たくさんの反響をいただいた連載コラム「公共空間のトリセツ」。第1弾公園編、2回目のキーワードは「社会実験」です。
1回目は「基本計画での位置づけ」をお伝えしましたが、そこまでするには色々とハードルが…という声が聞こえたような。
今回は計画をつくる前段階で、まずはやってみよう!と試験的に取り組む「社会実験」という方法をご紹介します。一般的に道路などで使われるスキームですが、今回は公園の事例から紐解きます。
【事例から学ぶ】青森県弘前市「座り場@ひろさき」
弘前市の吉野町緑地公園で行われた「座り場@ひろさき」では、期間限定で緑地公園にカフェが出現しました。ベンチしかなかった公園に、自由に動かせる椅子とテーブルを配置し、仮設のカフェを併設。誰もが自由に座ってくつろげる空間を「座り場」と名付け、公園の居心地をもっとよくすることに挑戦した取り組みです。
2週間にわたり、社会実験の一環として、国土交通省と弘前青年会議所によって行われたこの試みは、どのように行われたのでしょうか?
(事例の詳細は活用中記事をご参照ください:座り場@ひろさき2015)
【出店に至るまでのプロセス】
松田:社会実験ってたまに聞くけど、どういう流れで行われたのかな?
加藤:今回のケースでは、商店街の中心に位置する吉野町緑地公園が閑散としていて、もっと市民に使ってもらうにはどうしたらいいか?地元の青年会議所が悩んでいたようです。
松田:そういう公園って地方にたくさんあるけど、地域の人も課題意識をもっていたんだね。
加藤:同じ時期に、弘前市都市環境部の盛和春理事と、プレイスメイキング研究の第一人者である筑波大学の渡和由准教授が出会い、可動家具を使って居心地の良い「座り場」をつくる活用案が浮上します。さらに、国土交通省でも公共空間の居心地をよくする実証事業の候補地を探しており、この「座り場」を社会実験として行うことが決定したんです。
松田:ちょうどいいタイミングだったんだね。
加藤:今回の事例は国土交通省が主体となって行われた事業でしたが、自治体が自主的に社会実験を行う事業者を募集したり※1、民間から持ち込まれた企画を社会実験としてやってみる、というケースもあり、実現の経緯は様々です。(ちなみに国土交通省では今回のような賑わい創出につながる社会実験を、随時募集しているんですよ※2。)
松田:なるほど。素敵な公共空間活用案があったら、まずは自治体の担当課に相談してみるのがいいかもね。
【裏付けとなる制度】
松田:そもそも社会実験って定義はあるの?
加藤:公園における社会実験に明確な定義はありませんが、道路における定義は国土交通省が定めており、公園にもそれが援用されていると考えられます。
松田:定義はそこまで厳密ではないんだね。それで、実際には何ができるの?特別な法律があって面倒なイメージだけど…
加藤:社会実験のための法律はありません。逆に都市公園法など、その場所にかかる法律や条令による規制が、社会実験という枠組みの利用により一時的に緩和されることがありえます。そもそも規制緩和をすべきかどうかを調べるために社会実験を行う場合もありますね。いずれにせよ、前例のないことを実験的に行う場合が多いので、明文化された法律は用意しにくいのでしょう。
松田:既存の制度を一時的にでも変える可能性があるのはすごいね。今回の実験では何が可能になったの?
加藤:今回実験が行われた公園では、市の条例で「物を販売するものは市長の許可を得なければならない」と定められていますが、社会実験の意義が認められ、市長の許可のもと、カフェなどの出店が、期間中2週間に渡り可能になりました。ちなみに、公園における社会実験では、場所や期間を限定し、実験的な取り組みが行われることが多く、以下のようなフローが一般的です。
松田:実験だから企画立案から実施、評価まで行うのね。PDCA(Plan:計画、Do:実施、 Check:評価、 Act:見直し)サイクルね。
加藤:その通り!評価軸をどこに置くかも重要です。今回の事例においては、地方都市の小規模な公園であることから、必ずしも動員数などの目に見える数字だけを評価の対象にはせず、利用者へのアンケートなどにより、満足度など実験の質的な効果を探りました。
【事業の体制】
松田:社会実験の仕組みはわかってきた。ところで実際に座り場に使った家具とカフェはどうやって設置したの?
加藤:家具は国土交通省が購入し、当日の設置や片付けなどの運営は青年会議所が行いました。カフェの出店は青年会議所のメンバーでもあった地元の老舗喫茶店が移動販売車で行いました。カフェだけではなく、交換型の本屋や、アートTシャツの販売なども行われたようです。
加藤:今回の事例では、社会実験の目的が2つあったと言えます。一つは可動家具やカフェなどのコンテンツが、居場所づくりにもたらす効果を検証すること。もう一つは吉野町緑地公園自体が、自由に使える居心地の良い場所である、という新たなイメージを広く発信することです。この社会実験によって、コンテンツと場所のポテンシャルを同時に検証・発信できたわけですね。
また、吉野町緑地公園は、立地も良く、眺めもいい公園でありながら、今までお祭りなどでもほとんど活用されたことのない公園でした。そういう場所をはじめて使う場合にも、社会実験という枠組みは有効です。
松田:吉野町緑地公園は今後どうなっていくのかな?
加藤:公園の隣には、日本で初めてシードルが作られた吉井酒造煉瓦倉庫があります。過去に奈良美智氏の展覧会なども開催され、文化交流施設としての活用が検討されています。吉野町緑地公園もこの倉庫と合わせて再整備計画が進められています。
奥に見えるのが吉井酒造煉瓦倉庫
松田:カフェもできるのかしら?
加藤:まだ決まっていませんが、吉野町緑地公園の活用方策を探る上で、今回の実験は貴重な成果だったと評価されているそうです。
【まとめ】
今回のケースでは、社会実験を行うにあたり、市長の許可を得て、カフェの設置が一時的に可能になりました。実験によりカフェがあることが居心地のよさの向上につながることが分かり、今後の整備計画における利活用の方策を探っていく上で、貴重な成果となりました。
吉野町緑地公園の事例においては、カフェの設置はあくまで公園の居心地をよくするための要素の一つであり、社会実験の主目的ではありませんでしたが、カフェの設置を目指した社会実験の事例もあります。社会実験を通して、カフェが常設される場合もあり、基本計画策定などのフェーズにない公園でも、社会実験として、一時的にめざす空間をつくり、実績を積み重ねていく、という方法を用いることにより、活用の幅を広げていくことができそうですね。
公園で行われた社会実験には、以下の事例もあります。
「Urban Picnic -Outdoor Library」
※1名古屋市 平成28年度にぎわい広場社会実験(第3期・第4期)」における事業提案者(公園パートナー)募集のお知らせ (平成28年度の募集は9月まで)
※2国土交通省 民間まちづくり活動補助事業者の募集について(平成28年度の募集は終了)