生田緑地の自然と文化に包まれて
川崎市多摩区の丘陵地に広がる生田緑地。新宿駅から電車で約30分というアクセスで、豊かな自然に包まれる川崎市内最大の都市公園です。その面積は約175ヘクタール(東京ドーム約37個分!)にも及び、自然豊かな森にはハイキングコースが整備されており、四季折々の風景が楽しめる市民の憩いの場となっています。
生田緑地と周辺エリアには「岡本太郎美術館」や「かわさき宙(そら)と緑の科学館」「川崎市 藤子・F・不二雄ミュージアム」などがあり、文化的なスポットも充実しています。都心からの好アクセスと自然の豊かさ、そして文化の拠点を兼ね備えた生田緑地は、日常を離れてのびのびと心を解き放てる空間です。
築60年ほどの洋館風建物
そんな生田緑地のはずれにある今回の対象物件。高台にある見晴らしのいい住宅地から側道に入り、アプローチを抜けると洋館風の建物が姿をあらわします。

それはまるで海外の絵本の1ページのような風景。スパニッシュ様式を思わせるオレンジ色の瓦屋根に漆喰風の外壁、アーチ型の開口部や装飾的な鋳鉄製の格子。植栽や庭が建物を取り囲む優雅でリラックスした雰囲気。これは公共R不動産的にかなりグッとくる建築デザイン…!建物のディテールを見れば見るほど、心掴まれてしまいました。

築61年のRC造2階建。建築面積は約180m²、延べ床面積は約310m²。1963年に元オーナーが自宅として建てたもので、2019年に市に寄贈されました。生前から教育に志を持っていたオーナーさんの意思を引き継ぎ、相続されたご親族から「この建物を地域のためにぜひ活用してほしい」と譲り受けたといいます。
オーナーさんはアートに造詣が深かったとのこと。室内は全体的に天井が高く、木製の建具や天井、壁紙やタイルなど、随所に建築へのこだわりも感じられます。
敷地面積は約4,700m²。高台の住宅地にあり、多摩地区の市街地が見渡せるロケーション。敷地の南側には約500㎡の庭が広がり、そのわきには小屋もあります。

ちなみに、物件へのアクセスはJR南武線と小田急線の2沿線が乗り入れる登戸駅、またはJR南武線の久地駅からコミュニティーバス「あじさい号」で約15分。バス便は1時間に1本になりますが、公共交通機関が通っていることもポイントです。
市民ミュージアム、ばら苑など、
周辺コンテンツとの連携の可能性
さて、この素敵な邸宅をどのように活かしていきましょうか。周辺にある施設やコンテンツとの連携が手がかりとなっていきそうです。
生田緑地の東地区には、春と秋の年2回一般公開されている「生田緑地ばら苑」があるほか、この物件の北側には“あじさい寺”として知られる「長尾山妙楽寺」があります。バラ苑では市民によるボランティア活動が盛んで、長年にわたって地域に愛される大切な場所です。
今後は生田緑地の敷地内に「川崎市市民ミュージアム」の移転計画もあり、最短で2031年にはオープンする予定とのこと。この邸宅プロジェクトとの連携の可能性を秘めた大きなコンテンツになっていきそうです。

川崎市では生田緑地の自然環境を未来に継承していくための『生田緑地ビジョン(※)』を掲げています。それを実現する手段として、現在は市民参加型のワークショップを重ねながら『生田緑地ビジョンアクションプラン』の策定が進行中。今後は本プロジェクトも生田緑地アクションプランのひとつに位置付けられていく予定です。
※平成23年3月に川崎市が生田緑地ビジョンを策定した。「豊かな自然・文化 ・人・まちが共に息づき、みどりがつなげる持続可能な生田緑地の実現」を基本理念としている。
どんなふうに活用していく?
それでは実際にどのようなコンテンツが展開できそうか、ここからは妄想タイムです。
今後は市民ミュージアムの移転もあるので、「アート」や「文化」も有力な切り口のひとつになっていくはず。ということで、例えば、アーティスト・イン・レジデンスとして使うのはいかがでしょうか。
一定期間、アーティストがここに住みながら生田緑地の自然環境のなかで創作活動をして、作品を市民ミュージアムに展示するのも良さそう。活動内容を市民ミュージアムと絡めていくことで、市の担当部署と連動しながら相乗効果を生んでいける可能性もあります。さらに、アーティストが子ども向けのワークショップを開催することで、オーナーさんの「教育に寄与したい」という想いにも通じる活動になっていきそうです。

