改めて公共DBを眺め「土地」の情報発信を考える
あらためて公共DBに登録された「土地」を眺めると、たしかになんの変哲もない、いわゆる普通の宅地が多いですね。
最新の『公共R不動産がPICK UPする物件』は、テーマが「土地」でしたが、僕もピックアップのために公共DBを見ていて同じ印象を持ちました。いわゆる不動産屋さんが扱うような、小さめの宅地が多い。
つまり民間の宅地と競合しているってことだよね。民間不動産市場でも苦戦しているところに、公共不動産を流し込むだけになってしまったら、行政のスタンスとしてよくないね。
さらに致命的なのは、譲渡予定価格や賃借料などの金額の記載がない物件が多いこと。ただでさえ特徴の少ない宅地。民間事業者としてはジャッジする要素がなく、もはやこうした物件を選ぶ理由がなくなってしまいます。現地に行ってみようという判断もできません。金額を掲載できない事情があるとしても、せめて参考に、相続税路線価とか直近の公示地価とか、何かしら金額の判断ができる材料の提示をしてほしいです。
公共不動産を掲載するwebサイトは、公共DBのほかにもあります。「なんの変哲もない普通の宅地」系は、こうしたサイトの方がたくさん掲載されているのですが、そこではちゃんと金額も載っていますね。ただやはりサムネイル写真を見ると、他の土地物件との違いは分かりにくく、多くの中に埋もれてしまっている。
ある地区のサウンディングで、複数の対象物件のなかに「土地」があったのを思い出しました。説明用の写真を撮るとき、ただの空き地だから現地をつかむ手がかりがなく、とても苦労したんです。
写真の撮り方だけでなく、例えば周辺エリアの情報など、どのような情報とあわせて伝えると効果的かなど、今後ますます情報発信の工夫が必要になると思います。
都市政策とセットで考える公共不動産活用
更地は、建物を解体する必要がなくすぐに利用できる分、本来は売りやすいもののはずですよね。そして売れないのであれば、実際に売れる水準まで販売価格を下げていくのは仕方ないと思うんです。
ただ、公共不動産としての土地の活用の活性化を考えると、民間不動産の土地との差別化は必須なんじゃないですかね?例えば、ただ価格を下げるのではなく、活用条件を付けて売ることで戦略的価格もOK、みたいなことはできないのかな。こんなふうに使ってほしいです!と、ある程度行政の側で方向性をつけるような。
条件をつけて公募すること自体は、事例があるよね。前回記事でも、岩手県紫波町の町有地分譲で、住宅用途とする場合は紫波型エコハウス基準を満たす条件で公募していたことに触れました。
ニュータウンの外縁の公営住宅を畳むにあたって、もし跡地を宅地として市場に出す場合には、その宅地に建てるべき住宅は環境配慮型の低層住宅として一定の基準を満たすこと、といった方針を定めた経験があります。公的資産売却時に売ったあと市場原理だけで利用をされると、エリア価値に悪影響が出てしまう場合があるので、まち全体の土地利活用の方針を行政があらかじめ定めておく必要があると感じます。
それ賢いですよね、公共不動産活用の文脈で都市政策を実現していくアプローチ。単純に金額を安くして売っているということではなく、政策目的を実現するための誘導施策として特別価格を設定しているということなら、説明が付きやすくなるかも。
小さい宅地の道もひらけそうですよね。需要があればという前提ではあるけど、エコハウス基準などの政策がセットの宅地が増えたら、市全体としてはそれなりのインパクトにつながるのでは。
単純に土地の価格を下げるのか、建築物への補助をつけるのか、誘導施策としてどちらがいいかというのはあるかもしれないけれど、行政が民間に対して、そのエリアの未来像の方向性を示すことが重要だと思います。
実は「普通の土地を探す人が、わざわざ公共DBへ探しにくるんだろうか?」と思っていたのですが、逆に「活用条件付き土地分譲プロポーザル」のように、縛りのある公有地公募を面白く取り上げるというのは、公共R不動産らしいなと思いました。
そうそう、単に「土地の買い手を探す、借り手を探す」というより、こうした「都市政策とセットになった公共不動産活用プロジェクトを一緒にやる民間事業者公募」として考えるとよいと思っています。
使い手の構想力を刺激するローカルコンテンツ
どんな活用が考えられるか、その手掛かりという点では、僕らもサウンディングの時に、そこが活用されている風景を妄想したイメージスケッチを付けたりしますよね。公共DBの土地も、そういう活用イメージスケッチを付けたらいいかもね。そういうスケッチ作成のメニューの需要もあるかも!
3年間くらいならみんなで取り掛かればネタ切れせずに行けますよ、きっと!(笑)
そういうスケッチを、たとえば地方R不動産にも描いてもらえたりすると、僕たちが妄想で描くよりもっとローカルな事情を捉えて、そのエリアの人に深くささるものができるかも?
そういえば高松さんは以前、「島根県益田市の旧競馬場跡地で乗馬を楽しむ」なんていう妄想を「PICK UP物件」で書いていましたね。
そう!いずれ公営競技場についても取り上げたいんだけど、私、公営競技歴約20年、競馬が好きが高じて自らも馬を飼うほどでして。
実は、この益田競馬場には天才ジョッキーが所属していて、競馬場が閉鎖されるとき、この天才ジョッキーの移籍獲得に向けて多くの競馬場が動いたんですよ。JRA(中央競馬界)がこの選手獲得のために特別ルールを設けるのではと言われたほどで、日本の競馬界が沸き立つ舞台となった場所なんです!そこで、出身ジョッキーが乗った引退馬とともに思いっきり乗馬を楽しむなんて、乗馬好き競馬好きにはたまらないコンテンツだと思う。
高松さんの公営競技場への愛が過ぎる!でもコンテンツとしての歴史がそれくらいあるなら、構想力を刺激される人が出てきてもおかしくないですね。
社会実験や暫定活用の時もそうですが、結局将来の土地利用を考えるときのアプローチは同じですね。使い手の構想力を刺激し、妄想イメージスケッチの「タネ」となる、こうしたローカルのコンテンツ、ヒストリー、プレーヤーなども、物件の周辺情報の一環として発信できるとよいですね。
さて、今回もそろそろ時間ですね。みなさんありがとうございました。
まだまだ「土地」に関する課題や論点は多くあります。「もっと不動産活用の実験をしよう!」と言うからには、実験において何をどのように観測・計測するか、どのような軸で評価するかなども必要です。
また、本編でも書きましたが「土地」と言っても千差万別。地域の特性も敷地の条件もさまざまな個別の要素があり、具体的に話を詰めるには、もう少し細かくケースを分ける必要がありましたね。
しかし「土地」を考えることで、公共不動産全般に共通する論点が見えてきた気がしますし、取り掛かる手掛かりもいくつか見えてきた深掘りだったと思います。引き続き取り上げていきましょう!
前回の「『公共不動産データベース』担当の頭の中」では、使われなくなった公共不動産の中でもかなり悩ましい存在の「土地」を取り上げました。あれこれ考えを巡らしてみた結果、現時点で辿り着いた結論は「もっと不動産活用の実験をしよう!」ということでしたが、今日はこれを題材に研究員のみなさんから話を聞きながら、さらに深掘りしていければと思います。