AIと共に楽しみながらまちの未来を考える
こんにちは!NESSの林泰地です!
僕たちNESSは、生成AIを用いて、住民参加のまちづくりをどのように変革できるか模索しているプロジェクトチームです。チームは様々な大学、様々な専攻の学生から構成されています。まちづくりを専攻する学生や、エンジニアリングが得意な学生、メディア発信やプロジェクトマネジメントが得意な学生などが所属し、日々、研究、開発、実証実験を行っています。
東京郊外の住宅地や、下町の木造密集地帯、東京北部の郊外エリア、都心の若者文化の発信地など幅広いエリアにおいて、地域住民や行政の方々を巻き込んだまちづくりワークショップの企画運営をメイン事業として実証実験を繰り返し行っています。


近年、徐々に仕事や生活に浸透しつつある生成AIですが、この記事を書いている間にも急速に成長しています。最新のAIでは東京大学の入試を突破できるぐらい賢くなったと言われていますね。「シンギュラリティ」であったり、「AGI」という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれませんが、近い未来、ドラえもんのように自然に会話でき、自らの意思で課題解決を行っていくAIが登場するのではないでしょうか。
この成長はChatGPTが登場した2022年からたった2年強の出来事なので、「まだまだAIって何?」とか「AIってなんか怖い」と思っている人もいるかと思います。このAIに対する障壁を取り払うために、住民らの手でAIを作り、楽しみながらまちの未来を考えることができないか。そして、これを事業や施策にどのように活かし、実現に向けて走り出していけるかをまちづくりワークショップを行いながら考えています。
今回は公共R不動産とともに、体験ワークショップを行ったレポートを通じて、実務的な目線と共に生成AIを用いたワークショップの楽しさやその有用性と課題について考えたいと思います。


エリア特化型の生成AI
学習済みデータをもとに、新たな画像や文章を生成
まず一言で“生成AI”を説明すると、インターネット上の膨大なデータを学習し、そこから推測や推論で「それっぽい」文章や画像を作り出す技術です。今や多くの人が耳にするようになったChatGPTやStable Diffusionなども、「生成AI」のひとつです。
追加学習機能を使って、⚪︎⚪︎特化型の生成AIもつくれる!
生成AIの中に、文章をつくるものや、画像をつくるものがありますが、特に「追加学習」と呼ばれる機能を使って、⚪︎⚪︎特化型の生成AIもつくることができます。
ChatGPTやStable Diffusionのような、インターネット上に存在する大量のデータを学習した「なんでも生成することができる生成 AI」が身近ですが、この「なんでも生成することができる生成AI」に生成したいものに近いデータを追加学習させることで⚪︎⚪︎特化型の生成AIに変身させることができるというイメージです。
特定エリア特化型の画像生成AI -地域らしさに気づくキッカケに
その中でもNESSが開発しているのは、⚪︎⚪︎特化型の画像生成AI、とりわけ「特定のエリアに特化した画像生成AI」です。
例えば、東京には京島という木造密集地帯があり、昭和的な人と人との距離が近く、景観も昭和的な雰囲気を残しています。この京島の情報を生成AIに追加学習させることで、「京島らしい」画像を生成してくれる画像生成AIになります。
この「京島らしさ」の抽出はさまざまな方法が考えられますが、僕たちが企画運営するワークショップでは、参加者に「京島らしいと感じる風景」の写真を撮影してもらい、撮影された写真を画像生成AIに学習させることで、「京島特化型の画像生成AI」に育てていきます。
僕たちはワークショップ参加者の認識が合体された風景画像が「京島らしさ」「その地域らしさ」に気づくキッカケになるのではないかという仮説のもと、実証実験を続けています。

頭の中を可視化してくれるツール
この特定エリア特化型の画像生成AIの面白いところは、その地域らしさを残しつつ、架空の画像もつくってくれるところです。例えば「京島特化型の画像生成AI」に「軒下で盆栽とか服を売っている京島がみたい!」とお願いすると、京島らしい風景の中で、軒下マーケットが開催されているような画像を生成してくれます。他にも、青い建物がある京島、軒先が緑化された京島、外壁を改修した京島……など、「この地域が将来こうなったらいいな」という未来像を、画像として見せてくれるツールとして活用できるのです。




