PARKnize ── 公園化する都市
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INN THE PARK 福岡|国営公園のPark-PFIで、夜の公園の可能性を拡張する

新連載「Parknize(パークナイズ) -公園化する都市-」の実践編。公共R不動産やその母体となる建築設計事務所Open Aが実践したプロジェクトを馬場正尊がドキュメンタリーとして振り返ります。公園と何かを掛け合わせることで、その魅力や可能性が拡張する。今回は「公園×ホテル」を切り口に、国営公園「海の中道海浜公園」のPark-PFI事業として誕生した宿泊施設「INN THE PARK(インザパーク) 福岡」についてお届けします。

撮影:阿野太一・楠瀬友将

国営公園で初めて開業したPark-PFI事業

福岡市中心部から博多湾を挟んで北側に位置する、海の中道海浜公園。志賀島につながる砂洲がまるごと公園となっていて、東西に約6km、総敷地面積は約350ha(代々木公園5個分)という広さを誇る日本で有数規模の国営公園である。福岡市中心部から車で約30分というアクセスの良さから福岡市民にとって馴染み深い公園となっている。

きっかけは、海の中道海浜公園の一部を活用したPark-PFI事業のサウンディング調査だった。国土交通省では公園の活用方法を改革しようとする動きがあり、これまで都市公園で採用が進んでいたPark-PFI制度を国営公園でも実施しようと生まれた国の取り組みである。

公募の対象地は、公園の西側にある「光と風の広場」を中心としたエリアで、そこを滞在型レクリエーション拠点とするために宿泊施設の設置、管理を行うというもの。公園全体としては年間約200万人もの利用者があるが、水族館やプール施設、花畑など人気の施設は西側にあり、利用エリアや利用者層に偏りがあることがひとつの課題だった。

そんななか、2017年から静岡県沼津市で運営している“泊まれる公園”をコンセプトとした宿泊施設「INN THE PARK 沼津」のチームにサウンディング調査の情報が届いた。INN THE PARK沼津はOpenAの子会社が運営している。

チームで検討してみると、この公園は都市部から近く、博多港から船で15分という恵まれた立地にあり、空港とも近く東アジア圏からのアクセスが良好であることにも魅力を感じた。INN THE PARK 沼津で積み上げてきた成果や方法論、ネーミングを含めたブランドを福岡のこの広大な国営公園でも展開できないかとアイディアが膨らんでいった。

ところが対象地は約159haとあまりに規模が大きいため、資本力のある事業パートナーが必要となる。三菱地所に話を持ちかけたところ、国営公園でPark-PFI事業に挑戦する可能性を見出されて具体的な事業化へと話が進んでいった。最終的には代表企業が三菱地所となり、構成企業に(株)インザパーク福岡、そして積水ハウスと公園財団が加わり、4社のJV(共同企業体)として応募したところ無事に採択。こうしてINN THE PARK福岡は国営公園で初めて開業したPark-PFI事業となった。

海の中道海浜公園の全体マップ。公募の対象となったのは、公園全体からみると人の行き来が少ない「光と風の広場」を中心としたエリア。(海の中道海浜公園 公式サイトより)
光と風の広場の全景。写真奥が玄界灘で手前が博多湾、左奥に見えるのが志賀島(撮影:阿野太一・楠瀬友将)

国営公園におけるPark-PFIの難しさ

海の中道海浜公園は国営公園であり、所有者は国である。国は自治体と比べて手続きのハードルが高く、国営公園におけるPark-PFIの難しさを痛感することとなった。

小さな自治体の場合は目の前にいる担当者と調整ができたり、その部署に決定の権限があるが、国となった瞬間に対峙してる相手が大きいがゆえ、書類もすべて厳格に管理されており調整が難しくなる。また、沼津市のときは事業期間10年の基本協定を結んだ自由度の高い契約だったが、今回はPark PFI事業のため設置管理許可の場所や総面積に至るまで厳密に確認を要し、臨機応変な整備が難しい。

さまざまな協議を進めるうちに、設備周りの予算が膨らむことで工事費がどんどん削られ、企画のクオリティを維持しながら予算を調整していくのに苦労した。そんな中でも僕らの提案に賛同し、実現に向かって尽力してくれた国土交通省のプロジェクト担当者が調整に入ってくれて、なんとか協議が進んだ。

同じような事業をやる場合でも、行政の規模によってこれだけ解釈が大きく異なることを身をもって体験した。今回のプロジェクトでひとつ事例が生まれたことで、今後の規制緩和や一般化に繋がっていくことを願う。

