身近な道路空間で、やりたいことに誰もがチャレンジできる!
姫路市で始まる「ウォーカブル促進プログラム」
姫路市では、令和3年3月に「姫路市ウォーカブル推進計画」が策定されました。街に多様な選択肢を生み出し、身近な生活圏が豊かになることで、住みたい街・住み続けたい街になることを目指した本計画をもとに、様々な取り組みが進んでいます。公共R不動産でもこれまで姫路市のウォーカブルに関連する取り組みを複数取材してきました。
今回は、令和5年7月から本格スタートした、まちなかの道路空間を誰もが気軽に活用できる仕組み「ウォーカブル促進プログラム」をご紹介。ほこみち制度を活用する大手前通りだけでなく、個性的な店舗が点在する姫路城からほど近い白鷺町や姫路駅西エリアなど、多様なポテンシャルに溢れた姫路市でどのような居心地の良い空間が生まれていくのでしょうか。本プログラム策定に携わった姫路市の皆さんに伺ったお話をもとに、「ウォーカブル促進プログラム」の特徴を紐解きます!
お話を伺った皆さん
姫路市産業振興課 尾﨑 貫介さん
姫路市道路管理課 井上 裕介さん
姫路市都市計画課 川島 知里さん
ハートビートプラン 新津瞬さん
本プログラムを使用可能な対象者は、一個人から企業まで幅広く、道路空間を使ったマルシェの開催や、お店の前の道路にテラス席を設置するなど身近な道路を使った活動がぐっと実現しやすくなります。
尾﨑さん「企画の事前相談やアドバイスは産業振興課がワンストップで担当します。一緒に現地に出向き、道路の幅、交差点、昼間の通行量、交通量などをチェックして課題を洗い出しながら、まずは使用可能な範囲を提示します。必要に応じて都市計画課のメンバーもその段階で巻き込みながら、企画実現に向けて伴走します」
企画初期だけでなく、設置物やレイアウトの検討、歩行者の安全確保策など、様々な面で継続的な相談ができるので、公共空間の活用に馴染みのない民間事業者にとっても安心なサポート体制!
関係部署が一気に集まる、「公共空間活用会議」
「ウォーカブル促進プログラム」の一環で、産業振興課・都市計画課・道路管理者・警察などで構成される部署横断の会議体である「姫路市公共空間活用会議」が作られました。民間事業者への相談や助言を担当する窓口である産業振興課がチームの全体コーディネートを担当。
このチームでは、独自に定めた審査基準をもとに企画ごとに話し合いが行われ、「ウォーカブル促進プログラム」として認定するかどうかを判断します。
川島さん「基本的に、道路はどんどん活用していただきたいと考えています。そのため、審査は加点方式です。安全面など、最低限配慮すべきポイントを押さえながら、実現に向けた議論をチームで行います。だからこそ、この会議体に複数部署のメンバーが集まることに意味があります。」
歩車共存の道路を目指して
本来、どうしてもその場所・その道路でなければならない理由がない限り、公共空間である道路は使うことができない、いわゆる「無余地性」の考え方が存在します。しかし、社会的にも道路活用に向けた土壌が広がり、姫路市としても実践を積み重ねたことで、考え方に変化があったと道路管理課の井上さんは言います。
井上さん「従来、道路を使うのは最終手段という考え方でしたので、民地でできることであれば道路は使わないのが原則。ですが、大手前通りはミチミチなどの社会実験を経て全国で初めてほこみち(歩行者利便増進道路)に指定し、継続的に活用をされており、安全性と賑わいを両立できる実感を持つことができました。その意味では、これまでの実践の積み重ねによって生まれた制度でもあります。」
さらに未来の展望として、ゆくゆくは歩車共存の道路を民間プレイヤーが活用できる未来像を目指していきたいと川島さんは言います。
川島さん「最終的には、”歩車共存”の道路空間活用の実現が目標です。イベントによる一時的な活用ではなく、通常通りお店をオープンさせながら営業スペースが拡張するような、より日常的に道路空間を活用できる仕組みづくりを目指したい。そのためにも、本プログラムを通して、まずは車両通行止めにした道路活用のモデル作りを重ね、安全性の実証やニーズを見極めていけたら。民間事業者にとって、普通にお店を開ける以上のメリットをつくるためにも、歩車共存道路の日常的な活用は目指したいところです」
白鷺町でのプログラム活用事例「こども縁日&城下街マーケット2023」
