再整備計画と連続する社会実験!
今回の道路活用実験の主催は横浜市。そして実施と運営は、「日建設計シビル」「カナコン」「オンデザインパートナーズ」の3社から成るチームが手掛けています。
彼らは、2020年6月に公募型プロポーザル「みなと大通り及び横浜文化体育館周辺道路の再整備に向けたデザイン及び詳細設計委託」を経て、将来の再整備における詳細設計担当チームに選ばれたメンバーでもあります。
実際に道路空間の再整備設計に関わるデザインチームが、その下準備となる社会実験のデザインも請け負うというのはとても理想的。オンデザインパートナーズの一員として運営に関わった、小泉瑛一さん(about your city主宰)に現地を案内していただきました。
今回の道路活用実験で試みられたのは、道路空間の再配分。
「歩きやすいまちづくり」のために車線を減らし、その分を歩道に振り分ける、「交通」のシミュレーションとして、また、拡幅された歩道を「滞留空間」として設え、どのように運用するかのトライとして、「交通」「空間」「運用」という3つの観点から行われた社会実験です。
道路再整備のプロポーザルに当たって、JVチームが掲げていた通りのビジョンは、都市の生態系を担う「触媒のみち」。
このビジョンの実現を目指して、「通りの存在を周知すること」「活用してもらいたい想い」を込め、「Discover your place! あなたの場所をみっけよう!」というコンセプトを設けました。また、そうした背景を知らない人たちにも気軽に参加してもらうために、社会実験の名称(通称)として「みっけるみなぶん」というプロジェクト名が付けられました。
道路は道路管理者(行政)、交通管理者(警察)など、所轄機関が異なり、活用にはハードルの高い場所の代表。そうした中で、それぞれと粘り強く交渉を重ね、安全面の担保を第一にしながらも、1.5kmに渡って車道を縮小し、車道を転換した4ヵ所の利活用空間が誕生。これらの利活用空間は「みなぶんでっき」と名付けられました。
「みなぶんでっき」は既存の車道の駐車帯に張り出す形で設けられています。床は底上げされ、歩道とフラットにつながっています。今回の実験ではその呼び方は使われていませんが、停車帯を滞留空間へと変換する「パークレット」に近い形ですね。
これまでも、停車帯や歩道上をパークレットとして活用する試みは、日本の各都市で行われてきましたが、今回はそれよりもさらに進んで、既存の車道を全面的に歩行者に開放できるかを問うた点がユニークです。また、それが長期的計画(本設計)の下にあるのも重要なポイントと言えます。
ちなみに、実験期間中は、「みなぶんでっき」の設置されていない場所も一律に、カラーコーンや車両防護柵を設置して、車道幅が縮小されています。こうすることで、交通への影響の調査や、車線を削減した時にどんな問題が起きるかの実証をしているそう。荷捌きのための一時駐車スペースの必要性など、様々な課題が洗い出されそうです。
こうした課題を事前に実証しながら、実際の計画に落とし込めるのが、社会実験の価値。
関内駅を境に雰囲気が変わるふたつのエリア
今回の対象地はJR関内駅を挟んで南北に伸びる、1.5kmの区間。小泉さんによると、これだけ長い距離に渡っての社会実験はあまり例を見ないそう。範囲が広い分、街に与えられるインパクトも大きい反面、管理・運営の観点からは結構大変だったとのこと。メンバーが日々、市民からの様々な声に応え、言葉通り「奔走しながら」の3週間でした。
駅の北側は、「みなと大通り」として整備され、歩道もゆったりとしています。沿道には、市民に親しまれる「横浜スタジアム」や「横浜公園」といったパブリックスペースや、「ジャック」と「クイーン」の愛称で知られる横浜のシンボル、「横浜市開港記念会館」や「横浜税関」など、特徴的な機能が並びます。また、関内駅を出てすぐの「旧横浜市庁舎」跡地では、商業、ホテルなどが入った複合的な再開発も予定されていて、今後、人の流れが大きく変わりそうです。
一方、「関内」に対して「関外」と呼ばれる南側は、歓楽街も含む下町エリア。対象となる通りの付近は現状、日中の人通りは少ないですが、「横浜文化体育館」のサブアリーナ「横浜武道館」が2020年7月にオープンしたのに加え、2023年には「関東学院大学 横浜キャンパス」が開設予定。2024年には、メインアリーナとなる「横浜文化体育館」の建て替えも完了予定と、こちらも、これから若い世代や、来訪者による賑わいが増すことが予想されるエリアです。
みなぶんでっき1:テーマ「LIVING」
全長1.5kmの道路に4ヵ所の「みなぶんでっき」を設けるという本実験。さっそく4つの「でっき」それぞれを見てみましょう。
