研究所立ち上げから1年、そして前回の「話してみた!vol.01」から約半年が経ちました。
今回はゲストを迎え、改めて自分達の動きを客観的に見つめることで、浮かび上がって見えてくるテーマに沿って進めます。
大きく3つのテーマを挙げました。
1. 「公共」を捉える視点を模索する動き
2. 不動産と「まち」を捉える視点を模索する動き
3. 公共空間のみちしるべをつくる動き
自分たちの関心の所在がどこにあるのかを掴みつつ足りないところを確認し、次に取り組みたいことなどへ話を展開していきます。
そして、今回のゲストは宮本恭嗣さんです!
宮本恭嗣
株式会社ENdesign代表取締役
NPO自治経営 関東アライアンス所属
東洋大学PPP研究センター リサーチパートナー
さいたま市PPPコーディネーター
再開発コンサルティング会社在職中に東洋大学大学院公民連携専攻修了を経て株式会社ENdesignを設立。各地で公民連携の仕組みづくりやリノベーションまちづくりに取り組む。会社経営の傍ら2018年4月より現職。公民連携事業の企画立案や庁内の啓発に取り組む。
公共R不動産と宮本さんの接点は旧大宮図書館活用プロジェクトでした。その後も、公民連携を専門領域に、PPPコーディネーターとして活躍されています。
宮本さんにも気づいたことなどをどんどんコメント頂きたいと思います。
それではさっそく始めましょう!
「公共」を捉える視点を模索する動き
まず、研究員それぞれの関心から「公共」を捉える視点を模索し続けてきました。
道路空間を中心とした「コモンズ」の実践と考察を進めた内海研究員の公共空間を耕す人々シリーズや、アートが拓き可視化する公共空間・都市空間に着目した松田研究員のアート・都市・公共空間シリーズ。公共空間は自ら関わってつくりだして行かないと消えてしまうものだということが、あらためて大切な視点として見えてきたと思います。
また、公共空間の複数性・寛容・包摂・ケアに関する言及も多かったと思います。まちの構造的な変化、あるいは公共空間そのものの変化の中で、マイノリティやジェントリフィケーションなど、こぼれ落ちてしまいがちなことをどのように捉えたらよいか。公共空間の公益性と事業性のバランスをどのように考えればよいかなど、研究員それぞれの視点から模索されていたと思います。
■公共空間を耕す人々
道路空間を中心とした「コモンズ」実践と考察
・vol.1 公共空間を耕す人々
・vol.2 不完全だからおもしろい「歩行者用道路」
■アート・都市・公共空間
アートが拓き可視化する公共空間・都市空間
・「言い訳」が必要な公共空間のアートとその可能性
・第四の台座に何を載せるか/トラファルガー広場のパブリックアートから公共空間を考える
■複数性・寛容・包摂・ケア
都市・経済の構造変化/ジェントリフィケーション
・読んでみた!vol.2 もんじゃの社会史 東京・月島の近・現代の変容
・公営競技場をひらく/玉野競輪場にみる公営競技場の最前線とは
・読んでみた!vol.3 “遊び”からの地方創生 – 寛容と幸福の地方論 Part2
・読んでみた!vol.5 ケアのロジック – 選択は患者のためになるか
公園の経済性と寛容性については僕も関心が高いです。その話題提供として、自宅近くの公園の話をしますね。
数年前にこの公園がリニューアルされたとき、築山遊具の下が(写真1枚目)デコボコな地面にされたんです。そこに貼られた紙には(写真2枚目)、注意喚起とともにホームレス対策で凸凹をつけたと書かれていて愕然としました。もともとホームレスがいるような公園ではなかったのに、なぜこうした対策が必要だったのか?このデコボコによって子どもが転ぶ危険が高まり、実際に僕の子どもも転んで鉄柱に頭をぶつけそうになりました。ホームレス対策という不寛容さと子どもに気をつけて遊べという理不尽さに頭が来て、人生で初めて役所にクレームを入れました(笑)
恐らく他にも似たようなクレームがあったのでしょう、数カ月後には再整備され(写真3枚目)平らになっていました……
寝転べないように手すりのついたベンチなど(排除ベンチ)、実質的なホームレス対策はこれまでも見てきたけど、「ホームレス対策」と書いたストレートな貼り紙ははじめて見た!
もうひとつ話題を提供すると、僕は初代東京都公園緑地課長の井下清さんという方を尊敬しているのですが、彼は東京市の時代から一貫して公園行政に携わり、東京の公園の基礎をつくった方です。
特筆すべきは、公園にあるありとあらゆるリソースを使って稼ぐ「公園独立経済」という考え方を提唱して実践していたことです。戦前の東京の公園は、Park-PFIなんか目じゃないくらい凄いことをやっていたんですね。
さらに驚くべきことに、彼は単に稼げば良いということではなくて、「利用者本位の公園論」も同時に唱えていて、公園を最も「楽園」と感じているのは浮浪者だからと、彼らへの思いやりも示していたそうです。先ほど紹介した公園を彼が見たら怒るでしょうね。
それ、ぜひこんど研究所に寄稿してください!
