公園・道路・河川・高架下の一体整備
場所は、浅草と東京スカイツリーのちょうど中間地点。墨田区北十間川周辺のエリアです。
今回、北十間川・隅田公園観光回遊路整備事業として主に整備が行われたのは、東京都(一部、墨田区)による「北十間川親水テラス」、墨田区による「隅田公園」と「コミュニティ道路」、そして東武鉄道による鉄道高架下複合商業施設「東京ミズマチ」と、隅田川上の高架下歩行者通路「すみだリバーウォーク」です。
墨田区でこのプロジェクトを担当した、公共施設マネジメント担当の戸梶大さん、福田一太さん、都市整備課の田村知洋さん、浮貝忍さん、道路公園課の笠木勇祈さんにお話しを伺いました。
オリンピック・パラリンピックに向けて動いたビックプロジェクト
東京スカイツリーと浅草。この東東京の二大観光地は、鉄道(東武スカイツリーライン)ではつながっているものの、隅田川を挟んで動線が断絶されているという課題を抱えていました。
また一方で、北十間川護岸と東武鉄道高架はどちらも耐震補強工事が必要、隅田公園は樹木や施設の老朽化といった、ハード面での改修が必要な状況でした。
事業のエンジンとなったのは、2020年に開催予定となっていた東京オリンピック・パラリンピック。世界中から観客が来日するこのタイミングで多くの外国人観光客が訪れることが予想されます。そこで、東京スカイツリーから浅草までのエリアをひとつのまちと捉えるため、その中間地点である、隅田公園・北十間川という公共空間を核としたリニューアル計画が動き出しました。
拠り所となった「Vision Book」
プロジェクトは動き始めたものの、河川は東京都、公園は墨田区、高架は東武鉄道と、関係者が複数に渡り、なかなかスムーズには進みません。
拠り所となったのは東京都・墨田区・東武鉄道が共同で作成した「Vision Book」(2017年)でした。ありがちな調整会議だけでは、淡々と個別に整備がされてしまう。それを危惧した東武鉄道が主導して、関係者でビジョンを共有するため、ビジョンミーティングを立ち上げこの一冊をつくりました。
浅草とスカイツリーを連携・回遊する歩行者ネットワークの創出や、水辺と街が一体となった賑わい空間の形成など、整備の上で大事にするポイントや骨子についてまとめられています。
墨田区の戸梶さんは「複数の主体が並行して整備を進める上で、考え方や目指すべき方向性を確認する、重要な一冊になった」と言います。
その後、墨田区と東武鉄道の間でお互いに職員・社員が交換派遣されるなど、組織間の連携を強化する体制が整えられました。墨田区内でも部署横断のプロジェクトチーム※が結成され、とりまとめを担う組織ができていきました。
※プロジェクトチーム・・・墨田区企画経営室1人+都市整備部2人により、公共施設マネジメント担当内に結成
福田さんは東武鉄道から墨田区のプロジェクトチームへ派遣された一人。
「当時の人事はかなり急なものでした。ただ、この人事があったからこそ、よりプロジェクトを力強く前進させる体制になったと思います」
ハード先行から活用へ
墨田区のプロジェクトチームができたことにより、単なるハード整備にとどまらず、公共空間を積極的に”活用する”という考え方へ風向きが変わっていきました。
そこで、まとめられたのが「北十間川周辺公共空間の活用方針」(2018年)。整備コンセプトをまとめた「Vision Book」に対して、活用に関する考え方を示したものです。
この活用方針の策定は墨田区のプロジェクトチームが主導し、行政・町会・商店会・個人の方々とのワークショップを重ね、地元の人々の考えも反映されました。区民が日常を過ごす風景こそが観光資源だ、という考えのもと、公共空間が人々のサードプレイスとなることを目指しました。
この活用方針が、具体的な整備と現在の活用にも反映されていったのです。
公共空間活用を進めるにあたって、2018年から株式会社POD(事業協力者として(株)水辺総研・(株)博報堂)が「北十間川・隅田公園周辺におけるエリアマネジメントのあり方検討業務」のコンサルティングとして参画。エリアマネジメントのノウハウ提供や活用のためのスキーム構築、水辺活用協議会の運営サポート、広報などの支援がありました。
「私たちとしても初めての試み。このチームに協力してもらったことはとても心強く、プロジェクの中でも大きなポイントでした」と戸梶さん。
