公共R不動産研究所
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公共空間×生成AI #01/AIと一緒に創造することを考えてみる

急速に進歩する人工知能(AI)分野。いつの世も、社会を変えるのは新たな技術です。AI技術の導入により、空間は、そして都市はどう変わっていくのか。単に既存の人間作業の代替や合理化ではなく、新たな創造性の発露に期待して、手探りながら公共R不動産研究所も勉強を重ねる様子をレポートします。まずは岸田研究員によるイントロ記事をどうぞ。

生成AIの勉強をはじめます

2024年のノーベル物理学賞はニューラルネットワークの手法を作り出したAI研究者、ジョン・ホップフィールド氏とジェフリー・ヒントン氏に贈られたそうです。……なんて語りつつ心の中では、「にゅ、にゅ、にゅーらるねっとわーく??いやいや、知らん知らん!」と思っていまして。一体何が評価されたのかわからない部分も多いのですが、AI技術に限らず、新しい技術が社会を、そして空間を変えてきたし、これからもそうなるんだろうと想像しています。
メディアでは、「AIによって消滅する職業は!?」や「AIに社会がコントロールされる!?」など、<AIは敵か味方か?>論も数多く見られますが、この議論には参加せずに、「まち」「エリア」「空間」といった自らの分野からAIについて考えてみたいと思います。

https://www3.nhk.or.jp/news/special/nobelprize/2024/physics/article_01.html

まちづくり分野のAI活用

僕の印象ではありますが、まちづくりの分野は、IT技術やAI技術の導入が他分野より遅れていると感じています。これはこの分野が保守的だというわけではなく、ターゲットが人間関係や、それと結び付く空間やスキームであり、IT技術やAI技術との結節点が見出しにくいことにあるのではないでしょうか。
もちろん最近では、街路に設置された定点カメラが通行者の数や属性をデータ化してくれたり、ビックデータから人流を把握することで都市開発に活かしたり、郊外やオールドニュータウンの課題解決に向けたスマートシティの技術の応用が構想されたりと、比較的早期に結節点を見つけ出した部分から、新しい技術がまちづくり分野にも流れ込んでいる状況でもあります。

たとえば東京工業大学の沖拓弥研究室では、街路景観や建物外観などの印象評価推定モデルの研究や、印象評価値に基づき好印象街路空間を自動生成する研究、建物の外観から構造・建築年次、空き家か否かを推定する研究、画像・動画を用いた人流分析の研究、避難行動予測モデルの研究など、様々な視点からのAI技術活用が進んでいるようです。

まだ理解が途中の初心者ながら、これらの研究は、
・人間の思考の抽出の自動化
・複数の人間の思考を合わせたイメージのビジュアル化
・調査の自動化
・人間行動の予測
といった感じに分類できるのではないでしょうか。
特に「人間の思考の抽出の自動化」と「複数の人間の思考を合わせたイメージのビジュアル化」は、これまでの人間の作業の代替ではなく、新たな創造性につながるのではないかと思っています。

まちづくり分野では、アンケートやヒアリング、ワークショップなどで「この街の好きなところは?」とか、「このエリアの魅力は?」といったような質問をすることがあります。当然、回答者の周りの環境の影響を受けて、回答者の思考と回答にズレが生じる可能性もあるでしょう。この点、AIは回答者の思考と回答のズレを最小化する手助けをしてくれるかもしれません。今後、さらなる精度向上に期待ですね。

従来のまちづくりワークショップの例(岸田撮影)

創造は合理性の近傍にある──デザインに「思考のバグ」を生み出すには

さて僕は建築家でもあり、建築設計やデザインの業務の中でも、生成AIの活用には興味を持っています。
僕の会社では設立以来、100件近くの建築プロジェクトに関わっていますが、数を重ねるうちに、なんとなく自分の癖が出てきてしまうものです。もちろん、依頼者も、敷地も異なるので、全く同じデザインにはならないのですが、ネガティブな意味で、「あの場所でやったデザインをここでもやっちゃおう」と言ったような思考になってしまいがち。そうならないように、過去の自分のデザインを超えるための検討をするのですが、そりゃあ、以前やったデザインであれば図面を描くのも楽なので、悪魔の自分が登場してくることもあります。

