多世代を受け止める、多様な機能
東京駅から山形新幹線に乗り3時間ほど。Link MURAYAMAは村山駅から歩いて7分ほどのまちの中心地にあります。2016年に閉校となった旧山形県立楯岡高等学校(以降:楯岡高校)が旧管理棟の建物を中心に明るくリノベーションされ、人々が集まり、働き、交流できる、にぎわい創造活性化施設となりました。
Link MURAYAMAのリノベーションは、コリドー(通路)が大きなポイントになっています。“リンク”という名が示すように、メインとなる旧管理棟のA棟と離れのB棟、C棟、さらに旧体育館を活用した屋内広場が屋根付きのコリドーによって繋がれている(リンクしている)構成です。
A棟にはこの施設の中心的機能である、リビング・コワーキングスペースがあります。市内外の人が気軽に立ち寄って交流できたり、仕事をしたり、企業や地域のイベントが行われたり、コミュニティを醸成する場として幅広く活用されています。空間の中心には地元で人気のカフェが入居していることで、リビングやコワーキングスペースの居心地をさらに良くしているように感じます。
同じくA棟の1階にはシェアキッチンがあり、2階はオフィスやテナントエリアのほか、座席貸しのコワーキングスペース(要予約)、会議室やミーティングブースがあります。テナントエリアはオープン後半年の時点で満室という盛況ぶりです。
B棟にはメディカルフィットネス施設、C棟には子どもたちの体験と学びのためのキッズラボ、ピザレストラン、ゲストハウスがあります。
旧体育館を活用した屋内・屋外広場もとてもユニーク。アリーナは雨や雪の日でも遊べる室内遊技場として一般開放しているほか、1階に降りたピロティのコンクリート広場ではスケボーができ、土の広場ではグラウンドゴルフやキャッチボールなどをすることができます。雪国である村山市にとっては貴重な遊び場として、幅広い世代から好評とのこと。大規模な工事はせず、既存をうまく生かしたアイデアが光る活用法です。
多様な機能が集まり、随所にアイデアや工夫がみられるLink MURAYAMA。運営は村山市による直営で行われています。今回インタビューに応じていただいたのは、この場所の管理と運営を担う地域プロジェクトマネージャーの佐藤洋介さんと、地域おこし協力隊の小関恵子さんです。
佐藤さんは農水省の元職員。2016年に地方創生人材派遣制度で村山市に出向し、市政策推進課長を3年間務めるなかで担当したのが、旧楯岡高校跡地利活用のプロジェクトでした。「楯岡高校跡地利活用基本構想」をつくり終えた頃に任期を終了し、その後「やはりこのプロジェクトに関わりたい」と農水省を辞め、地域おこし協力隊として2021年に村山市へと戻ってきたのです。2023年現在は地域プロジェクトマネージャーとして勤務されています。
小関さんは楯岡高校の卒業生であり、東京からUターンしてLink MURAYAMAの利活用をミッションとする地域おこし協力隊に着任しました。母校の面影をみながら、日々利用者のみなさんとコミュニケーションをとり、誰もが気持ちよく使えるような環境づくりをしています。
このように現場のみなさんの思いによって推進され、地域に開かれていった本プロジェクト。事業の背景やオープンまでのプロセス、運営などについてお話をうかがいました。
まずは直営で、管理運営の実態を知る
楯岡高校は2016年3月に閉校となりました。閉校してから数年にわたり、村山市ではその跡地の利活用について議論を重ね、2020年5月には跡地を県から譲り受けて市有財産となりました。まちの中心地が空洞化し、市の総合計画においても最重要課題のひとつとして「楯岡高等学校用地の利活用と中心市街地の再生」が位置づけられていたといいます。
当初は活用方針として大学や専門学校を誘致する案が出ましたが、この規模の施設をひとつの用途で埋めることは困難であるという結論になり、民間企業にも床を貸して複合型にしていく方向へとシフトしていきました。