仮設のようなINN THE PARKらしい質感

INN THE PARKのシンボルである球体テントが、広い公園にポツポツと点在している。沼津ではフラードームをアレンジしているが、今回はフープを組み合わせてより球体性がはっきり出る構造にした。球体テントは膜構造なので、夜になると室内の照明によって球体のシルエットがぼんやりと浮かび上がり、対岸に広がる博多の夜景とシンクロしながらシュールな光景が広がっている。

海辺には開放感抜群のお風呂や、大きな窓一面に海が広がる客室のシーサイドキャビン、半屋外のラウンジなどがある。基本的にはどれも既製品をカスタマイズしてつくっているので、どこか仮設のような風合いを感じるかもしれない。20年間の設置管理許可なのでおよそ仮設ではないのだが、立派な設備や建築物をつくるのではなく、突然立ち現れたかのようなINN THE PARKらしい質感を維持している。

約159haの対象敷地内に13基の球体テントをはじめ、レストランやお風呂棟、シーサイドキャビン、ラウンジ、屋内遊び場などがゆったりと配置されている。(撮影:阿野太一・楠瀬友将)
沼津市では仮設の位置付けで許されたが、福岡市では建築基準法上の建築であることが求められ、基礎が必要になった。(撮影:阿野太一・楠瀬友将)
直径6mの球体テント。2階建て建物ぐらいの高さがあり、室内は開放的な広さがある。(撮影:阿野太一・楠瀬友将)

滞在型レクリエーション拠点として

事業主体は、三菱地所、(株)インザパーク福岡、積水ハウス、公園財団の4社によるJVであり、公園の指定管理は公園財団が担っている。20年間の定期借地契約で国から公園の一部をJVが借り受け、三菱地所が中心となって投資と整備を行い、(株)インザパーク福岡が三菱地所に賃貸料を支払い、宿泊施設を運営するというビジネスモデルだ。定期的にJV会議が開かれ、情報共有をしながら4社で全体の運営を行っている。

あまりに広大な公園なので、敷地内のコンテンツを充実させていくことが目下の僕らの役割となる。エリア内では協力企業があらゆるコンテンツを展開しており、巨大なアスレチックタワーや乗馬厩舎、SUPやカヤックといったマリンスポーツなどの周辺コンテンツと連携しながら、あらゆる公園の楽しみ方を提案している。

敷地内にある乗馬厩舎と連携して、乗馬体験付きの宿泊プランを販売している。(提供:INN THE PARK 福岡)

“夜の公園”としての新しい過ごし方

大きな変化のひとつに挙げられるのは、“夜の公園”として新しい過ごし方を提示したことだろう。実はここは隠れた夜景スポットであり、静かな海側の公園で対岸越しに博多の夜景を眺めることができる。ところが公園全体が午後5時には閉園するので、この場所のポテンシャルが十分には生かされていなかった。

INN THE PARK福岡が開業したことで、宿泊者には夜の公園が開放されることになった。つまりは夜景が輝く夜の公園を少人数の宿泊者で占有できるということ。ナイトタイムの演出として、焚き火やバー、ミュージックラウンジなど大人が楽しめるサービスを展開している。公民連携のプロジェクトだからこそ実現できた特別な空間だ。

現在もこの広大な公園を舞台に、あらゆるコンテンツの可能性を模索している。例えば、海岸をプライベートビーチのように貸し出したり、芝生広場をフェスの会場としたり、この豊富な余剰空間を使って企業の実験場とすることもありえるだろう。これまでにも道路交通法の改正前から公道ではできないチャレンジとして、園内を周遊するための電動キックボードや電動カートが使われている。他にもエンタメやメーカー、通信、ウェルネス系などあらゆる業種の企業が参画しているので、積極的に企業と連携をとりながら、公園ならではの社会実験やプロモーションができるフィールドとしていきたい。

INN THE PARK福岡で電動キックボードをレンタルして、広大な公園を周遊するのがおすすめ。(提供:INN THE PARK 福岡)
当初の企画を「ナイトパーク」と名付けていたように、夜が主役の公園として大人が楽しめる空間となっている。(撮影:阿野太一・楠瀬友将)

INN THE PARK福岡

所在地:福岡県福岡市
竣工年:2022年
設計:大橋一隆+平岩祐季+福井亜啓/株式会社オープン・エー、YND ARCHITECTS
運営:三菱地所株式会社、積水ハウス株式会社、一般財団法人公園財団、株式会社インザパーク福岡

9月19日発売『パークナイズ 公園化する都市』(学芸出版)

テーマは「PARKnize=公園化」。今、人間は本能的に都市を再び緑に戻す方向へと向かっているのではないだろうか、という仮説のもと、多様化する公園のあり方や今後の都市空間について考えていく一冊です。

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