あらためて捉え直す
公共不動産の活用に至る「プロセス」
自治体の契約手続きと現場で取っ組みあってきた方から分かりやすいと言って頂けたり、民間不動産と公共不動産の違いがよく分からなかったけど関心があるという方からも反応を頂きました。
分かってはいたけど言語化して来なかった部分が、だいぶすっきりしました。個人的には「公共不動産は『取り引き』ではなく『手続き』」が、もやもや解消ポイントでした。
民間事業者の目線でも、物件カテゴリーごとの契約可能時期の違い、アプローチの違いが見えやすいですね。
行政も民間も、「公共不動産データベースのトリセツ」として読めると思いました。
実は、公共R不動産のガイダンスページ『はじめて公共不動産の活用を検討される方へ』は、こうした整理をもとに更新しています。
契約可能時期については、「『1年以内に契約可能』の方が良い」とされているように受け止める人も多いかもしれませんが、経験上、地域のために公共不動産活用事業をやりたい、そのためには1年以上かかっても構わないという民間事業者もいます。
そうですね、あくまで契約可能時期は分類の話であって優劣の話ではないです。
公共DBの民間会員登録時に「公共不動産を活用してやりたいこと」を記入してもらっていますが、公共不動産活用事業を行う事業者だけでなく、私的利用・事業利用目的の方の中にも「地域のために」といった言葉が結構な頻度で見られます。
一方、民間会員の中には「公共空間を一時的に使いたい」というライトユーザーもいるのですが、このあたりは正直、現在の公共DBではあまりカバーできていないところです。
積極的に使いこなすユーザーも視野に
プロセス分類を再びブラッシュアップ
公共空間を使いこなすユーザーへのアプローチとしては、佐賀県・まちづくり課の「公共空間活用ハンドブック」や「佐賀県公共空間データベース」がありますね。いつでも使える状態のものや、サウンディングなどで重点的に活用アイデアを募集しているものも、データベースで掲載したい/見たいという需要もありそうですが、今の公共DBで一緒に表示しようとすると、温度感にかなり幅が出てきてしまうのが悩ましい。
時間単位で空いたスペースを検索・予約できる民間サービスが出てきていますが、その公共空間バージョンですね。実際、自治体と連携協定を締結して公共空間版を実施している例も出てきているようです。
内海研究員の『公共空間を耕す人々』シリーズにもあるような、市井の人たちの積極的な公共空間活用・参加アクションもひとつのゴールだとすると、「公共不動産活用事業」「民間事業者」「事業者選定」というあたりの用語も、ちょっと見直しが必要だと思うんですよね。
前回記事では暫定的なものとして〈入札〉〈公募〉〈対話〉の3分類で整理してみたけれど、確かに施設の再整備を伴うようなプロジェクトに視野が偏っていたかもしれません。今後ブラッシュアップする前提で、さらに公共空間の利活用ルールに即しつつ積極的に使いこなす〈利用〉も追加しておきましょう。
民間を主体に活用プロセスを再構築
行政と民間の目線を両立させるには
最近「トライアルサウンディング」が普及して、いろんなところから声がかかるようになりましたが、「はたして実施するタイミングは今なのだろうか?」「他にもっといい方法の選択肢があるのでは?」と疑問に思うケースもあります。キャッチーなプログラムなのでどんどん実施されるのは分かりますが。
今回の整理で事業者公募に向けたサウンディングは〈公募〉枠で扱うことにしていますが、トライアルサウンディングは単なるサウンディングと違って、民間の主体性や双方向性感がありますね。
「トライアル」という言葉から受ける能動的な印象、民間から参加アクションが起きてくる手触り感を、もっと活かしたいな。「対話」が、行政が民間事業者を選定するための一プロセスになってしまっている印象があって。「アクション」と「手続き」の違いを何か言い表せないかな、と。
行政は民間を選定すると言うけれど、民間も自治体を選んでいるのだとも強調しておきたいですね。
僕は、選ばれているのはむしろ自治体だと思ってます。その観点では、不動産情報以外の情報として、自治体の指標化も必要ではないかと考えています。公民連携という観点で言えば、プロジェクトを動かすのは最終的には「人」ですが、行政担当者の背景や土台にある風土やしくみ、例えば民間提案制度で随意契約保証型になっているかどうかなどでも、ある程度自治体の姿勢が見えてくる。あるいは民間側からの「いいね!」フィードバックの指標化なども有効かもしれません。
「不動産オーナーは『まちの大家』」という大きな考え方からすれば、手続き的には行政が「選定」していると言うこと自体に間違いがあるわけではない、ないけれど、それはあくまで行政目線の言葉であって、市民・事業者という民間側の言葉ではない。行政目線と民間目線が両立するネーミングができるといいんだけど。
民間に分かりやすく伝えること、プロセスが分かるようにすることは大事ですね。一方そうなってくると、民間側の提案力も問われてくるように思います。
まさにですね。行政が行う公共事業・公共サービスについて請負・委託の関係で民間が実施する場合なら、行政が設定した仕様をいかに効率的かつ効果的に実施できるかという観点で足りるのかもしれません。でも公民連携による公共不動産活用事業の場合には、行政側も公共発注の一形態・一手続きではなく、民間側も単なる要望でも自治体ビジネスの営業提案でもない、そんなスタンスが求められます。
前回記事にも記したとおり、個人的には〈対話〉的なプロセス、つまり、民間提案制度を通じた事業構築や、事業パートナーを先に決めて事業構築を対話的に進める方法などの可能性をもう少し探り広げたいと思っています。相手の状況に応じて自らを変化させ、その変化がまた相手の変化を促していくようなプロセスにならないか、という課題意識です。
