公共R不動産研究所
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「公共不動産データベース」担当の頭の中 #01 ポピュラーなカテゴリー「学校/廃校」の話

「使われなくなった公共不動産」とひとくくりにする中にも、多岐にわたるカテゴリーがあり、またその活用にあたってはそれぞれの課題を抱えています。公共不動産活用の情報プラットフォーム「公共不動産データベース」に携わる担当者の目線から、日頃感じていることをエッセイ的に綴ります。第1回は「学校/廃校」についてです。

ポピュラーな存在「廃校」

「使われなくなった公共不動産」と聞いてイメージが浮かぶ、もっともポピュラーなものと言ってもいい「廃校」。廃校再生に関する本や雑誌が出たり、廃校を活用した施設がテレビ番組の特集で取り上げられて注目を集めるなど、遊休化した公共不動産活用の花形的存在です。

公共R不動産が運営する「公共不動産データベース」でも、「学校/廃校」カテゴリーの物件が多く検索・閲覧されています。ユーザーから寄せられる問い合わせも「学校/廃校」に関連したものが多く、関心の高さがわかります。

学校は、子どもたちをはじめ、その地域で生まれ育ってきた人びとの記憶が蓄積されている場所で、地域コミュニティの核としても機能してきた場所です。「廃校」への関心の高さは、ほかの公共施設とは異なる、特別な思い入れがあることも一因かもしれません。

幅広い「廃校活用」

廃校をどのように活用しているのか、ちょっと調べれば多くの情報が得られるようになりました。「公共R不動産のプロジェクトスタディ」でも取り上げていますし、多くの媒体でもたくさん紹介されています。学校施設という場所のイメージからは想像もつかないほど、幅広い活用がされています。

廃校の活用が増えてきた初期の頃には、その活用の振れ幅に驚いたものでした。体育館を市役所にしたり、酒造りの蔵になったり、養殖場や植物工場になったり。学校とは異なる機能を組み合わせた意外性が、学校活用の面白さに繋がるところもありました。

学校に泊まれる活用例も増えました。単なる宿泊にとどまらず、地域に観光需要を生み出したり、農業体験や研修・合宿施設などと組み合わせることで、新たな地域拠点となるものも生まれています。

公教育の場として使われてきた歴史を踏まえ、アーティストやデザイナーの拠点としたり、次世代のための農業学校やドローンスクールなど新たな産業を担う人材を育成の拠点となるなど、文化や産業振興の場として再生される事例も増えています。

温泉街の廃校をスポーツ合宿施設へ。新たなプロポーザルの仕組みで地域の拠点づくりを目指す「SAGA FURUYU CAMP」
https://www.realpublicestate.jp/post/saga-furyu-camp/
名古屋駅近くの廃校から次の100年をつくるインキュベーション施設「なごのキャンパス」
https://www.realpublicestate.jp/post/nagono-campus/

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今後も、新しい暮らしのニーズに応えて、これまでになかったような使われ方が生まれてくるでしょう。ハード的にも、減築といった形や、校庭を積極的に活用して校舎は解体するなどのタイプも増えてくるのではないでしょうか。

生まれ続ける「廃校」

学校は、行政が保有する不動産の中でもその割合が高く、少子化が進む中では公教育の場として使われない学校が増えることも多くのまちで共通します。公共施設マネジメントを考える上で避けては通れません。

また廃校の利活用が地域へ与えるインパクトも大きなものです。不動産の使われ方が変わればまちのあり方が変わります。中長期にまちへ与える影響を考えれば、廃校をどのように活用するかはとても大切な都市施策の一環です。

公共施設における割合も大きく、地域の新たな拠点として活用された時のインパクトも大きい。廃校はまさに公共不動産活用の「本丸」とも言えます。
さて、廃校はどのくらいの数があるのでしょう。公的な調査として、文部科学省の調査(廃校施設等活用状況実態調査)があります。これを見ると、廃校は年々増え続けていることが分かります。2014年から2021年までの間の7年で、約2,700校増加しています。とても乱暴な計算にはなりますが、平均すると「1日に1校」のペースで日本国内に廃校が生まれている状況です。

また廃校となった学校がどのような状況にあるかですが、約2割が取り壊され、約6〜7割がなんらかの形で再活用されているようです。私は思ったより解体せず再活用されているのだなという感触を持ちましたが、みなさんはどのように受け止めますか?

