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タイ・バンコク the COMMONS | 公園のような半屋外の商業施設

新連載「PARKnize(パークナイズ) -公園化する都市-」の海外編。都市のあらゆる空間を「公園」と見立てることで、その場所の魅力や可能性が拡張するのではないか、という仮説のもと、世界や全国のパークナイズの事例をご紹介します。今回はタイ・バンコクの商業施設「the COMMONS」についてお届けします。

タイ・バンコクの商業施設 the COMMONSの共有スペース

バンコクの中心街から車で30分ほどに位置するトンロー地区。大通りから一本小道に入ると、緑豊かな建物が見えてくる。

急速な都市の発展によって建物が密集し、緑地や人々の居場所が減少しているというバンコク。高級住宅地であるトンロー地区も例に漏れず、いくつもの大規模な再開発が周辺で進むなか、地域の人やワーカーたちが集うための空間やコミュニティを守っていこうと、2016年、地域密着型の商業施設としてthe COMMONSがオープンした。

商業施設とはいえ、この施設の主役は共有部。商業の要であるテナントの面積はわずか40%に抑えられ、半屋外の共有部が表通りから2階まで立体的に繋がる。明確なメインエントランスはなく、前の通りから自然と中に引き込まれるように施設へと入って行く。開放的で、曖昧。緑が豊富で、流れる風が心地いい。

表の通りから迷い込むように施設に入っていく。
バンコクの郊外にある商業施設the COMMOSの開放的なエントランス付近
正面が大胆に開かれ、立体的に各階をつなぐ空間構成。

訪れたのは6月で、バンコクは夏真っ盛り。ホテルや商業施設など、室内はどこもエアコンがキツく体が冷え切ってしまうが、ここは実に過ごしやすかった。オープンエアーで、自然の風がそよそよ入ってくるし、天井には巨大なファンが回っていて、適度に風が撹拌されている。屋根の下で風が抜けると、高温多湿の地域でもこんなに快適に過ごせるのだ。

半屋外の共有部を囲むようにテナント空間がある。各階に設置された大きなファンが風を撹拌する。各テナント空間には空調がある。

利用者が快適に過ごせる居場所づくりもポイントだ。共有部の床は幅が広いウッドデッキの階段で構成されていて、段差部分にはクッションが置かれ、ゴザが敷いてある。通路でもあり、ベンチでもあり、舞台のようでもある。もちろん施設内のいたるところにテーブルや椅子も設置されている。

みんな自由に自分の場所を確保して、施設内の飲食店で買ったものを食べたり、PCを広げて作業していたり、上階の小上がりのスペースではお昼寝をする人もいた。みんなが自分の居場所としてリラックスして過ごしている。それはまるで公園のような風景だった。

バンコク郊外にある商業施設 the COMMONSの共有部
共有部の大空間。階段に座ったり、テーブルで食事をしたり、過ごし方はさまざま。
施設のいたるところにベンチやテーブルがある。
最上階にある小上がりは足を伸ばしてリラックスできる。

the COMMONSはテナントもグラフィックや建築も独自のトーンがあって、言ってみればすごく「おしゃれ」な施設だ。デザインはときに人を排除する(と個人的に思っている)が、ここでは人を選ばず、緊張させることなく、誰もがのびやかに過ごしているのが印象的だった。

まちに空間を開放するスタンス、そして内と外の境界の曖昧さが寛容でリラックスした雰囲気をつくっているのだろう。いつまでもここで過ごしていたいと思う空間だった。

最上階の小さな広場はイベントスペースになっている。
北タイ産の豆を使ったスペシャルティコーヒーを提供する地元のコーヒーショップ。
ローカルを意識した人気の飲食店が集まるフードコート。
植栽の緑が豊かなthe COMMONSのエントランス
緑に包まれたエントランス。このデザインと寛容性の絶妙なバランスに緑も一役かっているのだろう。

the COMMONS Thonglor
https://www.thecommonsbkk.com/thonglor

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