公共R不動産の新企画「NEXT PUBLIC AWARD」。未来のパブリックを示すプロジェクトに出会い、応援していこう!という想いから開催に至りました。
今回は公共空間の種類ごとに、6部門にわけて募集を行いました。
A:学校・廃校部門(学校・廃校)
B:公園・道路部門(公園全般・道路、街路等)
C:水辺部門(水辺空間・河川敷等)
D:文化・スポーツ部門(文化施設・社会教育施設・スポーツ施設等)
E:役所・庁舎部門(役所・庁舎、及びそれに準じる施設)
F:その他(上記に該当しない公共空間・民間敷地の公共的な活用)
全国から23プロジェクトのエントリーがあり、どれもが既存の型にはまらないユニークなプロジェクトばかりでした。ご応募いただいたみなさま、ありがとうございました!
厳正なる審査の結果、9つのプロジェクトが二次審査へと通過。そして2023年12月11日、9つのプロジェクトのみなさんが一堂に会し、公開型プレゼンテーションと最終審査会を開催しました。全体のグランプリと各部門の優秀賞を決めていきます。
多様なジャンルの審査員のみなさん
今回のアワードの特徴は審査員のみなさんの顔ぶれにもあります。行政のトップ、都市プランナー、上場するIT企業の代表、そして未来の公共空間の新しい突破口になるであろうアートの分野からも参画いただきました。審査員の選定においては、公民連携の専門家だけでなく、多様な目線を持ち寄って考えていきたいという想いを込めています。
馬場 正尊(オープン・エー代表取締役、公共R不動産プロデューサー)
泉 英明(都市プランナー、有限会社ハートビートプラン代表)
服部 浩之(キュレーター)
柳澤 大輔(面白法人カヤック 代表取締役CEO)
山口 照美(大阪市港区長)
新しい「パブリック」を考えるアワード
そもそも、なぜ公共R不動産がこの企画を立ち上げたのか。公共R不動産のプロデューサーであり本アワードの審査委員長をつとめた馬場正尊のメッセージからNEXT PUBLIC AWARDは幕を開けました。
「公共R不動産が始まって8年が経とうとしています。当初は『硬直化した日本の公共空間を新しい方法論や新しいプレーヤーによって変えていけないか。公共空間が変われば日本の民主主義も変わるのではないか』という気概で立ち上げました。あれから8年、この短期間で日本の公共空間は随分変わった実感があります。そして今日のプレゼンターのみなさんはまさにその変化を牽引する方々だと思います。
今回企画したアワードの名前は「NEXT PUBLIC AWARD」。アワードという名前になっていますが、次の未来に向かった新しいトライアルや原石を探して、それを社会に伝えたいというモチベーションで始めました。そして公共空間=行政というイメージが強いので、あえて「パブリック」という言葉を選びました。行政であれ民間であれ、開かれた場所ならばパブリックですよね。今日はパブリックの解釈を拡大したり、再定義していく機会にしていきたいと思います」
今回ご登場いただく9つのプロジェクトは、どれも地域の未来を切り開く新しいシステムや熱い想い、キラリと光る独自性がありました。それでは各プレゼンテーションをダイジェストでお伝えします!
A. 学校・廃校部門
隼Lab.(はやぶさラボ)/鳥取県八頭町×(株)シーセブンハヤブサ
隼Labは、鳥取県八頭町隼地区の廃校を活用した複合型コミュニティ施設。シェアオフィスやカフェ、訪問看護ステーション、駄菓子屋など多機能が混在することで、子どもからビジネスマン、高齢者まで幅広い世代が集まり、新しいコミュニティが形成されています。
創業支援を行っているのも特徴で、リタイアした人が農業を始めたり、ママコミュニティが事業を立ち上げたりと、6年間に八頭町で13社が起業。2017年12月のオープン以降、イベントも頻繁に開催されて、人口900人、高齢化率36.3%のエリアに、年間4~5万人を超える来場者があるというから驚きです。
運営会社として株式会社シーセブンハヤブサが設立され、行政や地域団体と連携しながら民間主導による運営が行われています。補助金に一切頼らないスキームで、開業から6年間、増収増益を継続。ポイントは、計画段階から行政・民間・地域住民が参加する協議会を設立したこと。行政は「決断し、進める」、住民は「参加する」、民間企業は「稼ぐ」とそれぞれ役割を明確にしているといいます。
