公共不動産を「売る」ことも
公民連携・公共不動産活用です
私は公共不動産を「売る」ことも、公民連携による公共不動産活用だと考えています。
「活用」という言葉を、「ある目的に向けて不動産の利用に変化を与えること、またその活動を継続すること」として、また「公共不動産を『売る』ことは、不動産活用の主導権を民間に渡すこと」であると考えれば、「売る」ことも公共不動産活用の一形態として捉えられるはずです。
とはいえ、よくある考え方ではないと思いますので、順を追ってお話していきましょう。
不動産マーケットに並べて公共不動産を「売る」ということはどういうことなのでしょうか。そしてそこで選ばれるにはどのようなアプローチが考えられるのでしょうか。
公共DBにみる入札プロセスの傾向
土地・住宅に多い「競争入札」「先着順」
本題に踏み込む前に、公共DBの登録物件では「売る」プロセスがどういう傾向にあるかを見ておきましょう。
登録情報を整理しながら、活用主体の「決定プロセス」を以下の項目に分けて集計しました。明確に読み取れないものや詳細不明のものもあるため、概ねの傾向として捉えてください。
【公共DBに見る主な決定プロセス分類】
・競争入札:一般競争入札
・先着順 :先着順入札(随意契約)
・プロポ :事業提案による公募型プロポーザル(随意契約)※一部サウンディング含む
・民間提案:民間提案制度等による対話型サウンディング(随意契約)
・未定等 :未定・不明・記載なし ※一部サウンディング含む
この中で「売る」ことが明確なのは「競争入札」「先着順」の2点です。前回の前編記事における〈入札〉〈公募〉〈対話〉の3分類では〈入札〉プロセスに含まれます。どちらも価格を提示して決めるプロセスです。
- 競争入札|主に一般競争入札。事前に参加資格の審査があり、通過した事業者のみが入札に参加できる。
- 先着順|先着者が優先される入札。たいてい、競争入札を実施して決まらなかった場合に、2〜3度目以降で先着順に切り替えられる。
その他の決定プロセスにも、必要に応じて売却する選択肢が含まれているものもありますが、ここでは異なるプロセスとして整理します。
カテゴリーごとに見ていくと、「競争入札」「先着順」などの〈入札〉プロセスは、土地や住宅に多いことが分かります。
逆に、それ以外の物件カテゴリーにおいては「プロポ」「民間提案」「サウンディング」など〈公募・対話〉プロセスが圧倒的に多いです。スポーツ施設だけは「未定等」の割合が高く、こちらは施設タイプとして難しいゆえでしょうか。そうすると逆に、土地や住宅は「比較的そのまま売却できるもの」として扱われている、とも言えそうです。
公共不動産を不動産商品として
並べて見ると?
〈入札〉は、〈公募〉や〈対話〉など他のプロセスと比べれば、もっとも民間不動産の取引に近いかたちと言えるかもしれません。
もちろん、まったく同じとは言えません。民間不動産は「取り引き」ですが、公共不動産は「手続き」で進みます。公共的な財産として取り扱いのルールが定められるため、たとえば契約・引渡し・使用開始のスピードひとつとっても、民間不動産のようにはいきません。
しかし、民間事業者は、民間不動産と公共不動産を並べて見比べることができます。
公共不動産の特殊性は承知しつつも、不動産マーケットに売りに出された不動産のひとつとして認識できる買い手は、「公共不動産だから」という事情を民間不動産と比べて劣後要因として認識します。
誤解のないように補足すると、行政が定められた手続きに沿って進めることを「悪い」と言っているのではありません。民間不動産を買うという選択肢を持った買い手に公共不動産を「売る」とき、「手続き」という点で不利な条件を抱えていることを認識して進めましょう、ということを伝えたいのです。
供給過多の不動産マーケットで
公共不動産を売るということ
現状、多くの自治体にとって公共不動産を「売る」ことは、供給過多の不動産マーケットに公共不動産が横並びになるということを意味します。
民間の不動産でも「空き家・空き地」が問題視され、不動産マーケットに流通しにくい遊休不動産をどのように扱うかが課題になっています。また、地域によってはなかなか買い手がつかないという現状が見られます。こうした不動産マーケットに公共不動産を並べるからには、いかに「選ばれるようにするか」がポイントになります。
