ついに始動!しかし…
大阪府大東市が民間提案制度を開始した。
大東市、とはその名のとおり「大」阪の「東」にあるまちである。
民間提案制度とは、市が民間から提案を求める事業リストを広く公表し、民間(市民、事業者等)はそれに対して「こんなことができる」「こんなことがしたい」を提案。行政側でそれを検討し、評価されれば実際に採用されるというものだ。
何かと公民連携関係では先進的な取り組みで話題となる大東市。いよいよ民間提案制度も始まったか!と、楽しみにウェブページを開いた。が…、どうも力が入り過ぎてしまったようだ。情報が多すぎて、なにをどうすればいいのやら。
せっかく気合いを入れて創設されたこの制度、「ルールが難しい」と感じて手をあげない人が発生してしまったらもったいない!!!ということで、公共R不動産なりにこの取り組み方を読み解きたいと思う。
ソフト&ハードの全方位型 民間提案制度
ここ数年、徐々に民間提案制度を採用する自治体は増加してきている。『公共R不動産のプロジェクトスタディ』でも取り上げたが、まず大きく2タイプに分かれる。ひとつは、今後の公共施設の老朽化や遊休化を見越して、施設に限って提案を求めるハード事業のみのもの。もうひとつは、施設だけでなく、窓口業務からエネルギー事業まで含めて、民間からの改善提案をもらうソフト事業込みのもの。
大東市は後者で、施設以外の業務もリストに掲載されている。ハードもソフトもひっくるめ、ひたすら民間にビジネスチャンスを公開しているなんて、素晴らしい!しかし、様々な案件がごっちゃになっているため、活用できる物件だけを探している事業者にとっては、一軒づつ読まなければならず、物件情報だけを探し出すのに骨が折れるともいえる。例えば、あなたが遊休公共施設を使いたい事業者だとして、そもそも、どの「リスト」をみればよいのか、というところから解説した方が良さそうだ。
まず何から読めばいいの?
まず、『民間提案制度、始動!』という、大東市の該当ページには以下の7種類の資料掲載されている。
- ① 大東市公民連携に関する条例(本文)
- ② 大東市公民連携に関する条例(概要版)
- ③ 大東市公民連携に関する条例ガイドラインver1
- ④ 大東市民間提案制度・公民連携リスト(概要版)
- ⑤ 大東市民間提案制度ガイドラインver1
- ⑥ 大東市公民連携リスト個票(エリア別に6つ)
⑦ 大東市民間提案制度ガイドライン【様式集】
結論から言うと、真っ先に読むべきは④の公民連携リスト(概要版)だ。とりあえずこれさえ読めばわかる。極めて行政的な目線で書かれており、「民間のメリット」というページも、どのあたりがメリットなのか、いまいちピンとこないかもしれない。問題意識のページについても日本国の1800年代からの人口の推移と民間提案制度がどうリンクしているのか!?など、ツッコミどころは多々あるかもしれないが、その辺りはスルーして、ひとまず制度の概要部分をざっくりと把握できるはずだ。
その上で、⑥大東市公民連携リスト個票(エリア別)という、提案募集中の事業リストから、気になるものをピックアップし、⑦の様式集に記入して提出。わかってしまえば、案外シンプルだ。
裏技とポイント公開
さっそく⑥のリストを開き、使えそうな施設を探してみる。そこで、次にぶち当たる壁は、提案を求めている施設についての、写真もなければ面積や築年数などの基礎情報もないことだ。すでにお目当の施設がある or 土地勘がある人はいい。が、リストを見て、新たに使える施設や空間のポテンシャルを発掘したい人にとっては想像がつきにくい。そこで、裏技としておすすめしたいのが、施設カルテの存在だ。施設カルテは、行政が保有している施設の状況を把握するために整備された情報で、施設ごとに写真と基礎情報がまとまっている。
もし、ここまでで使ってみたい施設や空間が見つかったら、次に、提出するときのコツをひとつ。この、エリアごとのリストの冒頭のページがポイントだ。ここにはエリアごとの重点施策や課題、今後のエリアビジョンが書かれている。したがって、ここに掲げられている要素を少しでもすくい取り、事業提案に入れ込むことができると、採用可能性が格段に高まる。民間側としては自らの事業をしながら、その中で公共目的達成の一部を担ってあげることになり、行政としては支出なしで市民サービスを向上できるという、win-winな関係性が成立するためだ。
ロングリストとショートリスト
さらに蛇足的ではあるが補足説明すると、厄介なのが、わかりそうでわからない、下記フロー図中の、ロングリストとショートリストだ。この違いは、プロジェクト化の確度の高さにある。ショートリストは公募にかかることが決定した案件であり、ロングリストはその前段階で民間の提案を受け付けているもの、と理解すればよい。
したがって、これから、何か提案しようという人たちはロングリストを見ればよい。このリストは4月と10月の年に2回公表される。しかし、前述のように、リスト以外のフリー提案も受け付けている。ただ、リストに載っていないということは、市の優先検討ではないので、リスト中案件より事業可能性は低いかもしれない。しかし、大東市ではどのような提案でも審議し、結果を返してくれることになっているので、ものの試しにとりあえず提案してみることをおすすめする。行政が目をつけてなかった意外な場所が、民間事業者にとっては非常に魅力的な場所だという場合も多々あるからだ。
以下のフロー図のなかで、もうひとつ留意点がある。それは、あらゆる公民連携事業は議会の議決が必要になるということだ。議会で扱う案件は金額の大小や事業の種類によってまちまちであることも多かったが、透明性の確保のため、この制度に乗っかる、ややイレギュラー案件の場合は、全て議会を通過することになった。
