市電の倉庫が文化を発信するカフェに
使われなくなった公共施設の活用方法はいつ、誰が決定しているのか。不動産サイトを探しても出てこないし、多くの人にとってその流通経路はブラックボックスではないでしょうか。それが、遊休公共施設が一向に使われない理由の一つといえます。
一方、公共施設を利用する手続きが非常にオープンなまちがあります。意外にも、それは保守的なイメージの強い京都市です。たとえば、2016年に河原町七条にオープンした「Kaikado Café(開化堂カフェ)」。1927(昭和2)年に竣工した市電の倉庫兼事務所(旧京都市電内濱架線事務所)を開化堂が購入し、カフェにリノベーションしました。
開化堂といえば明治8年創業の老舗です。美しい形と高い気密性を持つ銅や真鍮製の茶筒で知られています。同社がそうした日本の伝統技術に実際に触れられる空間をつくりたいとカフェ事業を立ち上げ、その場所に選ばれたのが、創業と同時期に建てられたこの物件でした。
外観はほぼ当時のまま。内部の壁面は下半分を残し、上半分はシンプルな白い塗装で仕上げています。レトロなドアノブは市電のハンドルを再利用するなど、当時の記憶をなるべくそのまま閉じ込めるよう工夫されています。立地は繁華街から少し離れていますが、近年ゲストハウスやシェアオフィス、個性的な飲食店が増え、ホットなスポットになりつつあるエリアです。
民間からの公共施設の活用提案
このカフェが生まれるきっかけとなったのが「京都市資産有効活用市民等提案制度」です。京都市のウェブサイト上に、提案を受けつけている市有施設の一覧が公開されており、そのリストから施設を使いたい個人・法人が市に提案すれば、役所内で検討。適切と判断されれば、公募プロセスに入り、複数の提案から最も適切なものが採用されるしくみです。
2015年3月、京都市が開化堂からの提案を受け、5月に公募を開始。最低価格約6400万円、耐震も含めた改修費用は提案者負担で、市からは歴史的な価値を損なわないこと、近隣に資する事業であることなどが条件として提示されました。7月、開化堂が選出され、翌年5月に店舗がオープンしました。
公共所有の施設である手前、公平性の担保の観点から公募にかけなければならず、民間企業にとって時間と手間はかかりますが、少なくとも提案可能な施設、窓口、その後の手続きフローが明確になっている点は画期的です。当時はこのようなオープンな制度を持つ自治体は日本にまだ片手で数えるくらいしかありませんでした(現在では、民間提案制度を導入する自治体は数十自治体に増えているようです!)。
京都だからできるという特別感があるのは否めませんが、このカフェについては市の職員も存在を忘れていたような施設への不意な提案だったといいます。公民連携の原則として、公共が民間のノウハウを最大限活かすために、チャンスを広げておくことがいかに重要かを物語るストーリーです。
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上記の記事については、公共R不動産が編集・執筆した書籍、
「公共R不動産のプロジェクトスタディ 公民連携のしくみとデザイン」でもご紹介しています。
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