[レポート(2)]神田警察通り賑わい社会実験&トークセッション

全2回にわたり紹介する「神田警察通り賑わい社会実験」。2回目は11月25日にゲール・アーキテクツのデイビッド・シムさんと公共R不動産ディレクター馬場のトークセッション&ワークショップの内容を中心にレポートします。

 後編㈪
デイビッドさんは果たして神田にどんな印象を持ったのでしょうか?
 ◆登壇者プロフィール
David Sim(デイビッド・シム)
クリエイティブディレクター
「人間中心のまちづくり」を提唱、世界中でその思想が注目されているデンマークの
都市デザイナー ヤン・ゲールが主宰する「ゲール・アーキテクツ」のクリエイティブ
ディレクター。ゲール・アーキテクツのプロジェクトはニューヨークのタイムズスクエアを
はじめ世界中の町の表情を一変させた。デイビッドのメッセージは今年発表された
「東京都市白書」(東京都都市整備局)にも記載されているなど日本でも注目が集
まっている。

 

People-First Kanda

 「今日は「ピープルファースト」、神田を「人にやさしい街」にするにはどうしたらいいか、という話をしたいと思います。街にとって一番大事なのは、「人」です。人にとって一番大事なのは、アイレベル(目線の高さ)で起こる事柄です。立った位置から見えるもの、座った位置から感じること。そうした身近で小さなスケールで起こることが非常に重要なのです。

また同時に、自然と触れ合うこともとても重要です。日本も春先の数週間だけ違う国みたいになりますよね。桜を愛でるため、公共空間に人が溢れだしてくる。日本が一年中お花見の時期のようだったらいいのにと思うほどです。

街はもっと良くすることができます。コペンハーゲンは車優先の街から人中心の街に変わりました。私たちはその経験を他の街でも活かし、例えばニューヨークで、車道にペンキを塗るだけで、車より歩行者が優先されるようになるプロジェクトなどを行っています。日本は文化が異なるからできないという声をよく聞きますが、銀座の歩行者天国だって賑わっていますよね。人間中心、歩行者中心の街はヨーロッパ特有のことではありません。なにせ人間がすることですから。」

 

ヒューマンスケール且つ刺激的な神田

「私は神田のファンなんです。ヒューマンスケールの街並みと、五感を刺激する小さなお店が沢山あり、散歩がとても楽しい街だと思っています。散歩をすると街の密度を感じることができます。小さい空間でも仕事をしている人もいて、景気の状態も分かります。

神田は古くさい街だという人もいるかもしれないけれど、実際はすごく効率のいい街だと思います。一階部分に商店などがあり、いろいろなアクティビティが行われていることが外からでも分かりますし、土地も有効に使われています。様々な歴史、古い建物など街に多様性があり、その場にいるだけでインスピレーションを得ることができます。さらに、神田は飲食店が沢山あって、お腹が減っても大丈夫な街ですよね。人間にとって空腹を満たすということもとても大切です。人にやさしい街を考えるにあたり、人間にとって大事なことは、神田の街にとっても大事なことと言えます。

今回のプロジェクトの話を聞いた時、神田の地の利は素晴らしいと思いました。東京の中で一番緑豊かな皇居に歩いて行けて、東京、大手町、秋葉原といった中心地にアクセスしやすい。都心のど真ん中に、神田のようなヒューマンスケールで多様性を残した街があることに感動しました。」

 

神田に住んで人生を取り戻せ!

「ここで、時間の節約についての話をしたいと思います。時間は誰に対しても平等に1日24時間しかありません。ラッキーなら8時間寝ることができて、8時間働く(日本だと10時間くらいですか?もっとかな?)、そうして残った5〜6時間の間に、散歩に行く、コーヒーを飲む、フランス語を習う。この残された6時間こそ、「人生」と呼べるものではないでしょうか。もしあなたが通勤に1時間や2時間をかけているとしたら、それは人生の半分を失っていることと同じかもしれません。

あなたが東京の中心部で働いているとしたら、神田に住めば、通勤により失われる時間を取り戻すことができます。1日に2時間自由時間が増えたら何をしますか?ケーキを焼いたり、子どもに読み聞かせをしたり。こうありたい、と望む人生を生きることができるかもしれません。