寛容性や経済性といったテーマは、まだ言葉になりきらない肌で感じていることも含めて慎重にすくい取って丁寧に進めていかないと、すぐに信念対立に陥って前に進めることが難しくなる話題でもあります。それを自覚しながら、引き続き模索していきましょう。
わかりやすい上澄みだけすくっている、とも捉えられるのではないか。ハンナ・アーレント、アンリ・ルフェーブル、斎藤純一、篠原雅武ら公共空間論のど真ん中を通らなくてはいけないのではないか……など、あえて批判的な視点でこれまでの記事を眺めてみることも必要かもしれないです。
確かに王道を扱わなくていいのだろうかという迷いはありました。とはいえ、僕たち自身が公共哲学をど真ん中で扱うのも現実的でない気もするので、他の人の論を借りるところと、掘りあげていくところを分けたいですね。
不動産と「まち」を捉える視点を模索する動き
公共不動産データベース担当の頭の中は、公共不動産の物件カテゴリーを切り口に議論を進めるシリーズでしたが、その目線は敷地・施設にとどまらず、あたりまえのように「まち」との関係へ広がっていきました。
■公共DB担当の頭の中
不動産の使い方を変えるとまちが変わる
・#01 ポピュラーなカテゴリー「学校/廃校」の話/研究員のアディショナルノート
・#02 もっと不動産活用の実験をしよう‼︎「土地」/研究員のアディショナルノート
・#03 社会の多様性を現す最先端「社会教育施設」/研究員のアディショナルノート
・#04 民間のパブリック空間
記事を書きながら、少しずつ自分たちの基本スタンスや概念整理(PPP導入)を整えてきた感があります。
最初から狙っていたわけではないけど、こうして見ると、物件カテゴリーにかこつけて、公共不動産活用を都市政策とセットの公民連携プロジェクトとして読み替えることを進めてきたのだと気づきました。
資本主義のゲームの中で考えるのか、外に出るのかはっきりしたほうがいいのかもしれません。僕たちは通常、資本主義のゲームの中で合理的なふるまいを求められるわけですが、公共R不動産でとりあげている事例は必ずしもそういったものではありません。「公共空間活用って稼げてんの?」「稼げてなさそうなこういうプロジェクトって民間としてやる意味あんの?」「経済的にも成功事例って本当に言える?」みたいなことを考える人もいる中で、公共R不動産としての立場をはっきりしてもいいのかもと思いました。
この記事があることで、手放しのPPP礼賛ではなく、目的に応じた公民連携の形を探そうとしているということが伝えられる気がしていますし、既存のPPP手法への批判的な議論もできるようになりました。
行政が財政難と人材不足で提供できなくなる公共サービスを、市場から効率的に調達できるならしようよというのが狭い意味でのPPP(官と民の連携)とされています。でもPPPは、行政への依存でも民間事業者への丸投げでもないんですよね。地域・市民も含めたトライアングルで考えないと、なんかおかしな議論になってしまう。
僕は市場から調達できるならしようよというスタンスですが、別の形であっても事業の持続性は大切です。AかBかという理念的な二項対立ではなく、複数項の組み合わせやバランスで捉える現実的な視点を提供することはできたのかなと思っています。
海外のPPPの動きと日本のPPPの動きを比較しても面白いかなと思いました。ヨーロッパで民営化された水道事業が再公営化されたなどの話が出ますが、これは単純に公営に戻ったのではなく地域が参加する民主化の要素もあると捉えているんですね。こうしたことも、トライアングルで捉えることで議論の土台にできるし、もっと色々見えてくると思います。
海外の事例も書いてみたいですね!やってみようかな。
海外の先進事例もよく紹介されるけど、参照したあとどうなったかフォローされていないことも多いので、そのあたりもきちんと追いかけたいですね。
ちなみに先日の研究員打合せでは、今後扱ったら面白いのではないかという素材としてこんなネタが出ていました。国内・海外問わず、引き続き探って行ければと思います。
◯引き続き進めてみたい素材
・特異特殊な空間:体育館、高架下、etc.
・時間・プロセス:暫定用地、契約可能時期、etc.
・まちへ開く :行政施設、文化施設、etc.
・あきらめない :駐車場、etc.
