日本の公共空間活用における新たな可能性を発見するアワード「NEXT PUBLIC AWARD 2024」。全国から8プロジェクトの応募があり、二次審査を通過した5つのプロジェクトが一堂に会しました。
今年度は、どんな分野のプロジェクトも垣根なく受け止められるように、昨年度の部門制度(廃校、公園、水辺など)を廃止。行政が所有している公共空間の活用だけでなく、民間の土地や建物を活用したパブリック空間のエントリーも含め、すべて同じテーブルに並べて審査を行いました。
多様なジャンルの審査員のみなさん
昨年に続き、今年もさまざまな領域で活躍するみなさんに審査員を務めていただきました。多面的な目線でプロジェクトを捉えていきたいという思いを込め、都市プランナー、キュレーター、行政のトップ、事業プロデューサーなどさまざまなジャンルで活躍するみなさんに審査をしていただきました。
馬場 正尊(オープン・エー代表取締役、公共R不動産プロデューサー)
泉英明(都市プランナー、有限会社ハートビートプラン代表)
服部 浩之(キュレーター、東京藝術大学大学院准教授、国際芸術センター青森館長)
広瀬郁(株式会社トーン&マター代表取締役、株式会社ワークパス代表取締役)
山口照美(大阪市港区長)
「パブリック」を問い直し、新しい出会いと実践を生むアワードへ
今年の公開プレゼンテーションと最終審査も、公共R不動産のプロデューサーであり、本アワードの審査委員長をつとめた馬場正尊からの開会挨拶で始まりました。
馬場「今年も無事にNEXT PUBLIC AWARDを迎えることができました。特にここ数年は、公共性を兼ね備えた民間発の取り組みが増えているように感じます。いわゆる行政の所有する公共空間だけが公共性を持つのではなく、公民問わず、これからのパブリックをどう解釈し、実践するか? そんな問いを持つプレイヤーとの出会いがNEXT PUBLIC AWARDを始めた原動力でもあります。
昨年印象的だったことは、ここでの出会いをきっかけにコラボレーションが生まれ、さらに新しいパブリックの実践が生まれたこと。NEXT PUBLIC AWARDをきっかけに、立場や領域を超えてプレイヤー同士がつながることはとても嬉しい。ひとりでも多くのパブリックの担い手を発掘し、行政や企業などさまざまなプレイヤーとつなぎ合わせることができたらと考えています」
今回ご登場いただく5つのプロジェクトは、これまでの公民連携の枠を超えたユニークで斬新な活動ばかり!既存の制度や仕組みをうまく活用しながらも新しいフィールドやジャンルを切り開いた、独自性のある活動が目立ちました。各プレゼンテーションをダイジェストでお伝えします。
まちのレセプション・ようよう/株式会社micro development
年間70万人が訪れる温泉街、静岡県東伊豆町伊豆稲取駅。まちのレセプション・ようようは、そんな伊豆稲取駅の観光案内所と売店をリニューアルし、2024年4月にグランドオープンしたばかりのプロジェクト。東伊豆町を拠点に地域の事業立ち上げの伴走支援を行う株式会社micro developmentが運営を担っています。
まちのレセプション・ようようは、「観光客も住民も一緒に手を振り合う風景をつくる」をコンセプトに掲げ、温泉街のおもてなしに着想を得たまちの入口として、売店、交流スペース、ワークスペースなどを併設しています。住民参加型のワークショップを通してコンセプトを設計し、移住組や二拠点居住者の雇用、高校生向け学生応援チケット、地域のプレイヤーが地元商品を紹介するローカルキュレーターなどさまざまな仕掛けを通じて、街と人の接点を増やす新しい駅のあり方を目指しています。
質疑応答では、官民連携事業としてのスキームにも注目が集まりました。まちのレセプション・ようようの物件は伊豆急行株式会社がオーナーで、東伊豆町が賃料を支払っています。運営は、プロポーザルで採択された株式会社micro developmentの他に、地域おこし協力隊の仕組みも活用した体制が整備されています。
今後は、「街の情報のデジタル化やデータに基づいた体験設計などのDX化にも力を入れていきたい」と話す森本健介さん。生活動線としての駅の役割を超え、定住・関係・交流人口を横断したコミュニケーションを誘発することを目指していくとのこと。地域への開き方や多世代の巻き込み方など、これからの活動に期待が集まりました。
タルキプロジェクト/奈良山園+IN STUDIO
江戸時代に農産地として栄えた東京都東久留米市。高度経済成長期には住宅開発などにより人口が爆発的に増加したものの、現在は少子高齢化が進むとともに、住宅地などの開発によってかつての農地は大幅に減少してしまいました。