整備コンセプトを示した「Vison Book」と、活用の考え方を示した「活用方針」。それぞれに拠り所となる考え方を本としてまとめたことで、複数の関係者が同じ方を向きながらプロジェクトを進める大事なツールになっていたようです。
水辺・高架下・公園を一体的につなげよう
ここで、リニューアル整備のポイントをご紹介します。
その1 高架下商業施設(東武鉄道)と公園(墨田区)をつなぐコミュニティ道路
もともと、鉄道高架と公園の間には車道が通っていましたが、歩行者専用のコミュニティ道路に転換し、店舗と公園が一体的な風景を生み出しています。
実はこのコミュニティ道路は廃道としたわけではなく、あくまで車道としての機能は残しつつ、警察と協議の上、終日車両通行規制をしています。その方が調整のハードルが低く、店舗の搬入出や緊急時対応にも支障をきたさないというような工夫がありました。
その2 大胆なオープンスペースを設けた隅田公園
木々が鬱蒼と生い茂り、少し暗いイメージさえあった公園でしたが、活用方針に基づき、イベントなども利用しやすいよう、大胆にオープンな空間をつくりました。高架に接する南側にゆったりとした芝生広場と、キッチンカーが乗り入れられる舗装広場が整備されています。
さらに、屋外電源を5箇所設置したり、舗装広場の地面に単管を立てられる固定補助金具が仕込まれていたり、活用を前提とした目線での整備がされています。
整備を担当した浮貝さんは、
「これらは今回の整備に限らず、汎用性を高めるためにあくまで既製品を使うことも意識しています。これからの公園の標準装備になるといいですよね」と語ります。
その3 水辺に滞在空間をつくる親水テラス(東京都(一部、墨田区))
高架から北十間川側には、水辺にも気持ちの良い滞在空間を設けるため、護岸耐震補強と合わせて親水テラスを整備。高架下の一部区画は河川区域にも含まれるため、河川区域を民間でも利用できる規制緩和策である「都市・地域再生等利用区域」を墨田区(河川管理者)が指定。高架下店舗と水辺空間の一体感を可能にしています。
その4 鉄道橋梁に寄生する遊歩道 すみだリバーウォーク(東武鉄道)
隅田川両岸の浅草と隅田公園をつなぐ遊歩道。回遊事業を実施するにあたり動線整備が不可欠とのことで、東武鉄道が計画から工事まで1年ほどの急ピッチで実現させました。河川上の施設となるため、河川法の河川占有準則の特例を適用。既存の橋梁を生かしたため占有手続きも迅速に進めることが可能になったとのこと。
その5 賑わいの核となる高架下商業店舗 東京ミズマチ(東武鉄道)
高架の耐震補強に伴い整備した高架下商業施設。両サイドに隅田公園と親水テラスに接するため、どちらにもエントランスや開口部を広く設けるなど、公共空間と一体となるような設計がなされています。また店舗間には貫通路を設け、公園、店舗、親水テラスを動線的に繋ぐような配置計画となっています。
「コミュニティ道路を日常的に歩行者専用とするための警察協議、高架下の店舗と店舗の間に公園と親水テラスを行き来できるような貫通路の整備、水辺活用協議会の設置など、日常的に公共空間活用がしやすいような整備や制度面での調整にはいくつも工夫を重ねて、人々が居場所として使えるような空間をつくりました」
と、整備を担当していた田村さん。
また、整備にあたり、景観に統一性を持たせるためのデザインガイドラインを作成。デザイン面でも、墨田区・東京都・東武鉄道の官民が共有できるツールをつくって意思統一をしました。
風景としての一体化や動線がシームレスにつながっていることが、一体整備だからこその大きなポイントです。
官と民がビジョンを共有し、それぞれに役割を果たす
戸梶さんに、今回の官民連携のポイントを伺うと「お互いがそれぞれの役割を果たすこと」と言います。
Vision Book・活用方針・デザインガイドラインなど、目指すべき将来像の方向性や考え方を、議論を重ねて形にすることで、官と民の連携体制を築く。その上で、今回の一体整備は、河川は東京都(一部、墨田区)、隅田公園は墨田区、高架下とリバーウォークは東武鉄道、それぞれに整備費用を負担しています。
ビジョンは共有しつつ、費用負担ははっきり。スピード感をもってプロジェクトを勧められた要因でもあります。当たり前のようですが、なかなかできない一つの理想的な公民連携の形だと思います。
2020年にオープンした各施設。オープン後には子供から大人まで多世代の方々が足を運び、のびのび過ごす気持ちのいい場所になっています。
後編では、リニューアルオープン後の隅田公園のマネジメントについてご紹介します。