近年、カフェや展示施設、広場など多様な機能を持った図書館や文化施設が増えています。本を借りて読書ができるだけでなく、その地域ならではの文化資源を活かした特色あるイベントや展示を楽しめたり、地域コミュニティの活動拠点になっていたりと、人と情報、人と文化の新しい出合いをつくる公共の場に注目が集まっています。
今回ご紹介する株式会社ひらく(以下、ひらく)は、2022年4月に日本出版販売株式会社の子会社として独立したチームです。入場料のある本屋として話題になった「文喫」や、12,000冊の本に囲まれるブックホテル「箱根本箱」、図書館イベント「Library Book Circus」等を手がけ、従来の書店や図書館等の枠を超えた新しい業態に挑戦しながら、民間の立場で地域に新たな文化的な拠点や場を生み出してきました。
そんなひらくが次なるフィールドに見据えているのが、遊休化した公共施設。自治体と一緒にプロセスを育みながら、地域にひらかれた文化複合施設をつくりたいと考えているそう。その舞台となる公共不動産、ひいてはパートナーとなる自治体を募集します!
今回は株式会社ひらく代表の染谷拓郎さんにインタビューを実施。染谷さんは「本のある空間を通じて、人々に新しいアクションを起こすきっかけをつくっていきたい」と話します。ひらくが思い描く文化複合施設とはいったいどのような空間なのでしょうか。まずは、これまでの彼らの取り組みから紹介していきます。
本と出合うための本屋「文喫」
「文化を喫する、入場料のある本屋」として2018年にオープンした文喫には、人文科学、自然科学、ビジネス、アートなど幅広いジャンルの3万冊もの本が置かれ、入場料を払えば丸1日過ごすことができます。企画展なども定期的に行われ、未知の発見や刺激、そこで集中できる時間を求めて、読書好きからワーカーまで様々な人が訪れているそう!
文喫のポイントは、本との出合いもさることながら、入場料の仕組みや飲食機能を持つことで、じっくり読書や仕事に没頭できる空間と時間を届けていること。仲間とおしゃべりしたり打ち合わせをする「研究室」というスペースもあり、多様なニーズに応えられるという点で、公共の場づくりにおいてもヒントがありそうな新しい業態です。
ブックホテル「箱根本箱」
2018年にオープンした「箱根本箱」は、日本出版販売株式会社の保養所をリノベーションした本との出合いや本のある暮らしをテーマにしたブックホテル。
本が好きな人だけでなく、本に馴染みのない人、読書習慣があまりない人にもその魅力を届けたいという思いから、「本との距離がぐっと近くなる」「本と一緒に暮らしたくなる」空間づくりを大切にしているそう。そのため館内には、ラウンジの壁一面に広がる圧巻の本棚をはじめ、レストラン、ショップ、客室など、各所に本が設置されています。
本や読書の魅力を届ける公民連携イベントも
次なるフィールドとして自治体の遊休施設を見据えるひらくですが、自治体や図書館との連携も一部で進んでいます。日本初のトライアルサウンディングとして茨城県常総市と実施した公民連携のキャンプイベント「森の生活」や、図書館流通センターとのイベントパッケージ「Library Book Circus」などを通して、「地域に文化をひらく」試みを始めています。
本の持ち寄り交換会、ブックカバーやしおりづくりのワークショップ、地域の学生による音楽イベント、図書館司書や市長のトークイベント、特産品の展示など、地域の文化資源を幅広く捉え、人と文化をつなぐコンテンツと場をつくり出しています。
地域における「本のある空間」の可能性とは?
ひらくの親会社である日本出版販売株式会社は、出版社と書店をつなぐ「取次」として長年書籍や雑誌の流通を支えてきました。今後は、そんな全国各地の出版社や書店とのつながりを活かしながら、「取次=間をつなぐ」役割を超えた仕事をつくりたいと、ひらく代表の染谷拓郎さんは話します。
「箱根本箱や文喫など新しい業態への挑戦を通して、本のある空間の豊かさや可能性を改めて実感しています。ふと目についた本をきっかけにまったく知らなかった分野への興味関心が芽生えるかもしれない。たまたま手にとった本で知らない世界がひらけ、趣味や仕事、生活スタイルも変わるかもしれない。つまり、本のある空間は人々に未知なる好奇心の種をまき、新しいアクションを起こすきっかけを届ける可能性を秘めていると思うのです」
ひらくが思い描く新しい文化複合施設とは?