ただ理想はあっても一足飛びには実現できず、多くの場合結構ハードルが高いかもしれません。市民・事業者・行政それぞれ少しずつトライアルを重ねながら実現していくプログラムやしくみの提案など、引き続き探求を進めていきたいです。
(補記)民間提案・対話プロセスの仮説
最後に、いま課題をどう捉えどのあたりに着目しているのか、生煮えではありますが現時点の仮説を述べてみようと思います。
【貴重な官民リソースをプロジェクトメイクに投入したい】
まずベースとするのは、連載「クリエイティブな公共発注について考えてみた」の『第11話:公募型プロポーザル再考(後編)』です。この記事の中盤以降で、現在多く行われている公募型プロポーザル方式の運用のされ方はかなり社会的な無駄が発生していること、「遊休公共資産の民間事業型の活用」では事業候補者を選んでから官民で協議し事業をつくっていった方がよいのではないかということが指摘されています。
現在の公募型プロポーザルは、おそらく一般競争入札と同等かそれ以上に手間のかかる複雑な手続きを必要とするようになっており、随意契約の長所である発注手続きの簡便性、そしてスピード感が損なわれています。さらに、民間事業者が参加するには、相当の提案書類を自らの負担で用意せねばならず、それが複数社の場合には、選定される一社以外の提案書作成への労力は水泡に帰すのです。
特に、遊休公共資産の民間事業型の活用では、民間が資金を投入して整備・改修することが多いため、どんな事業をするかも提案によって振れ幅が大きく、公共側のコミットの仕方もあらかじめ詳細に計画しておくことが難しいでしょうし、公募要項という、数枚の紙に文字で表現された資料から、民間側が行政の真のニーズが読み取るのは至難の技。公募型プロポで、この人がよさそうだという相手を選んでから、じっくりと膝を突き合わせて事業をつくっていった方が官民両者にとって納得のいくものができる可能性が高いのではないかと思います。
ひとつ目の「社会的な無駄が発生」という指摘は、確かにこうした側面がある一方、適正な手続きを踏むことで回避する合意形成コストの軽減効果もあり、すべて無駄だと断じることはできないなと考えています。
ただ、ふたつ目の「事業候補者を選んでから官民協議し事業をつくる」という指摘には大いに賛同します。限られた行政担当者や民間事業者の貴重なリソースが、公募要項作成という仮の与件設定や合意形成などに費やされるより、よりよいプロジェクトを作りだすために投入された方がよいはずです。
【公共不動産活用の〈対話〉プロセスをアップデートしたい】
この記事では続けて、公募型プロポーザル方式の妄想案が提示されているのですが、そのひとつとして示した「事業構想・事業性2段階審査」が、近年採用自治体が増加している「随意契約保証型 民間提案制度」や「随意契約可能性もあるサウンディング」と類似していることに言及されています。
提案を受け付ける事業を幅広く募集し、民間事業者からやわらかめの提案を受ける。その提案内容がよければ、自治体と協議に入り、実現性が十分にあると判断できたところで、随意契約を交わすというもの。自治体側としては、詳細な公募要綱の作成の必要もなく、民間事業者側としては粗めの提案書から始め、感触がよければ行政とコミュニケーションの精度を上げていける。おまけに、そのまま契約まで持っていけるというスピード感。さらに、先日まで行われていた岩手県紫波町の「随意契約可能性もあるサウンディング」も、かなり柔らかい段階で民間事業者からの提案を求め、行政として「これは!」と思うものがあったら独占的にそこから交渉を開始する……という点で、このパターンと被ります。
「民間提案制度」は、行政があらかじめ民間(事業者・市民)から提案を求める事業リストを公表。民間の主体的な事業提案を受け、行政と民間がそれを協議し、採択されれば事業化するというものです。リストに挙がるものは、すでに行政が実施する公共サービス事業が多いですが、中にはこの記事でいう「遊休公有財産の民間事業型の活用」タイプもあります。こうした公共不動産活用タイプの民間提案制度活用をしている自治体は数十以上あるようです。
一般的に「民間提案制度」と「サウンディング」は異なるものですが、岩手県紫波町の小学校跡地活用において実施する「サウンディング(民間対話)」は、サウンディングの実施結果、実施方針策定に向けた協議が行われ、実施方針策定につながった場合は、アイデア自体を知的財産と捉え、その権利の保護、また、その実施方針に沿った事業の実施を進めるため、協議が整ったときはその事業者と随意契約を締結する場合があるとしています。
共通するのは〈対話〉プロセスにおいて、いかにすれば事業が実現できるかという姿勢(プロジェクトメイキング)で対話を進め、官民それぞれ合意できるところで事業化の決定を行うという点です。
この観点から「事業構想・事業性2段階審査」「民間提案制度(公共不動産活用)」「サウンディング(トライアルサウンディング含む)」などの現状や課題のリサーチ、また実際のプロジェクトにおけるトライアルを重ねながら、貴重な行政と民間のリソースをプロジェクトメイクにつながるような〈対話〉プロセスのアップデートができるのではないか。そう考えています。
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次回以降は、〈対話〉プロセスの仮説ブラッシュアップに向けてリサーチを進めていきます。
本リサーチにご協力頂ける自治体職員や民間事業者の方、ご連絡お待ちしております。
はじめて公共不動産を活用しようと検討する方にとって、公共不動産活用の「入り口」が分かりにくい、行政の用語や慣例への理解が前提となっていることが気になって、
【前編】ではそれを暫定的にまとめてみました。どう整理すればいいかはまだ試行錯誤が必要ですが、僕たち自身のこれから進める議論の土台としても示してみました。