駅前のエリアリノベーション戦略
守口さんぽとは、大阪府守口市の道路や公共空間などを活用した社会実験。守口市駅北側エリアリノベーション戦略事業の一環として、2021年から毎年開催している。
エリアリノベーションとは、低未利用の公共空間や空き家、空き地などを活用してチャレンジできる場をつくることで、まちの魅力を積み上げてエリアの価値を向上させる手法のこと。2021年、京阪守口市駅北側にエリアリノベーションの方法論を導入するため、守口市都市・交通計画課からの依頼に応じ、参画することとなった。
背景には、子育て世代の人口流出、分譲マンション開発エリアでの将来的な人口密度の低下が懸念されていること、それに伴う地域コミュニティの希薄化などがある。守口市は全国でもいち早く保育料無償化に取り組んだことで若い子育て世代の流入は増加したものの、子どもの成長とともに子育て世代が市外に流出するケースもあり、定住促進、まちのイメージ転換が課題となっていた。
居住地としての魅力づくりや回遊性の向上、守口らしさと愛着が持てるエリアをつくっていくことを目的に企業・事業者などを巻き込んだ公民連携によるプロジェクトが始まり、将来のイメージを可視化する手段として「守口さんぽ」を実施している。
3つの拠点をつないで循環動線をつくる
守口市のエリアリノベーションを進めるにあたって、3つの鍵となる場所があった。
①豊秀松月線
拡幅計画が進む「豊秀松月線」の道路予定地。歩道両側7m、全幅22mの都市計画道路整備事業が進行している。これから拡幅される歩道区域を生かして、この地域の個店の魅力が滲み出すような魅力的な通りにするにはどうすればよいか検討が始まった。
そこで、通り全体を公園のように見立てることにした。歩行者にとっては快適な空間になり、新しい出店者がチャレンジできるマルシェなどのきっかけにもなるだろう。このノウハウは、池袋で実践している社会実験「IKEBUKURO LIVING LOOP」からヒントを得ている。
②文禄堤・旧徳永家住宅
歴史ある堤防道の「文禄堤」。東海道の旧宿場町として歴史的な街並みが一部残り、堤の下には駅と国道をつなぐ主要な道路(豊秀松月線)が走るという立体的な地形が特徴的だ。豊秀松月線沿いには、おしゃれなカフェや花屋、渋い居酒屋など、つい立ち寄りたくなる地域の個店が並んでいて、変化の兆しが見えていた。
文禄堤には旧徳永家住宅という守口市が取得した伝統的家屋がある。失われつつある歴史的価値を今に残すこの家屋を保存しながら、地域コミュニティの核となる場として活用しようと⺠間事業者に貸し出す計画が始まった。
③桜町団地
さらに、守口市駅前の老朽化して建替えが困難となった「桜町団地」。低未利用となっていた団地周辺の公有地や駐車場、道路空間を活用して、広場機能を導入したり、歩行者優先の回遊空間づくりの実験を行った。
この3つの場所が社会実験の拠点となっていった。エリアに変化をもたらすいくつかのアンカーを置いて、それぞれをバラバラの事業ではなく1つのビジョンに向かって進めていく。それらをつなぎ合わせることで、都市の中に回遊動線をつくっていくことが目的だ。
地域への愛着やコミュニティを醸成していくために、守口らしいカルチャーを再発見して発信していくことも重要になる。エリア内に点在している魅力ある個店やスポットを集めて見せていくことで、守口らしい世界観を示し、それをみんなで体験していくことができる。
多様な人に当事者意識を持たせる仕掛け
社会実験の設えは、地元のアーティストや工務店の協力のもと進めた。ファニチャーは地域の廃校から出た机や椅子、地域の事業者から譲り受けたパレットなど、廃材をフルに活用してオリジナルのデザインを施している。この社会実験では、多くの人を巻き込んでいくことに意味がある。デザインはできるだけ寛容に、創意工夫しながら親しみが持てるトーンに仕上げた。一部のファニチャーは地元企業や事業者が集まったエリアプラットフォームのメンバーらでつくった。
「屋台の学校」という、出店者自らが“マイ屋台”をつくり出店するプログラムも行った。屋台はワークショップ形式でつくり、守口さんぽへの出店までをサポートすることで、固定店舗を持たない人、副業で店をやりたい人、大学生までが出店者となり、新たなレイヤーのプレイヤーが発掘された。多くの人を巻き込みながらハード整備をすることで、当事者意識を醸成していった。
エリアリノベーションの戦略チームの組成
