船着場と干潟を持つ都市型水辺の複合施設がオープン
浜松町駅から6分という立地に、2020年10月に水辺の複合施設「WATERS takeshiba」がまちびらきした。ウォーターフロント・浜離宮ビューという立地を活かした上で、これまで劇場四季によって培われた 文化・芸術 のイメージを更に昇華させ、水辺と緑、文化が融合したまちづくりが行われている。施設としては、JR東日本四季劇場[春][秋]、外資系ラグジュアリーホテルであるメズム東京、オートグラフ コレクション、アトレ竹芝、オフィス等からなる。これらの施設が入るタワー棟とシアター棟のあいだには芝生広場のプラザがあり、その先には浜離宮の水面と緑が気持ちよく広がっている。この水辺には、開発にあわせて、船着場と干潟が整備された。
船着場は、定期船と不定期船が両方発着し、浅草、豊洲、お台場、両国、葛西方面などと竹芝を結ぶ水上バスが運航している。また、羽田空港で飛行機から降り、リムジンボートに乗り換えて竹芝まで海を渡り、ホテルにチェックインできるサービスなども提供されている。
干潟は、かつての東京湾の干潟環境の再生や環境教育の場の提供を目的として整備された。干潟では、毎日の潮汐で、海水が満ち引きを繰り返し、満潮時は浅い水域になり、干潮時は全体が干出し、砂の上を人が歩いて観察を行うことができる。近隣の東京都立芝商業高校や東京海洋大学、市民の環境教育の場として使われている他、月一回、竹芝干潟オープンデイが開催されている。ほかにも親子で参加できる、ガイドやハゼ釣りなどを通して、干潟と生息する生物を身近に感じることができる自然観察プログラムもある。
WATERS takeshibaでは、水辺と広場を取り囲むように建築が配置されており、水辺と一体化した広場では、祝祭的な「水辺で乾杯」などのイベント、催し物などが開催されており、普段もオープンカフェのテーブルに座り、ビールを片手に、浜離宮の水辺と森を眺めることができる。その背後には、ジャン・ヌーヴェルが手掛けた電通ビル、コンラッド東京などの汐留高層ビル群が建ち並び、その時代を越えた、また都市と自然が同居するコントラストの大きさが、風景としてとても魅力的なものになっている。近所の住民が散歩で訪れ滞留することも多く、水辺に開かれたラグジュアリーだがフレンドリーでもあるローカルな特性を活かした商業施設として、都市の公共空間のランドスケープを形成している。
本水域は、港湾区域の隣接する河川区域であり、二級河川汐留川となっている。河川管理者は港区であり、建設に関わることは東京都が担っている。本水域の利用は、港区が、河川敷地占用許可準則に基づく都市・地域再生等利用区域指定を活用し、都市再生推進法人「(一社)竹芝エリアマネジメント」に河川敷地占用許可を出し、本施設開発を行ったJR東日本が船着場、干潟の整備を行った。施設等のマネジメントは、「(一社)竹芝タウンデザイン」が行っている。
竹芝エリア自体が現在様々な開発が併設して行われており、昨年、ソフトバンクが入居する「東京ポートシティ竹芝」などもオープンした。竹芝エリアマネジメントは、まちづくりの中で、水辺、広場、道路などの公共空間を利活用しエリアの価値を高めることも行っている。2020年秋、竹芝エリアマネジメントと港区が主体となり竹芝タウンデザインらが加わり、竹芝エリアにおける官民連携プラットフォームとして、「竹芝Marine Gateway Minato協議会」を組成し、公共空間利活用、文化芸術、島嶼振興、竹芝地区PR、スマートシティなどの検討ワーキングを行っている。
都心に出現した竹芝干潟のビジョン
まちづくりにおいて、なぜ、このような干潟が創出されるように至ったか。水辺のまちづくりに際しては、2016年より、魚類、底生生物、水質などに関する環境調査を四季ごとに継続して行ってきた。その結果、竹芝の水域には、ミミズハゼやアベハゼなど東京都の絶滅危惧種を含む多様な水生生物が生息していることがわかってきた。また、防潮堤で囲まれた浅瀬の水域は静かで安定した水域であり、東京湾の様々な魚が産卵を行い、稚魚や幼魚が成長する場として「東京湾のゆりかご」と言えるべき環境であることも見えてきた。
