産学官によるオフィス改革の実験
このフロアは、職員が自らのワークスペースと働き方を考え、生産的かつ創造的に業務を推進するための実験から生まれました。
愛媛県の南部に位置する人口約3万9000人の西予市。2004年に五つの町が合併して生まれたが、2019年に合併特例債の期限を迎え、普通交付税の約16億円が削減されることから、業務の効率化・健全化が不可欠でした。そこで市では、コミュニケーションの活性化や業務効率化を図り、市民サービス・市の魅力向上につなげるため、オフィス改革をスタートします。
2016年、市は産学官連携の協定を結び、オフィスの環境計画が専門の仲隆介氏(京都工芸繊維大学)、心理学が専門の戸梶亜紀彦氏(東洋大学)、設計を担う馬場正尊(オープン・エー)の三者と協働し、4階の1フロアでオフィス改革を始めました。フリーアドレス制や新しいオフィスのシミュレーションなどを行い、職員に働き方を考える意識が醸成されていきました。その結果、「その日の業務内容に応じて環境を選べることで主体性が生まれ、業務の質と生産性の向上につながる」という考えに行き着きました。
多様な働き方を支える空間
新しいオフィス空間のコンセプトは「働き方のモードを選べるオフィス」。調査やワークショップから抽出された、下記の五つの特徴を持つワークスペースを用意しました。また、空間のリニューアルに合わせてICTツールを導入するなど、デザインとしくみの双方向から改革を図りました。
1.ウェルカム(市民の応対)/
職員と市民の距離感を縮めるため、職員と市民の境界となるカウンターを一部廃止し、丸テーブルを設置。木材を基調にした柔らかい雰囲気に。
2.チーム(部署内の協働)/
課ごとのフリーアドレス席(チームアドレス制)を採用。合わせてノートパソコン・PHSの支給、デュアルモニターの設置、資料の電子化・ペーパーレス化を図る。
3.コラボ(部署間の共有)/
議論を可視化するガラスボード、可動式の家具、ボックス席など、気軽に打合せができ、情報共有をスムーズに行える空間に。
4.プレイ(気分転換)/
多様な使い方ができるカフェのような空間に、消耗品や給湯スペースを集約。コミュニケーションを誘発する仕掛けを散りばめ、休息や会話が自然に生まれる空間に。
5.パーソナル(集中)/
窓際に個人作業を行いやすいカウンターを設置。コミュニケーションの量が増えても集中できる空間を確保。
縦割りの弊害、会議の形骸化、膨大な書類…、何かと批判されがちな行政組織ですが、その慣習がこうした取り組みで変わりつつあります。リニューアル後のアンケートや観察調査では、課を超えたコミュニケーションが増加したほか、職員の意識も自律的に仕事に取り組むよう変化したことがわかりました。また、ペーパーレス化で書類保管量は約50%に減り、市議会でも議場へのタブレットの持ち込みが進められています。
人口減少に伴う財政難への対応は全国的な課題であり、業務の効率化という観点からも、行政職員の働き方改革≒庁舎におけるオフィス改革は今後あらゆる自治体で必要とされるでしょう。
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上記の記事については、公共R不動産が編集・執筆した書籍、
「公共R不動産のプロジェクトスタディ 公民連携のしくみとデザイン」でもご紹介しています。
他事例や妄想コラム・インタビューも掲載していますので、ぜひご覧ください。