新しい図書館をめぐる旅
新しい図書館をめぐる旅

それぞれが認め合い、みんなの居場所になっていく。元ショッピングモールから生まれた「都城市立図書館」

地域コミュニティの醸成や問題解決、産業の支援など、まちづくりのエンジンとして機能する新しい図書館像を探るシリーズ。第4回は、宮崎県都城市立図書館を訪ねました。

2018年4月、宮崎県都城市の中心市街地のかつてショッピングモールだった建物がリノベーションされ、都城市立図書館に生まれ変わりました。館内はまるでホテルのラウンジのような黒と木材を基調としたシックな空間が広がり、公共図書館とは思えないほど快適で洗練された施設です。

現在の都城市立図書館の向かいには、かつては百貨店がありました。20年ほど前にはショッピングモールとして再起をかけるも経営破綻し、地元の商工会議所が買い取った後に、市が譲り受けたのが約5年前。図書館や保健センターなどを中心市街地へ移転させることを条件に都市再生事業が立ち上がり、図書館の整備計画は、市の商工政策課・中心市街地活性化室が中心となって進められました。

都城市立図書館をつくるにあたり、都城市は指定管理者制度を採用し、公募型プロポーザルを実施。株式会社マナビノタネ(代表団体)と株式会社ヴィアックスの2社の管理運営と図書館備品調達業務のコクヨマーケティングによる事業体「MALコンソーシアム」が選ばれました。

Mallmall全体の来場者が月平均17万人。そのうち10万人が図書館に訪れているというほど、図書館は施設全体のメイン機能として賑わいをみせている。

こうして、子育て支援施設や保健センター、イベント広場、そして都城市立図書館などで構成される中心市街地の複合施設「Mallmall(まるまる)」がオープン。次世代を意識した施設として、乳幼児連れのお母さんに寄り添うサービスが提供され、取材時には、図書館の向かいにある子育て支援施設や保健センターを回遊し、ベビーカーを押しながら図書館に入っていく若いお母さんたちの姿が多く見られました。

一時期は若い人が離れていた中心市街地に、図書館をめがけていまや子育て世代が集い、多世代が行き交うようになりました。館内には工夫に満ちた機能が点在し、幅広い世代が思い思いに過ごす姿があり、その小さなワンシーンの集積が居心地のいい空気をつくりあげているように思います。

館長の井上康志さんに運営の仕組みについてお話をうかがいながら、館内のさまざまな機能やサービスについてご案内いただきました。

都城市立図書館館長の井上康志さん。

地域の“いいもの”が集まる市庭、「カフェショップ MallMarket」

1階のメインエントランスの横では、カフェショップ「MallMarket(マルマーケット)」が来館者を出迎えます。旬の食材を使った洋食を中心にデザートメニューも充実。マーケットという名前の通り、観葉植物や雑貨などカフェ内にあるほとんどが売り物で、書籍の販売も行い、地元の花屋さんや珈琲焙煎店、お茶屋さん、本屋さんなどと協力し合っています。図書館とカフェがセットで指定管理者の運営業務として任せられており、図書館と同じくらい重要な位置付けとして運営されていると井上さんは話します。

図書館のメインエントランス横にあるカフェショップMallMarket。広場側に面した配置で、図書館の“顔”ともいえる。

本や知識との出会いを偶発させる「インデックス」

入館ゲートを通ると見えるのが、やさしく光るインデックスのコーナー。都城市立図書館オリジナルの索引機能で、4面を囲んでワードが書かれたスタンプが並んでいます。気になるワードの2次元バーコードをスマホで読み込んだり、裏に付いているスタンプを紙に押して館内の端末にかざすと専用ページが呼び出され、そのワードの解説やそれに関連する本の情報が表示されます。気になるワードをノートにスタンプして収集すれば、自分の関心ノートをつくることもできます。