もちろん条件に合う買い手を探してくることが最重要ですが、買い手が見つかる可能性を広げる、あるいは阻害要因を最小化するという観点で進めてみましょう。
【シンプルに譲渡予定価格を下げる】
売れないのは価格が高いからでは?というシンプルな指摘です。
一定の手続きを経て価格を下げて売る事例も調べれば出てくるようになっています。自治体の財政状況から解体して更地にすることが難しい場合、解体条件付きで譲渡したり、ゼロ入札・マイナス入札といった事例も出てきています。
現場では、市民の共有資産である公有財産を安売りすることはできないという理由から価格を下げられないということをよく聞きます。しかし、その間にも土地は活用されないまま残り続けるわけで、地方自治における経営的判断は難しいものだと思わされます。
【価格に影響する要因の調査をできるだけ行う】
耐震、アスベスト、有害物質、埋設物、埋蔵文化財等々。不動産価格を下げる要因を取り除けるならそれに越したことはありませんが、現実的にはすべての要因を除くことはできません。「予算がないから調査できない。現状渡しで購入者側で対応してもらう」と対応するケースもたびたび聞きます。
しかし、不動産価格に影響する要因を調査してリスクを見極める材料がある不動産と、何が出てくるか見当もつかない不動産では、後者を積極的には選びにくいわけです。こうした不動産リスクを取ることができる民間を探し出すか、少しでも選ばれやすくして対象者を広げるか。ここは行政で判断できる範疇だと思います。
【手続きを進める期間を短くする】
公共DB登録物件のうち、土地や住宅に「先着順」で買い手を募集している物件が多くあるのは印象的でした。規定上おそらく最初から「先着順」で売りに出すことはできないのでしょうが、慣例的に毎年の入札にかけて応札者がなかったということを繰り返すより、よほど合理的な手続きだと思います。できればこの次の売り方に進む判断期間を短くしていければと思います。
繰り返しますが、法令に定められた適正な手続きに沿って進めることは「悪」ではありません。しかし一方で、目的を達成しようとするなら、背景や状況に応じた有効な方法に変えていくこともまた必要ですよね。
【民間事業者・民間サービスを併用する】
公共不動産の売却が自治体の規定に基づく手続きだったとしても、その一部を民間事業者のサービスを活用・併用するという方法もあります。民間不動産と異なるのでいわゆる仲介は難しいながら、調べると民間不動産事業者と媒介協定を締結して効果的な財産処分を促進する例も出てきます。個々の条件設定までは把握できず、民間不動産を取り扱う以上に頑張ろうとするインセンティブが働く条件になっているかどうかまで分かりませんが、ひとつ検討すべき対応策だと思います。
あるいは、民間運営の公共不動産情報プラットフォームの活用こそ、積極的に取り組むべき選択肢。特に「公共不動産データベース(公共DB)」の活用は、明日からでも取り組める対応策です。
供給過多の不動産マーケットにおいては、不動産スペックや手続きにおいて劣る要因を最小化しながら、「選ばれる」可能性を広げる施策を継続することも必要だと思います。
単に不動産を売ることに執着しない
更なる不動産活用の選択肢
ここまで、不動産マーケットに公共不動産を不動産商品として並べた場合にフォーカスしてきましたが、不動産マーケットに並べることに執着しない方が、有効に活用できる主体が見つかることもあります。公共不動産も「まち」の中にあります。その中で公共不動産活用プロジェクトの「需要のタネ」を見つけ出す、あるいは生み出すという選択肢も視野に入れておきたいです。
ここで少し例え話を。
合併自治体にある公共施設が、老朽化をきっかけに廃止。跡地について行政利用の需要はなく、財政健全化に向けて民間へ売却する方針に。適正な手続きの結果、民間事業者による開発事業用地となった。一方、その跡地付近には、施設老朽化により新設・移転を検討中の病院があったが、近隣に新設できる用地がなく土地代の安い郊外へ移転。これまで公共交通もあり歩いて行けた病院がなくなり、移転先への代替交通の手当てが必要になった。病院があることで成り立っていたまちの空洞化への対応にも追われるように。跡地を病院移転先候補地として協議する政策的な選択肢もあったのではないだろうか?