そして残りの約1〜2割は、活用が決まっていない状況ということになります。今後もこの傾向が続くとすると、取り壊すとも活用するとも方針が定まらない廃校が年間40〜70校ほど生まれ続けると推測されます。

ひとつひとつ丁寧に対処したい一方で、廃校が出てくるたびにモグラ叩きのように対処していてはキリがないという思いも生まれます。公共不動産全体の活用方針、不動産経営戦略が必要でしょう。

比較的ハードルが高い学校活用

学校は先述のとおり身近な存在であるがゆえに、計算上は統廃合が合理的であっても、実際に地域の合意を得ていくプロセスには相当の労力がかかります。

また学校は建物も敷地もとても規模が大きく、建築的な諸条件も特殊なものがあり、活用の検討を進めるプロセスも一筋縄にはいきません。

こうして着地点が見出せないでいる間に、年月が経過してしまうことになりかねません。使われないまま時間が経過してしまうと、使われない建物はすぐに傷んでしまいます。まずは使われていない時間帯を使えるようにするとか、使われていない箇所を一部だけでも活用していくとか、学校を使い続けることを前提に、稼働時間を増やしていくことを考えた方が現実的ではないか、という提言もあります。

建物全体の活用は難しくても、一部であれば使ってみたいという市民・事業者はそれなりにいるようです。もし校舎が使える状態にあるならば、こうした人たちに「トライアルサウンディング」という形で実際に使ってもらいながら、ステップを踏んで活用方針を検討していくことも有効かもしれません。

使い続けることが前提になれば、適正な維持管理も必要になるので、一定のコストは必要です。しかしたとえば教室に断熱改修を施すことにより、エネルギーコストを抑えることもでき、何より児童生徒の学習環境が健康的なものになります。こうした断熱改修をワークショップで実施する動きもあります。

また学校というとどうしても校舎のイメージが強いのですが、無理に校舎の活用を考えるのではなく、校庭の活用から考えるのが実は現実的です。すべて更地にしろという意味ではなく、校庭の活用を考えるところから始めると自ずと校舎の使い方も見えてきやすいという意味です。

まだまだ「学校/廃校」の活用に関する課題や論点は多くありますが、今回はいったんこの辺で。

旧保育園なども狙い目

学校の施設全体を活用するのはとてもハードルが高いので、事業の規模や内容によっては、幼稚園・保育園の方がちょうどよい場合もあります。

「公共不動産データベース」の「学校/廃校」カテゴリーには、小学校・中学校のほか、幼稚園・保育園なども含まれます。直近では千葉県山武市の幼稚園跡地がデータベースに掲載され、これを見た民間事業者が市の事業者募集に応募して活用が決まったという事例が生まれました。ありがたいことです。

幼稚園・保育園は、小さくてもキラリと光るお店と相性がよいようです。

よく取り上げられる例として鳥取県智頭町の「タルマーリー」や、岡山県津山市の「たかたようちえん」「sense TSUYAMA」などもあります。

保育園が経済循環の起点となるパン屋に「タルマーリー」
https://www.realpublicestate.jp/post/talmary/
元幼稚園をリノベーションした複合施設「たかたようちえん」
https://www.realpublicestate.jp/post/tsuyama02/

地元の事業者と共に公共不動産を活用した公民連携プロジェクトをつくっていく場合、いきなり大きな箱に挑むのではなく、最初のステップとして幼稚園・保育園の規模は向いていると言えるかもしれません。

本シリーズの今後

暮らしの身近な存在で関心が高いという意味でも、公共施設マネジメントや公共不動産活用の点からまだまだ論点があるという意味でも、まさにポピュラーであり「花形」「本丸」と言える学校。またあらためて取り上げたいと思います。

連載「『公共不動産データベース』担当者の頭の中」では引き続き、使われなくなった公共不動産の多岐にわたるカテゴリー、活用に向けたそれぞれの現状や抱える課題について、日頃感じていることをエッセイ的に綴っていきます。

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次回は、4月5日(水)内海研究員によるコラムをお送りする予定です!

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