「奈良山園」は、そんな東久留米市で400年続く農園。季節に応じたさまざまな果物や野菜の生産に加え、オーナーの野崎林太郎さんは東久留米市周辺で複数の書店を営む経営者でもあります。タルキプロジェクトとは、そんな奈良農園の野崎さんと設計事務所IN STUDIOの小笹泉さん・奥村直子さんがタッグを組み、農・本・人を地域経済でつなぐ拠点を生み出す試みです。
例えば、地域で採れた果物をジャムにする加工場兼マルシェスペースの「MIDORIYA」は、空き物件をリノベーションし、野菜の直売所やマルシェとしても親しまれています。その他にも、野菜や果物を販売する直売所、マルシェやクリーニング店やレンタルビデオ店を併設した書店、畑を併設したデイサービスなど、さまざまな拠点をほぼDIYで製作。調達や加工がしやすいタルキを用いて、8年間で6つの拠点を手掛けています。
質疑応答では、長年続いている農園と書店という家業をベースにしている点にも焦点が当たりました。「我々にとってのネクストパブリックは、『自治』をキーワードに街に足りないピースをつくり出すこと」だと話す奈良山園の野崎さん。マルシェや直売所という形で農を地域に開き、コミュニティとカルチャーの拠点としての新たな書店の形をつくり出し、さらに、お店で働くスタッフは農家の皆さんだったりと、地域のさまざまな資源をつなげ、歴史を活かしながらも新しい町のあり方へアップデートされています。
うごくまち ぐるぐるかいけ/カイケラボ
皆生(かいけ)温泉は、1921年に開発された鳥取県米子市の海沿いの温泉街。20以上の旅館が並ぶ山陰最大級の温泉街として親しまれてきましたが、1993年をピークに宿泊者は減少し、コロナ禍でさらなる打撃を受けてしまいました。
「うごくまち ぐるぐるかいけ」は、そんな状況を受けて2022年にスタートした「屋台」を軸にしたプロジェクト。カイケラボのメンバーを中心に駐車場、空き店舗、松林などの低未利用地を活用したさまざまな実証イベントを開催するだけでなく、屋台を使ったイベントが実施可能な場所を一覧化したり、屋台をレンタルするフローを作成するなど、多くの人が屋台をレンタルして出店ができる仕組みを整えています。
イベントには、小学生が自分でつくったレゴを販売する屋台や、キャンプ飯が得意な学校教員による飲食の屋台など、地域内外の多様なプレイヤーが出店したり、趣味や特技を活かしてお店を開きたい人を対象にした屋台を活用するスクールが開催されたりと、「ひとつひとつは小さな規模であっても、その土地が使い続けられる風景が当たり前になることを目指したい」というカイケラボの又吉重太さん、永井高幸さんの思いが込められています。
編集者や建築家などが集う共同事業体として推進されているカイケラボ。活動のはじまりは、コロナ禍を受けて、「今こそ温泉街を地域に開き、地元住民に向けた取り組みを活性化していくことが重要」という議論が行われた皆生温泉エリア経営実行委員会(米子市観光課、観光組合、旅館組合などからなる組織)からの相談だったと言います。
質疑応答ではそのような体制面にも注目が集まり、ゆるやかな共同体を中心に主導される一方で、行政や旅館組合などともしっかり連携し、ユニークな地域住民を草の根的に巻き込みながら進めていく運動体のようなスキームにも関心が寄せられました。
meet the artist 2022/山口情報芸術センター
山口情報芸術センター、通称YCAM(ワイカム)は、2003年に開業した山口県山口市にあるアートセンター。メディアテクノロジーを用いた表現創造の発信拠点として、長年に渡りさまざまな取り組みが行われています。
2022年に始まった「meet the artist 2022:メディアとしての空間をつくる」は、80名以上の市民と1年間かけてゆっくり古民家を解体・改修するアートプロジェクト。映画上映、焚き火、演劇、餅まきなどのイベント、庭木を活用したお皿やスツール等の制作など、その時々の解体フェーズだからできることを市民と共に考えながら、たくさんのユニークな取り組みが生まれたと言います。
「壊すことはつくること」であると話すYCAMの渡邉朋也さん。つくることに比べて必要な道具やノウハウが少なく、参加ハードルの低い「壊す」行為だからこそ関わるプレイヤーも広がり、「壊す」段階に応じた多様な企画やアイデアも生まれやすいのではないかと言います。山口市内で増え続ける古民家の壊し方や活用の仕方を実験するプロセスそのものを地域に開いていくことで、YCAMの外に一時的なアートセンターがつくり出される。その運動体全体が、公共文化施設のあり方を問い直す新しい試みにも思えます。
