのです。

たまたま、別の仕事で知り合っていた、北川フラム先生や隈研吾先生に聞いたら、それは素晴らしい話じゃないかと、ただお2人がいずれも言われたのは、コンペをやるのはいいけどデザインがいいのは当たり前なんだと、その場を使って持続可能なビジネスモデルがつくれないと、結局素晴らしい建物を作っても長続きしないということだったんです。

馬場:隈さんも北川さんもそこに関して、問題意識は一緒だったんですね。

猿渡:お2人とも1つ目は建物自身が続くために経済性がないといけない。2つ目は、クリエイターの人も飯を食っていかなければいけない。そういう経済の種をつくりたいという気持ちがあられたみたいなので、今回は一致したという感じですね。

 

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既成概念の固まり

馬場:自治体とクリエイターをマッチングして、自治体からの提案を総務省が求めるというコンペの構図を見ると、あえて自治体間の競争を生もうとしている感じも見えるのですが、どうなんですかね。

猿渡:公務員は既成概念の塊のようなものですから、公共施設のオープンリノベーションなどの新しい切り口から発想の転換を求めていく。

公共空間がコストになるか、エンジンになるかということだと思うんですよ。コストだったらカットするしか無い。エンジンにはガソリンを供給する訳ですよ。我々も自治体の人も発想を変えなくてはならない、そういう時代の流れに来ている。

その時に一番のポイントは、自治体が自分たちだけでやっていても急には変われないので、外部の発想とエネルギーをどう吸収して、コラボレーションするかですね。

 

猿渡:ここは美術館だというと、建物を美術館そのものとしての使い方しか思いつかないじゃないですか。でも、この街中にこういうデザインの建物があり、人通りがこうだと、そこを最大限に住民に喜んでもらえる使い方ができないのか、という発想をすると色々な可能性が出てくると思いますね。市役所はこういうものだと決まっている、1階には必ず市民課と税務課がないといけないとかね。でも人を寄せるのであれば、いきなり税金を払ってくださいというのではなくなりますよね?

馬場:別に食堂やカフェでもいいですもんね。

猿渡:せっかく街の中心部に人々が集まる素晴らしい建物があるのなら、もうちょっと在り様を考えたらいいんじゃないかと。そうすると色んな可能性が出てくるんじゃないですかね。

馬場:自治体の内部からだと、中々そういう発想がわかないから、外部のエンジンであるクリエイターを導入するという。

猿渡:投資の対象となるような、住民が素敵だと思う体験ができる空間をつくらなければならない。そうするとお金が回っていって、多くの人が素敵なことに従事することで生活が出来るようになってくる。そうすると、みんな幸せになってくるじゃないですか。

馬場:なるほど。そのきっかけとしての再生ナビやコンペがあるし、全国移住ナビ(*1)もそうかもしれませんね、今の哲学を聞いていると。その問題提起をしているという感じなんですか。

猿渡:それを地方で先導的にやれるのは自治体の人でしょう。決まりきったことをやるんじゃなくて、チャレンジングなことに手を出し、人々に問いかける。これからはそういうふうにやる必要があるんじゃないかということですかね。

馬場:自治体の人たちには、活用ナビやコンペを通してどんなことを期待していますか。

猿渡:新しい発想がどんどん湧くことが一番の活性化の種じゃないですか。金があれば何かできるとか、同じことをやってもしょうがないわけですよ。あるものを活かして循環させるということ、あるものを活かすということは本来持っている可能性を追求するということですよね。循環させるというのは本来無駄なものはないという発想じゃないですか。そういう発想でいくと、色んな気づきがあるだろうし、公務員自身の自分でも気づいていなかった才能とか可能性がどんどん開けるんじゃないですか。例えばこれを、自分で発想して自治体内部でやろうとしても難しいでしょう。ただ総務省が提案してきたことを、上手く利用して自分や市民のやりたいことにチャレンジするという人に使ってもらいたい。

馬場:その可能性がある枠組みを作ったんですね。

猿渡:このコンペもどんどん動いていくかもしれません。このままで決まりではなくて、色んな人の意見を取り入れて、枠組みも変わっていっていいと思っているんです。

 

コンペ

クリエイターの登竜門

馬場:一方、参加するクリエイターの人や活用者・事業者の人に対してはどんな思いですか。

猿渡:1つの登竜門として活用してもらえばありがたいということですよね。全国に何千という公共施設があるわけですから、どんどんご提案いただいて、コンペで採用されるというのもあるけど、提案が色んな形で生かされていくことが、その人のためでもあるし、地域のためでもあると思います。

馬場:クリエイターも枠組みが大きいので、どの角度で提案するといいのか暗中模索している人が多いだろうと想像します。

猿渡:今回、提案をいただいたアイディアは記名付きでオープンにしていきます。コンペの枠組みを越えて自治体と新たなマッチングを受けることによって、勝手に進めていい。逆にそういうことをして欲しいということです。

 

既成概念のワナから抜け出すきっかけに

猿渡:この再生ナビやコンペはささやかな取り組みだけど、こういうところから少しずつ、既成概念の罠から抜け出すきっかけにしたい。

馬場:すでにあるものは資産と考えたほうが良いし、それが現実的ですよね。

猿渡:じゃあ、その資産をどう上手く活用するのか。それを、予算編成の時に経常コストや管理費が掛かっているじゃないかと議論するくらいなら、上手く使ってくれる人に提供すれば良いんですよ。そうすれば人も集まってくるし。

馬場:クリエイターから見ると、公共の仕事にコミットしたりする機会が少ないですよね。このコンペの規模が数千万円というのがハードルが高すぎず良いですよね。

 

【ちいさなチャレンジが出来る枠組み】

馬場:今後のどんな展望や可能性をイメージしていますか?

猿渡:公共施設オープンリノベーションで一番言っているのは、今まで公共施設は定型的なパッケージサービスの管理業務になってしまっていたと思うんですよ。そこから、公共施設の可能性を使って新たなビジネスモデルを構築する、あるいは挑戦する民間の人を支援するという発想に変わると、色んな行政の分野に応用が効いてくると思うんですよね。

 


 

このウェブサイトやコンペを仕掛けた側の総務省の意図は、上記のようなものだ。

総務省としての公共施設を自治体が活用するための具体的なフローをこのコンペをきっかけに作りたいという思いが伝わってくる。公共空間再生についての大きな扉が開かれようとしているのかもしれない。

 


 

猿渡 知之(さるわたり ともゆき)

総務省官房審議官(地方創生・地方情報セキュリティ担当)

主な経歴:

東大法卒後、自治省入省、栃木県財政課長、青森県企画部理事等を経て、

平成13年4月 総務省自治行政局自治政策課(理事官・情報政策企画官)

平成15年8月 京都府総務部長

平成18年5月 京都府副知事

平成21年4月 総務省総合通信基盤局高度通信網振興課長

平成23年4月 地方公共団体金融機構資金部長

平成24年4月 総務省自治行政局地域政策課長 兼 内閣官房内閣参事官

平成25年2月 総務省自治行政局地域政策課長 命 地域の元気創造 推進室長事務取扱 兼 内閣官房内閣参事官

平成27年7月より現職

 

*1:全国移住ナビとは、全国の自治体と連携した居住・就労・生活支援等に係る総合的なワンストップのポータルサイト。

URL:https://www.iju-navi.soumu.go.jp/ijunavi/

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