ひとつ目の「みなぶんでっき」は、建て替え工事が進行中の横浜文化体育館の斜め前。現状は歩道に面して工事用の仮囲いが連続し、少し寂しい雰囲気です。公園やコンビニが近いことを生かし、それらの延長のような形で使うことができるように、テーブルと椅子を設けています。
みなぶんでっき2:テーマ「DINING」
ふたつ目は、バルや居酒屋、お蕎麦屋さんなどが立ち並ぶ街路沿い。関内駅にも程近く、「でっき1」から歩いていくと、だんだん飲食店が増えてきました。「でっき1」よりも気軽な雰囲気で、立ち飲み用のバーテーブルなどが設えられています。
配線などを収めるために、車道側に奥行き30cmほどの立ち上がり壁が設けられていて、それがお店の需要に応えるうちに、カウンターとして機能しているのも面白いポイント。
「パブリックスペースは24時間開放すべき」という議論から、夜間も閉鎖せず、家具の撤収もしなかったそうです。家具の破損や盗難なども懸念されましたが、幸い、問題は起きなかったとのこと。むしろお店の備品を持ち出す形で家具が増える、という現象も起きていました。
みなぶんでっき3:テーマ「RELAXING」
関内駅を通り抜け、北側の「みなと大通り」へ向かいます。
横浜スタジアムや横浜公園を抜けてたどり着いた「みなぶんでっき3」は、カフェに面した交差点にありました。緑も多く、ゆったりしたエリアの特徴に合わせて、人工芝や、木の格子の壁、様々な家具などにより、リラックスできるスペースがつくられています。
ここでの、もうひとつの試みが、床面に仕込まれたグリッドと、可動式の家具ユニット。
例えば歩道を拡張整備した時に設置される、車の進入を防止するボラード。現状は、固定されることがほとんどですが、路面にグリッドを仕込むことで可動式にすれば、家具を固定したり、イベントの際には外すことでキッチンカーが歩道に入り込んだりと、柔軟に歩道の活用範囲を調整できます。今回の試みはその将来イメージを喚起するもの。
実際、今回の実験中にも、荷捌きスペースが必要になると、カラーコーンを一部外して対応するなどの経験から、本整備においても柔軟な設計の必要性を実感したそうです。
また、各「でっき」には定点観測カメラが設置され、人の流れを計測しています。このデータ分析は、画期的な店舗分析で話題のEBILABと連携。「でっき」への人の出入り数、滞留導線などを検出し、利用率や高稼働の時間帯を算出しています。ここで得られたデータは、今後の整備計画にも生かされる予定だそう。
みなぶんでっき4:テーマ「MEETING」
さて、いよいよ最後の「でっき4」です。「ジャック」の愛称で親しまれる横浜市開港記念会館の目の前に設置されている、4ヵ所の中でも一番大きいもの。
一角には畳の小上がりも?! 岡倉天心の生誕碑に面しているため、天心にちなんで、和の設えにしてみたそう。一輪挿しなども置かれていて、路上らしからぬ落ち着く雰囲気が生まれています。
「触媒」としての道路を目指して
今回の実験は、4つの「みなぶんでっき」を同じチームがデザインしているため、素材やデザインコードは統一されつつも、場所ごとのキャラクターに合わせて環境を読み解くことで、個性が創出されていました。気候のよいランチタイムに訪れたこともあり、人々が自然と、積極的に使っている様子が印象的でした。
今後、こうした試みを実際の歩道拡張整備につなげるには、さらなる地元市民や事業者の巻き込み方が鍵となりそうです。たとえばサンフランシスコのように、沿道の店舗が自ら設置者となって、パークレットを設置できる仕組みになれば、個性豊かな街・横浜のこと、かなり面白い展開を見せるのではないか、と思いました。
一方で、道路全体をどうマネジメントするかは行政の手腕も問われます。
公募プロポーザルを経て選ばれた再整備計画デザインの詳細については、現時点では、公表されていないのが残念!
今後、ぜひ積極的なオープン化と、市民を巻き込んだ議論を期待したいところです。社会実験を通じて、道路空間活用の具体的なイメージが市民と共有できたことは、今後の政治的な意思決定の場においても強力な武器になるはず。
会期中には、「みなぶんを面白がる会」というワークショップを4回開催した他、屋台を使っての路上ヒアリングを行い、地域の人たちのアイディアや意見が集まりました。また、パブリックスペースの活用に興味のある学生が「パブリックスペースインターン」として参加し、渋滞調査や「でっき」のアクティビティ調査も行うことで、センサーで自動検出する以上の情報も収集できたそうです。
今回得られた実験結果を踏まえ、今後、どんな風に実際の計画や運営に反映されていくのか、楽しみにしたいです!