官民連携まちづくり~ぐんまモデル~のはじまり
平成31年に群馬県で立ち上がった「官民連携まちづくりプロジェクト」チームは、都市計画・交通政策・経営企画・土木・河川・子育て支援など、10の部署から有志で集まった12名で構成されている、部署横断型のチームです。
チームメンバー
・知事戦略部 戦略企画課未来創生室 宮下智さん
・総務部 館林行政県税事務所 小幡瑞季さん
・地域創生部 地域創生課 片山翔平さん
・生活こども部 私学・子育て支援課 正田竜也さん
・健康福祉部 桐生保健福祉事務所 茂木雄哉さん
・産業経済部 経営支援課 片貝仁紀さん
・県土整備部 交通政策課 高田直樹さん
・県土整備部 河川課水害対策室 小森嶺さん
・県土整備部 都市計画課まちづくり室 高橋俊信さん
・県土整備部 都市計画課まちづくり室 村上布佑子さん
・県土整備部 館林土木事務所 清水俊和さん
・経済産業省(県から派遣中) 羽鳥博之さん
群馬県で官民連携の動きが始まったのは平成28年。当時商政課(現経営支援課)にいた宮下さん、片山さんが群馬県と各市町村でタッグを組み、「リノベーションまちづくり」を始めたことがきっかけです。リノベーションまちづくりとは、街で使われていない空き店舗や空き家を活用し、地域の産業や経済の課題を解決し、持続可能な地域づくりを目指す取り組みです。
片山「そんな活動を進めるうちに、公共不動産オーナーである行政自体が不動産を動かしてみる必要性を感じ始めたんです。そこで知事への政策提案制度を使って、県庁前広場でのbase on the Greenというナイトマルシェの社会実験を行いました。」
宮下「広場の維持管理だけでも当時年間300万円近くかかっていて、この費用を自分たちで稼ごうという想いもありました。結果として、“芝生が傷むようなことはやってはダメ”と言われてしまい県庁前広場では続けることはできなかったのですが・・伊勢崎市の駅前広場や前橋市、桐生市の公園などに横展開して続いています。」
そのような活動を進める中で、平成30年に片山さんが都市計画課へ異動に。そこで出会ったのが、現在のチームリーダー高橋さんでした。
高橋「片山さんとこれからの地域づくりや公民連携のあり方について様々な議論をしました。そこで、まずは思い切って有志メンバーで草加市の官民連携まちづくり塾に参加することにしたんです。そこに参加した8名が今のプロジェクトチームにつながっています。」
部署横断型のプロジェクトチーム発足へ
そんな官民連携まちづくり塾に参加したメンバーで、これからに必要な官民連携に関する施策をまとめ、県土整備部長に提案。そこでは群馬県としての基本方針策定や、公共空間活用ガイドライン作成などが含まれていたそう。何度か提案を重ねた結果、3年間の期限付きで正式に業務として位置付けられることに!いわば県庁内の兼業という新しい形で「官民連携まちづくりプロジェクト」チームが発足したのです。
片山「プロジェクトの本体は都市計画課にしつつ、いろいろな部局に枝葉を伸ばす形で進められることになったのはとても大きかったですね。従来の人事のように指名されて仕事に就くのではなく、熱量を持つ人間がエネルギーを投入できるようになりました。」
県の役割は半歩先をいき、市町村の動きを誘発すること
県として官民連携まちづくりを進めるには「市町村との連携」が重要なポイントになると言います。
高田「まちなかで県が扱える場所は県道や県営施設など、すごく限られてるんです。なので、県がまちづくりを主導するポイントは、いかに市町村の動きにつなげるかだと思っています。県の動きによって市町村の動きを誘発できるかを常に意識しています。」
高橋「高田さんはよく“絵を見せれば見方が変わる”と言うのですが、伝わりやすいイメージをつくったり、僕らが伴走して前例をつくることで、官民連携の経験がない市町村でもハードルが下がります。本来、”現場“を担うのは市町村です。僕らができるのはちょっと先を歩いてモデルをつくり、ノウハウを提供していくことなんです。」
現在はキャラバンのように各市町村をめぐり、官民連携プロジェクトの説明や連携を促す取り組みを進めているそう。
宮下「キャラバンの結果、桐生市でマルシェができるようになりました。もともと条例上の制約があったのですが、社会実験としての実施ということで市町村とタッグを組み実現に至りました。」
コロナ禍で始めた歩道活用の取り組み
ここで「官民連携まちづくりプロジェクト」チームがコロナ禍で取り組んだ二つの取り組みをご紹介。一つは「歩道空間オープンテラス」の社会実験。二つ目は「公共施設・空間の利用手続きガイド」の作成です。
2020年、コロナで影響を受けた飲食店などの支援を目的に、道路空間の占用許可基準が緩和されました。国の基準により、道路占用を申請できるのは商店街や自治体単位のみでしたが、群馬県の「歩道空間オープンテラス」は個人店舗単位での申請を可能にしました!これ実は全国的にも例を見ないこと。
それが実現した背景には、平成30年に道路管理課に所属していた清水さんが変更した群馬県道路占用許可基準にありました。
清水「道路の担当者になって、県の道路占用許可基準が40年以上変わっていないことを知りました。どうせ担当になったなら、もっと道路空間を活用した先進的なまちづくりがしやすいような占用許可基準に変更しようと思い、申請手続きもかなり簡易化しました。
