使える公共不動産を探す民間の目線
公共DBにおける表示項目の工夫
民間目線での見やすさ・探しやすさを重視した「公共不動産データベース(公共DB)」。写真を用いるなど視覚的に見やすく分かりやすくすることはもちろん、自治体からのPRポイントを記載するなど、不動産情報だけではない情報発信があることもそうですが、そもそも前提的なところでは、欲しいデータ項目が標準化され一覧でき、検索できるという、当たり前のようでいてこれまでになかったことを実現しています。
「公共不動産もまるで民間不動産を探すかのように情報検索できるようになるといいな」という願いのもと、見やすさと両立させるため、不動産情報として一覧表示するデータ項目を厳選してきました。
検討過程において悩ましかったのは、民間不動産と公共不動産の違いをどのように分かりやすく示すかでした。細かい違いはさておき、最も大きな違いは「決定プロセス」です。「いつどのようなプロセスで決めるのか?」、「実際使えるようになるのはいつからなのか?」使える公共不動産を探す民間事業者からのシンプルな問いに、いかにシンプルに応えられるか悩んだのがこの「決定プロセス」です。
現在は、民間活用方針(決定有無)、民間提案制度(導入有無)、契約可能時期(1年以内か1年以上か)、決定プロセス(入札・公募等)、契約種別(賃貸・売却等)、価格条件などを、「活用方針」欄としてまとめて表示しています。
結局いつから使えるの?
民間目線で発明された独自の表示項目「契約可能時期」
ある公共DBの民間会員さんから「公共DBでもっとも特徴的な項目は『契約可能時期』だと思う」とコメントを頂きました。よくぞ気づいてくださいました!
公共不動産は、活用に至るまでに時間がかかります。民間不動産のように、すぐに契約・引渡し・使用開始というわけにはいきません。「公共不動産」「公的不動産」と呼んでこそいますが、民間不動産のように不動産市場に出回って「取り引き」されてはいません。「公有財産」つまり市民の皆さんの公共的な財産として、それぞれ取り扱いのルールが定められています。仮にどれだけ好条件での買い手が現れても「ハイ売った!」とはなりません。決定プロセスや契約形態に応じた諸々の「手続き」が必要になるのです。
誤解のないよう補足すると、だからと言って「時間がかかって良い」「仕方のないことである」と言っているのではありません。この手続きをいかに迅速に進められるようにするか、あるいは手続き時間をできるだけ要しないプロセスを選択するかなど、現場レベルで可能な工夫はいろいろあります。それでも、民間不動産の「取り引き」と同じスピード感では進まない、公共不動産は「手続き」で動いているということ、その違いを官民お互い理解し合いましょう、ということを伝えたいのです。
ただ、こうした決定プロセスや契約形態は、行政独特の専門用語に慣れていない民間にとって、分かりやすいものとは言えません。これから公共不動産活用には、公民連携による公共不動産活用事業の実績のないプレーヤーが次々と参入してきます。「今年度この時期にサウンディングをしているということは事業者公募は次年度の夏くらいかなぁ」と自ら読み取り解釈できるような民間事業者は、稀有な存在と思った方がよいです。
使いたい公共不動産を探している間、わざわざひとつひとつの物件についてこうしたことを読み解くには手間がかかります。この手間を省き、行政の専門用語に慣れていない民間にも分かりやすく表示することはできないだろうか?
