ポジティブな雰囲気や期待を生み出す場所に
まずは、研究所を続けてきてどんな反応や変化がありましたか?
「新しいことを始めたんだね」という反応があって、自分たちが思う以上に大きなことを始めたように思われているのかも?と思いました。期待感が高いというか。
僕の記事もすごく読んでもらえて、それがきっかけになって声をかけてもらった話もあったりします。
内海さんの「耕す」記事はすごく反応があったよね。公共空間活用って、行政と民間事業者による狭い意味での官民連携にフォーカスされがちだけど、市民や地域の力にも視野を広げられる記事でした。
私の周りでは「ゆとりがあっていいですね」「未来に投資できるって素晴らしいですね」という反応を頂きました。実情にゆとりがあるかはともかく、対外的に前向きな姿勢を示せているのは良いと思っています。
自分の周りだと、公務員の人たちには、公共R不動産のメンバー個々の顔が見えるのが面白いと思ってもらえているみたい。専門分野ではない友達でも、記事の写真を見て面白がってくれている印象があるな。
研究員の顔イラストも描いてもらったしね。また記事や記事の中に出てくる研究員のコメントから、ひとりひとりの関心の所在が見えてくるというのも親しみを持ちやすいのかな。
大学時代の友達から、今は全然違う仕事をしているけど、昔は確かにこういう本を読んでいたよね、みたいな反応がありました。このメンバーでやっていることって大学のゼミみたいな感覚があって、書評で取り上げた「もんじゃの社会史」も、大学院入る前に読んだものだったので、残してきた宿題を36歳になってやっている感じです。
積み残した宿題って、なぜか必ず大きくなって戻ってきますよね……、人生……。
個々の興味を掘っていくと公共R不動産で関わっているプロジェクトにもつながる、というのもよいよね。例えば、アートや文化についての研究が愛知県のプロジェクトにも繋がるとか、玉野競輪場の記事を書いたことで、唐津市にある競艇場活用についてさらに議論が深まるとか。
研究所という箱があることで調査や実験の話なども頂けることもあるし。こうした蓄積を今後は公共R不動産のプロジェクト・プロデュースにも生かしたいですね。
研究所と名乗るからには、プロジェクトなどを通して、現実の公共空間に影響を及ぼせるのが理想だと思いますが、そこにはまだまだ至っていない。これからだぞ、と言う自分への叱咤も含めて。
この研究所は「設立趣意書(のようなもの)」にもあるとおり、どんなテーマも持ち込める「書庫」として始めていて、相互の関連や議論が深まってくるのはゆっくりでもいいかなぁくらいの気持ちだったけど、各自それぞれの手応えがあるというのは嬉しいですね。
研究員によるインタラクティブな議論の場、「話してみた!」シリーズ始動
お互いの記事で影響を受けたものはありますか?
私は、矢ヶ部さんの「土地」の回。公共不動産データベースをやっているからこその視点だし、みんながずっとこの悩ましい「土地」をどう扱えばいい?と思っていたところから、新たなビジネスチャンスの芽も見えて、ブレイクスルーに繋がる視点があったと思います。
僕は、松田さんの第四の台座の記事。「アートと公共性」はゆくゆくは自分も触れたいテーマです。僕は身近なところから書きますが、松田さんは象徴的な場所だけどすごく具体的な事例からボールを遠くに投げる書き方が新鮮でした。
岸田さんのもんじゃの記事。「インフォーマル」な人たちの居場所について周りからの反応もあったし、自分自身もモヤッとしていたところを言語化してもらった感じがある。公共空間がクリーンになっていく中で、追いやられてしまう人たちの居場所をどうするのか、というところを議論できるキーワードになる気がした。
高松さんの公営競技場。これは今まで公共空間という視点で見たことがない領域だったけど、もしかしたら道路や公園よりも公共性が高いのではと考えるきっかけになりました。いわゆる公共空間ではなさそうな場所が実は公共性を帯びている。そんな視点の発見は、公共R不動産研究所の意義があるかなと思うところです。
記事同士がつながりを持ち始めましたね。岸田さんの記事で出た「インフォーマル」は、高松さんの「公営競技場」の話と重なりますし、内海さんの「耕す」や松田さんの「第四の台座」の記事にあった市民や地域への視点は、自分が「社会教育施設」を書く時のヒントになりました。
研究員それぞれの関心や視点が、研究所としての広がりや深まりを生むという点では、「アディショナルノート」という形で、記事を元に話ができたのが大きかったと思います。
ある研究員の記事をもとに、みんなで意見交換した内容をコメントする形で付記したのが「アディショナルノート」方式。最初は松田さんの書評に付けましたね。
それぞれの記事だけでも、皆がそれぞれの視点で「公共なるもの」へアプローチしているのが見えるんだけど、アディショナルノートは特に、本や意匠、公共空間に対する個人的な見え方を持ちつつ、他の人の見え方を共有して話が広がっていくのが面白い。
設計においても、自分なりの感覚や判断でやっている中で、他の人の感じ方を聞くことで自分の身体性が拡張される感覚があって、アディショナルノートでやっていることは、その公共空間版という感じがしている。
思っていたよりもインタラクティブな形で、皆で議論しながら知見をためていけていますね。
自分の興味も広がりつつ、「それも取り扱うべきテーマだな」ということも共有できる。
今後はこれをさらにブラッシュアップしていきましょう!今回の座談会を機にさっそくシリーズ化しようかな。アディショナルノート改め、「話してみた!」コーナーということで。
これからさらに掘り下げたい切り口は?