地域の人々に「好奇心の種」をまき、新しいアクションを起こすきっかけとなる空間。それを公共の場として展開することの可能性について、染谷さんは次のように語ります。
「地域にはいろいろな関心や強みを持つ人がいます。リアルプロダクトとしての本と実際の『場』を持つことで、そんな方々を巻き込み、つないでいけると考えます。新しい文化複合施設では、いままでの図書館よりもさらに一歩踏み込んで、本をきっかけに自分なりのテーマや興味分野を見つけてもらうだけでなく、具体的なアクションにつなげていきたいと思っています。
例えば、共通の興味関心を持つ人同士、思い思いに語り合える場を提供する。そこからコミュニティが生まれ、さらに知識を深めたり、趣味の幅を広げたり、新たな活動が生まれる。ここに来れば自分の暮らしが面白くなる兆しや好奇心の種が見つかる場所を目指したいのです」
好奇心の芽を育むインタープリター
好奇心の種を具体的なアクションにつなげるために、人と人、人と文化の間をつなぐ媒介役としての“インタープリター”という存在が必要だと染谷さんは話します。
「何かやってみたいことや新しい興味関心に出合っても、実際すぐにアクションできる人は少ないのではないでしょうか。すぐに自分に合った勉強方法やノウハウ、コミュニティや仲間を見つけるのはなかなか難しい。そこで、その橋渡しをするのがインタープリターです。
例えば、映画に興味を持った人が施設のインタープリターに相談する。インタープリターは地域の映画に詳しい人をつなぐ。本を読んでからアクションするまでの間をつなぎ、興味関心の芽を育むのがインタープリターの役割です。ゆくゆくは、そこから地域コミュニティが生まれ、コミュニティから新たな活動が始まり、地域全体がより豊かになる動きをつくり出したいのです。
また、インタープリターの考え方は人だけに留まりません。複合施設としてさまざまな業態・店舗が入居するとすれば、施設自体もインタープリターの役割を果たします。大切なのはそれぞれのコンセプトやビジョン、来場者にどんな体験をしてもらいたいかが施設内で共有されていること。コンセプト連動型の文化複合施設というのが大きなキーワードです」
ひらくが求める公共空間の条件、自治体とのパートナーシップとは?
みんなの思いを形にできる地域のプラットフォームになることが、新しい文化複合施設として理想的だと染谷さんは言います。一人ひとりの強みを地域に還元できるような仕組みをつくるためにどんな遊休施設と出合いたいと考えているのでしょうか。
「例えば、図書館、公民館、公園、学校などの遊休施設は、文化的な施設としてイメージがわきやすいですね。そして屋内・屋外の両面から利活用できるファシリティがいいなと思います。とはいえ、現時点で施設の基礎条件に関して明確な要望があるわけではありません。元々の用途が文化施設じゃなかったとしても、柔軟に検討してみたいです。その施設が持つストーリーやファシリティを生かしながらコンセプトをオーダーメイドしたほうが、地域のみなさんからも共感を呼びやすく、いろんな可能性を広げていくことができます。
要望をあげるとすれば『立地』です。日常的に使われる施設にしたいので、都心部から極端に離れた場所や山村部は難しいかもしれません。比較的中心部にあったり住民が多いエリアのほうが、地域をつなぐハブとしての拠点になりやすいと考えています」
一緒にビジョンを描きながら、プロセスからつくるパートナーとしての協働関係が理想だと染谷さんは話します。施設の活用方針やアイデアがゼロベースでのご相談も歓迎とのこと。そして自治体に限らず、遊休施設を持つ民間企業の方々にもご応募いただくことが可能です。
文化施設、本や文化を軸とした公共の場づくりなどにピンときた自治体のみなさんや企業のみなさん、ぜひお気軽に以下からお問合せください!
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画像提供:株式会社ひらく
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