この社会実験で重要なことは、今までまちづくりに関わることが少なかったプレイヤーや地元とつながりが薄い企業と、意欲のある人や魅力的なコンテンツとの関係性をつくること。多様な人を巻き込み、関わらせていくことに意味がある。
そこで、エリアリノベーション事業の推進主体として「守口市駅北側エリアプラットフォーム」というチームをつくった。ポイントはメンバー構成だ。不動産、交通、建設、金融系などの大企業や中小企業、地元の飲食店や美容室などの個店、そして行政と、組織の大小を問わず、エリアで活動する人を意図的に巻き込んでいった。これがなければ出会うことがなかった人同士が顔を合わせ、多様な目線を持ち寄って情報共有をしたり、守口の未来について話し合ったりする場。守口さんぽでは、Open Aとエリアプラットフォームのメンバーが中心となって運営を行った。
豊秀松月線では、占用・滞在区画を想定して露店やキッチンカーの出店、ファ二チャーや駐輪場など、日常的なストリートの過ごし方を提案した。ペット連れ、ベビーカーを押す子育て世代、高齢者や車椅子の方など、道路だからこそ誰もがアクセスしやすく、多様な人々がフラットに訪れ、滞在する空間が生まれた。出店者にとっては道路活用による売上向上、認知度向上、幅広い新規客の獲得、まちづくりにおいては日常的に守口らしさが通りで表現されることにつながった。
旧徳永家住宅では、活用事業者を決める前に、空いているガレージを活用し、家具・植物・雑貨、ワインなど目的性の高いポップアップショップを開くことで集客効果を促し、賑わいづくりやテストマーケティングを実施した。どのようなコンテンツが地域のニーズに合うのか、2週間出店することでわかってくるし、日々の売上や課題も見えてくる。今後のテナントリーシングにも生かされるであろう。
桜町団地周辺エリアでは、団地の前面道路の一部と民間の駐車場を占用して周辺に不足している子育て世代が憩える広場をつくった。通りでは今後このエリアで事業にチャレンジできる環境をつくるためマーケットを開催し、ニーズや回遊性、集客効果を検証した。
ターゲットを可視化する多様な広報戦略
守口らしいカルチャーを形成していくうえで、広報戦略はかなり重要になる。エリアプラットフォームのメンバーで守口の未来の風景を思い浮かべながら、ターゲットを可視化するために、好奇心旺盛で歴史や自然、食が好きな女性「もりぐちさん」というペルソナを主役としたメインビジュアルを作成した。
フライヤーや街頭広告、SNSで展開したり、守口さんぽの公式ブックを販売したり、行政から市民向けにエリアリノベーション戦略のビジョンや目的を発信する媒体も作成している。守口を愛して楽しむ姿を定着させるために、キャラクターのビジュアルを使って、わかりやすくターゲットイメージを発信した。
結果的に社会実験には地元住民、周辺で働く人、子育て世代が絶えず訪れ、滞在時間も長く、2回目は13日間と長期間開催することでリピーターも多く見られた。守口の未来のターゲットが求めるコンテンツが多く提供され、市民からは今後このエリアの変化に期待する声が年々増加している。毎年楽しみにしている市民も多くなって、嬉しいことにエリア内にいくつか新規店舗が出店している。少しずつ守口のイメージが統一されてきたようだ。
エリア全体を散歩する
3回目では守口市駅西口エリアで夜の魅力、ナイトタイムエコノミーを生み出すための夜市を開催するなど、エリア内でアンカーを増やしながら試行錯誤を繰り返している。旧徳永家住宅は、今後ブリュワリーや蔵サウナ、貸し農園などを備えた複合施設に生まれ変わる予定だ。
社会実験を行うことで、少し離れた距離にある5カ所のアンカーや公共空間を市民に面的に意識化させた。その間の道路や駐車場などを公園化することでエリアリノベーションをより強く、わかりやすく浸透させている。
さんぽ(散歩)とは、A地点からB地点に行くという目的を持った行為ではなく、なんとなく歩いているという行為だ。複数の場所をつないだエリア全体を公園のように捉えて、人々が滞在したりぼんやり歩くという体験をしてもらう。守口さんぽは、そうした散歩の体験を含めて、まちそのものをパークナイズしていく実践だと考えている。
守口さんぽ
所在地:大阪府守口市
実施:2021年〜
計画:大我さやか+和久正義/Open A
運営:Open A、守口市駅北側エリアリノベーション社会実験実行委員会
画像提供:Open A
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