運営については指定管理など民間に運営を委託することも検討されましたが、築40年を超える建物で、修繕費や電気代、管理費用など見通せないことが多く、当面は直営することになりました。市自らが運営して把握した実情をもとに、今後の管理運営方針が検討されています。
入居希望者によるワーキングチーム
Link MURAYAMAは、コワーキングスペースからフィットネス、キッズラボなど多世代に向けた多様なコンテンツで構成されており、なかには旧体育館のピロティをグランドゴルフ場やスケートボードパークにするといった特徴的な機能もあります。このようなコンテンツはどのように決められていったのでしょうか。その大きなステップには、利活用予定者によるワーキングチームの活動があったと佐藤さんは話します。
「コンテンツを考えるにあたり、まずはコワーキングスペースに着目しました。コワーキングスペースは仕事をする場でもありますが、いろんな人が集まり雑談が起きて新しいことが生まれる、オープンな場所ですよね。電源とWi-Fiさえあれば仕事ができて、新しい居場所になることがおもしろいなと、その要素は入れていきたいとオープンな空間を施設の中心に据えて考えていきました」
しかし大きな空間すべてをコワーキングスペースにするわけにはいかないので、空間を小分けにしてテナントを入れることに。そのひとつとして、行政としての課題である「健康づくり」に沿って官民連携事業として医療との連携を見据えたフィットネスジムを誘致。さらにオフィスフロアには、サテライトオフィスとしてIT企業を中心に声をかけていきました。
「このときは、少しでも利活用に興味があるとの声が聞こえてくればすぐに資料を持って説明に行っていましたね」(佐藤さん)
このようにコワーキングスペースやオフィス機能を中心にすえて、利活用希望者が集まってきたところでワーキングチームを組成し、「この施設にどんなコンテンツがほしいか」を話し合う会議を設けたといいます。会議は、IT、宿泊、スポーツ・健康、子育て支援、起業・コミュニティ形成支援にまつわる企業のほか、一般利用者の枠で子育て世代の人々も参加し、11 の個人、企業団体によって行われました。
「この施設にどんな機能を入れるかは、使う人たちが集まって決めるのが一番いいと考えました。みんな自分たちがやれること、やりたいことについて意見を出してすごく盛り上がり、子どものための遊び場や市民活動ができる会議室、ゲストハウスなど、いろんなコンテンツ案が出てきました」(佐藤さん)
ワーキングチームの会議によってコンテンツの骨格が生まれ、そこにあらゆる利用者にとって使い勝手がよい「オープン性」と、利用者間に交流が生まれるような拠点を目指す「コミュニティ性」の視点が加わり、楯岡高校跡地の利活用の全体方針が「多様な利用者が集い、にぎわいの創出と経済効果を生む拠点」と定まりました。
こうした構想をもとに基本設計者の公募が行われ、設計と工事が完了。市職員の尽力によりテナントはほぼ埋まり、2022年7月、ついに村山市に新たなにぎわいの拠点「Link MURAYAMA」がオープンしました。
「できることを増やす」という運営ポリシー
取材にうかがったのは、オープンしてから半年が経った頃。まずはこの半年間の日々の運営についてうかがいました。
「この場所では『できることを増やす』ことをポリシーとしています。公共施設って禁止事項が多いじゃないですか。東京に住んでいたときには、都会の公園や公共施設は規制ばっかりでつまらないし、使いにくいなぁと思っていました。だからこそ、ここではなるべくルールで縛らず余白を残して、ふらっと来て使えるような『オープン性』を大切にしています」(佐藤さん)
リビングやコワーキングスペース、キッズラボ、旧体育館のアリーナやピロティなど、予約や利用申請が不要で、なおかつ無料で自由に利用できるオープンスペースがいくつもありますが(※)、どのように自由度を守りながら運営しているのでしょうか。
