クリエイティブな公共発注について考えてみた by PPP妄想研究会
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第10話:公募型プロポーザル再考(前編)

行政経営の効率化を図る公民連携(PPP)。その法制度や仕組みがクリアになれば、もっとクリエイティブな公共発注が可能になるのでは??という問題意識から発足した「PPP妄想研」が、既存のルールを読み解いた上で、「こんな制度が理想的なんじゃないか」論を妄想していきます。

改めて「公募型プロポーザル」について考えてみます!

クリエイティブな公共発注ってどんなものだろう?というテーマのもと、いろいろな形態の発注ステップを見てきました。
冒頭で紹介したOnomichi U2INN THE PARK、事例として登場した、Saga Furuyu Camp3331 Arts Chiyoda、その他、この連載では取り上げていませんが、クリエイティブな活用事例として、福岡グロースネクスト(旧大名小学校)、なごのキャンパス(旧那古野小学校)、ユクサおおすみ海の学校(旧菅原小学校)、そして最近急増中のPark-PFIを通じた事例の数々……。
これらの事例は全て「公募型プロポーザル」という方式で選定・契約されています。

あれもこれも「公募型プロポーザル」で選ばれている!

今回は、改めてその「公募型プロポーザル」について、どうあるべきなのか?
再考してみたいと思います。

公共発注ざっくり2種類:「入札」と「随契」について

ここまで連載を読み進めてくださっていた方々は、あれあれ?PFIとか、DO方式とか、民間事業型とか、今までの発注スキームの分類はなんだったの?!と思われるかもしれませんが、そもそも論に立ち返りますと、公共発注の形態というのは大きくわけて、ふたつしかありません。
競争入札(入札)」と「随意契約(随契)」です。
(本当は3つめに「競売り」というのもありますが、レアケースなので省きます。)

一般的に「競争入札」は価格勝負、「随意契約」は価格だけでは決定するのが困難なタイプの案件に用いられます。

競争入札?それとも随意契約?

競争入札とは?そのメリット・デメリット

まずは「競争入札」について。同じ公共案件を民間に発注するのであれば、財源が税金でまかなわれている以上、できるだけよいものをより安くこなしてくれる業者にお願いする。これが公共発注の基本的な考え方、すなわち「競争入札」です。もちろん、「競争入札」の中にもいくつかパターンがあります。代表的なものが、「一般競争入札」。入札資格がある企業には誰でも開かれている入札で、法律上は、この手法を基本とすべしとされています。そして、「指名競争入札」。こちらは、限られた複数の候補者間で実施される入札です。

これら「競争入札」のメリットは、価格で勝負するので公明正大というか、成否の判断が非常にクリアなところ。ただしデメリットは、「安かろう、悪かろう」という判断に偏ってしまう恐れがあるという点。安いけれど、手抜き工事だった、なんてことになったら元も子もありません。

というわけで、入札の中でも、きちんと「質」を担保した上で、価格で勝負するという二段階で総合的に判断しましょうという「総合評価方式」という方式なども編み出され、より複雑化しています。

競争入札のメリット・デメリット

随意契約とは?そのメリット・デメリット

さて、もう一方の随意契約。

「随意契約」というと、少し公共発注をかじったことがある方々は、「公募など選考プロセスを省いて直接的に行政と民間が相対で契約できる理想的な方法!」と感じていらっしゃるのでは。「この案件、いいですね。やりましょう!」と信頼できる官民で話がまとまったら、すぐに契約して事業に入っていける。スピード感があり、提案書作成などの無駄なコストもかからない。民間のビジネスでは当然のこの契約形態ですが、公共発注では非常に有り難きものなのであります。

