公共R不動産のプロジェクトスタディ
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佐賀駅の高架下が新たなまちの結節点へとリニューアル「サガハツ」

2023年4月、JR佐賀駅西側の高架下に新たな商業施設「サガハツ」がオープンしました。半屋外空間が佐賀駅の南北をダイナミックにつなぎ、ゆったりと通路や広場が設けられた新しいタイプの公共的なスペース。その成り立ちや空間デザインのポイントに迫ります。

佐賀の知らない一面に出会える場所

JR佐賀駅の西側にオープンした「サガハツ」。佐賀”発”という意味の地元の魅力を発信する名店と、佐賀”初”となる新規出店の「食」を中心とした商業施設として、居酒屋や日本酒の店、スイーツ店や物販などの店舗が並んでいます。

施設は半屋外と屋内の2つのゾーンに分かれており、屋内ゾーンは白を基調とした明るい空間に、テイクアウトを中心とした日常的な使い方ができる場所。半屋外ゾーンは照度を抑えた無骨なトーンで、お酒を飲みながらゆっくり食事をしたり、仲間と集える場所として親しまれています。

サガハツ南側の入り口。事業主は「JR九州ビルマネジメント株式会社」。(撮影:ハレノヒ 笠原 徹)
左 半屋外ゾーン。外に開けたオープンな空間に飲食店が並ぶ。店舗のラインナップは佐賀の魅力を発信する地元の店もあり、県内初出店の店もある。(撮影:ハレノヒ 笠原 徹) 右 屋内ゾーン。スイーツ、物販、寿司店などのテナントが入居しており、日常的に買い物ができる。(撮影:ハレノヒ 笠原 徹)

佐賀のまちを歩いて巡る拠点として

クールなデザインの空間にさまざまな人々が集まるサガハツですが、かつての佐賀駅を知る人にとって、この場所の変化はかなりドラスティックなものだったといいます。

佐賀駅の高架下は大きく東側と西側にエリアが分かれています。東側の周辺には市役所やバスターミナルなどの主要な機能が集中して人通りが多いのに対し、西側は日常の動線から外れて人通りが少なく、長らく巨大な空き空間となっていました。

そんななかでサガハツのプロジェクトが立ち上がったのが、2020年春頃。佐賀駅周辺の中心市街地を歩く人でにぎわうまちにすることを目指す「中心市街地活性化基本計画」のもと、佐賀駅南北の駅前ロータリーの広場化やSAGAアリーナの建設といった巨大プロジェクトなど、同時期に佐賀駅周辺で複数の開発計画が進行していました。駅の西側も同様に、空白地帯となっていた高架下をリニューアルすることでまちの回遊をうながす主要ポイントのひとつとし、まちの新たな結節点となることを目指してプロジェクトが始動しました。

佐賀駅の正面。佐賀の玄関口としてロータリーが新たに整備された。画像提供:JR九州ビルマネジメント株式会社
左 佐賀駅西側のビフォー。外壁によって閉じられ外との繋がりがうすく、人通りが少なかった。 右 解体後のスケルトンの様子。駅を支える鉄骨コンクリートの柱が並ぶ。

高架下にまちの要素をインストール

まずゾーニングについては半屋外と屋内の2つのゾーンによる空間構成となり、質感がそれぞれ明確に分かれています。

西側の一番端にある空間は、一部の外壁を取り壊して半屋外の空間に。南北を自由に行き来できるようオープンにし、整備された駅前広場との相乗効果で駅周辺の回遊性をアップさせています。

半屋外ゾーンのテーマは「屋根のある街」。まず鉄道高架を広い屋根と見立て、その下に街を構成するメインストリート、路地、側道、広場などをインストールするという考え方です。全体的にゆったりとした配置で可変性のある空間なので、コロナ以降でも社会変化に応じて空間の使い方を変えたり、さまざまな用途に適する場所となっています。通路がコンクリート敷きになっていることで「道路」や「ストリート」を想起させ、よりパブリックな質感をもたらしていることもポイントです。

約4,500㎡という巨大な空間なので、全体はオープンエアのまま店舗ごとに壁をつくり空調を入れていくことで、初期投資とランニングコストを抑えられることもメリットとなっています。