そこで考えられた表示項目が「契約可能時期」です。民間目線を持つ公共DBだから生み出された発明です。
公共DB登録物件の「契約可能時期」の傾向は
公共DBの登録物件において「契約可能時期」がどのように設定されているかを見てみると、「1年以内に契約可能」が全体の約6割、「契約までに1年以上要する」が約3割、「未定・記載なし」が約1割となっています。
これを物件カテゴリー別に見たのが次のグラフです。
契約可能時期は、物件カテゴリーで異なる傾向にあることが分かります。
【土地・住宅】
入札・公募等による売却が多いこともあり「1年以内に契約可能」の比率が高くなる傾向にあります。実際、公共DB登録物件の土地・住宅の契約形態は6〜7割が「売却」に設定されています。
【公園】
公園が「契約までに1年以上要する」比率が高い要因は、現役の公園の使い方をアップデートする民間事業者を募集するために公共DBが使われることが多いことにあると考えられます。事業提案・選定手続きを要すること、さらにはサウンディング実施から段階的に進めるものが多いためでしょう。「公園の一部を一時的に占有して使いたい」等のニーズを現在の公共DBはカバーしていないとも言えます。
【行政施設・文化施設】
この二つのカテゴリーが比較的「1年以内に契約可能」の比率が高いのは、一概には言えませんが、公共DBを見ている範囲内では、現状のまま施設の一部分を賃貸借で使用することが可能であるという条件設定で記入されているものが多いように思います。施設のあり方を見直したりリノベーションに踏み込むような案件では、やはり「1年以上要する」になると思います。
【スポーツ施設・その他施設】
「契約までに1年以上要する」と「未定」の比率が高いのは、ビルディングタイプが特殊なものが多いこともあり、そもそもどのような方向性で活用が可能なのか、サウンディングしたり民間提案を受けながら進めるものが多くなっているからではないかと考えられます。逆にこれらの施設を、大きな改修を要さずに活用できるプランを持つ民間事業者には、行政への提案の甲斐があるカテゴリーかもしれません。
【学校/廃校】
1年以内・1年以上の比率がおよそ半々になっています。「1年以内に契約可能」としている物件は、活用事業者の募集や民間提案制度のリスト掲載の段階まで来ているものが多く、「1年以上要する」としている物件は、まだサウンディング段階にあったり地域や議会の手続きに時間を要することが想定されているものが多いように見受けられます。比率が半々なのは、たまたまではないか?と推測しています。
使いたい公共不動産を探す民間目線で
活用に至る「プロセス」を捉え直す
例えば「できるだけ早く使いたい!」という民間事業者はどんな物件から見ていくとよいでしょうか。まずは「1年以内に契約可能」な物件の中から、
- 売りに出ている土地物件や住宅物件から探して落札して手に入れて使う。
- 賃貸借可能な行政施設や文化施設を探して借りて使う。
- 学校/廃校等の跡地活用事業者募集に応募して選定された上で活用事業を実施する。
といった選択肢があります。
もし「契約までに1年以上要する」場合でも大丈夫であれば、
- サウンディング中の案件に応募して活用プランを提案し、行政が事業者公募に至るのを待ち、公募が開始されたら応募して選定された上で活用事業を実施する。
- 民間提案制度のリスト登録された物件に活用プランを提案し、行政と対話のうえ双方の事業合意まで持っていき、条件が整ったら活用事業を実施する。
など、長めのプロセスに沿って進めていく選択肢が広がるということになります。
ですが、こうした「入札」「公募」「サウンディング」「民間提案」「官民対話」などと言った用語は、先述のとおり行政の専門用語です。同じ用語を用いても自治体ごとに定義に多少の違いが生じたり、運用上のバリエーションの違いもあります。そこも民間事業者にとっての分かりにくさになっていたと思います。
要するに民間側は次にどういったアクションをすればいいのか?期間だけでなく、この点をもう少しシンプルに整理することはできないでしょうか。
公共不動産の活用に至る「プロセス」を捉え直す
公共不動産の活用に至るまでのプロセスには行政の専門用語も多く、定義も曖昧なため、例えば〈入札〉〈公募〉〈対話〉くらいの、ざっくりした感じで捉えてみるのはどうでしょう。
〈入札〉は、価格等の条件で決めるプロセス。〈公募〉は、提案された活用プランを審査により決めるプロセス。〈対話〉は、提案された活用プランをもとに相談しながら条件を整え合意により決めるプロセスと置いてみます。
このそれぞれの呼び方はまだしっくり来ておらず、「A・B・C」とするよりは意味が通じるだろう程度の、とりあえず暫定的な分類名称です。入札でも総合評価方式など単純な価格だけで決めないプロセスもある、事業者公募に向けて実施されるサウンディングも官民対話と呼ばれている、民間提案制度で事前相談フェーズという対話を重ねた場合でも公募により事業者選定することもある、などは承知していますが、捉え直したいところはもっと本質的・構造的な違いです。
【〈入札〉と〈公募・対話〉の違い】