実は公民連携に関する条例の方がスゴイ
民間提案制度の説明ウェブサイトを開くと、提案制度の前に、なぜか、まず公民連携に関する条例の資料が並んでいる。まさか、これらを読破しなければ提案できないのか、と思うと心が折れそうだ。正直、これはあまり読まなくてよい資料である…が!実は民間提案制度を開始したことより、この、「公民連携を条例化した」ことの方が、画期的なことなので少し触れたい。
大東市では2018年4月に公民連携を条例化した。
公民連携の計画を策定している自治体は増えてきたが、条例として位置付けた自治体は大東市が日本初である。どうして条例化に踏み切り、何を狙っているのか?その背景には、人口流出率の高さ、特に生産年齢人口の流出が顕著だということがあったという。つまり税金を納める世代の減少により、財政状況が悪化する。そこで、これまで行政のみに閉ざされていた機会を、民間にも開くことで、民間の力・ノウハウをうまく取り入てもらいながらマーケットを拡大し、財政負担の軽減を図っていきながら効率よく都市経営を行なっていくことを目指している。
進むプロジェクトと曖昧なルール
大東市ではリーディングプロジェクトとして、NHKの人気番組プロフェッショナル仕事の流儀でも取り上げられた公営住宅の建て替えプロジェクト「北条まちづくりプロジェクト」や、住道駅前の大東ズンチャッチャ夜市、大東元気でまっせ体操による扶助費の大幅削減と、まちづくり会社によるプロデュースなど、すでに公民連携の動きがスタート。
ところで、近年注目を浴びる「公民連携」(Public Private Partnership)。PFIという手法(Private Finance Initiative)にはPFI法というルールが決まっているけれど、PPPはより広い概念であり、そのなかで手法もさまざまであるため、実際は、契約の手法やプロセスが整理しきれていないのが現状である。大東市の場合、公民連携のプロジェクトが先に進んでしまったがために、大急ぎで、きちんとルール整備をしておこうという意図で策定されたものだ。
プロセスの明確化で公平性・透明性の担保
策定されるべきルールの最も重要な部分は、いかに公平性を担保するのかという点だ。この条例では、民間提案制度で民間から受けた提案を、どのようなプロセスで決定していくのかというプロセスの透明化と評価基準の明確化によってそれらが担保される仕組みとなっている。
行政が民間から提案を受け決定するプロセスには主に3タイプある。
①公募(インセンティブなし):民間から提案を受け、その事業について広く他業者からも事業提案を求める
②公募(インセンティブあり):上記と同様だが、最初に行政に提案してきた民間事業者には審査の際に評点を加算する
③パートナー方式:公募なしでパートナーシップ契約を結ぶ
ここでいう、パートナー方式、すなわち、随意契約を締結できる条件として、一般的には「その事業にしかみとめられない特殊性」があげられる。が、実際はなにが特殊性なのか、誰が判断するのか曖昧である(最終的には首長がOKなら通る)。それを、今回の条例制定により、どんなに小さな案件であっても、民間提案からの事業化を図る場合には議会の承認を得るというプロセスをふむことで透明性を担保することにした。
さらに、民間提案制度で、行政が提案を受けた際に、どれくらい時間がかかるのか?どれくらい、提案した案が実行できる可能性があるのか?できるにしろ、できないにしろ、その回答がもらえるのは、民間の行政に対する、暖簾に腕押し的なマイナスイメージを払拭することができそうだ。
要するに、これは大東市の宣言
さて、ここまでで、この制度の使い方や仕組み、背景を解説してきた。まだ、かなり荒削りだ。「こうした方がいいのに」と思うことも色々あるだろう。しかし、それも含めて大東市にどんどん意見を送ってほしい。なんせ、細かいことについては、随時ガイドラインを充実させていくことで対応するとのこと(地方創生局 渡邉氏)。民間によりそい柔軟に対応する準備万端である。
つまり、完璧なかたちではなくても、とにかくこの制度を世に出したのは、細かなルールやリストの読み解きより何より、「とにかくなんでも提案してほしい。提案してくれたら行政は積極的に検討し、民間の反応を見ながら、柔軟に対応する。」という宣言だとうけとるべきなのだ。
長々と解説をしてきたが、最終的に覚えておいてほしいメッセージは、ひとつ。大東市では、なにか民間が取り組みたいと思った時は、なんでも市役所に相談してほしい。それを全力でサポートする用意ができているということだ。実際は、こんな、提案の枠組みを作らなくたって、市民がやる気にさえなれば勝手に提案をぶつければいい。しかし、日本にはまだ、そのカルチャーは見られない。多くの民間企業が、行政と組んで仕事をすることを業務委託の範囲でしか捉えられていないのが現状だ。しかし、このような大東市の取り組みにより、市民や民間事業者が覚醒し、「この場所はこう使えないか?」「ここがこうなったらいいな!」「チャンスがあるなら自分もやってみたい」と、街に対して能動的に関わる態度に変革してくれるような未来があったら素敵だと思う。
その第一歩として、例えば公共R不動産なら、このリストから何を抽出するか…実際にまちをざざっと歩いてみて可能性を感じたものを2つピックアップしてみた。とはいえ、締め切りはなんと年末。気になったら速攻、ジャブ打ちのつもりで市役所に連絡してみてほしい。