さて最後に、これからよりホットに掘り下げていきたいテーマや切り口を話していきましょう。
今日あらためてみんなと話している間、自分がなんで公営競技場に興味を持ったんだっけ?と自問してたんだけど、学生時代に中国で再開発を見て回っていた頃に行き着くんだよね。中国の再開発ってすごく強引なところがあって、古来からの文化、風習、人々が集っていた市場や路上麻雀といった風景が一気に消滅することを目の当たりにしたのね。
帰国してから公営競技場などに通うようになって、当時貧乏な学生だった僕でも居心地がよく、良い意味でカオスな雰囲気の中、自然とファン同士の対話が盛んに行われていた空気を感じていたのが、昨今、どんどん施設面だけが綺麗になり、雑多な居場所や風習が失われてしまっている気がする。
今関わっているお仕事で、公営競技場を市民に広く開いていくような構想づくりに関わっていて、その考え方自体は良いことだと思うんだけど、一方で、今までこの場所にいた人たちはどこにいってしまうんだろう?ともやもやした気持ちになっている。そういうところを掬い上げていきたいし、その引き出しを積み重ねていきたいなと。
そこに原点があるのか!僕は日本の再開発は一方的に悪いとは言わないスタンスだけど、確かに再開発が不得意とするところも多くて、その点は批判的です。ただ再開発だけでなくどんな施設にしても、都市や地域のさまざまな課題をその敷地内だけで解くのは無理がある。エリアやまち全体で解くことが必要だと考えています。これは再開発に限らず、公共不動産活用でも民間の不動産事業でも共通して言えることじゃないかな。
インフォーマルとか公営競技場も含めて「市民」と綺麗な言葉でまとめていたものについて、その実態に興味がある人は多そうですね。公的な上位計画ではその一人一人に思いを馳せるのは難しいけど、研究所ではそういうところまで含めて考えていけるのがいいなと思っています。
ラベリングの功罪ですね。「市民」とくくった瞬間に見えなくなるものがある。公民連携の「民」にも同じことを感じています。くくると見えなくなるところをきちんと研究所で扱うのは意義がありそうですね。まちの多様性や寛容性についても取り扱っていきたいな。
矢ヶ部さんの「再開発にだけ悪く言い過ぎじゃない?」という論点は、僕も気になっています。僕も高松さんに近いかもしれないけど再開発に反感を持って育ってしまったので(笑)、その辺を客観的に見られたら面白いな、と。そういう意味では、俯瞰的な視点からの座談会ができると面白いかも。
例えば、「公民連携の『民』と『市民』って違うよね。民って何を指しているの?」という話とか。テキストとして書くと固くなるけど、座談会でワイワイいうくらいがちょうどいいかも。
公共空間で起きていることをどのように観測するか、評価できるか。その視点や指標を今後研究所で提示していきたいという目標があります。少しずつ議論を進めているので、その座談会もやりたいです!
いいですね、さっそく次回から始めましょう!
志を高く持てばまだまだ道半ばの「公共R不動産研究所」。基本的なスタンスは維持しながら、これからさらにどの方向で研究員の議論を重ねていくかが見えてきたように思います。そろそろ研究所の協力者やパートナーを広げていくことも視野に入れていきたいですね。
それではこれからもコツコツ、すぐに結論は出ない断片的な素材を少しづつ記録しながらオープンな場で議論を積み重ねて、次なるプロトタイプや提言に繋いでいきましょう!
公共R不動産研究所が2月に立ち上がり、半年が過ぎました。これまで掲載した記事は15本。ありがたいことに読者からの反応を頂いたり、私たちも自分たちがどんなところに関心があるか、少しずつ見えてきていると思います。研究員の寄稿も一巡したところで、あらためて、研究所を始めた時と今を比較しながら率直にどうですか?などざっくばらんに振り返りたいと思います。新たに見えてきたこと、これからより深めていきたいことも、どんどん話していきましょう。