民間提案制度とは、民間事業者からの提案を求める事業リストを行政が公表し、関心を持った民間事業者が企画提案できる仕組みです。近年では、いくつかの自治体での制度導入が徐々に始まっていますが、今回ご紹介する津山市の「たかたようちえん」はまさにその制度から誕生した事例です。津山市での民間提案制度の導入に関わり、「たかたようちえん」開業までのプロセスを民間事業者の方と伴走した、財産活用課の川口義洋さんにお話を伺いました。
津山市では、平成27年に策定された「津山市立教育・保育施設再構築計画」により14の市立幼稚園が廃止されました。そこで令和元年に津山市で導入した随意契約を前提とした民間提案制度に基づき、廃園のひとつである旧高田幼稚園の活用案を募集。すると、市内の人気のパン屋さん「パンの店 IKEPAN」(以下IKEPANさん)から移転先店舗として活用できないか相談があったそう。
そんなきっかけで2021年1月15日に開業した複合施設「たかたようちえん」は、マスターリース契約をしたIKEPANさんを中心に、店内焙煎のコーヒーショップ、岡山県内の作家の作品などを扱うギャラリー、絵本を読んだり靴を脱いで遊べるコミュニティスペースから構成されています。
「民間提案制度活用の核は”Common(共有空間)”づくりが核」だと川口さんは言います。だからこそ行政の伴走が大切だと考える川口さんは、提案書作成はじめ様々な面でIKEPAさんの伴走役を務めました。そのプロセスの中では、単に場所を貸すのではなく、公共性を持った取り組みにしていきたい相談もしたそうです。
IKEPANさん側も、幼稚園の歴史やストーリーを引き継いで新しい場所をつくりたい思いがあり、あたたかみのある幼稚園の建物をできるだけ活かし、地域コミュニティとつながる場所を目指してこのような複合施設になったのだとか。
家賃は公表時点では決まっていませんでした。財産活用課では、今回の案件だけではなく、将来にわたって遊休施設全般の民間活用をスムーズにする条例を策定しようとしたそう。しかし調整を進めるうちにそれは難しいことが分かり、旧高田幼稚園の家賃等の条件調整は個別に津山市議会に提案。その結果、市の基準価格に対して建物は無償、土地は70%減に抑えることができたとのこと。もちろん家賃設定に関しては、どんな民間事業者がどのような用途で借りるのか、ケースバイケースの判断が必要になります。しかし地域でスモールビジネスを始めるハードルを下げるポイントとして、やはり家賃価格は重要なポイントになります。
オープンして間もないたかたようちえんですが、元の幼稚園の外観をそのまま活かした建物だということもあってすぐに地域の方々に受け入れられ、こどもからお年寄りまで日々様々な住民の方が訪れる空間になっているそう。コミュニティスペースの活用など、今後もいろいろな取り組みが期待されます!
写真提供:川口義洋さん