質疑応答では、国交省の空き家活用の補助金を活用した活動であることにも関心が向けられました。通常一週間程度で終わる解体を1年間かけて行っている点、空き家を使うのではなく解体するためのプロジェクトである点など、「すべてが逆転しているからこそ、新しい価値が創出されたのではないか」と注目が集まりました。
出張DIY広場/国士舘大学
国士舘大学の都市デザイン研究室は、西村亮彦先生と学生のみなさん約20名からなるまちづくりの実践集団。「出張DIY広場」は、都市デザイン研究室のキープロジェクトです。キャンパスのある世田谷を拠点に、三軒茶屋、渋谷、下北沢、会津若松と、さまざまなエリアでDIYで制作したファニチャーなどを活用した広場づくりを行っています。
例えば2024年に行った浅草での実証実験では、メインストリートである雷門通りの車道上に商店街のアーケードと一体になったパークレットを設計・施工し、新たな滞留空間をつくり出しました。その他、道路占用のコロナ特例を活用した渋谷区公園通りでのテラス席設置、世田谷区三宿通りのホコテンを活用した広場化など、大学の研究室とは思えない量とクオリティのプロジェクトを手掛けています。
このような活動を始めるきっかけは、2019年の学園祭における広場づくりの取組だったそう。自分たちの設計した場所で訪れる人々が憩い、思ってもみなかった活用や風景が生まれる「シナリオのない舞台芸術」に魅了され、教員と学生が一体になったプロジェクトを推進し始めたのだとか。
今回のアワードの審査員は大学で教鞭をとる人も多く、研究室としてこのようなプロジェクトを企画実行する大変さが分かるからこそ、このパワフルな推進力に圧倒されていました。そして質疑応答では、コスト面や学生の巻き込み方、行政との調整などについて盛り上がりました。特に研究費を活用できる点などは大学だからこその強み。実践教育の一環としてパブリックに関わる面白さについて関心が寄せられました。
グランプリはタルキプロジェクト!
プレゼン終了後、審査会を経てグランプリが決定!今年のグランプリは、奈良山園+IN STUDIOによるタルキプロジェクトに決まりました。
審査員長の馬場は「次の時代の公共を実践するためのさまざまな問題提起と試行錯誤が見られた」とコメント。400年続く家業をベースにした新しい経済圏を地域で生み出した点、農園と書店のオーナーが強いパブリックマインドを持ち、自社のリソースをフル活用しながらインパクトを創出した点などが評価され、グランプリを獲得しました。
野崎さん「畑ひとつとっても、自分たちだけの力ではなく、知識も土地も先人から受け継いできたこれまでの積み上げによって成り立っています。『公共のあり方』という意味では、明確な『公共』という定義があるわけではない。地域や人のことを思って誰かが行った一つひとつの行為や活動が、結果的に公共と呼ばれるのだと思うのです。
それぞれの地域でたくさんの課題があり、その全体像や原因みたいなものはやっぱり分からない。だからこそ僕らにできることは、目の前の空いているピースをひとつひとつ埋めることだと感じています。最終的に、『ああ、これが公共的なものだよね』という実感が芽生えることを目指してじわじわやっていきたいと思います」
小笹さん「僕はこれまで建築をやってきましたが、タルキプロジェクトは、建築の枠でもないし、単なるまちづくりの活動ということでもなさそうだと感じていました。どのように発信すればいいか困っていた部分もあったのですが、このアワードで取り上げていただいて勇気が出ました。これからも新しいパブリックの形を探究する活動として継続していきたいです」
準グランプリと審査員特別賞は以下の通りです。
準グランプリ:
meet the artist 2022 /山口情報芸術センター
審査員特別賞:
うごくまち ぐるぐるかいけ/カイケラボ
公開プレゼンテーション/最終審査の会場では、応募者の皆さんの手がける書籍や商品を並べる即興の物販コーナーが生まれ、休憩中や懇親会では、それらを囲んで談笑したり、お互いのプロジェクトを改めて紹介するなど、みなさん楽しそうに交流されるシーンが見られました。
普段の仕事や立場は違えど、「未来のパブリック」という共通のテーマのもとに集まった実践者の皆さんがこうして出会える場所を今後もつくり出していけたらと思います。
後編では、審査員のみなさんによるトークを振り返ります。
※ NEXT PUBLIC AWARD2024は、合同会社まちみらい の協賛でお届けしました。