DX化が進む2024年の上海
2024年4月、上海を訪れました。ニュースなどで中国のDX化がすごいと聞いていた通り、すっかりキャッシュレス社会になっていて、まちのインフラはほとんどアプリで管理されていました。
電車に乗るにも、レストランで食事を注文するにも、買い物をするにも、とにかく何をするのにもアプリが必要なので、都市部ではスマホがないと生活していくことはほぼ不可能な状態。たとえスマホがあっても、Googleなどアメリカ系のサービスは禁止されているし、中国国内の電話番号がないとアプリを使えずタクシーやライドシェアが呼びずらいし、レンタルサービスも使えないし、外国人旅行者にとってはかなりハードルが高い国となっていました。利便性が高い一方で、ある意味ではスマホが使えない人や外国人旅行者を排除しているなぁとも感じつつ、この強引ともいえる推進力があるからこそ、これだけIT化が進んでいるのかもしれません。
なんでもデリバリー!なライフスタイル
DX化が進む上海のまちで、特に驚いたのはデリバリー文化でした。アプリでいつでもどこでもなんでもデリバリー。まちはバイクの配達員で溢れていて、ホテルやオフィスのロビー、駅近くの路上などに受け取り専用ボックスが至る所に設置してあります。日本でもUber Eatsの配達員はよく見かけますが、その数は比ではありません。
地元の人によると、必要なものがあればとりあえずアプリで注文。食べ物はもちろん、ペン一本、ケーブル一本といった小さなものひとつだけでも、なんでも注文して即入手するというスタイルが一般化しているそうです。最近はネットスーパーも普及していて、生きた海鮮類もアプリでピッと注文すれば1時間も経たないうちに自宅に届く。アリババが運営する高級ラインのネットスーパーが大人気なのだそうです。
国内最大級の上海図書館東館
図書館の本もデリバリー
そんな上海では図書館の本もデリバリー(オンライン貸出)しているというのです。2022年にオープンした上海図書館がDX化していると聞いて訪ねてみました。
7階建てで、面積は約11万5,000㎡、単体の建築物としては国内最大の面積を持つ図書館です。公式サイトによると、「図書文献情報資源、科学技術創新研究開発資源、社会科学シンクタンク研究資源、上海地理情報研究資源を一体化させた大読書時代スマート複合型図書館」と紹介されています。
「研究」というテーマの通り、館内はすごく静かでリサーチや作業に打ち込むには最適な環境。手に入りにくそうな業界誌や専門誌も揃っていたり、古書のレファレンスサービスもあります。来館者はもくもくと集中しながら机に向かってパソコンで作業したりタブレットを読み込んだりしていました。
地下や1階にはカフェがあったり、上階には講演会用ホールや展示スペース、3Dプリンタのスタジオ、会議室などいろんな機能を備えていますが、まちと接続したり賑わいや交流をうながすという側面よりも、従来の図書館サービスをITで進化させている印象で、各自パソコンやタブレットに向かっている巨大なコワーキングスペースにも見えました。
図書館のエントランスには大きな自動予約貸出機があり、館内に入らなくてもアプリで予約した本が受け取れるようになっています。そして最近では上海市内であれば指定の場所まで本を郵送するサービスを始めたそうです。本の貸し出し自体は無料ですが、別途配達料はかかります。返却は図書館に直接返却するか、宅配便を利用することも可能とのこと。利便性が徹底的に追求されています。
電子書籍(E-books)も盛んで、東館を含む上海図書館共通の電子書籍サービスでは、22万冊が取り扱われています。東館には大量のタブレットのレンタルボックスが設置してあったのですが、ほとんどのデバイスが出払ってボックスはほぼ空の状態。電子書籍の需要の高さがうかがえます。
民間企業と連携した音声サービスの提供
もうひとつ気になったのが音声コンテンツです。エレベーターホールや館内の所々に本の表紙とならんでオーディオブックのQRコードが置いてあり「本を聞こう」とプッシュしてありました。
音声配信プラットフォームとも連携していて「ヒマラヤ(喜馬拉雅/ Himalaya)」という音声コンテンツのアプリに飛ぶQRコードも館内のいたるところに設置されていました。ヒマラヤは上海が本社のユニコーン企業で、中国で6億以上のダウンロード数を誇る巨大プラットフォーム。公共施設内に民間企業のパネルが積極的に打ち出されているのは、日本ではあまり見ない光景です。目的は市民に情報を提供することであり、既存の民間サービスとうまく連携していく。目的に向かってまっすぐ推進していく中国らしい合理性を感じました。
ほかにもサービスのDX化がいたるところで見られました。日本のファミレスにあるようなロボットが館内を動いていて、書名や作家名を伝えるとその棚まで連れて行ってくれます。まるでロボット司書のようです。本の扉に貼ってある蔵書管理用バーコードをスキャンすれば、そのまま貸出手続きが完了したり、無人の返却ブースに本を入れると機械が本の仕分けをしていたり、本館のエントランス前のタッチパネル式のボックスにはオススメの本の表紙が並んでいて、それを押すと本が出てきたり。それらはすべてWeChatのアプリによるミニプログラムで管理されています。
DX化が進む上海で日本の未来を考える
上海図書館東館が象徴するように、上海のまちでは徹底的に利便性を追求したIT化、DX化が進んでいます。インターネットとスマートフォンによって、ほぼ他人とは非接触で日常の最低限のことがまかなえてしまうほどです。
ただ、デリバリーの話でいうと、上海でこんなに盛んになっているのはIT技術の進化はもちろんですが、やはり中国にはまだ安い労働力があるからだと思います。地方から上海に出てきた人が最初につく仕事のひとつが配達員なのだそうです。しかし、いまドローンやロボットによる配達実験が日々進んでいるというので、いままちを駆け巡っている大量の配達員たちはいずれいなくなるのかもしれません。
いつか日本でもドローン配達が一般化したら図書館でも本がデリバリーされる日が来るのか。はたまた、そんな頃には紙の本を読む人はほとんどいなくなってしまうのか。今後の図書館の役割は、上海図書館東館のように情報提供の利便性を追求していく一方で、人と人とのつながりや五感に訴えるような価値創造、課題解決の機会を提供していく、その両方が必要になっていくのではないか。この巨大な図書館を眺めながら、日本の少し先の未来を想像していたのでした。
参照:
上海図書館
https://www.library.sh.cn/
図書館DXによる、利用者が利便性を感じるサービス:上海図書館東館を事例として
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsik/33/4/33_2023_036/_pdf
中島彩
米国オレゴン州ポートランド州立大学コミュニケーション学部卒業。ライフスタイル系メディアとreallocal山形を経て、2018年よりOpenA/公共R不動産のメディアチームに参画し、編集や執筆を行う。旅を通じて世界や全国の図書館や公共空間に触れ、発信することがライフワーク。