どんな時に、どの手法が最適?一括発注フローチャート
PPP妄想研では、民間事業者のオリジナリティを最大限に活かした、クリエイティブな公共施設のリノベーション案件をつくり出すには、行政がどのような発注をしていくべきか?をテーマに、発注にまつわる色々なモヤモヤを取り上げながら、ここまで様々な発注方法について検討してきました。目指すは、行政にとっても民間にとってもストレスの少ないプロセスの構築によって、おもしろい案件が日本中にどんどん増えていくこと。
初回の普通財産の貸付から、前回のDO方式での発注(Design & Operate)にいたるまで、異なるタイプの発注のメリット・デメリットに触れてきましたが、いったいどんな条件の時に、どんなスキームが望ましいのでしょうか?今回は、ここまでの議論を振り返りながら、フローチャート化を試みました。
ここまでの議論で、大前提として、民間の視点(特に運営目線)が、案件のできるだけ初期段階から組み込まれることが、クリエイティブ発注のポイントとなりそうだということを提示してきました。そこで、チャートのタイトルは「一括発注のすすめ」です。その前提のもと、とある遊休施設を活用することになった場合、適切なスキームを判断するファクターとして、2段階・3条件・4パターンに整理しました。1段階目に、まず検討すべきは、条件1「投資主体は官民のどちらか?」です。投資主体が民間メインの場合、「民間事業型」がおすすめです。また、行政の投資が入る場合は2段階目として、条件2「事業規模」と、条件3「行政メリットの優先度」のふたつの条件の組み合わせにより、「DO方式」、「DBO方式」、「PFI方式」の3パターンから選んでいくということになります。以下、具体的に見ていきましょう。
条件1:投資主体は官民のどちらか?
とある遊休施設を活用することになった時、「どんな発注方法をとるべきか?」を判断する、最初の最初の分岐点は「投資主体は官民のどちらか?」ということです。
行政がお金を出す(=税金を投下する)のであれば、きちんと「市民の合意」をとりながら進めていく必要が生じ、事業者公募の前に「基本構想」の策定をすることが望まれます。(→条件2へ)
逆に、民間が行政から建物を借りて、民間負担で改修工事等の初期投資を行い、賃料を払いながら事業を進める場合は、ほぼ民間不動産のような扱い。行政はビジョンと最低限の要件を提示するにとどまり、あとは「民間事業型」の公募をとってスピーディーに進めていくのが効果的でしょう。第3話で紹介したINN THE PARKのような案件がこれに該当します。
パターン①民間事業型賃貸公募:投資主体が民間の場合
民間事業型の公募パターンでは、従来型のPFIや指定管理者制度のお金の流れとは逆(民間が行政にお金を支払う)なので、「選定する行政」「選定される民間」という上下関係の構図を引きずったまま民間事業者を募集すると、うまくいきません。遊休化した施設を利用して、一緒によりよいまちのコンテンツを開発してくれる「パートナー探し」のつもりで、パブリックマインドを持った信頼できる事業者を選定し、行政としてできる支援(金銭面ではなく、条件面や規制の緩和、広報など含め)をしていきましょう。行政としてのビジョンをきちんと民間に伝え、官民ともにwin-winになるよう、広い視野で条件を調整することは重要ですが、行政側の条件や意向ばかりを優先すると、民間事業が成立しなくなってしまうので、注意です。
一般的に、行政には不動産所有者としての権利と責任があると考えると整理しやすいです。
条件2・3:事業規模と行政メリットの優先度は?
次の分岐は「事業規模」と「行政メリットの優先度」の掛け合わせ。
行政の投資が入るパターンにおいて、「事業規模」とは、施設の面積などではなく、行政が投下する予算の大きさのことです。必要なお金のほとんどを行政が出す場合は、公共施設の色合いが濃くなるので、行政意向も強くなります。行政意向とは、住民の意向のことでもあり、市民合意をガチガチにとっていく必要があるので、民間事業者の自由度は必然的に低くなる傾向にあります。官民連携と言うとPFI方式が有名ですが、事業規模がそこまで大きくない場合はPFI以外の方式が力を発揮する場合があります。
「行政メリットの優先度」とは、官民連携事業を行う際に行政側が重要視するメリットのこと。効率化による運営面、整備面での「コスト削減」や「スピードの早さ」、あるいは異なるセクターであるが故の「自由な発想」や「経営力や集客力」など。それらの組み合わせにより、選択する発注方法が変わってきます。
パターン②DO方式:事業規模が大きくない&民間の自由な発想重視の場合
事業規模があまり大きくなく、かつ、民間のクリエイティビティをできるだけ引き出すことにプライオリティがおかれるケースであれば、DO方式がおすすめです。特に、行政の予算が一部入ったり、行政の指定する用途+民間の独立採算で運営するなど、官民ハイブリッド型のものなどに向いています。例えば、第7話でご紹介した富士小学校の例などがこれに当たります。
DO方式は、”Design & Oparate” の略で、運営事業者と設計者をセットで公募する手法(詳しくは第7話参照)。設計業務を完了後、工事事業者を行政から別発注しますが、運営者は最初に決めてあるので、発注は2段階になります。ユーザーや市民に近い立場で「いかに使われる施設にするか」という運営目線を、設計の段階からきちんと反映することができるのが最大のメリットです。運営面で無駄のない設計ができるという意味ではコスト削減効果も見込めます。
また、民間側のメリットとして、DO方式だと、発注が設計・運営者と工事で切り分けられるため、工事まで担う体力はないけれど、おもしろい施設の活用を希望する運営・設計の会社が手を上げやすくなるということが挙げられます。要するに、業務が軽くなるので、より多くの事業者から幅広い提案が期待できるということ。行政として、「民間事業者のクリエイティビティを最大限引き出すこと」を優先したい場合には、よい手法だと思います。
