最近少しずつ耳にするようになった「プレイスメイキング」という言葉。直訳すると「場づくり」。しかしこの言葉が意味するのは、ただのハードとしての「場」ではなく、空間の居心地が良くなり、楽しいコンテンツが生まれ育ち、賑わいが生まれ魅力が増し、そしてまちの価値が上がっていくことそのものを意味しています。
そんなプレイスメイキングを推進していこうと、なんと国土交通省が動いています。日本一の大地主である国が、ハードの場だけでなくソフトコンテンツや商業など様々な要素を含んだ「場の賑わい」を意識しているなんて、なんだか嬉しい。
担当しているのは国土交通省都市局まちづくり推進課。
「居心地を良くし、賑わい・活気を創出する、公共・公的空間の実証事業」なる事業を展開し、プレイスメイキング実証事業の初期段階をサポートし、いずれは補助金に依存しない自立的な事業になっていくための道筋を作っています。
今回はその事業の枠組みを作った企画専門官の林直人さんを直撃。国土交通省が考える「プレイスメイキング」とは、そしてこの事業を通じて目指していきたい公共空間の未来像について取材してきました。
プレイスメイキング実証実験
公共R不動産(以下「公共R」):そもそもなぜ実証事業を行うことになったのですか?
林専門官:「都市空間に賑わいを創出する」という観点から、毎年調査事業は実施していたのですが、もっと多くの方にプレイスメイキングという考え方を知ってもらいたいと考え、その道で活躍する国内外の専門家を招いて大々的にシンポジウムをしようということで、2014年に「プレイスメイキングシンポジウム」を開催しました。
2014年9月~11月に行われたシンポジウムのチラシ。錚々たるメンバーによる座談会や講演、パネルディスカッションが行われた。
シンポジウム詳細は以下ご参照ください。
林専門官:シンポジウムを通して、居心地の良い空間を一人でも多くの人に実感してもらうことがすごく大事だということを痛感し、2015年は実際に具体的な実証事業をしてみよう、という経緯で実証事業の実施に至りました。
公共R:そこで弘前の座り場プロジェクトと、池袋グリーン大通りのGREEN BLVD MARKET実証事業が対象に選ばれたわけですが、なぜその2つだったんですか?
林専門官:実証事業の成果を、他地域でも展開していくことが重要だと考えているので、選定当時、既に自主的に企画されていた30余りのプロジェクトの中から、より波及効果が高いであろう事業を選定しました。具体的には、①実現可能性②成果の見通しが得られる③普遍性・新規性の3つの観点から検討しました。
公共R:弘前の事例はどういった経緯で選ばれたのですか?
林専門官:弘前の事例は、地域に熱意があり、実現可能性が高かったこと、専門家(渡和由准教授。先のシンポジウムの登壇者でもある)の監修によるバックアップが見込めたことなどから選びました。開催地となった公園(緑地)が素敵だったことのも決め手でしたね。
公共R:池袋の事例は?
林専門官:プレイスメイキングによる公共空間の変化を実感してもらうためには、地方だけでなく都心部での動きも取り上げる必要があると考えました。中でもこのグリーン大通りのプロジェクトは2年前からオープンカフェ社会実験を繰り返していたことから既にプレイスメイキングの兆しはあり、それをより発展していきたいということで選びました。また、グリーン大通りは歩道の幅が広く、ショップを出すエリアと歩行エリアをうまく両立することができたのもポイントでした。
弘前が公園・緑地の活用であるのに対し、池袋は道路の活用なので、対象エリアとしてもタイプの違うものを選びました。
弘前の事例だけだと、実感してもらえる人の数が限られてしまうし、池袋の事例だけだと、大都市だからできるんでしょ、と言われてしまう。両方行うことに意味があったのです。
国交省の考える「賑わい」とは
公共R:賑わいの効果測定はどのように行ったのですか?
林専門官:今回の実証事業は「やって、見せる」というのが最大の目的です。ですから、実感していただくことにこそ意義があると考えています。その上で、横展開のため、来場者数などの量的観点だけでなく、アンケートでの満足度調査といった質的な観点も重視して行いました。
公共R:数字だけではないのですね。
林専門官:そうです!“賑わい創出”というと、すぐ歩行者通行量が計測指標となり、そのために一過性のイベントを行うという顛末になりがちです。それも一つの解決策ですが、もっと根本的に、居心地を良くするための仕掛けを少しすることで、日常的に賑わいを創れないの?というのが今回の実証事業をやるにあたって生まれた問いです。
社会実験で小さな成功を繰り返す
公共R:国交省の方からそうした言葉が聞けるのはなんだか嬉しいです。国交省としては、「社会実験」という枠組みをどのように捉えていますか?
林専門官:社会実験によって、人の行動を変えていくことが必要なのです。一度やって、「あそこでOKならこっちでもOKよね」、というコンセンサスを積み上げていきます。首長に訴えること、つまり市長に「やろう」と言ってもらうことも大事だと考えています。自治体の人のポテンシャルも重要です。
実際にやってみると、地方のほうが厳しいな、という感触はあります。
弘前は、公園に椅子を置く、という素朴なケースですが、弘前の人の中では何かが確実に変わったと思います。公園のポテンシャルに自治体や市民の方自体が気づいて、周辺のアクセスをもっと改善しようとか、継続のためのスキームを考え始めています。
林専門官:また、たとえば飲食店を公園や道路に持って来よう、となったときに、衛生面や火気使用などの営業上の問題が出てきますが、切って焼くのはダメだけど、切ったものを持ってきて焼くのはOK(※保健所のルール)などの細かい制限もあります。そういうことも実際にやってみないと気付かないですから、そうした気付きやそれを克服するための工夫も含めて、広く横展開していきたいですね。
色々な法律や規制も、「壁」と捉えるのではなく、まずは社会実験の枠組みの中でその壁を超えていくための「運用」を考えていければと思っています。
使えるかも!国交省の支援策
公共R:今後の展開はどのように考えていますか?
林専門官:プレイスメイキングの専門家に監修してもらい、引き続き調査を進めていきたいと考えています。
公共R:別の社会実験を国交省の実証事業として支援していく可能性もありますか。
林専門官:はい。実証実験の補助事業(民間まちづくり活動促進・普及啓発事業。詳しくはこちら)
という枠組みがありまして、社会実験として新たな切り口があり、モデル事業として先進性があると認められた事業を、補助する制度です。
たとえば、民間事業者が道路や公園を活用して賑わいを創出する社会実験する場合などに、その社会実験に要する施設・機材の設置、調査、実施運営に関する経費の一部(全体の3分の1以内且つ地方公共団体負担額の2分の1以内)の補助を自治体を通して受けることができます。
公共R:そんな制度があるのですね。公共R不動産でもそうしたせっかくの制度を、紹介していければと思います。
林専門官:ぜひ上手く使っていただきたいです。
今回のインタビューを通して、国交省のプレイスメイキングへの意気込みを強く感じました。
今後も公共R不動産では、国交省の取り組みをお伝えしていく予定です。ご期待ください。