コロナ禍によって広がった新しい生活様式。働き方も暮らし方も多様化が進む中、アウトドア市場に注目が集まっています。ここ数年で、ソロキャンプやアウトドアアクティビティの趣味を新たに始めた方も多いかもしれません。
そんなアウトドア事業への期待の高まりをいち早くキャッチした茨城県の観光物産課では、実は全国でも有数のキャンプ場数を誇るという茨城県のポテンシャルにも着目し、令和2年度に「いばらきキャンプ事業」を立ち上げ、アウトドアを核とした誘客促進事業を進めています。
結果、特に首都圏在住者のキャンプ好きに人気が高まり、この2年間で、茨城県内のキャンプ場予約件数は約5倍(2021年実績)になっているのだとか。
「いばらきアウトドアマッチング」とは?
県全体でアウトドア市場を盛り上げる!
今年度から始まっている「いばらきアウトドアマッチング」の活動内容は大きく二つ。一つは、県内の遊休地と民間のアウトドア事業者のマッチング。もう一つは、県内のアウトドア事業者と全国のさまざまな他事業者をつなげる取り組みです。令和2年に公開したバラエティ豊かなキャンプ場の情報を掲載するポータルサイト「いばらきキャンプ」に加え、今年の8月には事業者向けの「いばらきアウトドアマッチング」をリリースし、アウトドア事業推進に関心のある民間事業者向けの情報発信を始めています。
今ある地域資源で、新しい「いばらき」体験をつくる
「いばらきキャンプ」「いばらきアウトドアマッチング」全体の仕掛け役は、茨城県営業戦略部観光物産課の小松崎凌平さん。そこにキャンプ場検索・予約サービス「なっぷ」の運営や、アウトドアレジャーを通した地域活性化コンサルティングなどを手がける株式会社R.projectが伴走役として入り、遊休化した公共施設等の選定や市町村との調整などを担当しています。今回は、小松崎さんに取り組みへの思いをうかがいました。
まず気になるのは、どうして「アウトドア」を切り口にした事業だったのか?という点。
「アウトドアを切り口にした事業を展開するにあたり、茨城県の前提となる強みは、まずは首都圏からの近さです。加えて、海・山・川・湖がすべてある、さまざまなアクティビティにも対応できる自然環境。さらに私が可能性を感じているのは、茨城県の食材の豊富さです」
「キャンプ時には自炊を楽しむ人も多いですよね。キャンプ場に向かう途中で地元のスーパーや直売所に立ち寄っていただくことで、非常に豊かな県産食材の魅力を感じていただけると思っています。茨城県は、実は農業産出額は全国3位で、耕地面積割合は全国1位と、とても農業が盛んで食材が豊富な県ですが、そのような食の魅力がなかなか知られてないのです。アウトドアを通じて、茨城県の食材を楽しむポテンシャルもぜひ感じていただきたいですね」(小松崎さん)
遊休化した公共空間の活用というと財産活用に関する部署や各施設の主管部署が行うのが一般的ですが、今回の取り組みの担当部署は観光物産課。遊休資産活用という視点からではなく、観光振興や県全体としての魅力発信の目的を果たすために遊休化した公共空間の活用がある、という考え方に基づいて事業推進しているので、より多角的な効果が期待できそうです。
また、県内のキャンプ場の紹介だけでなく問い合わせ窓口も設けた「いばらきキャンプ」には、令和2年のリリース以降、アウトドア事業推進に関心のある民間事業者からの相談も多いそう。この2年間を通して、一般から民間事業者まで、アウトドアフィールドにまつわるたくさんの声を収集できていたのが、この事業を考える上で大きかったと小松崎さんは言います。
担当者が変わっても魅力的な事業が続くために。
民間事業者との連携への期待
いばらきアウトドアマッチングは、県内の遊休化した公共空間と民間のアウトドア事業者のマッチングの他に、県内のアウトドア事業者と全国のさまざまな事業者をつなげる取り組みも進めています。
「県内のキャンプ事業者さんの中には、非常にユニークで面白いことを発想・実行する人たちがいます。自然環境や未来のことを考えながら新しいことにチャレンジし続けるマインドは、アウトドア事業以外の業種でも重要ではないか?彼らの思いや活動が県内・全国に広がれば、新しい茨城の魅力がさらに伝わるのではないか?そう考えて、県内外の多様な業種とアウトドア事業者の出会う機会をつくっていきたいんです」(小松崎さん)