質疑応答では、ファイナンスの側面にも注目が集まりました。(株)シーセブンハヤブサには地元企業のほか、鳥取出身者が代表をつとめる東京の企業、そして鳥取銀行など6社が出資。鳥取銀行は融資ではなく出資というかたちで関わり、さらに1名の行員が出向して現場スタッフとして働いているというコミットぶり。新しいファイナンスの仕組みもひとつの成功要因なのかもしれません。
NATURE STUDIO/株式会社村上工務店・株式会社ティーハウス建築設計事務所・有限会社リバーワークス
2022年夏、神戸市兵庫区湊山エリアに誕生した「NATURE STUDIO(ネイチャースタジオ)」。廃校をリノベーションして、水族館、ブルワリー、飲食店、園芸店、学童や小規模保育などが集まったコミュニティ型複合施設です。水族館や飲食店では集客機能、ブルワリーでは生産機能、学童や保育園では地域のインフラ的機能など、いくつもの目的や切り口からコンテンツが構成されています。
三ノ宮駅からは車で約15分という立地ですが、駐車場が少なく、公共交通機関はバスのみ。アクセスに課題があるうえに再建築不可の木造建築が密集するエリアで、少子高齢化や空き家の問題も懸念されています。一方で、山が近く、いつでも自然を感じられる豊かさがあり、村上さんはNATURE STIDIOを中心にこのエリアを「自然と共生する緑豊かな住宅地」とすることを目標にプロジェクトを立ちあげました。開業して2年も経ちませんが、水族館へは年間15万人ほどの来場者があり初年度は黒字化を達成しています。
質疑応答でまず出たのは、誰もが抱くであろう「なぜ水族館なのか?」という質問。「この規模で可能な内容で、コンセプトにも寄り添っている、かつ近くにできたらバスや車に乗ってでも一度は行ってみたくなるコンテンツを考えたとき、答えは水族館しかなかった」と村上さんは断言します。水族館というインパクトやそこに向けた村上さんの情熱に、会場も審査員のみなさんも強く惹きつけられていました。
さらに、課題となっていたバスのアクセス。NATURE STUDIO行きの7系統のバスに乗ることがかっこいい!というムードをつくろうと、神戸市交通局と連携して7系統に絞ったバスのブランディングに挑んでいるとのこと。今後は新しい持続可能な住宅地を目指して、市やURなども巻き込んだ住宅地の区画整理など、新しい連携にチャレンジしていきたいと話します。
B. 公園・道路部門
ハダシランド/アウトドアスポーツやまぐち協同組合
ハダシランドとは、子どもたちが自主的に遊び、自由に過ごせる空間。裸足でスラックライン(ベルトの上を歩く綱渡りスポーツ)やパルクール(走る、跳ぶ、登るなどの移動動作で心身を鍛える運動)などのアクティビティを体験することで身体性を取り戻し、自分たちで遊びを創造して教え合うことができます。
2022年に山口県周南市の公園から活動をスタートし、あっという間に人気コンテンツになりました。平均の滞在時間は3時間で、リピート率は70%を超えるほどファンを集めています。次第に行政や企業、教育機関、子育て世代が抱える課題と結びつき、活動の場は市役所内や道路、商業施設などに拡大して、まちづくりにまで発展していきました。イベントでは周辺にフードカートの出店者が集まり、新しい経済効果まで生み出しているといいます。
プレゼンに同席していた周南市役所公園花とみどり課の赤松 透さんはハダシランドの活動を見て「公園に新しく手を加えなくても、充実した市民ニーズのあるコンテンツがつくれることに可能性を感じた」とコメント。特定の拠点(ハード)を持たずソフトで場をつくっていく、その圧倒的パワーに審査委員のみなさんは大きく感銘を受けていました。
C. 水辺部門
乙川|ONE RIVER ~川とともに暮らすを考える。私とまちのつながりの見つけ方~/ONE RIVER
2015年から愛知県岡崎市の公民連携まちづくり「QURUWA戦略」の一環として実施された、水辺空間活用の社会実験プロジェクト。まちの中心を流れる乙川を対象エリアとして、河川敷でさまざまなイベントやアクティビティを実施し、水辺の新しい風景をつくってきました。