「オープンな場所であり続けるためにも、利用者のみなさんで譲り合って使ってほしいと思っています。平日の夕方以降は子どもたちが集まってくるので、高齢者のみなさんには『できれば平日の昼間にご利用ください』とお願いをしたり、アリーナやピロティの使い方が乱れたときは積極的に声をかけたりしています。
問題が起きるのを見越して禁止にするのではなく、まずは出来ることを示して、問題が起きたらしっかり説明する。できるだけ利用者のみなさんとコミュニケーションをとりながら調整していきたいと思います」(佐藤さん)
※アリーナもピロティも高校生以下とその保護者は申請なしで、なおかつ無料で利用可能(一般の方は有料)。キッズラボは中学生までは予約不要・無料で自由に使うことができる。
イベントが活発化するしかけ
Link MURAYAMAではイベントが盛んに行われています。市が主催するものだけでなく、テナント企業が地域に開いたワークショップやイベントなどを行うこともあるそうです。「オープン後、入居者さんからたくさんの力を借りてイベントを実施してきました」と話す佐藤さん。今後もイベントの実施をうながすために、とある仕組みをつくったといいます。
「入居者さんが、会議室やシェアキッチンなどの有料スペースを無料で利用できる仕組みをつくりました。もちろん事業支援のためもありますが、入居者さんがここで気軽にイベントを実施できれば、ここを訪れた人にも『この場所でなにかイベントをやってみたい』『参加してみたい』という気持ちを喚起でき、ここに新たなチャレンジをすることの土壌ができていきます。
そして入居者さんだけでなく、一般の方でも、教育や子育てなど公共性のある非営利のイベントをやる場合にも負担を軽減する仕組みにしています」
そのほかにも、ここでは利用料金において「市内/市外」や「営利/非営利」で金額の差をつけていないそう。一般的な公共施設では市外の利用者や営利目的の使用は割増料金になることもありますが、シンプルな運用ルールにすることでこの場所がさらにオープンになり、なおかつコミュニティが育まれやすくなっていくのかもしれません。
新しいチャレンジが生まれる施設へ
続いて、この場所が今後目指すことについてメッセージをいただきました。
「Link MURAYAMAと村山駅との間には商店街があります。かつては村山駅から商店街、楯岡高校へと人の流れがあったので、また商店街を盛り上げる仕掛けを考えていきたいです。
その一環として、高齢者のみなさんが商店街で培ってこられた専門的な技術や知識に、子どもたちや若い世代が触れられる機会もつくれたらと思います。高齢者のみなさんががんばっている姿に子どもたちが触れられたら、それは地域にとっての希望につながると思うんです」(小関さん)
「ここは小さなまちのように、みんなでつくり育てていく場所です。ここにいろんな人が集まり、何気ない会話が生まれ、新しい情報に触れたり仲間を見つけたりするなかで、新たなチャレンジが生まれていく。それが新しいビジネスにつながったり、地域のにぎわいを生みだしたりしていく。そんな流れをつくっていくことが目標です。
利用者のみなさんが『なにかやってみたいな』と思えるような雰囲気をつくっていきたいので、新しい挑戦がしたい人には積極的にこの場所を使っていただけると嬉しいです」(佐藤さん)
オープンしてから半年を振り返り、「幅広い世代のみなさんがそれぞれの目的に沿ってこの場所を使いこなしていただいているのが嬉しい」とお二人は話します。
完成した空間に対して利用者を募集するのではなく、ワーキングチームとして利活用予定者が集まり、必要な機能を考え、整備していくという使い手を中心とした整備のプロセス。そして市による直営でありながら、できるだけ制約をかけない、自由でオープンな場を目指す運営ポリシー。これらがLink MURAYAMAが多世代に愛される施設となったカギなのかもしれません。今後この場所からどんな新たなチャレンジが生まれていくのかが楽しみです。
Link MURAYAMA
https://link-murayama.jp/