藤沢市少年の森再整備プロジェクト
藤沢市少年の森再整備プロジェクト

人と自然環境の出逢いを通して、発見や創造が生まれる体験フィールドへ。藤沢市「少年の森」パブリックイベントレポート

2024年12月22日(日)、神奈川県藤沢市の青少年施設「少年の森」の再整備に関するパブリックイベントを開催しました。基本構想(案)や【仮称】ストーリーブック(案)の紹介、市民の皆さんとのトークセッションなど、盛りだくさんな内容をダイジェストでお届けします!

東京都心からのアクセスも良好な神奈川県藤沢市。自然豊かで緑あふれる「藤沢市少年の森」(以下、少年の森)は、市内北部に位置する青少年野外活動施設です。アスレチック広場や木製遊具、キャンプ場など充実した機能を有する一方で、開設して40年以上経過した施設は老朽化が進み、遊具の安全面や快適性で大きな課題も。利用者も減少傾向にある中で、再整備に向けた検討が進められています。

昨年度より株式会社オープン・エー(公共R不動産)では、地域で愛される持続可能な施設であり続けるためのアップデートを目指して、当施設再整備の基本方針及び基本構想の策定支援を行っています。

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2024年12月には、再整備基本構想(案)を提示するパブリックイベントを開催。市民参加型のワークショップをきっかけに生まれた「ストーリーブック(仮称)」の紹介や市民の皆さんとのトークセッションを通して、「少年の森」の未来についての議論を行いました。当日の様子は、配布資料とともにYouTubeにまとめて藤沢市のWebサイトで公開しています。

開催概要
日時 2024年12月22日(日)13時〜15時45分
会場 善行公民館 多目的ホール
主催 藤沢市
企画・運営支援 株式会社オープン・エー(公共R不動産)、株式会社ひらく

プログラム

  1. 基本構想案について(藤沢市子ども青少年部青少年課)
  2. 基本構想案のポイント解説(公共R不動産)
  3. 【仮称】ストーリーブック案の紹介(ひらく)
  4. トークセッション(登壇者:WSに参加した4名の市民の皆さん、モデレーター:公共R不動産)
  5. 質疑・応答

「少年の森」再整備基本構想(案)のコンセプトは「エウレカの森」

藤沢市子ども青少年部青少年課課長の齊藤康さんからの開会挨拶後、同じく青少年課課長補佐の西崎伸哉さんより、再整備基本構想(案)の説明がありました。

「みなさんと一緒に、少年の森の未来への思いを大きく、太くしていきたい。藤沢市としてもそれらの声をさらに大きくして取り組んでいきたいと思う」と話す、課長の齊藤康さん。

まず、施設の再整備にあたっての基本的な考え方の共有から。基本方針時に設定した「森と水のキャンパス ー体験・創造型ネイチャーフィールドー」という在り方を実現するため、「エウレカの森 *1というコンセプトを提示しました。「人や自然環境との多様な出逢いを通して、ひとりひとりが発見やわくわくを見つけ、新しいひらめきが生まれるフィールドを目指していきたい」と西崎さんは言います。

*1 エウレカとは、古代ギリシャの学者アルキメデスが発したとされる感嘆詞。何かを発見・発明したことを喜ぶ時に使われる言葉。

基本構想の説明をする課長補佐の西崎伸哉さん(手前)。

このコンセプトは、アンケートや2024年4月と6月に行われた市民向けワークショップで生まれたアイデアをもとに設計。「近隣住民や市民の皆さんからは、一緒につくることや育てるなどの体験、施設への関わりしろへのニーズが高いことが分かりました。第一次産業に従事する生産者のみなさんを始め、素晴らしい藤沢市のプレイヤーの皆さんと連携することで、少年の森に新しい体験価値をプラスできるのではないか。この森だからこそ何度も訪れたくなる魅力をつくり出していきたいと考えています」と公共R不動産の梶田は言います。

こどもから大人まで、地域住民、生産者、事業者、行政の役割や立場を超えて、教え合い、学び合う関係になること。そこで生まれる「ひらめき」が次なる活動や展開の源泉となること。そんな再整備の在り方やコンセプトのもと、改めて現状の課題と魅力を整理しながら、改善ポイントの優先順位を立てていきました。

基本構想(案)より抜粋。施設のあり方を実現するための機能と要素のイメージ。
基本構想(案)より抜粋。場の独自性と優位性を生み出す概念イメージ。

小さなトライアルを重ねられる、共に育む少年の森へ

今回の基本構想(案)のポイントのひとつに、令和7年度から始まる基本計画の段階から未来の運営・管理事業者を巻き込んでいく点も挙げられます。通常は、施設設計の完了後に運営・管理事業者を募集することが一般的ですが、運営・管理事業者にとって質の高いサービスが提供しやすい環境、施設にしたいという意図から、EOI方式*2で事業を進めていきます。

*2 EOI(Early Operator Involvement)方式とは:公共施設の運営事業者を先行して決定し、設計から施設整備の過程に運営事業者が関与する仕組み