5年間のプロジェクト終了後、指定管理者制度が導入され、2021年からはボランティアを中心とした市民団体「ONE RIVER」が“かわまちづくり”を行っています。メンバーは約40名で、年齢や職業など多様な人材が集まるチームです。イベントだけでなく、移住促進や関係人口の創出につながる活動、そして川を通じて豊かな暮らしについて考え学ぶ活動など、いまでは「まちのプラットフォーム」として機能しています。
活動が盛り上がってきた背景について質問があがると、「川での日常風景をつぶさに観察していた」と回答した『ONE RIVER』プロジェクトマネージャーの岩ヶ谷 充さん。例えば、おばあちゃんが体操していたり若者がコーヒーを飲んでいたり。イベントやハレの風景ではなく、あくまで日常的な小さな川の使い方に価値を見出して情報発信する、そんな小さなアクションの積み重ねが盛り上がりの後押しになったそう。まちの中心を流れる河川敷が新しいチャレンジを受け入れるパブリックな空間へと変貌したプロジェクトです。
D. 文化・スポーツ部門
グラスハウス利活用事業/津山市
グラスハウスはかつて津山市が運営するレジャープール施設でした。年間1.1億円という巨大な維持管理費がかかっており、2021年には営業終了。その後、グラスハウス利活用事業が立ち上がり、公募を経て、2022年に総合スポーツ施設「Globe Sports Dome」へと生まれ変わりました。巨匠による名建築であり津山市のシンボルでもあったグラスハウス。外観はそのまま生かしながら、内部はプールを埋め立てる大胆なリノベーションが行われました。
本事業の最大のポイントは、全国初といわれる「RO+コンセッション方式」の仕組み。民間が最初に資金調達して改修工事を行い、市が工事費相当額をサービス購入料として10年間に分割して民間に返していくという内容です。「津山市最大の赤字公共施設を地域の経営資産とするため、とにかく民間事業者が動きやすい環境をつくろうと考えました」と津山市 総務部 財産活用課長の川口義洋さんは話します。公募要項づくりにおいても、多様な民間事業者が手を上げやすいように、あらゆる工夫を積み重ねてきました。
質疑応答では、その発明的ともいえる「RO+コンセッション方式」の事業スキームについて質問が深掘りされました。事業スキームの詳細は公共R不動産でレポートしているので、ぜひこちらをご覧ください。
そして、最後の審査員によるクロストークでもグラスハウスが議論のテーマとなりました。レポート後編にてお伝えしていきます。
牧之原市図書交流館/ミルキーウェイスクエア/一級建築士事務所スターパイロッツ
2021年4月に静岡県牧之原市が開設した図書交流館。2000平米ほどの巨大なホームセンターをリノベーションし、「民設共営」として民間の建物内に民間の商業テナントと公共図書館が共存するという珍しい形態です。図書館エリアと民間エリアとの境界に壁や仕切りはなく、中央には広場のようなスペースがあり、開放感のあるひとつの大きな公共施設のような空間が広がります。
移動式の本棚をつくり商業テナントの前に置くことで、施設全体が図書館に。「官と民がマーブル状に溶け合った、これからの公共空間をつくりたかった」と設計事務所スターパイロッツの三浦丈典さんは話します。図書館が生まれ変わったことで、司書のみなさんの意識も変わり新しいイベント企画を立ち上げたり、館長さんが図書館を超えて施設全体の案内役や見守り役となったり。建物オーナーさんが自由に家具を置いたり、学生さんがお菓子を食べてたむろしていたり、子どもたちが元気に遊んでいたり。誰もがいることをただただ許される、幸せな公共施設となりました。
質疑応答の対話のなかでは、収支のユニークな考え方が見えてきました。ゆとりをもった施設にするため民間のレンダブル比は低く、賃料も低めに設定されていますが、敷地内には同オーナーが経営するスーパーがあり、図書館が集客効果を発揮することでスーパーの収益が上がっているそう。ひとつの施設で完結せず、周辺環境とトータルで考えることは、併設や隣接という観点からも参考になる事例です。
F. その他
tog(とぐ)/架空の学校「アルスコーレ」実行委員会(山口情報芸術センター[YCAM]、Twelve Inc.)