一方、設計・運営と施工事業者が別発注になるために、設計段階であまりに運営やデザイン目線が強く難易度の高い設計をしてしまうと、施工業者の募集の段階で金額が見合わず入札不落になったり、建設事業者の手が上がらない…という入札不調リスクを行政が抱える可能性もはらむので、コストコントロールが必要です。
パターン③DBO方式:事業規模が大きくない&コストメリット重視の場合
次に、事業規模がそこまで大きくないけれど、民間への一括発注により「コスト削減」や「スピードの速さ」、といったメリットを重視する場合は、DO方式に施工までくっつけたDBO(Design-Build-Operate)方式をとることになります(ここではPFI法に乗っ取らない形のDBOを想定)。運営事業者目線を入れた設計が可能なのに併せ、施工も一体的に実施することで、施工目線からも効率のよい設計が可能となり、DO方式より、さらなるコスト削減効果が見込めます。また、発注選定作業も一度で済むことから、スピード感をもった事業実施が可能です。
しかし、施工まで手掛けられる事業者が限定されることや、設計・施工・運営3者間の調整業務が膨大になることが課題になります。中でも、最も大きなお金が動く施工業者、そして出資者である行政の声が大きくなってしまうことなどから、施工者の目線に引っ張られがちになってしまうことが多々あります。結果として、利用における自由度が下がったり、ユーザーが使いたくなるような施設にすることの優先度が下がってしまう、ということも起きがち。
よりコストやスピードメリットをとりたい場合、そしてなにより不調・不落リスクを下げたい場合にはDBOの方がおすすめですが、あくまでクリエイティビティ重視の場合はDO方式のが自由度が高いと言えそうです。
パターン④PFI方式:事業規模が大きい場合&コストメリット重視の場合
最後に、事業規模が大きい場合。PFIが選択しやすくなります(PFIの中で最も一般的なサービス購入方法を指します)。PFIは設計・施工・運営の一括発注という意味で上記DBOと類似していますが、初期投資の資金調達が民間に委ねられる点が異なります。行政にとっては「予算の平準化」ができる点も非常に魅力的な選択肢です。
事業規模が大きければ、民間を入れることで、コスト削減効果が大きくなり、PFIのデメリットである手続きの煩雑さも吸収できます。民間サイドとしても、行政内で債務負担行為をとってから(複数年度に渡る予算を一括してとっておくこと)事業がスタートするので、途中で事業が頓挫する政治リスクが低い点がメリットです。また、PFI法に従って手続きを進めればよいので、合意形成を図りやすいという利点がありますしかし、DBOと同様、企画・構想段階から運営目線を入れづらいことやクリエイティビティの発揮しやすさという点では、やや見劣りするほか、参加できる事業者も大手ゼネコンなどに事実上、限定されてしまいます。が、専門的な知識や長い準備期間を要することが欠点でもあります。PFIには、理論的にはクリエイティブに使える要素もあるのですが、現状、日本では事業規模が大きな公共施設の新設時に専ら用いられ、公共事業の代行のようなポジションのことが多いので、そもそも民間が自由に事業する余地がそれほどない案件が多いのが現状です。(PFIとは?については第6話参照)
企画が運営に結びつくかが鍵
上記で整理してきた通り、「一括発注のすすめ」では、パターン①→④と、民間のクリエイティビティを引き出しやすい順であると言えそうです。
最後に、どのパターンを選択するかにかかわらず、ポイントとなる事項として強調しておきたいのは、設計段階からだけでなく、基本的には、その一歩手前の「基本構想」の段階から、民間の企画力を注入できると、ぐっと実現性が高くおもしろい案件形成に繋がりやすいということ。具体的な構想段階からの民間アイディアの活かし方については、第5〜6話で触れましたが、「一括発注のすすめ」の4手法は、上から順に、民間事業者が構想段階から関わりやすい手法であるとも言えるでしょう。
事業規模が大きい→税金をたくさん使う→住民合意が必要→最大公約数→総花的構想という構造で、民間的な発想を取り入れずに構想を策定し、公募を行ってしまうと、民間の事業の自由度が低くなる傾向があります。住民に使われる、楽しい施設にしたいのに、住民合意の厚い壁があればあるほど、不自由になっていく?!なんだか、これって不思議な話ですよね。
次回は、その「住民合意」を発注にどう生かすべきかについて考えたいと思います。
イラスト:菊地マリエ
民間側の創意工夫を活かすためには、行政側はまず、大きな方針を示した上で、できるだけ民間側の発想の自由度を高める発注方式を考えることが必要です。それによって、市民によいサービスを提供する施設運営ができるからです。行政がほとんど投資しない民間事業型はもちろん、ある程度の投資をする事業であっても、DBO方針や、これまではあまり実施されていないDO方式といった、民間側にやる気がでる発注方式を、行政側が真剣に取り組むことが大事だと思います。これからは自治体相互の競争でもありますので、トップを含めて、民間事業者の立場も理解する自治体に、知恵のある民間企業が集まっていくはずです。
公共R不動産では、民間事業型の公共不動産活用を促すためのデータベース作成にも取り組んでいます。詳細は【公共R不動産 データベースβ】をご覧ください。
行政が投資して行政が運営する、という過去のかたちを変えて民間に委ねていくことの目的は、コスト削減や収益化という経済的な意味だけでなく、何より住民や地域にとっての魅力や長期的な価値を生んでいくための「創造性」にあります。それをよい形で活かすには、実際に運営を行う民間が「構想・企画」にきちんと関わる形にすることがキモです。そのためにはしばしばハードルもあるわけですが、工夫によって皆がハッピーになれる方法は存在するのです。