行政が運営する図書館…じゃなくて「本屋さん」?
図書館は行政が運営するもの、書店は民間が営むもの。そんな固定観念を振り払うように、全国でも珍しい「市が営む書店」として、八戸ブックセンターはオープンしました。一見、「これが公共施設?」と疑ってしまうような洗練された雰囲気の館内には、専門の選書スタッフによって選び抜かれた本がずらり。
本棚の間にはソファやハンモックなど思わず本を読みながらくつろいでしまうようなファニチャーが配置されています。カウンターではドリンクの販売も行っており、コーヒーを片手に本を読むことができます。メニューの中にはなんとお酒まで。本好きにとってはまさに至れり尽くせりの空間です。
民間のアイデアを取り入れて、「行政だからこそできること」をやる
施設の運営・管理、選書と陳列、イベント・展示の企画、宣伝などのディレクションを手がけたのは、知る人ぞ知る下北沢のカルチャー書店B&Bの内沼晋太郎さん。自身の活動を綴った本がきっかけとなり、構想段階からアドバイザーとして関わることになったそう。基本計画から書店の設計・運営のフォローまで、現在も関わり続け、八戸ブックセンターの価値観が守られるようにサポートしています。
地域の書店との自然な棲み分けと連携
今、出版の媒体や流通形態の変化から、地域の書店は厳しい状況にさらされています。そんな中、八戸ブックセンターでは通常の本屋ではなかなか売れない、でも知的好奇心を満たし、教養を深めて行く良質な本に出会ってもらう機会を作りたい、そんな考え方に基づき選書がされています。店頭に置かれる本は海外文学や人文・社会科学、芸術などの分野を中心に、専門的なものでも一般の人にも手に取りやすいかたちで、幅広くセレクト。ただし、目指すのはあくまで「本のまち八戸」の中心拠点として、周囲の書店との相乗効果を生むこと。そのために各書店と連携して共同のフェアを企画したり、時には各店の書店員と勉強会を開いて選書の情報共有を行うなどしています。一般書店と行政主導の本屋がコンテンツをうまく住み分け、相互補完しながら、まちに本を買って読む文化を浸透させようとしています。
サービスを受けるだけではなく市民が自ら参加する仕組み
館内では本にまつわるイベントやワークショップが日常的に行われています。本棚の一角にある「わたしの本棚」では市民から公募で本のセレクションを行なったり、本棚の中に隠された「読書会ルーム」では定期的に市民企画の読書会が開かれたりするなど、単に「本を買う」というサービスを受けるだけではない参加の余白があります。また、市民作家登録をした人が執筆に集中できる部屋として考えられた「カンヅメブース」など、市民が様々な形で本に親しむ仕組みもあちこちに。
八戸のパブリック事情に目が離せない!
ブックセンターの隣の敷地には、地域のお祭りなどのイベントを行うことができる半屋外広場「マチニワ」が先日オープン。道路を挟んだ向かい側に隣接する、地域の情報を発信するポータルミュージアム「はっち」と連携し、この街の新しい風景を形作っています。2021年には「アートを通した学びの拠点」というコンセプトのもと、新美術館も開館予定です。
八戸市中心街のポイントは、文化事業に力を入れることで市民が多様なカルチャーに触れる機会を増やし、街のスケールに合わせた文化施設を点在させながら、それぞれの機能を補完する形で上手に役割分担をしていること。これらの施設がこれからどんな風に使い倒され、街の顔となっていくのか。ますます注目です!