このケース、もちろん事後的には何とでも言える類の話で、そんな都合よくタイミングが合うことは現実的にはなかなかなかったりします。だからと言って無視していいほど、その影響は小さくはありません。
「需要のタネ」を見落としているケース
・老朽化した大型施設の移転先
・実は堅調な民間企業の規模拡大
・近隣不動産オーナーの資産形成・防衛的購入
公共施設マネジメントにおいて、行政の関わる施設だけを見た部分最適だけでなく、民間の公益的な施設も含めまちの全体最適で捉える視点があったら、こうした「需要のタネ」には気付きやすいはずです。また、こうした情報は意外と庁内の他部署が持っていることも多いのです。
「まち」をみる目線の不在、法令や行政組織の連携不十分から生じるスキマ。こうしたスキマに落ちる機会ロスが、地域の衰退を招く要因になってはならないはずです。仮にプラスを生み出すことは民間に任せるとしても、マイナスを減らすことは行政こそ取り組む大事な仕事ではないかと思います。
手放すまでの期間も有効に使う
暫定活用による民間の巻き込み
不動産マーケットに執着しないことで別の選択肢が現れるのと同じく、所有権の譲渡に執着しなければまた別の選択肢が現れます。使用許可や貸付等による暫定的な活用です。
暫定活用のニーズを引き出し、使い手が現れるのかを模索することも選択肢のひとつです。
現在でもおそらく、「地元のイベントで会場や駐車場として使わせてほしい」等の要望はあり、実際に一時的に利用していることはあると思います。それも大切ですが、たまたま要望があったからそれに応えたという消極的なものでなく、もう少し踏み込んで、所持している期間中は市民のために有効に使えるよう暫定活用を積極的に誘導してはどうでしょう?
政策的に合致するのであれば、前回の研究員トーク内で話題になった佐賀県の例のように、まちの全体感の中で他の公共空間の選択肢の一つとしておくことも一考です。
もう少し踏み込んで言えば、よき事業パートナーを発見するための手段として、暫定活用があると考えます。つまり、これまで縁も実績もなかった民間プレーヤーを巻き込み、公共不動産活用プロジェクト初期段階のプレイスメイキング、プロジェクトメイキング、公民連携のトレーニングプロセスとして位置付けることが可能なのです。対象エリアを絞り官民が重層的に取り組むことで、小さな民間投資が数多く生まれるような公共不動産活用を実現していく。大きな戦略の中の初期段階で、官民が互いに公民連携のトレーニングを重ねていく。あるいは土地の使い方を変化させるための社会実験を、地域をリードする形で実践していく。
暫定活用はそのようなフェーズとして位置付けられると考えます。
流動性向上とエリア価値保全のために
公共不動産を売るプロセスを捉え直す
さて、公共不動産を「売る」話をどうして「売る」以外の方法にまで話を広げるのか。なぜわざわざ手間をかけて活用を積極的に誘導する話が出てくるのか。
それは、行政はその土地の所有権を手放すことはできても、その地域経営やエリア価値保全への政策的な責任まで手放すことはできないからです。困っていた維持管理費を支出する必要がなくなり、譲渡代金を受け取って財政健全化に寄与したとしても、それで手離れできるわけではありません。
公共不動産を「売る」とは、公共不動産の所有権を民間に譲り渡すだけでなく、活用の主導権を渡すことと捉えられます。活用の主導権(不動産の経営権と言い換えても良いかもしれません)を民間に渡す方法として考えれば、「売る」以外の方法も含めて地続きになります。売るか貸すか許可するか、それは不動産活用の主導権を渡す方法の一選択肢に過ぎません。重要なことは、地域経営やエリア価値保全に影響をもたらす不動産活用の主導権を誰に譲り渡すかです。それは、公共不動産を活用した公民連携プロジェクトの事業パートナーを選ぶ観点と、本質的には同じはずなのです。
いずれにしても「売る」ことを、単なる財政健全化の目線だけで捉えるのではなく、「売れる/売れない」の軸だけではなく、まちに何かしら新たな動きを導き、少しでもエリア価値の下落傾向に変化を与える政策的アプローチとして考えられるようになると思います。
そして行政は、ビジョン策定や規制誘導という方面からの公的関与が可能です。積極的に行政が旗を振って規制誘導していくタイプの公民連携もあれば、行政はあくまで環境づくりに徹し「邪魔しないタイプの公民連携」を実現することも可能です。
このように考える時、行政組織のあり方や権限の持たせ方は、やはり大いに気になるところです。本来的には、公共施設マネジメントが捉えたい視野・射程は、財産管理部門だけでおさまる話ではありません。企画政策、都市政策、テーマにより産業政策や福祉政策等にも関わってきます。行政施設の運用面についてはそれぞれの部門が所管するとしても、維持管理や財産処分などについて公共不動産を一元的に取り扱う部門があるのとないのとでは、取りうる政策の選択肢にかなり違いが生じていると感じています。この辺りのテーマもいずれ取り扱っていければと思います。
***
前回終わりに、次回以降は〈対話〉プロセスの仮説ブラッシュアップに向けてリサーチを進めていくと宣言しましたが、その手前で、主に入札プロセスについて概観しておきたいと思い、急遽取り上げました。次も、もうしばらく〈対話〉プロセスの外堀を埋めていくかもしれません。
引き続き、本リサーチにご協力頂ける自治体職員や民間事業者の方、ご連絡お待ちしております。