ですが、古くは官民癒着が問題化した時代がありましたし、今でもそのようなリスクはゼロとは言えないため、自治体が随意契約の手法を選択するには理由が必要になります。自治体としても決して意地悪しているのではありません。彼らとしても「この企業、とてもよいアイディアを持っているから一緒に仕事したい!」と思っても、自由に契約できず、きっともどかしかったりするのでは……と想像します。自治体が民間と仕事をしようと思ったら、ルール上、全世界に向けて提案を募り、その中から一番よい提案を選ぶという壮大な手続きを踏まなければ、選定できないのです。

なかなか手を結びたい企業と結べない行政のジレンマ

随意契約のメリット・デメリットについては、『公共入札・契約手続の実務』(鈴木満著、学陽書房、2013年) で簡潔にまとめられていたので、その部分を引用させていただきます。

特命随意契約による場合は、入札という手続きを行わないため、発注手続きが簡単(ただし事後に会計検査院等のチェックを受けなければならないという煩わしさはある)で、しかも、発注者がその意思で「契約の相手方」を決めることができ、また、契約の相手方との相対で「契約価格」を決めることができるので、信用のおける特定の業者に仕事が頼め、かつこの業者に確実に利益を与えることができる。

しかし、特命随意契約は競争にさらされないため問題も少なくない。まず発注手続きが不透明で納税者に「発注者と受注者が癒着しているのではないか」との疑念を与えることである。つまり​「透明性」が確保されない​という問題がある。

また、競争にさらされないので、契約価格が適正なものかどうか不確かで、納税者に「割高になっているのではないか」との疑念を持たれる可能性がある。つまり 「経済性」「効率性」が確保されない​という問題がある。

さらに発注者が特命随意契約を乱用する危険性も少なくない。例えば、首長が自分の有力な支持者に優先的に自治体の建設工事等を発注するとか、契約担当者等が 将来の天下り先を約束してくれた業者に優先的に建設工事等を発注するなどの便宜を図ることが可能になる。したがって「特命随意契約」は契約手続きの​客観性及び 公正性が確保されない。


『公共入札・契約手続の実務』(鈴木満著、学陽書房、2013年、pp20-21)

というわけで、これまで、随意契約が談合事件や新規参入事業者排除の温床になっていた歴史から、訴訟などもあり、住民の目も厳しく、「透明性」「経済性/効率性」「客観性/公平公正性」の三要素への疑念のあるため、なかなか、どの自治体もこの随意契約という手法に簡単には踏み切れないのが実情というわけです。

随意契約のメリット・デメリット

公募型プロポーザルは随意契約である!?

しかし、ですよ。今回のコラムで声を大にしてお伝えしたいのは、我々がこれまで議論してきた事例の多くで用いられている「公募型プロポーザル」って、実は「随意契約」の一種なのだということです!!!

ここまで、公募って、ものすごく時間も、労力もかかるものである、という前提で、もっとよいあり方はないのだろうか?と模索してきました。随意契約がもっとすんなりできたら、色々解決するのにな〜という妄想が頭をよぎったりしてきたわけですが、本来的には、公募型プロポーザルなるものは、とりもなおさず、「随意契約」の相手を選定するためのプロセスだったということ。一般競争入札より「簡略な手続き」が売りの随意契約に分類されるものなのだということです。

なんだか、分類が色々あって、こんがらがってきてしまいましたね。「公募型プロポーザルが、随意契約の一種であるとは、いったいどういうことか?」もう少し詳しく見ていきましょう。

随意契約は、冒頭で触れた通り「その性質又は目的が競争入札に適しない契約をするとき(地方自治法第234条2項、地方自治法施行令第 167 条の2第1項第2号)」の規定が適用される場合が多いですが、それが一体どんな場合なのか?については、あまり詳しく描かれていないのです。
そのため、各自治体が「随意契約ガイドライン」というものを策定し、どんな場合に適用するのか、そのルールを定めています。その中で、「公募型プロポーザルによる選定」を経れば、随意契約OKと記載されているのです。

また、敏腕リサーチャー・佐々木氏により、1987年以降の「随意契約」絡みの訴訟をざーっとさらってみていただいたところ、随意契約は正当な理由がなる場合など、行政側の裁量性を広く認め、違法性を認めない傾向にあるので、各自治体が用意した随意契約ガイドラインに従った公募型プロポーザルという手続を経ていれば、問題は生じづらいと考えてよいでしょう。

※参考:随意契約関連の判例データ整理資料
https://1drv.ms/x/s!ApAh1jfPXzIhgcgS4uZMa-pX_TzVag

改めて、「公募型プロポーザルは随意契約なのではないか?」という再確認!

