公共R不動産研究所
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公共不動産活用で「まちを変える」(前編)―潮目が変わる公民連携・公共不動産活用概論

「公共不動産を活用した公民連携プロジェクトは『まちを変える』有効な選択肢のひとつ」と常々語る矢ヶ部研究員。このコラムでは、 公共施設再編や公共不動産活用を、単なる公共サービスの再編やファシリティマネジメントの効率化にとどまらず「まちを変える」視点から捉え直します。前編では、一般財団法人 土地総合研究所の機関誌『土地総合研究』(2024年春号)への寄稿文をベースに、公民連携による公共不動産活用のこれまでと現在の状況をお伝えします。

公共不動産活用で「まちを変える」

公共不動産を活用した公民連携プロジェクトは、「まちを変える」方法のなかでも有効な選択肢のひとつです。今後、多くの地域でますます不動産の低未利用化が進むなか、公共不動産のあり方が「まち」に与える影響は一層大きくなります。例えばひとつの公園のあり方が、公園とその周囲を含む地域の暮らし方を変えるのです。これは実際に起きていることで、不思議なことでも何でもありません。

すべての公共不動産活用が「まちを変える」手段である、とは言いません。ただ、すべての公共不動産活用は「まちを変える」きっかけになり得る、とは言いたいと思います。そもそも気候や都市構造、人口動態の変化により、まちや不動産のあり方も変わらざるを得ません。公共施設の再編と公共不動産の活用は、単なる公共サービスの再編、ファシリティマネジメントの効率化にとどまらず、「まちを変える」という点においても貴重なタイミングなのです。公共不動産活用はもっと地域再編志向を強めてよいはずです。

今後さらに公共空間活用が広がっていくためには、複数の課題を重ね合わせて解く公民連携プロジェクト、さらなる新規プレーヤーが参入できるようなしくみの変革やコーディネート、公民連携・公共不動産活用の価値創造を促すツールが有効だと考えています。そして、公共空間への関わり方の多様な選択肢を生み出すことや、日常性や創発性、さらにはケア的な視点を持つことも大切なポイントになってきそうです。

このコラムでは、公共不動産活用で「まちを変える」ことに関して、こうした仮説を持つに至るまでの論考や、公共R不動産研究所メンバーとの議論、糸口となりそうなアプローチやツールの深掘り試行錯誤を取り上げていきます。

今回はその導入として、今年春にまとめた論考をベースとし、公民連携による公共不動産活用のこれまでと現在の状況を概観します。

公民連携・公共不動産活用の状況を概観してみた

今春、潮目が変わってきた公民連携による公共不動産活用の状況を概観する機会がありました。一般財団法人 土地総合研究所からの依頼を受け、再開発に関連する論考を寄稿することになったのです。執筆するにあたり、再開発と比べるものとして「広義の再開発としての公共不動産活用」としてまとめたのですが、これは「地域再編志向の公民連携・公共不動産活用」の姿を示唆するものでもありました。

そこで、この論考を「潮目が変わる公民連携・公共不動産活用概論」として部分転載したいと思います。

この論考のまとめでは、多くの地域で今後ますます不動産の低未利用化が進む中、公共不動産を活用した公民連携プロジェクトは「まちを変える」方法の有効な選択肢のひとつとなること。従来の狭義の官民連携にとらわれず、多様な新規プレーヤーの参入が必要であることなどに触れ、これを都市ビジョンとそのビジョンが実現するような公民連携プロジェクトとして実装していくやり方が有効であること等々を、なるべくポジティブに論じました。

(もし論考全文にもご関心のある方は、一般財団法人土地総合研究所『土地総合研究』2024年春号をぜひお読みください。「再開発の知見更新の視点 – 地域再編志向の公民連携・公共不動産活用への展開」という題で、マニアックではありますが新たな視点提供が中心となっています)

1.潮目が変わる公共不動産活用

従来の公共不動産活用の文脈
公共不動産の活用は、これまでもPPP/PFI推進アクションプランにおいて、地域価値や住民満足度の向上、新規投資やビジネス機会の創出に繋げるための、官民連携の推進を図る施策とされてきた。公園や遊休文教施設のさらなる利活用が謳われるなど、期待も高い。立地適正化計画において、公共施設の再配置や公共不動産活用は、都市機能の集約・誘導に必要な方策とされる。

民間にとっても、既存の公共施設を用いることで、運用開始までの期間や投資総額を抑えることができる、不確定性の時代に適した手法だ。ただ、公共不動産活用の促進は多くの場合、行政を主語に、行政課題の解決策という側面からその必要性が説明される。解決される課題は行政の抱えるもので、その課題が解決され、地域が変わるという効果が得られる。そのリソースを持っているのは民間であり、だから民間を活用するのだという文脈だった。