南北自由通路。人々のにぎわいや往来を生み、駅前広場とつながるメインストリート。(撮影:ハレノヒ 笠原 徹)
高い天井と柱が並ぶ空間の東西南北には開放的なストリートが走る。広場は公園であり、お店があって路地もある。まるで小さな町のようにも感じる。(撮影:ハレノヒ 笠原 徹)
施設のフロアマップ。左側が半屋外ゾーンで、右側が屋内ゾーン。

屋内と半屋外エリアの間にある広場は、佐賀県庁のパブリックスペース「S-FLAT」となっており、今後は運営会社と県が連携しながら展示やイベント、マルシェなどの企画が行われていく予定とのこと。

もうひとつの広場「SAGAHATSU SQUARE」はさらに面積が広く、キッチンカーが出店したりイベントが行われたりするスペースです。コロナ禍を経てキッチンカーの業態が増えてきました。いつ予想外の変化が起こるかわからない昨今、床を店舗空間で埋めつくすのではなく、多様化する出店側と利用者側のニーズに適応できるようになっています。

北側にある広場「SAGAHATSU SQUARE」。ここでイベントが行われたり、キッチンカーが入ることもある可変性の高いスペース。週替わり、月替わりで変化を持たせ地域の人も日常的に楽しめる。画像提供:JR九州ビルマネジメント株式会社

床の石畳は「にじみ出しゾーン」として各店舗から1メートル以内であればはみ出してもOKとされています。屋外席を置いたりテイクアウトの商品を並べることで、各店舗のにぎわいが外にも広がっていくことが狙いです。

店舗の前に敷かれた石畳が「にじみ出しゾーン」。上手く活用することでオープンテラスのようなにぎやかな雰囲気に。画像提供:JR九州ビルマネジメント株式会社

高架下のダイナミックな躯体を生かした
マテリアルとグラフィックデザイン

続いて、空間デザインの詳細を見ていきましょう。

半屋外ゾーンは天井も柱も剥き出しで、インダストリアルで無骨な雰囲気に仕上がっています。コンクリートや石畳、フェンスなど屋外で使われているマテリアルを用いて高架下のダイナミックな構造を引き立て、効果的なサイン計画とグラフィックデザインで全体のトーンを引き締めているのがポイントです。

全体的に照度が低い空間に黄色いネオンサインが目を引き、ストリートのいたるところにはダイナミックにサインが描かれています。高架下らしい無骨な質感のなかにキャッチーな雰囲気も醸し出すという、グラフィックデザインがもたらす効果の大きさを感じます。

左 ロゴやサイン計画など、グラフィックデザイン全般を手がけたのは、株式会社レイデックスの明石卓巳さん。(撮影:ハレノヒ 笠原 徹) 中 ガラスに覆われた柱。柱の質感や補強材を象徴的に見せながら、補強材に直接手が触れないよう安全面を担保するための工夫。(撮影:ハレノヒ 笠原 徹) 右 ロゴの角度はフェンスの角度を意識してつくられている。細部にまでデザイナーの創意工夫が行き渡る。(撮影:ハレノヒ 笠原 徹)
屋内ゾーンと半屋外ゾーンをつなぐ通路。屋内ゾーンは白を貴重としたシンプルな空間デザインで、半屋外ゾーンとは質感がガラっと変わる。(撮影:ハレノヒ 笠原 徹)

人々が行き交う、新しいまちの風景に

このように高架下の特徴を最大限に生かして、デザイン的、経済的、運営的な工夫を組み合わせて誕生したサガハツ。オープンをきっかけに西側に新しい改札が設けられ、東西南北、駅にもまちにも開かれた場所となりました。

かつては人の気配がなかったこの場所に、学生たちが集う姿や仕事帰りにお酒を楽しむ人など新しい風景が生まれ、誰でも自由に過ごせるパブリックな場所として機能しています。

(撮影:ハレノヒ 笠原 徹)
撮影:Open A

2023年春にはSAGAアリーナがオープンしました。サガハツも今後は佐賀市内の繁華街との連携が生まれる可能性を秘めています。SAGAアリーナやSAGAサンライズパーク、佐賀市文化会館、佐賀駅前広場、そしてサガハツなどはすべて徒歩15分圏内。あらゆる拠点が誕生したいま、佐賀の中心地の動きに注目が集まっています。

サガハツ 公式HP
https://www.jrkbm.co.jp/sagaeki-koukashita/

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