なかには方言や地元の文化にまつわる言葉、ゆるキャラの名前まで、地域性のあるワードも見かけます。ワードを少しずつ増やしたり、入れ替えたりとみんなでつくる“生きた索引”。選ばれたワードや時期、組み合わせなどのアクセスデータを分析することで、時代ごとのトレンド解析も試していきたいとのこと。

インデックスのコーナー。スタンプを選んで押すというアナログな行為とデータを使った案内や情報収集。対極の要素がクロスするおもしろい仕掛け。

自由自在に空間を彩る「木箱」

都城市立図書館の象徴的なアイテムといえば、館内のいたる所で見られる九州産クスノキを使った大中小の木箱です。マルシェの木箱がモチーフになっており、その数はおよそ800個。本をディスプレーする什器として、パズルのように組み合わせてシーンごとに用途を変えて活躍します。かわいい見た目ですが、ボルト締めで5段まで積み上げられる、本格的な家具なのです。

書架の前に置かれた木箱には、書架のジャンルに沿って図書館員が「こんな本もありますよ」と選んだ本が面出しされています。ショッピングをするように、図書館を歩き回るだけで視覚に情報が飛び込んでくる、そんな歩いて楽しい元ショッピングモールのDNAが息づいています。

トントンと木箱を積み上げれば、書架のできあがり。隙間をつくりながら置けば、圧迫感のないカジュアルな雰囲気に。

館内を見渡すと、木箱をはじめ、デザイン性が高い家具や調度品が揃えられていることに気づきます。これは、都城市独自の発注方式によって実現されたもの。都城市は竣工の1年半前には指定管理者(MALコンソーシアム)を選定し、図書館の管理・運営業務のほか、併設するカフェの運営、そして「図書館備品調達等業務」を一体化した発注方式として、デザイン監修と家具類の調達業務までを委ねました。改修工事の設計と施工には、地元企業の共同事業体が選定されています。

児童書エリアの近くにある「リビングのような席」。全体的に大人っぽいデザインの館内ですが、ここではポップなカラーの椅子が使われている。

市民が表現することを支える「プレススタジオ」

都城市立図書館の大きなテーマのひとつに「表現すること」があります。スタジオのチームでは、編集者、デザイナー、クリエイター、ライターなどのスタッフが地域編集局として活動し、市民が「表現すること」を支えています。『つながり発酵展』や『まとう、みやこのじょう展』などの企画では、地域に取材に出かけ、本で調べてギャラリーで展示し、その後に冊子となったそうです。冊子にすることで地域資料とし、図書館で保存できるようになります。図書館が編集室を持つという、全国でも珍しい機能です。

エントランス付近の「プレススタジオ」。奥には地図黒板とギャラリーがある。

ゆとりある書架の配置と、本を探しやすい陳列の工夫

館内を散策していると、書架と書架との隙間が広く、空間にゆとりを感じます。2階には「年表書架」という円弧型の収納棚があり、左から右に古い時代から新しい時代にかけて、上段は日本、中段が都城周辺地域、下段が世界と、エリアと時代に沿って本が並んでいます。

よく見ると、書架に本がギッチリ詰まっていません。34万冊の蔵書のうち、表に出ているのは半分以下の14万冊とのこと。本棚に生まれる隙間によって視界が抜けて、圧迫感を軽減する効果もあり好評とのことです。

ゆとりある書架の配置。回転式の円形収納棚も使われている。
2階のMAGAZINE WALLには、約 170タイトルの雑誌が壁一面に並んでいる。

表現を楽しむための「ファッションラボ」

10代優先の「ティーンズスタジオ」内には、「ファッションラボ」があります。「ファッションブランドのデザインが生み出されていく研究工房」というテーマでつくられたスペースで、本格的なシルクスクリーンプリントができる設備が整えられています。定期的に開催されるワークショップでは、Tシャツや小物などを思い思いの色や柄でつくることができます。それぞれの感性を大切に、「好き」を存分に表現してほしいと担当スタッフは話します。