山口駅前にある小さなコミュニティスペース「tog」。空き店舗をリノベーションしてカフェやイベントスペースとし、市民と企画したお店を開店させていく場所です。
元は山口市中心市街地活性化事業の一環として、山口情報芸術センター「YCAM」とアーツプロダクションのTwelveが架空の学校「アルスコーレ」を運営しており、togはアルスコーレの関連施設として誕生しました。
市民の「なにかをやってみよう」という気持ちを誘発し、実行できる場所として、ワークショップが開催されたり、市民が企画してコーヒーやスイーツを販売したりと日々新しい活動が生まれてるというtog。「ここは文化的な暮らしを育むまちの基地のような存在であり、これが新しい公共空間だと考えている」と運営を担う山口麻里菜さんは話します。
質疑応答では、アーティストの地域との関わり方について話題になりました。山口さんは「市民自身が小さく光り続ける環境をつくっていきたい。そんな運営側の想いに共感するアーティストのみなさんに参加してもらっている」と話します。
また「この事業がなにを成果として活動を続けているのか」、そんなアート関連施設ならではの論点も出てきました。アートの役割とは、常に社会や人々に対して謎や問いを投げかけ続けることであり、短期間で数値的な成果を出すのは難しいはずです。審査委員からは「成果の指標については、行政やYCAM、市民が一緒に考えていくことが重要だと思う」というコメントもありました。
インフラスタンド/KAWAYA-DESIGN + シン設計室
インフラスタンドは、埼玉県所沢市にて2022年に誕生した新しいコミュニティスポット。地元の水道工事会社、石和設備工業「KAWAYA-DESIGN」のショールームとしての公衆トイレ、さらにシェアサイクルステーションやフリーWi-Fiも備えたユニークな場所です。
「公園のような公衆トイレを目指しました」と設計を担当した高橋真理奈さんが話すように、所沢市とも連携しながらマルシェを開催したり、ライブパフォーマンスを行ったりと人を集める場所となっています。デザインもかなりエッジが効いており、夜には行灯のようにトイレ空間自体が発光してまちを明るく照らします。
トイレの機能だけでなく、イベントを行うことでコミュニティを育むまちのインフラになっていく。私有の土地をまちに開いて、自分たちでインフラをつくっていくという新しいパブリックの形です。
トイレという通常は隠すものをポジティブに転換する視点とユニークなアウトプット。審査員のみなさんから「おもしろすぎる!」と注目を集めたプロジェクトです。「お二人のキャラクターやストーリーを含めて、愛すべきプロジェクトだ」といったコメントもありました。
築地・食のまちづくり拠点/株式会社デキタ・YND ARCHITECTS
2011〜2019年にわたって行われた、豊洲市場の移転対策のまちづくりプロジェクト。そもそも築地場外市場は民設の市場です。豊洲への移転後も現在地に市場が残ることが決定し、築地を活気あるまちとして継続していくために中央区と一緒に取り組んできました。
具体的にはまちづくりビジョンを作成しながら、中央区が所有する2つの公共施設を改修して利活用していくというもの。観光客、仕入れ事業者、一般客という3つのニーズを共存させていく、市場ならではのまちづくりがポイントになります。
産地の方が築地で商売ができるように、プロジェクトのビジョン作成から関わってきた時岡壮太さん自らが産地を行脚してテナントを誘致し、北は北海道、南は長崎まで多様な鮮魚店がならぶ施設となりました。空間づくりにも工夫があり、軒下が広いデザインによってお店とお客さんとのコミュニケーションをうながしています。
質疑応答では、行政や市場の組合内の調整にフォーカスされました。時岡さんは自ら築地の一員として鮮魚店や肉屋で働くことで地元の組合と関係を構築し、次第に区との窓口役を任され、行政とも頻繁に情報交換を行っていたとのこと。全国どこの商店街開発においても組合との調整が大きなハードルとなりますが、やはり「当事者化」と「翻訳能力」が大きな鍵となることがわかりました。
グランプリはNATURE STUDIOに!
プレゼンの終了後、審査会を経てグランプリが決定しました。
NATURE STUDIO(株式会社村上工務店・株式会社ティーハウス建築設計事務所・有限会社リバーワークス)
グランプリを受けて、リバーワークス代表の村上さんから以下のようにコメントがありました。
「私はNATURE STUDIOのほかに、神戸市の公園、東遊園地で『URBAN PICNIC(アーバンピクニック)』という社会実験を約7年間にわたって繰り返し行ってきました。そして自分のなかで次第に『社会のために、そのまちで暮らす人のために、自分の時間やお金を少しでも割いてがんばりたい』という想いが芽生えてきました。
若い頃はそんなことを恥ずかしくて人に言えない時期もありました。だけど最近では、自分の想いをしっかりと口にして、実践している人が増えているように思います。これからもっと『自分の想いを口に出していいんだ』『もっと仲間を集めてやろうぜ!』と思えるモードが日本に広がっていけばいいなと思います。今日はありがとうございました」
各部門の優秀賞は以下の通りです!
学校・廃校部門:
NATURE STUDIO(株式会社村上工務店・株式会社ティーハウス建築設計事務所・有限会社リバーワークス)
公園・道路部門:
ハダシランド(アウトドアスポーツやまぐち協同組合)
水辺部門:
乙川|ONE RIVER~川とともに暮らすを考える。私とまちのつながりの見つけ方~(ONE RIVER)
文化・スポーツ部門:
牧之原市図書交流館/ミルキーウェイスクエア(一級建築士事務所スターパイロッツ)
役所・庁舎部門:
該当なし
その他部門:
インフラスタンド (KAWAYA-DESIGN + シン設計室)
後編では、ここからは審査員のみなさんによるトークを振り返っていきます。