日本の公共施設の特徴
第2回、第3回では、クリエティブな公共発注の具体事例を見てきましたが、今回は、そのような案件が増えてきた社会的背景を探りたいと思います。(イントロ動画の前半部でも説明していますので、未見の方は是非ご覧ください!)
日本の公共施設は、その整備時期が集中しているのが特徴です。
第二次世界大戦後から高度経済成長期にかけて、国力の回復とともに、一気に整備されました。
それらが一斉に老朽化を迎え始めたのが2010年代あたりから。さらに、日本の人口減少が始まったのが2009年。たとえば学校の場合、ここ14〜5年の間で7,500校もの廃校がでているほど。一気に公共施設が古くなってきたけれど、人口も少なくなるので、全部つくりなおさなくってもいいよね、ということになりました。
そこで2014年に国から全国の自治体に「公共施設等総合管理計画」(以下、「総合管理計画」)を策定するようにとのお達しが発され、現在までに、ほぼすべての自治体が作成しています。
クリエイティブ案件の宝庫?! 「公共施設等総合管理計画」
この、「総合管理計画」が地味にポイント。何かというと、自治体の持っている公共施設をぜ〜〜〜んぶリストアップし、「稼働率」、「老朽化度合い」、「ランニングコスト」、「周辺人口」などの数字を洗い出し、再生する施設としない施設の仕分けをしたものです。
公共施設整備が市民へのサービスを充実することと勘違いされてきた期間が長いため、ほうっておくと施設は無限に増殖するのですが、この総合管理計画の策定によって、初めて「余剰施設」が整理されたところが画期的です。余剰施設は持っているだけでも維持費がかかるので、民間に貸すか、売るかして、行政負担を軽くすべきだ、それには「公民連携」だ、ということで、最近の公民連携ブームの火付け役となりました。
公民連携の第一世代「指定管理者制度」「PFI」
日本の「公民連携」の第一次ブームは2000年代頃。現在でも、公民連携の代表格となっている、「指定管理者制度」や「PFI(Private Finance Initiative:プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)」はこの時期に導入されています。
「指定管理者制度」は、公共施設の管理・運営部分を、行政が民間に外注するかたちです。皆さんにも身近な、図書館や公園の管理によく用いられています。専門的スキルのある会社にお願いしてしまった方が、行政が直接運営するより、安い上にクオリティが高い場合に使われます。たとえば、TSUTAYA図書館等も、なかなかクリエイティブな指定管理者制度の使い方をしています。
また、「PFI」は、さらに進んで、公共施設を整備するところから、運営する民間事業者に任せた方が、民間の資金、経営能力、技術的能力等を活用した運営効率のよい施設が設計できるのではないか、ということで、施設の整備から運営までを、まるっと民間にお任せ!という形態のこと。
これら、第一世代の「公民連携」の制度は、主にイギリスの小さな政府時代のものを模して整備されてきました。ただ、これらは、あくまでも、行政が担う仕事を、民間に効率よくこなしてもらう。いわば、「効率的な公共事業」を目指したものといえます。
公民連携の第二世代「民間事業型」
他方、前述の「総合管理計画」を機に可視化された、余剰施設を有効利用するタイプが「公民連携」の第二世代です。
何が異なるかというと、ここでいう「公民連携」は、使わなくなった行政の建物を、民間に貸したり売ったりして、それを直接的には行政の仕事のためではなく、民間企業が事業のために(ホテル、シェアオフィス等)にリノベーションして、ビジネスしていいよ、というもの。
つまり、ほとんど、民間不動産と同じ扱いで、不動産オーナーである行政に、テナントとして民間が賃料を支払う/買い取るというスキームです。こちらは、公共事業ではなく、ほぼ「民間事業」で、その活用を通じて、間接的に財政に寄与すればOKという考え方です。
普通財産と行政財産の違い
余談ですが、第一世代と第二世代を明確に分ける要因として、非常に分かりやすいのが、行政の財産区分です。民間事業者の方にはあまり耳慣れないかもしれませんが、ちょっと解説します。
行政が保有している資産は全て「公有財産」です。その中で、行政がなんらかの業務目的をもって活用しているのが「行政財産」、それ以外の資産すべて、特定の行政目的なく行政が持っている資産は「普通財産」と区分されます。
行政財産の中でも、目的がとてもはっきりしているものなどは、設置と同時に「○○図書館設置条例」といった条例を制定して目的や使い方のルールを規定します。図書館、ホール、体育館…などなど、公共施設のメインストリームのみなさまには設置条例がくっついていることが多いです。
他方、普通財産というのは、たとえば古民家で、持ち主の意向で行政に寄贈されたものなどイメージすると分かりやすいですかね。上記の第二世代には、行政財産としての役割を終え、普通財産化してから民間が活用しているものも多いです(冒頭の画像の3331 Arts Chiyodaなどはその好事例ですね)。