従来の都市政策や公共空間づくりでは、例えば、「文化が香る」、「緑豊か」、「賑わい溢れる」、「歴史を感じる」といった抽象的なキーワードが先行しがちです。これらを否定するわけではありませんが、これらのキーワードから、「こんな街になる」という具体的なイメージを、行政や地域住民といったたくさんの当事者が共有することは難しいと感じています。
特定エリア特化型の画像生成AIは、その地域らしさを取り入れながら、新たなキーワードを取り入れた場合のエリアの未来像を可視化してくれるので、将来像の共有がしやすいという点で、まちづくりの合意形成プロセスにも有効なツールとして活用できると期待しています。
地域景観を学習させてワークショップに使ってみよう
NESSは、このように頭の中を可視化してくれるツールを、まずは住民参加型のまちづくりワークショップに導入してみる実証実験を各地で実施しています。
市民が「こういう町にしたい!」という言葉を特定エリア特化型の画像生成AIに伝え、それに近い画像を生成してもらうことでまちづくりへの参加ハードルを下げています。
例えば、「水路や川が多い東京の都心部において、水辺空間を中心としたまちづくりにしてほしい!」という要望があれば、数十秒で下のような画像を出してきてくれます。


もちろん、これまでもまちづくりや都市開発という分野でも、手書きパースやCGが公開されることもありました。ただ手書きパースやCGが公開されるタイミングでは、大きな変更ができないことも多々あるかと思います。
一方、計画の前段階のまちづくりワークショップの中で生成AIを使えば、瞬時に市民の声を画像として届け、それに対して行政が反応したり、逆に行政側が画像をつくり市民に説明をしたりすることも簡単にできるようになります。この新鮮な意見を新鮮なまま画像を通して伝えることで、コミュニケーションの質の向上が期待できます。
さらに未来のまちについて語ったり、現在のまちを客観的に見直してみたりすることなど、ひとつの計画を超えた、その「地域らしさ」や「その地域の未来像」という抽象的な議論のきっかけづくりとサポートまでできるかもしれないと思っています。
公共R不動産×NESS 画像生成AI体験ワークショップ
さて、前置きが長くなりましたが、公共R不動産とNESSで実施した画像生成AIを動かしてみる体験ワークショップでは、東京圏郊外の田園エリア、下町の木造密集地帯、東京北部の住宅地エリアの3エリアを追加学習をさせたエリア特化型画像生成AIを、みんなでいじってみる、というなんとも緩いところから始めてみました。
公共R不動産からは、メディアチーム、プロジェクトプロデュースチーム、R&Dチーム(公共R不動産研究所)のメンバーが参加してくれました。これだけ多様な専門的なバックグラウンドを持つメンバーが、一度に同じ画像生成AIを使うのは、初めてのことだったかもしれません。
僕たちが用意した画像生成AIの画面は下のような感じです。この文字を入力するスペースに、「アート教育をやっている」とか、「都市農業をやっている」などのようなプロンプト(指示)をAIに投げかけると、画像を生成してくれます。とにかく詳しくない人でも簡単に扱えるように工夫しています。

この画像生成AIの中では、下のようにたくさんの写真を学習させていて、プロンプト(指示)にしたがって、学習させた写真とインターネット上の画像を合体させて、1枚の写真を生成するようにつくっています。

公共R不動産メンバーがAIを使って画像生成してみたら?
さすが色々な専門家が集まる公共R不動産メンバー、多種多様な画像を生成できました。30分の作業で、何百枚と生成された中からちょっとだけご紹介してみます。
まちに新しい要素を追加してみる
エリア:下町の木造密集地帯
プロンプト(指示):都市農業、晴れ

エリア:下町の木造密集地帯
プロンプト(指示):都市緑化

エリアの新しい要素として、「農業」や「緑化」を追加した画像です。下町特有の景観の中に農業や緑が馴染んだ画像になりました。下町にある魅力的な植栽の魅力を、農業や緑化というキーワードでさらに向上させたらどうなるのか?ということを考えさせられます!
まちの未来を考えてみる
エリア:東京圏郊外の田園エリア
プロンプト(指示):郊外、未来の車、田園