遊休化した公共空間の活用に留まらず、民間事業者同士のつながりやコラボレーションにまで目が向いている小松崎さん。そこまで民間事業者にフォーカスした活動にこだわるのには、行政ならではの事情も。
「行政の担当者はどうしても数年で異動したり、アウトドアのことをよく知らない職員が担当になることもあります。そうなった場合、自治体主導の事業は一過性のものになりがちで、アウトドア事業の持続的な成長を生むには、意欲と熱意を持つ民間事業者の巻き込んでいける取組みが重要です。そのためにも、アウトドア事業を通してもっと民間事業者との連携を深めていきたいと思っています」(小松崎さん)
アウトドア事業に特化したノウハウで民間と連携
12月14日(水)のイベントでは、数箇所の遊休資産をピックアップしています。その遊休資産の選定はどのように行ったのでしょうか?
「遊休施設や遊休地の選定は、いばらきキャンプ事業の立ち上げから協働しているR.projectのみなさんのノウハウを活用させていただいています。まず、アウトドア事業で活用したい遊休資産がないかすべての市町村に照会をかけました。ただ、回答のあったすべての施設が本当にアウトドア事業に向いているかはわからないので、一次的な選定からノウハウのあるR.projectさんに入っていただきました」(小松崎さん)
グループ会社で自らキャンプ場も運営するR.projectにはキャンプやアウトドアフィールドにおける独自の評価指標があり、立地、規模、自然環境、アクセス、温泉など観光資源の有無、インフラなどさまざまな項目をもとに点数化した総合的な評価ができるそう。今回もそれをもとに選定を行ったそうですが、「どうしても定量評価だけでは見極めきれない部分もあった」とR.projectの國定康子さんは話します。
市町村や民間事業者の巻き込み方とは?
日常的な関わりが重要な下地に。
「今回、回答いただいた中には、はじめに候補になった10の遊休施設はすべて廃校という市町村もありました。それぞれの違いをどう読み解くのか、単に点数化するだけでは絞りきれず、各市町村担当者の方に直接思いをうかがう時間をいただきました。地域住民の方々の気持ち、キャンプ場に変わるとした時に想像される地域の反応、これからの活用ビジョンや課題などさまざまなお話をうかがった上で、最終的に絞り込んでいきました」(國定さん)
市町村担当者に話を聞いてみると、既に地域住民の意向を把握している場所もあったそう。「子どもから大人までさまざまな人が遊べる環境に変わることは嬉しい」「いろいろなところから人が来るようになるのはありがたい」など、住民からのポジティブな声も。
どの市町村担当者も、小松崎さんと國定さんが思っていた以上に「その場所をどうにかしたい」という問題意識が強い人ばかりだったそう。
県の担当者として「何かあったときに気軽に市町村と相談しあえる関係性をつくりたい」と話す小松崎さん。日頃から丁寧な県内の市町村との関係づくりを大切にされ、事業の報告会を開いたり、「いばらきキャンプ」への問い合わせや視察状況を共有したりと、日常的な関わりも事業の大きな土台となっていることがうかがえます。
100年先を見据えたビジョンを共に描く
最後に、いばらきキャンプ事業全体として目指したいことをうかがいました。
「事業を立ち上げてから、キャンプ場だけでなく、アウトドアフィールド全体のさまざまな事業者のみなさんとお話をする機会が増えました。キャンプ場やカヌー、サーフィンなどのアウトドア事業は、平日の集客、担い手の後継者問題、人材不足など、非常にたくさんの課題を抱えています。例えば、単にキャンプ場としての空間を提供するだけでなく、飲食やアクティビティなど複数の切り口を抱えていないと運営は難しいと伺っています。本当にさまざまな課題があるので、ちゃんと持続可能なビジネスとして成立する仕組みを考え、一過性のブームで終わらせない形で進めていきたいと思っています」(小松崎さん)
12/14(水)10時〜12時 イベント開催!参加企業募集中!