低未利用化した公共不動産活用事例の多様化
公共不動産活用は活用事例も多様化し、20年前には想像もしなかったような新たな都市空間が各地に生まれるようになった。公民連携の広がりを感じさせる。

遊休化した公共不動産活用において最もポピュラーなものは学校だ。アートや文化、新たな産業の担い手のための人材育成の場、宿泊機能を備えた研修の場であったり、地域観光などの拠点、酒造りや工場など学校のイメージからは想像もつかないものまで、幅広い活用がされている。学校以外でも、幼稚園・保育園、公民館、図書館、体育館、青少年自然の家等々、施設タイプも様々なものが生まれ変わっている。

元幼稚園の校舎を活用して地元の産物を使った食品加工工場(写真1)は、行政が地域振興と観光産業振興の観点から活用事業者を募集し、民間運営の公共不動産情報プラットフォーム(写真2)への情報掲載をきっかけに民間事業者が応募して出来たものだ。このようなプロセス自体のアップデートも進んでいる。

写真1:千葉県山武市・HAPPY NUTS DAY、筆者撮影
写真2:公共R不動産が運営する「公共不動産データベース」

現役公共施設やPFI手法なども多様化の途上
遊休化した公共不動産活用だけでなく、低稼働の公共施設リニューアルやPFI等による施設整備等の手法も多様化している。街路空間や河川の活用も積極的に取り組まれるようになった。公園は、Park-PFIを活用する動きが一気に広がった。以前の硬直化した状況に比べれば、だいぶ様変わりした印象がある。

過疎地域に自然豊かな公園の環境を生かしたグランピング施設がオープンした例(写真3) では指定管理者制度を応用的に用いるなど、既存の制度を最大限活用し、民間の動きを捉えて地域振興に結びつけようとする積極的なものも生まれている。変化が生まれる地域は、従来の慣行にとらわれず少しずつ実験的なトライを積み重ね、行政・事業者・市民がともに取り組んできたという共通項がある。

写真3:岡山県津山市:ザランタンあば村、筆者撮影

PFI手法の捉え方にも変化が生まれ始めている。内閣府が示した「ローカルPFI」は、地域における多様な主体の参画と連携が効果的であり、地域企業の参画・取引拡大・雇用機会創出、地産材(資材・食材等)の活用、地域人材の育成など、施設・分野を横断した地域全体の経営視点を持つことが必要とされる。これは、これまでコスト削減の色合いが強かったPFIを、広い意味で「まちを変える」方法のひとつとして位置付けたことになるものだ。国土交通省の掲げる「スモールコンセッション」も近しい文脈にあると言える。

「まちを変える」方法の有効な選択肢
公民連携による公共不動産の活用、公共不動産を活用した公民連携プロジェクトは、「まちを変える」方法の有効な選択肢のひとつだ。

公共不動産活用の初期段階では、税収が減る一方で更新費用が増大する中、その対応策として公共不動産の規模縮減がはかられ、遊休化した公共不動産の民間活用がその出口として語られてきた。これが社会ニーズの変化に応じて、必要な公共サービスやまちの機能も変化し再編することが求められるようになった。遊休化したものも現役のものも、いずれの公共不動産もその使い方を変えることで、地域で新たな事業が展開したり、新たな活動が生み出されていくことを促すことができる。行政だけでは解決できないまちの課題解決への有効策となり得ることが分かってきた。

2.不動産の使い方を変えてまちを変える

民間不動産における公共的活用
民間不動産においても公共的に活用する空間が増えてきたことに気づく。私的な空間が過剰なまち、あるいは都市的な活動が希薄なまちに、公共施設ではないが近い要素を持った公共的な空間が生まれることで、まちに変化が起きている。よく見られるのは地域企業が自社敷地につくる公園的空間だが、最近ではまちの水道工事事業者が自社のショールームも兼ねて地域に開いた公衆トイレ(写真4)など、驚く空間も出てきている。

写真4:埼玉県所沢市・インフラスタンド、筆者撮影

営利企業に対する一般的なイメージとは裏腹に、また取ってつけたようなCSRやSDGs、地域貢献といったものではなく、むしろ本業そのものを持続・発展させるために、企業の理念としても事業の戦略としても合理的な選択として行われている。

