アメリカ・サンフランシスコ市で始まったムーブメント「PARK (ing)DAY(パーキングデイ)」は、駐車場の使い方の転換によって、自動車中心の道路を人の居場所に変えるインスタレーション的なプロジェクトだ。2005年にアート&デザインスタジオのREBARが、毎年9月の第3金曜日、路上駐車場(PARKING) 1~2台分のスペースに芝を敷いたり椅子を並べたりすることで、人々がくつろぐための小さな公園(PARK)をゲリラ的につくり始めたのがきっかけ。ゲリラとはいえ、メーターにコインを入れて駐車場の利用料を払っているので、違法ではない、というわけだ。
この小さなアイデアは世界中に拡散され、大きな反響を呼んだ。REBARには依頼が殺到したものの、すべてを手がけるには手が足りない。そこで彼らはアイデアをマニュアル化し、オープンソース化することにした。名づけて「ユーザー主導アーバニズムと公共領域改善のための仮設的戦術に関する入門書(A Primer on User-Generated Urbanism and Temporary Tactics for Improving the Public Realm)」。敷地となるコインパーキングの選び方、場を設えるために使う材料、イベント開催にあたっての要点などが、簡潔にまとめられていて、参加のハードルを下げてくれる。今では、日本を含め、世界の各都市でボトムアップ的に小さな公園が生まれている。スポーツをしたり、音楽会をしたり、さらにはそうした試みから常設の公園が生まれることもある。
この市民主体でつくられる公共空間を、1日限定の試みで終わらせるのではなく、より永続的なスタイルへとつなげようとするのが「Parklet(パークレット)」だ。路上駐車場2台分程度のスペースを歩道から車道に拡張し、ベンチや植栽を壁にして領域をつくる。発祥の地であるサンフランシスコ市内には、現在、約60のパークレットが存在する。
サンフランシスコ市におけるパークレットのしくみはこうだ。まず、設置者となる沿道の店舗とデザイナー(Parklet Sponsor)が、提案書を市に提出する。市は、彼らのデザインや安全性を審査し、いくつかの段階に分けて合計2778ドル(約30万円程度)の申請料の支払いをもって、許可する。あくまで市は設置者ではなく認定者で、パークレットを管轄する市の組織GroundPlayが、市民、コミュニティ組織、大企業などの資金提供者をつなぎ、全体の動きを取りまとめている。
GroundPlayのウェブサイトには、市内のどこにパークレットがあるか一目でわかるマップや、パークレットを実施するためのマニュアル、パークレットが都市に何をもたらすかをリサーチしたレポートも掲載されている。車社会であるアメリカでは歩いていける距離に公園がない地域も多く、パークレットが人々の貴重なくつろぎの場、多様性に接することのできる場となっているようだ。
日本でも、社会実験の枠組みの中で、東京や神戸、名古屋などの都市で、車道または歩道に居場所をつくるパークレットが実施されている。その多くは期間限定で常設化までは至っていないが、まずはこうした家具スケールのアクションを通じて、歩道の拡張や車線の削減の議論につなげていくのが先決だ。そうして沿道の滞留空間が充実し、ひいては都市に活動の多様性が育まれるのだろう。
書籍「テンポラリーアーキテクチャー 仮設建築と社会実験」には、他にもたくさんの事例や妄想アイデア、コラム、インタビューが掲載されています。ぜひご一読ください。