人間が持つ一番貴重な資源は時間ですから、地の利においてそこに優位性を持つ神田の魅力は、もっと認知されてしかるべきです。神田が持つ潜在的な魅力をどうすれば解放できるのか。次にそれを考えてみましょう。」

後編㈫

神田のメリットは職住近接を実現し人生を豊かに暮らせる可能性を広げてくれること!(資料提供:ゲール・アーキテクツ)

 

歩行者にやさしい街、ひいては家族にやさしい街に

「神田は歩行者にとって、やさしい街でしょうか。通りを見ると車優先のところが多い印象も受けます。神田では交差点で歩道が車道によって分断されていますが、コペンハーゲンでは歩道が連続しています。つまり、車道が歩道によって分断されるのです。こういう小さな変化でも、ぐっと歩行者優先、人にやさしくなると思いませんか?

先ほど時間の有効活用のためには、神田に住む必要がありますと申し上げました。住む、という視点で考えると、神田は歩行者だけでなく、家族連れにとってやさしい街になる必要があります。お子さんがいる家族や、そのおじいちゃんおばあちゃんにとってやさしい街は、すべての人にやさしい街、「ピープルズ・ファーストの街」と言えるでしょう。

子どもが遊ぶ場所を作ったり、緑を増やしたり。特に緑化は日本人の得意分野ですよね。プランターからはじめて壁面緑化まで成し遂げる手腕があります。とはいえ、物事を変化させるというのはすごく難しいことです。変化を拒むという人もいるでしょう。

神田をもっと良く、変えはするけれど、今のヒューマンスケールを保ち、神田の良さを生かすにはどうすればいいか。そのためには、密度を濃くし、多様性を高める必要があると思います。そのための私のアイディアを紹介させてください。」

後編㈬
まだまだヒューマンスケールが残る神田。その良さを保ったままコンテンツの密度をあげるには?!(資料提供:ゲール・アーキテクツ) 

 

密度を濃くし、多様性を深めるアイディア

「現在の神田の街は、2階建てなどの建物も多いので、今の区画の中でもう少し容積を増やしたものをつくれないか、と考えてみます。外からのプロジェクトでやるのではなく、自発的に上に延ばす。1階にお蕎麦屋さんがあったという記憶を残したまま、上層階にスペースを作る。例えば住居を作れば、人が住み続けることができます。他の家族が住んでもいいし、新しいビジネスが入ってもいい。シェアオフィスやアトリエでもいい。上に軽いプレハブを乗せることもできるかもしれない。屋上や壁を使って、緑を増やすということも考えられる。そうすることで、同じ敷地でも密度を濃くし、多様性を深めることができます。

新しいオープンスペースを作るのは難しくても、今あるものを使って、人にやさしい街を作っていくことは可能です。日本にはせっかくいろいろな技術があるわけだし、いいものができるはずです。」

 

ヒューマンスケールの変化を目指そう

「今、実施している警察通りの社会実験では、「神田で一番気に入っているところはどこですか?」という質問を参加者にしています。緑のあるところが人気で、警察通りは人気がありません。この質問の結果からは、皆が遊んだりくつろいだりできる場所を求めていること、そのためには小さいスケールが大事であることが分かりました。

変化は必ずしも大規模である必要はありません。まずは身近なところから、ヒューマンスケールで始めてみてはどうでしょうか。」

後編㈭
事例からインスピレーションを得る参加者たち

 

デイビッドさんからの示唆に溢れるトークセッションの後、公共R不動産ディレクター馬場正尊から、公共R不動産というメディアを作ったからこそ分かった公共空間活用の課題、それを乗り越えた事例の紹介が行われました。プライベートとパブリックの境界の間に、豊かな中間領域を作れないか、という視点から選ばれた数々の事例詳細はリンクからご覧いただけます。

【活用中】みんなでつくるフェスティバル
フェスという非日常が日常化していくことで、街をも変えるグッドネイバーズジャンボリー(南九州市)

【活用中】小さな公園の大きな可能性
有事の際の訓練というロジックで、公園でキャンプや焚火ができるパークキャラバン(横浜市)