行政がつくる空間だけが公共空間ではないことは明白である一方、行政空間が行政の私的空間になっていないかを見直す視点も必要だ。本質的なポイントは、その空間がどのように使われているか、地域の公益や持続性、価値創造に寄与しているか、である。

不動産の低未利用化は官民共通
繰り返すとおり不動産の使い方を変えるとまちのあり方が変わるが、まちの大半を占める公共不動産は、特にその可能性を秘めている。ただそれ以前に、そもそも気候や都市構造、人口動態の変化により、まちや不動産のあり方も変わらざるを得ない。

まちは公共不動産だけでできている訳ではない。

多くの地域では今後もますます不動産の低未利用化は進むが、これは民間不動産も公共不動産も同様だ。民間不動産も視野に入れれば、民間不動産市場でも不動産は余ってきている。そこへ公共不動産を考えず市場へ流し込めば、単純に供給過多を招くだけだ。民間不動産と公共不動産で、不動産の使い手を奪い合う構図になりかねない。当該地域の限られた不動産ニーズを単に公共不動産側が獲得しただけでは、そのしわ寄せは民間不動産の遊休化という形で残り、地域課題の解消にはならない。官民関係なく、まち全体を捉える必要がある理由だ。

行政はまちの一大不動産オーナー
その上であらためて、まちの一大オーナーである行政の不動産の使い方がまちに与える影響は多大だ。

ひとつの公園のあり方次第で、周辺地域の活動が変化し、地価形成にも影響を与え、ひいては税収の増減という形で返ってくる。この大きな循環構造を捉えれば、どのような公共不動産であってもその活用方針は重要だと分かる。当該施設内でどのような公共サービス提供がなされるかという活用方針には、さらに当該施設の周辺でどのような効果を及ぼすことを期待するかという視点を加える必要がある。

民間不動産において管理不全土地の問題が顕在化しているが、公共不動産においても管理に手が届かなくなる状況が訪れる。最低限の管理保全はしているもののそれ以上のことまで手が回らずにあるというのも現実だ。体力のあるうちにいかにして破綻しない管理保全が可能となるか、手を打たなければならない。そこに官だ民だと押し付け合う余裕はないというのもまた現場の肌感だ。

民間不動産における試行錯誤
公共不動産を民間不動産と同じように見てみようと言われた時に感じる違和感にこそ、公共不動産活用を進めるヒントがある。もし同じ不動産のように取り扱えたとしたら、どのようなことができるようになるだろうか。公共不動産と民間不動産との違いを適切に認識することも大事だが、違いを乗り越えて有効な方策を探そうとする時、民間不動産の動きから公共不動産にも大いに参考になる視点を発見できる。

特に不動産マーケットが活発ではない地域における試行錯誤には、民間不動産に一日の長がある。更地になった土地、薄暗い空き家を見せるだけでは、単なるスペック情報の比較において選ばれにくい。そんな中で少しでも目に留まりやすくなったり、その利用を考える何かしらのとっかかりとなるような創意工夫をしている。例えば、何らかの事情で手放す不動産オーナーのその家に対する想いやこれから使ってくれる人に向けたメッセージを載せる。その土地のある地域の歴史に触れたり、どういった地域プレーヤーがいるか実際に会って話もできるような視察ツアーを組む。こんな使い方もできるかもしれないというイメージスケッチなど未来を予感できる素材を添える、など。

こうした創意工夫は目新しいわけでもなくすでに手がけている行政もあるし、またどれも直接的な効用を示すには至っていない。ただ、こうしたチャレンジをして動き続ける行政担当者がいるということが、地域特性として受け止められ、結果的に選ばれる要因の一つになっている可能性はある。

3.これからの公共不動産活用等の視点

従来の公共不動産活用が不足する視点
前述のとおり、従来の公共不動産活用は、行政課題から押し出されるように説明されてきた。しかし行政を主語で語る説明には注意が必要で、視点が崩れていることに気づかないケースが散見される。

例えば活用事業者の募集において、なぜこの公共不動産を活用するのかという活用理由の説明に、財政上の理由など行政事情をあてているものだ。行政事情は、当該事業を検討することになったきっかけではあるが、活用理由そのものではない。また「マッチング」や「民間の自由な提案」などの言葉が使われる時も注意を要する。行政側の負担を最小化しようとするあまり、民間へのリスク移転が過大になっていることに気づかないこともままある。