エリア:東京北部の住宅地エリア
プロンプト(指示):再開発、商店街の伝統的魅力の維持、低層建物、モダンデザイン

画像生成AIは学習させた画像以外に、インターネット上に存在する大量の画像データからも情報をとってくるので、未来の車や、建築のデザインも表現されています。
最新技術を導入したら田園エリアはどういう風景なんだろう?商店街の建物が建て替わるとどういう風景なんだろう?という未来のイメージを膨らませ、新たな議論を呼ぶものになりました。
アクティビティを挿入してみる
エリア:東京圏郊外の田園エリア
プロンプト(指示):アートプログラムの実施

エリア:東京圏郊外の田園エリア
プロンプト(指示):古民家で子供向けのアート教室をやっている

風景以外にも、建物の中のイベントやアクティビティも画像生成できました。どこか違う地域の事例写真ではなく、そのエリアにありそうな建物の中で、実施してほしいイベントやアクティビティが実現した様子を具体的にイメージできますね。
まちの課題を表現してみる
エリア:東京北部の住宅地エリア
プロンプト(指示):商店街、放置自転車

例えば街の課題を可視化してみるとどうなるでしょうか。違法駐輪が問題になっていながらも、現状ではその課題が共有しにくいという状況があるかもしれません。そのような際に、違法駐輪が進みすぎた街を想像してみると、危機感が共有できると思います。
ネガティブシナリオを検討してみる
エリア:東京圏郊外の田園エリア
プロンプト(指示):最悪の未来、田園が住宅地になる

エリア:東京北部の住宅地エリア
プロンプト(指示):洪水

普段のWSでは、「こうなったらいいな」や「これが欲しい」といった、より良いまちの未来だけを描くことが多いです。今回のWSでは、「もし豊かな農景観が宅地開発されたら」、「もし洪水が起きたら」といった、ネガティブなシナリオをイメージすることで、対策を考える議論を生むような画像の生成もみられました。
様々なテイスト、構図で考えてみる
エリア:下町の木造密集地帯
プロンプト(指示):鳥瞰写真

エリア:下町の木造密集地帯
プロンプト(指示):民俗学者のような手書きスケッチ

エリア:下町の木造密集地帯
プロンプト(指示):アニメ風の画像

参加者の中でも、特にデザインのバックグラウンドを持っている方は、「エリアを鳥の視点で見る」といった視点にこだわったり、「水彩画風」や「手書き風」、「アニメ風」と言った画像の仕上がりを試していました。
確かに、鳥の視点であるとエリア全体をイメージするのに役立ちそうですし、水彩画風や手書き風だと柔らかい表現になり、特に初期段階のまちづくりワークショップには、こういう表現の方が反発を生みにくいかもしれませんね。
紹介したのは一部であって、もっと過激なものや、変なもの、意図とは違うけれども考えさせられるもの、たくさんの画像が生成されました。
さて、画像生成AIはまちづくりに実装できるか?
画像生成をする作業中、絶え間なく笑い声や、議論をする様子が見られ、非常に楽しく、有意義なワークショップになりました。その上で、参加メンバーと画像生成AIの実装に向けて、有用性や課題について議論を交わしました。
ワークショップの関わりしろの拡大と技術的課題
例えば一番多く言及されたのは、ワークショップの参加層の拡大に関するものでした。
- 「オンラインでもWSができるなら、今までWSに参加できなかった人でも時差参加が可能になりそう」
- 「誰でも簡単に画像生成ができるので、楽しんで参加できる」
- 「画像生成ことを通して、年齢、性別、性格に関わらず、多様な意見を拾うことができる」
一方で、画像生成AIに対する技術的な難しさについても言及されました。
- 「画像を生成する際の適切なプロンプトが思いつかないことや、欲しいイラストの構図を指定してもなかなか思い通りに生成されないことがある」
- 「どの年代の方でもわかりやすく使用できるUI・UXが必要だと感じた。年代ごとに合ったUI・UXのバリエーションを出していくことも大切かも」
体験を通じて実感していただけたように、画像生成AIは日常言語だけで画像を生成できます。ということは、子供からご年配の方まで平等に使用できるということです。もちろん最新技術ですので、人によってAIを使いこなせるようになるまでにかかる時間は変わるのですが、グループで相談しながら使用すれば、1時間程度でみなさんが使えるようになるのが特徴です。
また、今回は対面でのWSでしたが、WebアプリとしてAIをリリースすることで、今後はオンラインでの参加、さらには事前に画像を生成して、コメントを残しておくことで、時差参加も可能になると考えています。これは従来のWSに比べて、参加者層を広げるだけでなく、その関わり方も多様にしていくことができるでしょう。
固定化された地域らしさの誇張と脱却
一方、今回のワークショップで大きな課題として感じられたのは、AIによる地域らしさの表現内容についてです。
- 「AIによって地域らしさを誤認してしまうケースがある。強調された地域の要素に対する議論だけが進んでしまわないように、その他の可能性について検討できるようなファシリテートが必要なんじゃないか」
- 「ワークショップに参加する人が偏ってしまうと、景観画像の学習段階で、データにも偏りが生じて、本当の地域らしさを表現できなくなってしまうかもしれない」
- 「どのようにしてこのような画像が生成されたというプロセスがブラックボックスすぎるのではないか」
AIが表現する地域らしさに対して疑問が多く上がった一方で、その疑問をそのままにせず、さらに議論をしていく姿勢が大切だという意見も。
- 「AIを使って思い通りの絵を出そうとするより、偶然を楽しみながら生成された絵に対して話し合うような要素が強かった」
もちろん画像生成AIを用いることで、議論が想定しなかった方向へ進んでいくことがあり得ます。そんな時、地域住民と一緒に撮影した画像を学習させて作成したAIであることや、新たに生まれた疑問について、真摯に向き合っていくことから、強度のある地域性を発見できるようになると考えています。
ワークショップを振り返って