ファッションラボ。ガラスを通して作業風景が見えるようになっている。画像提供:都城市立図書館

ショッピングモールのDNAが息づく「ホール」

自然光にやさしく包まれた開放的なホール。ショッピングモール時代から多くのイベントが行われていた場所で、象徴的な時計台もそのままにモールのDNAが生きづく場所です。トークイベントが行われたり、ファッションショーが行われたり、「表現すること」のアウトプットの場としても活躍しています。

開放的なホール。モール時代のエスカレーターは階段に取り替えられた。

ここでは紹介しきれないほど、いくつもの工夫に満ちたコーナーや機能が揃う都城市立図書館。「これらの多くは、指定管理者代表の森田秀之さん(株式会社マナビノタネ代表)による実験みたいなものだと感じています。まずはやってみるという、挑戦の姿勢を大切にしたいです」と井上さんは話します。

多様な利用者がそれぞれを認め合い、社会性を育む場に

このように空間もサービスも大きな変化をとげ、オープン時には利用者からうれしい言葉がたくさん届いたそうです。その反面「図書館は静かなものだろう」「本を読む場所だろう」という声や、テスト期間になると席が中高生に占領されてしまうというクレームも。「中高生は周りを見渡して、ここに居るためにはどうしたらいいかを自分で考え、社会性を身につけてほしい」と井上さんは話します。

館内を歩くと、明るいホールや中高生が多いエリア、奥には照明が暗めの落ち着いたエリアなど、空間の中に密度や濃度が分布されているように感じます。色調の異なるLEDを採用して照度や色合いに変化がつけられていたり、各コーナーや機能の配置など、空間づくりの工夫が行動やマナーに自然と影響を及ぼしているのかもしれません。

実際に、オープンして時間が経つことに、少しずつ利用者の意識にも変化が起きているようです。オープン直後は、赤ちゃんが泣くとお母さんたちは焦ってベビーカーを押して外に出ていたところ、今ではそんな様子は見かけないといいます。

「1年が経って、利用者からのクレームは減ってきているように感じます。みなさんが自分の居場所を見つけたんじゃないかな。それぞれが目的に沿って、落ち着く場所を見つけられたら、それが一番いいことです」(井上さん)

図書館の前には屋根付きのイベント広場がある。図書館の裏側の駐車場から図書館、イベント広場を通って、子育て支援施設へ向かう。

さまざまな機能とサービスが集まり、多くの世代が集う都城市立図書館。本を読んだり借りたりするという従来の図書館像を大きく超えたその姿について、井上さんはこう話します。

「例えばホールは、“まちのスクランブル交差点”みたいだと思うことがよくあります。毎日多くの人が行き交って、その一角にたまたま本や木箱が並んでいるみたいな、そんな場所になるといいなあと思いますね」(井上さん)

図書館で起きる日々の出来事。
小さなエピソードの集積から見える未来

毎月約10万人が訪れ、県外からの来館者も多い都城市立図書館。リニューアルオープン後は来館者数が7倍以上に伸び、開館から約1年と半年以上が経ってもその数を伸ばし続けています。ところが、数字だけでは見えないこともある。そこで井上さんは、数値化できない日常の出来事に着目しているといいます。

「例えば、こんなエピソードがありました。とある高校生から、大学受験の推薦資料をつくるために自分が掲載された新聞記事を探しているけど見つけられないと相談を受けました。時期や新聞社名などの情報がおぼろげだったのですが、スタッフがなんとか探し出して、掲載記事のコピーを渡すことができました。普通ならそこで終わりなのですが、その後に高校生の子が図書館にやって来て『無事に合格できました。ありがとうございました』と報告しにきてくれたんです。

こうしたエピソードの数々を記録していく。そうすることで、他のスタッフにも共有されるし、みんなほのぼのと嬉しい気持ちになる。その積み重ねも評価のひとつじゃないかなと思うんです。この図書館では日々いろんな出来事があって、日常的にいいなぁと思うシーンが散らばっている。そういった小さな積み重ねを大切にしていきたいと思っています」(井上さん)

撮影:OpenA(市江龍之介・加藤優一)

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