行政×民間事業者でつくる新しいアウトドア事業
そんな活動を背景に、12月14日(水)10時から開催するのが「いばらきアウトドアフィールドマッチング」。遊休化した公共空間をアウトドアフィールドとして活用したい市町村担当者と、アウトドア拠点づくりに関心のある民間事業者を集め、双方がつながるきっかけをつくります。
市町村の担当者からの公共空間の紹介プレゼン、民間事業者からのPRタイム、さらに午後からは一部施設の視察も可能です。会場は、公民連携型で運営されている常総市の農業体験型宿泊施設「水海道あすなろの里」。県内で実際にアウトドアフィールドとして活用中の施設を肌で感じながら、新たなアウトドア事業の創出について考えるイベントです。
実際に遊休施設などの管理者を決定させるのではなく、きっかけをつくり出すイベントとして、「茨城県でアウトドアを盛り上げていきたいという想いを持つ事業者のみなさまに気軽に参加していただけたら」と小松崎さんは話します。
イベントに登場するフィールドを一部ご紹介
今回のイベントでは、R.project独自の評価指標によるアウトドアに適したフィールドが紹介されます。さらにはそれぞれの場所の背景を汲み取り、「いいかたちで活用に結びつけたい」という担当者の想いが備わっていることもポイントです。
それぞれの紹介ページには、おすすめポイントなど詳細も記載されているので、ぜひご覧ください!
【行方市】旧手賀小学校・幼稚園
高台にあり、霞ヶ浦を望む眺望が魅力。茨城を代表するサイクルスポット、つくば霞ケ浦りんりんロードからも至近です。宿泊施設や滞在型スポットとしての活用を希望しています。
(いばらきアウトドアマッチングサイトより抜粋)
【鉾田市】旧上島西小学校
周辺を自然に囲まれた場所にあります。高台に位置しているため眺望が良好で、北浦を望むことができます。北浦湖畔駅から徒歩圏内(6分程度)であるのもポイントです。キャンプ等、宿泊が可能な施設としての活用を希望しています。
(いばらきアウトドアマッチングサイトより抜粋)
そのほかのフィールド一覧はこちらに掲載されています。
長い目で見た時に、茨城県の文化としてアウトドアを成長させたい。そんな熱い思いで事業を推進されている茨城県によるイベント「いばらきアウトドアフィールドマッチング」。ご関心のある民間事業者のみなさん、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか?
【イベント詳細】
日時:2022年12月14日(水)10時~12時※予定
場所:水海道あすなろの里 学習棟
茨城県常総市大塚戸町310 MAP
アクセス:常磐自動車道 谷和原ICより車で約20分
参加費:無料(事前申込制)
※申込多数の場合は、マッチングの実現可能性を考慮した上で事務局にて参加可否を決定させていただきます。ご了承ください。
イベント詳細はこちらから!
お申し込みはこちらから!
※申込締め切り:2022年12月5日(月)23:59
主催:茨城県
運営:株式会社R.project
小松﨑 凌平さん プロフィール
茨城県営業戦略部観光物産課
誘客・フィルムコミッショングループ 主事
茨城県庁へ平成29年度入庁。令和元年度から営業戦略部観光物産課へ配属後、冬季観光における課題解決や、ポストコロナ時代における観光振興のため、キャンプ場ポータルサイト「いばらきキャンプ」の開設など、キャンプを切り口とした誘客促進事業を立ち上げる。関連事業者などと連携し、現在もアウトドアを起点にした観光地域づくりを仕掛ける。