これを避けるためにも有効なのは、この公共不動産活用を通じてどのような効果を得たいのか、どのような暮らしを実現できるまちにしたいのかという視点だ。それを実現する有効な方法として公共不動産活用を選択し、その事業パートナーとなる民間企業を選びたい、という説明が期待される。ひとつひとつの公共施設整備事業や公共不動産活用事業は、その地域そのまちに大きく影響している。行政サービスの部分最適を導き出すだけでなく、まち全体で見た時にもそうなのか、何か別の施策や民間活動への阻害要因となっていないかを確認することができる。

新規参入プレーヤーの多様性
地方自治体の財政難、人口減少局面における課題の多くは、従来の狭義の官民連携にとらわれていては対応できない。行政・事業者・市民がそれぞれの特性を活かし、課題を解決するために最も有効と考えられる連携を実践する取り組みが増えてきた。今後も、地域課題を解決するためそれぞれ地域独自の公民連携が増えていくだろう。

従来の官民連携の形にとらわれず、新たな分野や新たな産業、新たな技術まで視点を広げ、まちづくりを再構築することができる状況になった。災害に強い都市づくり、老朽化した都市インフラの更新・撤去、交通・観光・歴史や、商工に関わるものだけでなく、教育・文化・スポーツ、健康・医療・福祉をはじめ、農林水産、デジタル、エネルギーなどの分野へと広がった。その視点は都市部のみならず中山間地域も含めた国土計画を捉え直す視点まで高まっている。民間においても、これまでまちづくりという言葉とは縁がないと思われてきた分野からの参入が相次いでいる。こうした状況を捉え直す視座は『都市の多様性とイノベーションの創出に関する懇談会』の中間まとめ(2019)にもあるとおりだ。

また、多様性の確保だけでなく、限られたリソースから最大限の効果を得るため、複数のイシューを重ね合わせる考え方が効果的だ。図書館、美術館、博物館などの社会教育施設の複合化が進む背景でもあるし、また学校給食センターや市庁舎の一部などにもこのような複合的な視点と取り組みを重ねて課題を解く動きが出てきている。ひとつの建築物になっただけで動線もセキュリティラインも綺麗に区分された単なる合築や複合化でも、効率化の観点だけの一体的な管理でもなく、それぞれ所管するテーマを重ね合わせながら、サービスのあり方や組織のあり方も含めて再編する視点が欲しい。

暫定的・段階的な進め方
新規参入が増える状態とは、公民連携による公共不動産活用事業の実績のないプレーヤーが次々に参入してくるという状態だ。従来の公共事業における受注実績は問うことが目的に逆行することはすぐ分かる一方で、まったく公民連携に関する経験がないまま参入することもまた手放しで歓迎できないことにも気づく。すべて官民の対話で対応できるほどの行政リソースもなく、結果あらゆるトラブルを事前に想定した分厚い契約書が準備されることにもなりかねない。

公民連携がさらに広がり経験値が上がっていくまでの移行期に、公共不動産の暫定的・段階的な進め方は、行政・事業者・市民が公民連携の経験を小さく積んで行けるプロセスにも適している。

例えばトライアルサウンディングは、自治体が保有する公共施設や土地などの有効活用を模索するために、民間事業者に暫定的に利用してもらい、その間に事業の集客力や施設との相性、立地の使い勝手などを実地で確かめることができる社会実験的な取り組みだ。実施すること自体は難しいものではなく、リスクを限定的にするからこそ実施でき、行政・事業者・市民にとって有効な方法だ。そして、新しい都市政策や公民連携の実施に向けたトレーニングでもあり、場のポテンシャルやプレーヤーを引き出し育てていくプレイスメイキングでもあると言える。

参考:『新都市』2023.4掲載の「トライアルサウンディング概論 実験的なプロセスとして戦略的に実施していくために」
(写真は蒲原トライアルパーク、筆者撮影)

これからの公共不動産活用の視点
これまでの経緯から、公民連携による公共不動産活用を次のように捉えている。

公共不動産活用は、都市政策に紐づいたミッションを持つ公民連携プロジェクトとして取り組もう。都市政策ビジョンと、そのビジョンを実現する事業パートナーの顔が見える公民連携プロジェクトの実装が必要だ。点で終わらず、対象エリアを絞り官民が重層的に取り組み、小さな民間投資が数多く生まれるような公共不動産活用を実現することが必要だ。まちに新たなプレーヤーやアクションが数多く生まれる素地を生み出すよう、周辺の民間不動産と合わせた視野で捉えよう。これは従来の公共不動産マッチングの在り方では対応できない。マッチングよりプロジェクトメイキング重視。地域を巻き込んだ公民連携が前提となる。それは立地をつくる都市政策であり、プレイスメイキングでもある。「まちを変える」方法、つまりこれは広義の「再開発」でもある。

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