すでに、本プログラムを活用して実現した企画も登場しています。白鷺町で開催された「こども縁日&城下街マーケット2023」は、2023年11月11日(土)に開催された自治会主催のイベントです。自治会長の池尻康則さん、白鷺町で「spiceスエヒロ」というカレー屋さんを営みつつ、自治会理事も務める西田勢さんが発起人となり、戦後から続く歴史ある「姫路お城まつり」と同日に実施することでの相乗効果も狙っています。
イベントでは、白鷺町エリアの飲食店や物販店が道路に出店したマーケットや、スーパーボールすくいや射的などのこども向けの縁日やワークショップなどが開催されました。当日は親子連れや若者が多く訪れ、日常と比べて賑わいが増したのだとか。
「普段の白鷺町はほとんど人の通らない路地裏ですが、やはりイベントを開催すると、若い人たちも増えて、賑わいが増えますね。良い意味で普段とのギャップが生まれるし、白鷺町の魅力的な店舗をより多くの人に知ってもらえるきっかけになるのではないかという可能性を感じました」と西田さんは言います。
「普段は接点のない店舗同士が交流して、”みんなでやってよかった”と思ってもらいたい」という西田さんの思いから、企画を進める中で町内すべてのお店に足を運び、直接企画を説明したのだそう。
自治会として支出する予算確保や会計上の整理、住民にとっては生活動線である道路を封鎖することへの理解など、継続的に実施をしていく上での課題も見えてきたとのことですが、「将来的には、より日常的な、主催者・出店者・住民それぞれに持続可能な形を見つけていきたい」と話す西田さん。
2023年から始まったイルミネーションにより歩行者も増えている大手前通りや、世界遺産である特別史跡地内に位置する白鷺町のポテンシャルを活かし、今後はより日常的に仕掛けを考えていきたいと話します。
地域の巻き込み方や収益のバランスは、道路活用が広がった先にきっと多くの民間事業者が突き当たる課題。今後も、地域が主体的に進める道路活用のモデルとして注目していきたいと思います。
ウォーカブルなまちなかに向けた企業・団体の声
2024年1月には、姫路市を拠点にした企業や団体との意見交換会を開催。西松建設、西松地所、JR西日本アーバン開発などの企業から、姫路駅西地区まちづくり協議会、姫路市まで、多様なメンバーによるディスカッションが行われました。
「コロナ禍が明け、観光客や外出習慣が復活する中で、ウォーカブルの取り組みに可能性を感じる」との声や、「企業として参画しやすい形を考えたい」「エリア全体で連携した取組をしたい」など前向きな声から、収益性と公益性のバランスや情報発信、プレイヤー同士の連携、エリアマネジメント組織の必要性など、今後に向けた様々な議論がなされました。
個人や地域、企業、行政まで、多様なセクターで協働・推進するテーマであることを改めて共有する機会となった意見交換会。この場を振り返り、川島さんは「多様な立場の方々が一堂に集う場づくりこそ、行政の役割だと実感しました。継続的に情報交換したいという声も多く挙がり、具体的な連携の契機を生み出すためにも、今後も引き続き場を開いていきたい」と話します。
姫路のプレイヤーを活かす道路活用に向けて
「大手前通り等のハード整備も、ハードを活用する仕組みである今回のプログラムも完成しましたが、結局プレイヤーが一番大切」と川島さんは話します。
川島さん「出店者の売上など、短期的なメリットをつくる工夫も必要な一方で、エリア全体の価値を中長期的に向上させるために、ウォーカブルを推進する長期的なメリットをプレイヤーといかに共有しながら企画を進められるかが重要。引き続きプレイヤーと行政がきちんと繋がりながら推進していきたい」
井上さんは、「大手前通りの再整備直後は、道路が綺麗になったにも関わらず、期待していたほど賑わいが生まれませんでした。ハード整備だけではダメで、仕組みと両輪で進めることが大切だと実感しています」と言います。
地域のコンテンツを発信する手段として”道路活用”を使う、との捉え方もあると話す尾﨑さんは、「市内には、魅力的なお店が本当にいっぱいあります。その価値を発信するツールとしてプログラムを活用していただきたいし、そのサポートをしたい。それがエリア全体の底上げにつながると信じています」と話します。
ワンストップ窓口で相談ができ、民間事業者にとっての手間を減らし、独自の審査基準を設けることで、誰にでも開かれた道路空間活用の新しい仕組みをつくり出した姫路市。
来年度以降、より多様な道路活用が生まれることが楽しみであると同時に、新しい道路空間活用のスタイルが全国各地に波及するきっかけになることにも期待が膨らみます。「ウォーカブル促進プログラム」の詳細はこちらからご覧いただけます。ぜひご覧ください!
ウォーカブル促進プログラムHP