これまで公的団体しか認められなかった道路の活用を、地域活性化等まちづくりを目的とした取組については、地元の自治会や商店会の承認を得れば、個人でもOKというルールに変更しました。群馬県独自の特別なことではなく、あくまで国のガイドライン等の方向性を踏まえた変更です。また、県がルールを変えることで市町村の占有許可基準も変えていきたいという狙いもあります。」
高橋「清水さんが前提条件を変えていたので、コロナ禍での道路占用もスムーズでした。市町村への告知の時にも県がサポートすることを示し、実際に桐生市と太田市で実現しました。」
「はじめての公共空間活用」のための民間向けガイドライン
昨年リリースされた「公共施設・空間の利用手続きガイド」は、群馬県の公共施設の紹介や、手続き方法、全国の官民連携事例などがわかりやすくまとまっています。イラストや図解が多く、文章もわかりやすい仕上がり!行政文書を普段読まない民間事業者も「読みたくなる」工夫が随所に散りばめられているガイドの「編集長」は高田さん。
高田「行政からすると、基準やルールの1つ1つに意味があります。しかしそのまま全て掲載していたらもちろんわかりにくい。一般にわかりやすいようにしないと民間活用は進まないですし、どの情報を切り取るかをすごく意識して編集しました。」
スケートリンクに森林学習センター、県営住宅など。魅力溢れる群馬県の公共施設
そんなガイドでおすすめされているのが、民間事業者が一定期間公共空間を使える「ぐんまトライアル・サウンディング」。全国的に増えているトライアル・サウンディングですが、群馬県のモデルとして、県有の様々な公共施設に対してトライアルできる状況を作っています。
ガイドの公開後、県立赤城公園ビジターセンターの食堂スペースでのトライアル・サウンディングを公募したそう。実際に民間事業者からの問い合わせがきっかけで、令和3年7月にカフェがオープン!そのリノベーションの状況は、群馬県YouTubeチャンネル「tsulunos」にてご覧いただけます。
他にも群馬県には、渋川市の「総合スポーツセンター 伊香保リンク」や「憩の森 森林学習センター」、「県営住宅」など、魅力的な公共空間が多くあります。
「総合スポーツセンター 伊香保リンク」では、トライアル・サウンディングの実施要項が発表され、活用事業者の募集が始まっています。冬場はスピードスケートの全日本学生選手権大会の会場として使われるなど、本格的なスケート競技会場として使われている施設ですが、夏場はあまり活用がされていないとのこと。
この広大なリンクを生かした音楽フェスや屋外映画イベントも面白そう!屋内リンクでは、ドローンやeスポーツの大会にもぴったりかも?
過去に渋川市との連携で、セグウェイの体験会や「星を見る会」などのイベントを開催したところ、100人〜200人ほどの集客ができたそう。県内のみなさんにとって馴染みのある施設だからこそのポテンシャルもありそうです。
また、群馬県の森林教育や森林保全活動の拠点である「森林学習センター」は、その充実した施設とネットワークが魅力的な施設。もともとは宿泊機能も有していたこともあり、施設全体が広くて部屋数も多く、使い勝手がとても良さそう。
県産材の杉を使ってつくられた空間や職員のみなさんが愛を込めてつくりあげた装飾がとても魅力的!カフェやレストラン、ゲストハウスなど、様々な活かし方があるのでは?!
また、こちらは森林保全のためのボランティア支援センターとしての機能もあり、県内のボランティア団体とのネットワークが強みの一つです。そのため、日頃から様々な資材の貸出、人材育成、各種イベントが行われています。
例えばグランピングやアウトドア体験施設として活用する場合も、森を守りたいエキスパートとうまく連携していくことで、活動に多様性が出そうです。
このほかにも、県営住宅においては入居者の生活支援事業の一環として、広場や通路、駐車場を対象としたトライアル・サウンディングが令和3年8月から開始されました。キッチンカーによる販売等が期待されます。
県内で官民連携を一般化するために
高田「トライアル・サウンディングの手法を取り入れたのは、公共R不動産の書籍で知ったのがきっかけです。詳細は各施設との調整となりますが、ぐんまトライアル・サウンディングは年間を通じて随時相談を受付しています。
伊香保リンクのトライアル・サウンディングの仕様書は、私たちが作成したガイドにあるテンプレートをもとに担当課が作ってくれたんです。いずれは主管課が自発的にトライアル・サウンディングを始めたり、この手段自体が県内で一般化することを狙っています。」
「官民連携まちづくりプロジェクト」チームは3年間という期限つきで平成31年にスタート。ということは今年度で一度このチームは区切りを迎えます。
高橋「今年度で一度期限切れになりますが、今の状態で解散はしたくないですね。もっと県内で官民連携を一般化していかなければいけません。そのためには、実際に施設を管理している部局をどう絡めていくかが肝となります。なんらかの形でプロジェクトチームが続いていくようにこれからも試行錯誤していきます。」
「官民連携まちづくりプロジェクト」チームは、民間事業者のアイデアを実現するコーディネーターのような役割を果たしています。「ぐんまトライアル・サウンディング」や官民連携に関心のある方はいつでも問い合わせ可能とのこと!ご興味のある方は、こちらのページからご連絡してみてはいかがでしょうか。