運営事業者に大切にしてほしいことは「つながる関係とつづく未来」であると梶田は言います。

「社会課題が増え続ける正解のない時代において持続可能な施設であるためには、その時々のニーズや状況に合わせたフレキシブルな動き方が大切です。市民の皆さんからも少年の森の魅力のひとつとしてよく挙げられていたのですが、少年の森は”余白”の多い環境です。自由に試せるフィールドが広い分、多様な市民とのたくさんの小さな接点を作りやすい。運営事業者には、そんな余白を活かし、様々なプレイヤーが参画しやすい仕組みづくりや担い手が育つ環境づくりにも期待していますし、整備段階から市民の皆さんに関わっていただき、一緒につくる機会をつくって行きたいと考えています。」

再整備基本構想(案)では、コンセプトを実現するためのゾーニング案、生態系保全の取り組みイメージ、想定される施設改修の内容など、詳しい具体的な内容をまとめています。ぜひこちらからご覧ください。

基本構想(案)より抜粋。施設のゾーニングイメージ。
基本構想(案)より抜粋。想定される導入機能。

公共施設の検討プロセスを、楽しく分かりやすく。
市民の皆さんのアイデアや意見を反映した【仮称】ストーリーブック

基本構想(案)の説明後は、株式会社ひらくの染谷拓郎さんより、少年の森の未来を描いた【仮称】ストーリーブック(案)の紹介が行われました。こちらは、市民参加型のワークショップ時の「未来日記」がベースになっています。

市民ワークショップで作成した、井出康平さん(少年の森近隣で井出農園を営む生産者)の未来日記。

【仮称】ストーリーブック(案)では、少年の森の未来が絵本仕立てで描かれています。市の鳥でもあるカワセミが案内役となり、街に迷い込んだツバメに藤沢市の街や少年の森を紹介しながら物語が展開。しばらく少年の森で暮らすことになったツバメは、そこでのこどもたちの成長や、四季折々の美しい自然、地域の様々な人が交わる姿を目にします。

藤沢市の鳥であるカワセミが案内役となって物語が始まります。
未来の少年の森のイメージ。ひとつの大きな行事をみんなでつくり上げます。

入場料のある本屋「文喫」などを手がけながら、本のある空間や人の集まる場作りを通じて人々に好奇心の種をまき、学びの機会を生み出している株式会社ひらく。

「行政のWebサイトに情報を載せただけでは、多くの住民には思いが届きにくい。ぱっと手に取りやすく、興味関心を持ってもらえるようなアプローチを考えました。ワークショップを通して出てきた未来の少年の森の姿は、テキストだけでは表現しきれない。難しい言葉ではなく、こどもから大人まで直感的に理解できるようにと絵本形式でまとめました。」と染谷さんは話します。

【仮称】ストーリーブック(案)はこちらから全文お読みいただけます。15ページには「少年の森 未来日記」付き。少年の森への関わり方や過ごし方のイメージをひとりひとりが自分ごととして考えイメージを膨らませるため、実際のワークショップでも使ったもの。かわいらしいカワセミとツバメと一緒に、少年の森の未来をぜひ妄想してみてくださいね。

【仮称】ストーリーブック(案)の最後のページにある「未来日記」

市民のみなさんとのトークセッション

最後に、各ワークショップにもご参加いただいた市民の皆さん4名にご登壇いただき、公共R不動産の梶田がモデレーターになりトークセッションを行いました。それぞれの個性あふれる「未来日記」をご紹介いただいたり、少年の森との理想の関わり方や活用についてお話いただきました。その模様をダイジェストでご紹介!(こちらに掲載しているYouTubeの4~6のトークセッションにてすべてご覧いただけます)

ご登壇いただいた市民の皆さん。右から、井出康平さん(少年の森近隣生産者:井出農園)、宮治八千代さん(御所見まちづくり推進協議会のメンバー)、所芳昭さん(藤沢市在住、まちづくりボランティアに参画)、井手志保さん(フリースクール運営者として少年の森を利用)。

トークは、以下3つの問いで皆さんにお話を伺いました。
・未来の少年の森に期待すること
・どんな人と、どんな風に関わりたいか?どんな使い方をしたいか?
・どんな人に関わってほしいか?どんな人と出会いたいか?

例えば「どんな使い方をしたいか?」という問いに対しては、基本構想(案)や【仮称】ストーリーブック(案)に呼応するように、マルシェやワークショップ、地域プレイヤーとの連携、学校と協力した社会科見学のプログラム化など、様々な意見やアイデアをいただきました。

「特に”つながる関係と続く未来”という言葉が印象的です。地域で顔の見える関係性が広がっていくといいですよね。知り合いじゃなくても自然にコミュニケーションが生まれる焚き火のように、人と人が森で豊かにつながるきっかけがつくれたらいいな」と井手志保さんは言います。みんなで小さなトライアルをして知恵を寄せ、多くの人と関わりながら育てていきたいとのこと。

所芳昭さんは「ストーリーブックが斬新だった」と言います。「こどもたちにも読ませたいですね。少年の森の、良い意味で完璧じゃない不便さや不完全さが表現されているのが素敵でした。自然環境だけではなく、地域プレイヤーと連携したプログラムづくりもいいですね。そこでの知識や経験が学びや自信につながり、プラスで身についていくことがあると思います。」

