平成20年4月1日、新宿区は花園神社のお隣、旧四谷第五小学校の跡地によしもと笑学校が開校した。 元の箱としての小学校は1934年竣工、つまり戦前に建てられたこととなる。
これは現在日本に残る鉄筋コンクリート造の建物として最も古い部類に入る。
古さもさることながら、そのモダンなデザインも魅力的だ。 特徴的なのはフラットなコンクリートの壁面と大きな窓、それらに囲まれた緑がまぶしい中庭。そして前面が格子角のガラスに覆われた光あふれる円筒状の空間だろう。
取材に赴いた際には、もちろんこういった垂涎ものの意匠に興奮しまくっていたのだが、同時に不思議に思うことがあった。 それは、小学校として使用されていた当時の面影を大きく残していることにある。
いや、例えばここが美術館として再利用されているなら(雰囲気を活かすという意味で)なんの違和感もないのだが、吉本興業という非常に大規模な法人が「オフィス」として使用しているのだ。
オフィスとして使用する限り、もちろん空調や部署間の移動効率など、よりリアルな部分に焦点があてられるのが常だが、ここにはそれがないのである。 だが、笑顔のまぶしい地域担当の職員さんに学校中を案内されているうちに、そんな違和感も解けてきた。
広い廊下にタレントのグッズやイベントで使用したと思しきデカい看板や着ぐるみ、そしてワビサビ室やよしもとロボット研究所(今話題のPepper君のキャラクター設定やアプリを開発しているのは実は吉本興業だったりする)があったりと、独特のユーモアをミックスしながら本当にウマいこと学校というハコを使用しているのである
そしてそこかしこから聞こえてくる笑い声とがやがやとした雰囲気、なんだか懐かしいと思ったら、この空気感、あの雰囲気に似ているのだ。 そう、文化祭のアレである。
確かに、アレは楽しかった。 思えば、HRが一丸となって模擬店を造るプロセスというのは、会社で企画を立ち上げプロジェクトチームを編成しミッションを遂行する過程に近いものがある気がする(多少強引な解釈だけど)。
その解釈が生まれた瞬間、なぜ吉本興業がこの小学校をより原型に近い形で使用しているのか分かった気がした。 きっと、吉本興業のように多様性や創造性が重視される会社において、必要以上の機能性はそこまで大きな価値を生まないのだろう。 これは仮説に過ぎないが、問題解決の為の創造性が物をいうこの社会において都内の一等地にあるピッカピカのA級ビルに入居するより、むしろこの形こそが最先端でイケているのではないか。その現場を感じてきた今となっては、そんな可能性すら感じているのである。
いずれにせよ、真面目に遊ぶことで世の中に笑いを振りまいてくれる最高にハッピーな会社のオフィスは、やっぱり最高にハッピーな空間だった。
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