公共空間のみちしるべをつくる動き
そして2023年度の後半から一気に立ち上がったシリーズが、公共空間のみちしるべをつくりたい 「Public Space Chart (仮)」妄想会議です。公共空間を評価する手法を考えてみる、というプロジェクト。より楽しく、面白く、自由に使える公共空間の、解像度を上げた先に見える公共空間の風景。多様な公共空間のあり方を俯瞰的に眺める、みちしるべが欲しい。そんな思いで手探りで進んできました。
■Public Space Chart (仮) 妄想会議
より楽しく、面白く、自由に使える公共空間の解像度を上げた先に見える公共空間の風景
・#01 :PSCの構想、公共空間の新しい評価手法の必要性
・#02 :既存の評価手法のレビュー、目指すもの、5つの宿題
・#03 :具体例、量的・質的、主体により異なる、コミュニケーションツール
・#04 :パタン・ランゲージをもう一度読んでみる
◯第4回での構造図
公共空間評価の取り組みや話題はいろいろあると思いますが、宮本さんからはどう見えていますか?
成果連動型民間委託契約方式(PFS:Pay for Success)などの議論でも、成果指標の設定とその評価測定についてはホットな話題になっていますね。そのほか各所でも評価手法に関する議論はたくさん起きていると思います。
こうした議論の中で、定量的に測定可能にすることは大事なのだけれど、そうすることで価値が経済性に引き寄せられがちだという点は、確かに気になっていたのでPSCの課題意識には注目していました。
僕は見えにくいものを見ようとする、起きている事象の濃淡を可視化するところに強い関心があるので、観察観測が不十分なのに価値づけを急ごうとする動きにはブレーキをかけてしまうんですよね。アウトプット/アウトカムの整理ももちろん大事なんだけど、その前にそもそも何が起きているのか見えていないことが多い気がしていて。その見落としてしまいがちな部分にもちゃんと光が当たるようにしたいというのがPSCの大切な部分なんじゃないかな。
まずは自分たちの課題意識に基づいて一気に走ってきました。第4回では、公共空間版ウィキ、公共空間版パタン・ランゲージ、公共空間評価の3つに分けてみたわけですが、ここからどうやって進めていくか。あるいはもっと違うアプローチがあるのか、振り返る必要もあるのかもしれません。
実際にプロトタイプをつくって、やってみないと分からないことも多いです。また、これを進めるためのリソースも必要になってきます。
研究開発資金を調達するにしても、方向性を検証するにしても、まずは既存のものも活用しながら最小限の費用で小さくやってみた方が分かりやすいところはありますね。またこうした検証を一緒にやってくれる賛同者を集めることも必要かもしれません。
開発段階に入る手前で、例えば書籍やリーフレットを作成してステートメントをまとめるとか、そんなアウトプット制作に向けて動くやり方もあるかもしれません。PSCだけでなく、これから研究所自体もいろんなことに取り組んでいくにあたり、「僕たちはこんなリサーチができます、是非やりませんか?」といった提案型の動きもやっていきたいです。
引き続きまた進めていきましょう!
僕たちの関心の所在とこれからの動きかた
さて、研究所の1年を、大きな3つのテーマに沿って振り返りました。
研究員がそれぞれの関心に基づき「公共」を捉える視点を模索し続けていること、公共不動産を不動産にとどまらず「まち」との関係を視野に入れて捉えようと模索し続けていること、そして多様な公共空間のあり方やまちとの関係を俯瞰的に眺めるみちしるべをつくろうとしていること。そんな様子が見えてきました。
しかし、連載最初の「公共R不動産研究所、はじめます。」と照らしてみると、まだ端緒にすぎないことも自覚します。僕たちが向き合い取り組む対象の広さと複雑さを認識しつつ、どこをアップデートすることが必要だと考えているのか、あらためて整理することが必要になってきたタイミングである気もします。
そして今後、さらに対象を深めたり解像度を上げたり、視点や方法論を磨いたりしていくことが必要で、そのためには、一緒に取り組んでくれる仲間を増やしたり、実際にトライできる場を増やしたり、必要な資金を得たりすることなどが必要であることも見えてきました。
妄想や予測も織り交ぜて、ボールを未来へ投げなければ、新しいこと、新しい空間は生まれません。これからもコツコツ、すぐに結論は出ない断片的な素材を少しづつ記録しながらオープンな場で議論を積み重ねて、次なるプロトタイプや提言に繋いでいきますが、さらに積極的に提案・プッシュもして行きたいです。
僕たちから「こういう実験的な取り組みやリサーチをしたい!」という投げかけをしていきます。
もちろん皆さんからの「一緒にこういう取り組みはできませんか?」という僕たちへの投げかけも、是非是非お待ちしています!
研究所の記事は結論を出すことを目的にしていないので、僕たちが日々感じとっている課題感や悩ましさが浮かび上がっているような気がしていますね。
宮本さんの関心はどんなところにありますか?