「落札者」を選ぶ競争入札と「優先交渉権者」を選ぶプロポーザル

「公募型プロポーザルが、随意契約の一種である」というのは、なにも妄想研でなされた大発見というわけではなく、よくよく見れば、公募要項にきちんと書かれているものもあり、実務者にとっては至極当然、釈迦に説法的な話です。

しかし、知識として知ってはいても、特段、意識していないのではないかと思うのです。「一般競争入札 総合評価方式」と、この「随意契約・公募型プロポーザル」(←実際こんな言い方しませんが、あくまでわかりやすいようこのように言い換え)という似て非なるふたつの手法の違いが非常に重要だということ。

原則は価格評価である「競争入札」に質の評価を加えた「総合評価型」。
逆に、原則は事業者の質の評価にある「随意契約」の根拠として「透明性」「経済性/効率性」「客観性/公平公正性」を担保するために行われる「公募型プロポーザル」。

結果、両者とも、価格も質もどっちも評価する……ということになっているように見えますね。

当然、最終的に「価格」で評価するのか、「価格」とは別要素に重点をおいて判断するのか。その重点の違いはあります。さらに重要な違いは、「競争入札」では契約相手として「落札者」を選定するのに対し、公募型プロポでは、あくまで随意契約を結ぶための、「優先交渉権者」を選定するということ。提案の内容自体というより、提案を通じて考え方を把握し、共に事業を組み立てる「相手」=人(法人・事業者)、を選ぶプロセスだということです。

公募型プロポーザルの特徴は、提案を通じて共に事業を組み立てる相手を選んでいること

公募型プロポーザルは、提案を通じて契約相手となる「人」を選ぶ手法だと言えることが整理されました。
次回は、 その選び方の具体的な方法について妄想していきたいと思います!

イラスト:菊地マリエ

    

寺沢さん

入札は金抜きの内訳書がすべてつくれるもの(≒民間の裁量がゼロのもので、調達コストだけの勝負)、個人的には一式計上も、民間の裁量の余地があるのでありえないと思います。それに対して、金抜きの内訳書がつくりきれないもの(≒少しでも民間の裁量の余地があり、質が問われるもの)は性能発注的な要素があるため、「競争入札に適さない」ものとしてプロポーザル⇒随意契約だと理解しています。
だから、自分の経験上(公務員時代もこれまでお手伝いさせていただいた自治体でも)、入札でやったものはひとつもありませんね。「こういうプロジェクトをこんな人とやってみたい!」という具体的なイメージがあれば、発注のクリエイティビティも上がると思います。

   

公共R不動産では、民間事業型の公共不動産活用を促すためのデータベース作成にも取り組んでいます。詳細は【公共不動産 データベース】をご覧ください。

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公共R不動産の本のご紹介

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公共R不動産のウェブ連載『クリエイティブな公共発注を考えてみた by PPP妄想研究会』から、初のスピンオフ企画として制作された『公募要項作成ガイドブック』。その名の通り、遊休公共施設を活用するために、どんな発注をすればよいのか?公募要項の例文とともに、そのベースとなる考え方と、ポイント解説を盛り込みました。
自治体の皆さんには、このガイドブックを参照しながら公募要項を作成していただければ、日本中のどんなまちの遊休施設でも、おもしろい活用に向けての第一歩が踏み出せるはず!という期待のもと、妄想研究会メンバーもわくわくしながらこのガイドブックを世の中に送り出します。ぜひぜひ、ご活用ください!

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