楽しいというのは重要だと思います!ワークショップって固い雰囲気になることが多いじゃないですか。固い雰囲気だと意見も言いにくいし、そもそも参加意欲もわかない。気軽に、楽しく参加できて、良い画像がでてくると参加者の歓声が湧いたりするような、そんな雰囲気のワークショップをつくることができる可能性も秘めていると感じていました。

うんうん、楽しかった。
一方で、楽しい雰囲気にするためには、ファシリテーターの役割が重要だと改めて感じました。画像生成AIがダメという話ではなく、画像生成AIを武器として使うためのファシリテーションが重要ということ。

そうですね。僕たちも実証実験でファシリテーションにはかなり気を遣っています。特に生成AIを触ったことが無い人が多い現場では、まちの写真を撮影するところから楽しい雰囲気を作り出すことを意識しています。そうすることで、まずAIを使って1枚生成してみる、生成された画像についてコメントしてみる、ということの障壁がぐんと下がる気がしています。その他にも、実務のまちづくりワークショップに実装しようと思うと、まだまだ細かなトライ&エラーが必要かなと思っています。今日は、まちづくりの実務をやっている方々と議論できて、いろいろと発見がありました。

個人的には、生成AIはまちづくりワークショップで使えそうと感じましたが、もっとその先がありそうと感じました。都市政策とか、都市戦略とか、そういう領域でも使えそう。例えば、以前に書いたシナリオプランニング(https://www.realpublicestate.jp/post/r_scenario-planning/)
は、生成AIとかなり相性が良さそう。シナリオプランニングって、理想的な未来像はもちろん、最悪の未来像も想定して準備しようというものですが、未来像を解像度高く自分ごととして実感できるかというのが肝なんですよ。特に、最悪な未来像は「こんなことは嫌だなー」と思って終わっちゃう人が多い。自分ごととして、「こんな未来像は嫌だ、やばい、どうしよう。ちゃんと戦略練って、準備しなきゃ!」と思わせるくらいじゃないとだめ。そういう未来に対して実感を持たせたい時に画像生成AIが大きな役割を果たしそうです。

危機感が一気に上がりますよね。さらに広い領域で画像生成AIが活用できる可能性を追求したいです。

今日は体験することがメインでしたが、今後、画像生成AIのまちづくり分野での可能性を探ってみたいですね。妄想会議しましょっか!
いやー、緩く企画したワークショップでしたが、結果、面白いものになりましたね!