佐賀の知らない一面に出会える場所
JR佐賀駅の西側にオープンした「サガハツ」。佐賀”発”という意味の地元の魅力を発信する名店と、佐賀”初”となる新規出店の「食」を中心とした商業施設として、居酒屋や日本酒の店、スイーツ店や物販などの店舗が並んでいます。
施設は半屋外と屋内の2つのゾーンに分かれており、屋内ゾーンは白を基調とした明るい空間に、テイクアウトを中心とした日常的な使い方ができる場所。半屋外ゾーンは照度を抑えた無骨なトーンで、お酒を飲みながらゆっくり食事をしたり、仲間と集える場所として親しまれています。
佐賀のまちを歩いて巡る拠点として
クールなデザインの空間にさまざまな人々が集まるサガハツですが、かつての佐賀駅を知る人にとって、この場所の変化はかなりドラスティックなものだったといいます。
佐賀駅の高架下は大きく東側と西側にエリアが分かれています。東側の周辺には市役所やバスターミナルなどの主要な機能が集中して人通りが多いのに対し、西側は日常の動線から外れて人通りが少なく、長らく巨大な空き空間となっていました。
そんななかでサガハツのプロジェクトが立ち上がったのが、2020年春頃。佐賀駅周辺の中心市街地を歩く人でにぎわうまちにすることを目指す「中心市街地活性化基本計画」のもと、佐賀駅南北の駅前ロータリーの広場化やSAGAアリーナの建設といった巨大プロジェクトなど、同時期に佐賀駅周辺で複数の開発計画が進行していました。駅の西側も同様に、空白地帯となっていた高架下をリニューアルすることでまちの回遊をうながす主要ポイントのひとつとし、まちの新たな結節点となることを目指してプロジェクトが始動しました。
高架下にまちの要素をインストール
まずゾーニングについては半屋外と屋内の2つのゾーンによる空間構成となり、質感がそれぞれ明確に分かれています。
西側の一番端にある空間は、一部の外壁を取り壊して半屋外の空間に。南北を自由に行き来できるようオープンにし、整備された駅前広場との相乗効果で駅周辺の回遊性をアップさせています。
半屋外ゾーンのテーマは「屋根のある街」。まず鉄道高架を広い屋根と見立て、その下に街を構成するメインストリート、路地、側道、広場などをインストールするという考え方です。全体的にゆったりとした配置で可変性のある空間なので、コロナ以降でも社会変化に応じて空間の使い方を変えたり、さまざまな用途に適する場所となっています。通路がコンクリート敷きになっていることで「道路」や「ストリート」を想起させ、よりパブリックな質感をもたらしていることもポイントです。
約4,500㎡という巨大な空間なので、全体はオープンエアのまま店舗ごとに壁をつくり空調を入れていくことで、初期投資とランニングコストを抑えられることもメリットとなっています。
屋内と半屋外エリアの間にある広場は、佐賀県庁のパブリックスペース「S-FLAT」となっており、今後は運営会社と県が連携しながら展示やイベント、マルシェなどの企画が行われていく予定とのこと。
もうひとつの広場「SAGAHATSU SQUARE」はさらに面積が広く、キッチンカーが出店したりイベントが行われたりするスペースです。コロナ禍を経てキッチンカーの業態が増えてきました。いつ予想外の変化が起こるかわからない昨今、床を店舗空間で埋めつくすのではなく、多様化する出店側と利用者側のニーズに適応できるようになっています。
床の石畳は「にじみ出しゾーン」として各店舗から1メートル以内であればはみ出してもOKとされています。屋外席を置いたりテイクアウトの商品を並べることで、各店舗のにぎわいが外にも広がっていくことが狙いです。
高架下のダイナミックな躯体を生かした
マテリアルとグラフィックデザイン
続いて、空間デザインの詳細を見ていきましょう。
半屋外ゾーンは天井も柱も剥き出しで、インダストリアルで無骨な雰囲気に仕上がっています。コンクリートや石畳、フェンスなど屋外で使われているマテリアルを用いて高架下のダイナミックな構造を引き立て、効果的なサイン計画とグラフィックデザインで全体のトーンを引き締めているのがポイントです。
全体的に照度が低い空間に黄色いネオンサインが目を引き、ストリートのいたるところにはダイナミックにサインが描かれています。高架下らしい無骨な質感のなかにキャッチーな雰囲気も醸し出すという、グラフィックデザインがもたらす効果の大きさを感じます。
人々が行き交う、新しいまちの風景に
このように高架下の特徴を最大限に生かして、デザイン的、経済的、運営的な工夫を組み合わせて誕生したサガハツ。オープンをきっかけに西側に新しい改札が設けられ、東西南北、駅にもまちにも開かれた場所となりました。
かつては人の気配がなかったこの場所に、学生たちが集う姿や仕事帰りにお酒を楽しむ人など新しい風景が生まれ、誰でも自由に過ごせるパブリックな場所として機能しています。
2023年春にはSAGAアリーナがオープンしました。サガハツも今後は佐賀市内の繁華街との連携が生まれる可能性を秘めています。SAGAアリーナやSAGAサンライズパーク、佐賀市文化会館、佐賀駅前広場、そしてサガハツなどはすべて徒歩15分圏内。あらゆる拠点が誕生したいま、佐賀の中心地の動きに注目が集まっています。