それらの調査結果を踏まえ、地域の大学、高校、市民らと共に、水域の調査体験イベントや地元で水辺の魅力をアピールする展示などを重ね、もともと江戸前の干潟が広がっていたこの水域に市民、官民の協働で、干潟を再生・保全するというビジョンが形成、共有された。干潟を、地域に環境教育の場や、憩いの場、水辺を楽しめる親水空間の場として提供することで、水辺を活かすという立地そのものの魅力がさらに高まり、エココンシャスでありながら洗練されたアーバンデザインという要素が、感度が髙いターゲットに届くのではないかと考える。
竹芝干潟には以下のようなビジョンが設定された。
竹芝干潟は、市民と協働で管理していくことを掲げており、竹芝干潟アドバイザーとして、東京海洋大学水圏環境教育講座の佐々木教授、海辺つくり研究会 理事長の古川恵太氏、水辺総研の滝澤恭平、ココペリプラスの寺田浩之氏、箱根植木の前田瑞貴氏が着任し、干潟の状況をモニタリングしながら、干潟での再生の方向性や市民との協働プログラムについての検討と実施を、竹芝タウンデザインとともに行っている。
竹芝干潟は人工干潟である。交換矢板を海側に立て、干潟の地形を支えている。干潟面の高さは、東京湾の満潮位と中潮のあいだに設定され、海の水が交換しつつ、人が濡れずに歩いて観察できる時間を過ごせるようになっている。ヨシなどの塩性湿生植物からハマヒルガオなどの海浜砂丘草本植物が植えられ、海から陸までの生物多様性の豊かな推移帯であるエコトーンが成立している。これらの植物は、千葉など東京湾限定で種子を採取し、発芽、苗を育てた後、植え付けている。
竹芝干潟の地域・市民協働の活動
竹芝干潟では、地域や市民と協働する干潟として次のような活動を行っている。
まず、近隣の都立芝商業高校との環境教育だ。竣工前から生徒たちとのハゼ釣り調査や、理科の授業での汐留川での生物、水質調査を東京海洋大学との連携で行ってきた。また、「応用経済」という授業では、WATERS takeshibaの水辺、広場の公共空間を使って、近隣の住民に竹芝の魅力をアピールする取り組みを考えるという課題で、半年間生徒たちがグループ別に地域をリサーチして、その成果をJR東日本やPRの専門家、竹芝タウンデザインに発表するという商業高校らしい授業も行っている。
干潟がオープンした2020年の7月には、早速生徒たちに干潟環境を体験してもらう生物、水質調査プログラムを実施した。初めて干潟に触れた生徒たちも多かったが、甲殻類の種の識別・同定などに思わぬ才能を開花する生徒も出現したり、干潟の楽しさに目覚めた生徒たちから「干潟部」をつくりたいという発意があり、現在先生たちとまずは干潟同好会でのスタートの相談をしているところだ。
次に、一般の親子向けの干潟体験イベント「干潟オープンディ」を毎月第二日曜日に行っている。干潟に実際に入り、ガイドによる干潟や生息する生物の観察を行うほか、クリーンナップイベントも兼ねていて、干潟に漂着したゴミを参加者と回収し、漂流物やゴミの分類を通してた環境学習も行っている。好ましくない匂いを発しているグレイの泥の塊は、合流式下水道の雨天時の河川への越流水(CSO)によって、家庭から出た油分が汚物と固まったオイルボールだ。またプラスチック片がどんどん細かく砕かれ、マイクロプラスチックに変化し、生き物に悪影響を与えるであろう様子も分かる。
このように都会の干潟は、海からの漂着物を通して、自分たちがどのような都市に住んでいるのか、都市のインフラ構造と生態系の関係性に思いを巡らせる絶好の教材でもあるのだ。最近の子どもたちはマイクロプラスチックには詳しく、クリーンナップの作業はとても反応がいい。もっと楽しいメニューも用意してある。ハゼ釣り体験では、干潟脇の突堤の上から面白いようにハゼを釣ることができる。竹芝の海はとても多くの種類のハゼが生息しており、江戸前の海であることを釣りを通して体感することができる人気プログラムである。