そんな僕が、仕事でAIに期待するのは、「思考のバグ」です。過去の発明が、失敗から生まれたという話はよくありますが、この失敗=バグを起こすことを手助けして、「これまでの僕はこう考える」の外側へ僕を連れて行ってほしいのです。

「構造美は構造的合理性の近傍にある」。この言葉は建築家・丹下健三とともに代々木体育館などの国家的建築プロジェクトの構造設計を担当した建築構造家の巨匠、坪井義勝の言葉です。建築の構造設計は合理的な計算の積み上げによって達成されるはずです。しかしながら坪井義勝は、あえて構造的合理性の外側へ飛び出すことが美につながることを示唆したわけです。この言葉をもうちょっと一般化した「創造は合理性の近傍にある」という言葉を僕は大事にしています。

僕らが公共空間にまつわるプロジェクトを企画する時も、過去の事例を参考にしたり、関係者みんなの話を聞き、全ての要望を満たすような企画を考えたりします。これらを否定するものではありませんが、それを合理的だと信じ込むのも危険なのかもしれません。僕たちが信じている合理性から少し飛び出してみることも、重要なのではないでしょうか。もしかしたら、まちづくり分野における真の合理性とは、今考える合理性の近傍にあるのかもしれません。

イメージの射程を広げ、合理性から抜け出す思考をAIと一緒に

「そもそも創造性を、なぜ人間らしさの最後の砦みたいにいうのかが僕にはよくわからないんです。創造性は大量の案出しとそれを潰す評価なんですよね。(中略)AIがどんどん案を出してくれれば、当然人間をエンパワーしてくれる。つまりAIと人間がセットになって創造的になると言うことじゃないかと思います。」 

(谷口忠大インタビュー「AIが身体を持つこと」『建築雑誌 第139集 第1785号 特集:AIの衝撃:期待と葛藤を抱えて進む』)

これは、情報工学研究者の谷口忠大氏の言葉です。確かに、<AIは敵か味方か?>論においては、「創造性の現場ではAIは人間の代替にならないよね!」という議論もあるでしょう。しかしながら、谷口氏が言うように人間がAIと一緒に新たな創造性を生み出していく機会も増えてくるのかもしれません。

特に僕たちが公共空間にまつわるプロジェクトをお手伝いしている中で、公共不動産がより魅力的になるためには、自治体側にも、他不動産と差別化を図るためのアイディアや、具体的な意向・意志が、民間事業者から求められます。このようなアイディアや意向・意思を生み出すにはマニュアルがあるわけではなく、自治体関係者ひとりひとりの熱や思いといった、合理性の外側にあるものからも生まれる可能性があります。AIと自治体が組むことで、その自治体らしい、地域らしい創造性が発揮できる日も近いかもしれません。
一方で、民間事業者側も、自身の強みを活かし、その地域らしさを強化するような提案にも繋がる可能性も大きいと思います。

AIを勉強しようと思います

ここまでAIへの期待全開で、AIが全てを解決してくれるような未来を夢見てしまいましたが、もちろん「AIが全ての答えを出してくれる」というように思考停止になってはいけないという現実的な頭も持っておくべきでしょう。
AI技術はまだまだ成長途上であるし、どのように使うか、どのような関係性を持つべきかといった議論も絶えません。公共R不動産メンバーでもAIを活用することに懐疑的なメンバーもいることは確かですが、ちょっとだけ閾値を下げて、この先の未来を見てみたいと思います。
特に僕たちは「まち」「エリア」「空間」の専門集団であるので、AIの中でも特に生成AI分野に注目し、公共空間にまつわるプロジェクトの中でどのように活用できるのか。まずは勉強を始めます。

次回は、画像生成AIを用いた都市の新たな作られ方を模索するプロジェクトチーム、NESSとのワークショップレポートをお届けします。

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公共R不動産の本のご紹介

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