〈入札〉と〈公募・対話〉の大きな違いは、活用プランのイニシアティブです。入札で落札した不動産の活用は、民間事業者が自らの決定で行います。法制度等による規制誘導という行政関与はありますが、活用プランそのものに口を出すわけではありません。〈公募・対話〉においては民間の活用プランに対し行政の一定の関与があります。
【〈公募〉と〈対話〉の違い】
〈公募〉と〈対話〉の違いは、この民間の活用プランに対する行政の関与の仕方です。〈公募〉では活用プランの与件設定を主体的に行うのは行政です。民間は公募条件の枠内で活用プランの提案を行います。公募に向けて実施されるサウンディングを〈対話〉としないのは、一般的に1ラリーで終了する意見聴取スタイルであり、民間に与件設定のイニシアティブがあるわけではないからです。一方、〈対話〉では活用プランの与件設定を民間が主体的に行います。活用プランの与件は事前相談の中でラリーしながら設定されます。行政によっては、事前相談フェーズ中にも必要に応じて民間に同行し協議調整の場に同席するなど、一般的に対話という言葉が示す範囲を越えて動いています。あえて比較すれば、〈入札・公募〉がいかに手続きを適正に遂行するかという傾向が強いとすれば、〈対話〉はいかにすれば事業が実現できるかという姿勢(プロジェクトメイキング)が重視されるとも言えます。
当たり前のことを言い換えただけではありますが、意外とこうして構造的には捉えられていなかったのではないかとも思います。構造的にはシンプルに整理し、本質的な違いを押さえながら、軽やかに使い分けていきたいところです。
公共R不動産が提案するソリューション
また、これまで公共R不動産はそれぞれのプロセスに応じたソリューションにつながる探究をしていたことにも気づきます。
- 基本的に供給過多の不動産市場において行政が公共不動産を売却することの捉え直しは、「公共不動産データベース担当の頭の中 #02 もっと不動産活用の実験をしよう!『土地』」において試みました。
- 事業者公募の募集要項作成における大事なポイントや留意点などを記した『公募要項作成ガイドブック – クリエイティブな公民連携事業のための公共発注』や、そのベースとなった連載「クリエイティブな公共発注を考えてみた by PPP妄想研究会」。
- 柔軟な発想を持つ民間プレーヤーから自治体に向けて提案するという逆転のプロセスを実現した「公共空間 逆プロポーザル」や、トライアルサウンディングも、実施するフェーズによっては対話プロセス的です。
そんな目で捉えなおすと、それぞれ新たな取り組み方も見えてくるかもしれません。
個人的には〈対話〉的なプロセス、つまり、民間提案制度を通じた事業構築や、事業パートナーを先に決めて事業構築を対話的に進める方法などの可能性をもう少し探り広げたいと思います。単なる会話でも議論でもなく、意見や条件の調整でもなく、相手の状況に応じて自らを変化させ、その変化がまた相手の変化を促していくようなプロセスにならないか、という課題意識です。
まとめるから広がる新たなプロセス
公共不動産のシームレスな流動化
公共DBでは「決定プロセス」だけでなく、そもそも異なる種類の物件カテゴリーを一緒くたにして並べています。公有財産の定義や分類を知っている人には、少し収まりの悪さがあるはずです。公有財産ならではのそれぞれのルールを持ち運用されている、混ざり得ないものを無理やり並べてわざわざ混乱させているようにすら見えているのではないでしょうか。
もちろん、公園は公園だけのサイト、廃校は廃校だけのサイト、特化した方がシンプルになるに決まっています。でも、現在の公共不動産全体を捉えたときには、そのデメリットの方が大きい気がしています。
お店でもクリニックでもなんでも、「それはウチの専門ではありませんね、他をあたってください」って、分かっていない人が悪いみたいな扱いをされるのはイヤじゃないですか。「お求めにピッタリのものはないのですが、今ならちょうどこういうの出てますよ」って、お勧めされたら前向きに考えてしまうことはないですか。
はじめは、使える公共不動産の中でもポピュラーな学校/廃校のことしか頭になかったけれど、探しているうちに規模が大きすぎることに気がついて、保育園や幼稚園、公民館跡地の方がピッタリだったとか、あるいは公園や道路などの一時利用から始めてステップアップした方が良いかもしれないとか、そういう回遊性・流動性がある方が魅力的です。
今後、歴史的建造物をはじめ民間不動産が行政に寄贈されることも増えてきます。公共DBに「かつて民有だった公共不動産」というカテゴリーを新設する必要も感じています。こうした公共不動産と民間不動産の間でも流動性を実現したいところです。
少しずつでもシンプルに、シームレスに変えていく必要があるんじゃないのか?
貴重な民間リソースを公的セクターが非効率的に奪い合うのを横目に、軽やかにシームレスに公共不動産情報を検索して活用案件を探し、明るく楽しく公共不動産活用を実現する。そんな光景を当たり前にしたい。
そんなことも思ったりしています。
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次回は、この記事を下敷きに、公共不動産を活用する主体が決まるに至るプロセスとしくみについて、研究員が話し合います。