【活用中】大人のトンネル
トンネルとワインセラーは相性ピッタリ。よくぞマッチングした!浜松ワインセラー(浜松市)

【活用中】福岡で屋台やりませんか?
もともとはゲリラ的に発生した屋台を合法化、積極的に事業者を増やす博多の屋台営業候補者募集(福岡市)

【活用中】水辺の街大正区が動きだす!
社会実験で描いた水辺の理想を実現した尻無川河川広場エリア(大阪市)

【活用中】水辺の夜、開放
パブリックな土地(川)とプライベートな土地(店)をブリッジ一つでつないだ北浜テラス(大阪市)

「既存の法律やルールの中でできることは沢山ある。そして始めてしまえばムーブメントになりうる。今日のワークショップを、豊かなパブリックスペースが根付いていくためのきっかけにしていきましょう」、という馬場からの呼びかけに、参加者の頭にはアイディアが溢れ出しました。そのままワークショップに突入。

ワークショップでは、6人1組で8つのチームに分かれ、まず神田の魅力を洗い出し、次に、その魅力とパブリックスペースを掛け合わせて、神田のライフスタイルやワークスタイルを豊かにするアイディアを考えました。55分のグループワークの後、各グループが発表。ビル壁有効活用条例、大喜利パーキング、屋台特区プロジェクトなど、面白いアイディアが次々と湧き出てきました。最後に良いと思うアイディアに投票をして、デイビッドさんから講評をいただきました。

「皆さんが心から考えた、誠実で、オーセンティックなアイディアが出ててよかったと思います。特に人を外に連れ出すアイディアが多かったですが、心身の健康にとっては、外に出て体を動かすことが何よりも大事です。クリエイティブで地に足のついたアイディアばかりで、感動しました。新しい神田を体験しに、また戻ってきたいと思います。」

次回、素敵に変わった神田の街の姿をデイビッドさんに見せられるように、今回出たアイディアを実現させていけるといいですよね。公共R不動産でも、面白い企画は追っていきたいと思っていきます。お楽しみに!

▶︎[レポート(1)]神田警察通り賑わい社会実験&トークセッションもご覧ください。

 

【緊急告知】

上記でレポートしてきたゲール・アーキテクツによる調査分析やワークショップでの将来像の提案について、ゲール・アーキテクツディレクター デイビッド・シム氏が再来日し、報告会が開催されます。

アクティビティ調査やワークショップに参加された方はもとより、「神田でこんなことやりたい!」という方から単に「興味あり」という方まで、広くご参加頂けるとのこと。

奮ってご参加ください!

 

■ 「神田警察通り 賑わい社会実験 2016 開催報告」 <東京>
日時:2017年3月13日(月)
第1回15:00~17:00
第2回18:30~20:30
会場:
第1回 共立女子大学 本館 地下B101講義室
(東京都千代田区一ツ橋2-2-1)
第2回 the C  C-Lounge
(東京都千代田区内神田1-15-10 地下1階)
登壇者: デイビッド・シム
(ゲール・アーキテクツ クリエイティブディレクター) 
参加費:無料
問い合わせ窓口: UR 都市機構 東日本都市再生本部 
事業企画部第 1 グループ (担当者:月岡・今井) 
TEL:03-5323-0421 
Eメール:kanda-pj@ur-net.go.jp 
お申込み・詳細はこちらをご覧ください。 

連載

すべての連載へ

公共R不動産の本のご紹介

クリエイティブな公共発注のための『公募要項作成ガイドブック』

公共R不動産のウェブ連載『クリエイティブな公共発注を考えてみた by PPP妄想研究会』から、初のスピンオフ企画として制作された『公募要項作成ガイドブック』。その名の通り、遊休公共施設を活用するために、どんな発注をすればよいのか?公募要項の例文とともに、そのベースとなる考え方と、ポイント解説を盛り込みました。
自治体の皆さんには、このガイドブックを参照しながら公募要項を作成していただければ、日本中のどんなまちの遊休施設でも、おもしろい活用に向けての第一歩が踏み出せるはず!という期待のもと、妄想研究会メンバーもわくわくしながらこのガイドブックを世の中に送り出します。ぜひぜひ、ご活用ください!

もっと詳しく 

すべての本へ