また、生産者との連携についての意見も。「この辺りは本当に生産者さんが多い。お米、野菜、お花、植木、豚、にわとり、牛……。たくさんのスペシャリストがいるので、少年の森の自然の管理も、そういう皆さんにお願いしたらどうかなと感じました。」と話す宮治八千代さん。

藤沢市は、全国でも珍しいほど多様で知見が深く、ユニークなプレイヤーが多い街だと梶田は言います。しかしご自身で農業を営む井出康平さん曰く、「市内の地域活動の存在はなかなか知る機会が少ない。同じ地域だからこそ日常で気づきにくい側面もある。コンセプトにもあったように、来訪者に”新しい発見”を届けることが重要だなと思います。地域団体に出会える場って実はそんなにない。近いからこそよく知らない情報や取り組みに出会える場所でもあるといいなと。そうすることで、今現在来ていない人にもフォーカスできるきっかけにもなるのではないかなと感じました。」と話します。

新しい利用者を巻き込む手段として、アプリの活用というアイデアも。「その日の営業時間が確認できたり、イベントやワークショップが一覧になっていたりすると、便利かなと。来場ポイントもつけると楽しくリピートしたくなる人たちが増えそうです」と所さん。

より多様な住民の居場所になるという観点で、孤立しがちな子育て世帯や高齢者に対する観点もいただきました。「高齢化がどんどん広がっている。近隣の高齢者施設と連携して季節ごとのお花を見物するプログラムをつくったり、こどもだけじゃなく、お年寄りも来やすい場所になるといいなと思います。お年寄りのみなさんも得意なことや趣味を持っているので、そのような力を発揮できる機会もあるといいですね。」と宮治さんは言います。

また、「ひとりで悩みや問題を抱えがちな子育て世帯のみなさんにも来てほしい」と所さんは言います。「子育て支援センターもあるけど、やっぱり青空が見える屋外の環境だと晴れやかな気持ちになりやすいかもしれない。そこで地域の様々な専門性を持つ団体やプレイヤーと出会えることで視野が開けたり。そういう出会いを誘発できるような場所になるといいなと。」

地元の仲間たちとフリースクールを運営する井手さんも、「不登校やワンオペママ、独居高齢者など、地域における孤独・孤立の問題はとても気になっています。藤沢市って老若男女面白い人たちがいっぱいいるので、地域のコーディネート機能も持ちながら、つながりを必要としている人たちとの接点もうまく作り出したいですね。”支援”と聞くと参加のハードルが高くなる人でも、身近な森で森林浴とか、薪割りや草むしりのお手伝いとか、生き物観察やプレイパークで子どもと遊ぶとか、ここに訪れるいろいろなきっかけをつくれるのもこの施設のいいところ。豊かな人のつながりが、まちの安心や地域の大丈夫力を育んでいけるような場になるといいな。」と子どもを中心に多世代が集まることの価値について話します。

「ここ何年かで、確実にこのエリアの元気さがなくなっているんです。コンビニもないし、高齢化も進んでいる。その意味で、少年の森の再整備は起点になるのではないでしょうか。動かないといけない、変わらないといけない。そんな後押しになるのではという意味で希望を持っています。」と最後に感想をまとめていただいた井出さん。

前方右より、登壇者の井手さん、所さん、井出さん、宮治さん
後方右より、藤沢市子ども青少年部青少年課の高木さん、西崎さん、齊藤さん、(株)オープン・エーの梶田、鎌田、近藤、(株)ひらくの平野さん、染谷さん

農家さん、フリースクール運営者、ボランティア活動もする会社員、まちづくり推進協議会のメンバーと、今日の4名だけでも多様な顔ぶれ。藤沢市には、まだまだたくさんのユニークなプレイヤーの皆さんがいらっしゃいます。少年の森がハブになり、そんな皆さんが関わりやすく活用しやすいフィールドとして持続し続けること。自然環境を活かしながら、多世代が交流し、学び合う場づくりをすること。基本構想(案)のコンセプトを実現するための様々な機能や仕組みに改めて思いを馳せる時間となりました。

今回のパブリックイベントやアンケートなどでいただいた意見をもとに、令和7年度より具体的な「基本計画」を策定していきます。並行して運営管理事業者の公募・選定も行いながら、令和8〜9年度にかけて設計、整備を進め、利用開始は令和10年度末を予定しています。今後の藤沢市の取り組みにぜひご注目ください!

今後予定している事業スケジュール。基本構想(案)より抜粋。
企画参加シートは、誰かの「得意」と、誰かの「興味・関心」を掛け合わせて、新しい遊びや学びを発見・発明するためのアイデアの種。
画参加シートに得意や興味を熱心に書き込む参加者の皆さん。

>藤沢市Webサイト
当日の様子は、配布資料とともにYouTubeにまとめて藤沢市のWebサイトで公開しています。参加できなかった皆さんも是非ご覧ください。

藤沢市×公共R不動産のプロジェクト紹介は以下をご覧ください。
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