もしくは、いっそのこと「アート教育」を軸にした学童やスクールなど、子ども関連の施設にするのも良いかもしれません。最近では「シュタイナー」や「モンテッソーリ」などアートを取り入れた教育に注目が集まっていますが、自然に近いこの環境はその実践の場として相性抜群な気がします。
ほかにも、この邸宅の素敵な世界観を活かしたスタジオや宿泊施設、一部は物販としての活用もありえそう。このエリアは住宅地ではあるものの、スーパーや日用品店まで距離があるので、食品や日用雑貨の需要が見込めます。定期的にここで有機野菜が買えるマーケットを開催するのも良いかもしれません。
ちなみにここは第一種低層住居専用地域で、用途規制がかかりますが、民間事業者の提案内容によって、市は緩和制度の活用に対しても相談にのることが可能とのことです。

まずは対話からスタート!
これから柔軟に手法が検討されていく、可能性を秘めたプロジェクトです
とても素敵な物件なのですが、ネックになるのが耐震性などを満たしていないこと。活用する場合は適切な状態への改修が必要になります。雨漏りなどの老朽化も見られるので、一度は建物の解体が検討されましたが、昨年度に行われた民間事業者との意見交換会のなかで「建物に魅力がある」という意見が出てきたことで、建物活用の可能性を残していくことになりました。
土地は生田緑地内の都市計画区域であることから、売却はせず、貸付を想定しています。
市としては建物の活用を推奨しながらも、解体も選択肢になっており、現状では事業用定期借地権設定契約やPark-PFIなどのスキーム導入の可能性についても検討を進めているとのこと。

事業用定期借地権設定契約の場合、今後算出される鑑定評価によって賃料が高くなる可能性がありますが、事業内容にも大きな縛りがありません。Park-PFIでは、川崎市の条例によって使用料が安くなる可能性がありますが、事業内容にはより公共性が求められます。
また、予算と折り合いがつかない場合は、敷地の約4,700㎡をすべて借りるのではなく、建物の周りだけを借りて、残りの敷地は指定管理者制度などを活用し、市で管理する方法もあり得るとのこと。
2025年2月時点において、建物の活用方針や事業スキームなどはまだフラットな状態。4月に実施する現地説明会で幅広く意見を集め、その後は個別にヒアリングを実施して、募集要項の詳細が定まっていきます。建物の詳細な調査結果についても、現地説明会にてご確認ください。

最後に、本プロジェクトの担当者である、川崎市 建設緑政局 緑政部みどりの事業調整課 貝原 聡さんと竹田 真由子さんからメッセージをいただきました。
貝原さん 「この建物を掃除したり、草刈りをしながら『素敵な建物だな』と、ずっと思ってきました。一度は建物の活用を諦めて、解体する段階にきたところで『まだ可能性がある』という民間事業者さんの声を聞いたことで一筋の光を見た気持ちです。
駅からの距離や事業性など、条件が整っているとは言えませんが、民間ならではの発想やノウハウを活用しながら、地域の魅力向上につながる活用の可能性を探っていきたいです。民間事業者さんからいただくご提案内容に対して、規制緩和や適切なスキーム検討など、全面的に支援していくことが行政の役割ですし、やれることはなんでも頑張っていきたいと思います」
竹田さん 「公共R不動産のみなさんがこの建物を見たときに『すごい!』と反応されていましたが、私も初めて見たときは同じ感想でした。木の天井や建具、工夫を凝らした装飾、周辺環境など、ここにしかない空間。実際に来ていただけると、この土地や建物が持つポテンシャルをきっと感じていただけると思います。なんとか事業性のある活用に結びつけていきたいので、ぜひお気軽に説明会にお越しいただけると嬉しいです」
現地見学会は4月15、16日に開催予定です。この建物や周辺環境にピンときた方は、ぜひ積極的にアイディアや要望などを伝えてみてはいかがでしょうか。みなさまのご参加をお待ちしています!
お申し込み・お問い合わせ
参加ご希望の方は、以下より申し込みください。
申し込み後、市より開催時間と場所についてご連絡をいたします。
そのほか、説明会や物件にまつわる詳細についても、以下よりお問い合わせください。
メールアドレス:53mityo@city.kawasaki.jp
電話番号:044-200-0511
市ホームページにも、実施要領などが記載されています。
https://www.city.kawasaki.jp/530/page/0000175033.html
今後のスケジュール
4月中旬
対話、現地見学会(4月15、16日)
4月~8月
対話を踏まえ、個別ヒアリング進捗、事業参画予定者との調整(公募実施等への判断)、公募要項案作成、鑑定評価
11月
公募開始
3月
事業者決定