「普通財産化」のなにが喜ばしいかというと、この手続きにより、活用用途が一気に広がり、縛りが少なくなること。したがって、行政が、民間事業者の募集をかけているときに「普通財産ですか?」と聞くと、一発でどちらのタイプか見分けがつくでしょう。
ただし、そもそも比較的縛りの少ない行政財産というのも存在するので、それだけで判断しないよう注意してくださいね。たまたまですが、Onomichi U2は港湾施設、INN THE PARKは公園施設という、どちらも用途の縛りが激ゆるの行政財産でした。その詳細についてはいつか改めて…。
日本の公民連携の無法地帯
さて、本題に戻りますが、問題は、これらふたつの異なる「公共事業タイプ」(第一世代)と「民間事業タイプ」(第二世代)が、どちらも「公民連携」とされ、いっしょくたに語られてしまっていることです。それで何が困るかというと、第一世代の「公民連携」では「PFI法」「指定管理者制度」といった手続きや制度が新たに整備されたのですが、後発の「民間事業タイプ」は、とくに制度的には目新しさもなく、公園内の売店、国の払い下げ物件など、前例があるといえばあったため、特に新たなルールの整備がされていないということです。
さらに厄介なことは、公有財産については、複数の省庁が別々のルールや権限をもっているため、ごった煮状態で、どのルールに倣えばいいのかがわかりにくいこと。たとえばPFIは内閣府、市町村の公共施設のマネジメントは総務省、空き家対策や公園・道路・河川などの公共空間を扱うのは国交省、また物量の圧倒的に多い学校は文科省が管轄していたり。それぞれが持つルールを切ったり貼ったりしながら、援用してつかっているため、整合性がとりにくい状況です。
求められる新たなクリエイティビティ
制度が曖昧でルールがゆるいということは、リスク回避思考の強い自治体にとっては好ましくない状況かもしれませんが、見方によっては、自由度が高く面白いことがしやすい状況ともいえます。既存の法制度に縛られず、自治体と行政の間の個別の契約に任されている裁量が大きいので、発注や契約の仕方次第では、従来とは異なる空間や事業を生み出しやすいわけです。
そのためには、なにより、行政パーソンの脳内がクリエイティブであることが重要。見た目のかっこよさや美しさだけがクリエイティビティではありません。公務員の仕事は「役所仕事」と揶揄されたりしますが、本来は、制度やルールづくりが、まちや生活をかたちに影響を与える、非常にクリエイティブな仕事なはず。 施設の整備や活用というのはいつだってクリエイティブでなければならないものではありますが、民間活用の時代となった今こそ、オーナーである行政に新たなクリエイティビティが求められます。
民間が使うのだから企画はしなくていいということではなく、リスクをとってビジネスをする民間事業者がクリエイティブな活用事業をするように誘導していくための柔軟な手順や考え方にこそ、新たな想像力と知恵が求められると思います。
図版作成:公共R不動産
ちなみに、公共R不動産では、民間事業型の公共不動産活用を促すためのデータベース作成にも取り組んでいます。詳細は【公共R不動産 データベースβ】をご覧ください。
これまでにない新たな形態・新たなスキームで、その施設をコンバージョンしようという民間事業者の発想を行政が受け止める際、乗り越えなければいけない壁がたくさんあるはず。既存のルールに縛られず、どうやったらそのアイデアを実現して、まちに新たな魅力をつくり出すか。その壁を越える行政側の動きこそ、クリエイティビティが求められているように感じます。規制緩和や条例改正、特例措置など、これまでの公共施設を整備し管理するためにつくってきたルールを見直していくタイミングに差し掛かっているのかもしれませんね。逆に、新たなアイデアを受け入れる土壌がある自治体に民間事業者からの提案が殺到する、という未来もそう遠くないかもしれないと感じます。
社会や都市の課題も変化しており、これまでのノウハウが通用しないことも多く、常に有効な方法を「発明」していく必要が生じています。こうした状況では、仕様をかっちり決めて確実に遂行させるような発注方法は馴染みません。発注者・受注者という関係から、パートナーシップのような契約関係となることが望まれます。また、こうした新しいやり方の実績を持つ相手はとても限られていて、また思いもよらない分野にいたりします。特定分野において複数の中から競争で安く調達する方法では、必要な相手を見つけることすらできません。もし既存の発注フォーマットを用いざるを得ないのだとしても、いかに本来の目的を達成するための発注ができるかを考え、従来の用法に捉われない新たな用法を「発明」していきましょう。
遊休化する公共施設に目をつけている民間事業者はたくさんいて、彼らはいろんなアイディアを持っています。パブリックマインドを持って、地域との共生を考えている事業者も増えているように感じます。そんな民間事業者が求めるのは自由度と柔軟性です。活用の進め方、コストの負担、法規的な取り扱い、地域との関係性など、既存の常識に捉われた、通り一遍の枠組みから離れて、結果的に地域にも財政にも寄与しつつ事業者が健全に活用できるような方法を柔らかく前向きに協議していくということが肝要ですね。