そして、竹芝干潟での目玉プログラムが「干潟マイスター講座」だ。干潟での自然再生に関する作業を実際に体験してもらいながら、干潟の特性、生物と生息環境、海と陸の関係を学び、干潟の再生技術を身につけ、竹芝干潟の維持管理活動に参加してもらうプロ市民を養成する講座である。竹芝干潟アドバイザーの海洋生物から湿性植物までのスペシャリストが講師だ。
2020年11月に行った第一回干潟マイスター講座では、親子参加を含め15名ほどの市民が集まり、干潟前のオープンスペースで座学を受講した後に、干潟での課題を踏まえどのような自然再生を行いたいかを受講生と議論し、タイドプール(潮溜まり)づくりと陸生のカニ山づくりのチームに分かれて、実際に自らが作業を行い、それらをつくりあげた。海水がなくなってしまう干潮時にも魚が生息できるためのタイドプールは、プラスチックのトロ舟を浴槽のように地中に据え、石で覆ってある。陸側でカニが巣をつくるための少し湿り気のある泥まじりの砂山環境を再現するため、荒木田で砂を多い、倒木や石でカバーしている。受講生の満足度は高く、これらの再生環境はその後の維持管理でモニタリングされている。
竹芝干潟は小さい環境であるが、ウエットな湿生植物、潮上帯の陸生の海浜植物、砂地エリア、岩礁エリアと多様性に富む環境となっている。竣工されてから一年弱の間に観測された干潟の現状と課題を踏まえて、もう少し湿り気のある砂地を増やすなどの細かなハビタットのゾーニングを設定し、モニタリングを通した干潟生態系の管理を続けている。これは順応型管理といい、不確実性を前提にして変化に柔軟に適応した管理を行うことである。竹芝干潟は常に変化があり、都心の真ん中で、そのような海と陸の接点環境の変化を感じるという行為そのものが、貴重な体験価値があるのでないかと考えている。
このような干潟での活動の社会へのコミュニケーションということで、年に一度竹芝干潟シンポジウムを開催している。昨年度はコロナで完全オンラインのウエビナーであったが、芝商業高校の生徒たちも参加し、彼らと対話する中で、干潟の価値を伝えるプログラムも実施した。
さらに国連の2021年から10年間の持続可能な海洋科学の戦略・オーシャンディケードによる国際プログラムであるオーシャンディケードラボラトリーに、竹芝干潟も参加し、7月8日には、国際会議を開催し、世界への竹芝干潟の活動の発信と、香港、台湾、タイ、韓国、バングラデシュなどアジアの海洋教育関係者らと対話を行った。
浜離宮水辺のマチニワ
複合施設に干潟、船着場という意外な組み合わせを持つWATERS takeshibaは、浜離宮前の抜けがある水面と森を借景にした竹芝の水辺の立地特性を活かした施設として、来街者や地域の住民、利用者にとって人気があるようだ。散歩に訪れる人や、ランチ、祝日にはグラスにワインを傾けながら浜離宮水辺にゆっくりと時間を過ごす人びとも多い。月一回の干潟オープンデイは人気で、ハゼ釣り体験や、生き物展示などのイベントを行うと、通りがかりの親子に次の開催予定を聞かれることも多い。
浜離宮の森と静かな内水の海を目の前にして、高層ビルが背景にあり、水辺に伸びやかに広がる風景。その足元に、干潟に降りて砂の上を歩き、ひたひたと押し寄せるさざなみに触れることができる親水空間がある。ランドスケープデザインとしては、手前から奥行きのある多層的な水辺空間を体験し、感じるための、借景の技法と言える。また、景観学者の中村良夫氏は、「ニワ」の起源には、共同の作業の場、という意味があることから、「マチニワ」という概念を提示している。
マチニワは、作業と祝祭的なにぎわいがあり、ハレとケ両面に渡り使われていた日本の伝統的な水辺空間のあり方でもある。将軍が水鳥を狩猟する場であった浜離宮庭園には、潮入りの池があり、潮の満ち引きを感じる場所として、水辺に茶室がある。都市化された江戸で、生物の多様性と潮の満ち引きを感じる場所であったこの竹芝水面が、また新しい都市の施設とインフラによって受け継がれ、再生していく。そんな未来を、地域の人びと共にこのマチニワでつくろうとしている。