「夕やけ小やけふれあいの里」リノベーションプロジェクト
「夕やけ小やけふれあいの里」リノベーションプロジェクト

都心から気軽に足を運べる自然体験施設「夕やけ小やけふれあいの里」のリノベーション計画がスタート!

公共R不動産では、自治体と協働して公共空間活用を推進するプロジェクトにも関わっています。今回取り上げるパートナー自治体は東京都八王子市。大規模修繕計画のタイミングでリニューアルを検討している施設「夕やけ小やけふれあいの里」のリノベーション基本方針策定支援業務を、二人三脚で進めています。なかなか表には出てきづらい検討段階のプロセスにおいて、行政の方が何を考えているのか、公共R不動産と一緒に取り組むからこそできることは何なのか、を読み解いていきます。

施設の中でも象徴的な建物、夕焼小焼館のブリッジで八王子市の皆さんと。

高尾駅からバスで30分。豊かな緑に囲まれた山道の先に見えてくるのが、八王子市の自然体験施設「夕やけ小やけふれあいの里」。なんとものどかなネーミングは、童謡「夕焼小焼」の舞台であることが由来と言われています。(施設がある恩方地域は、作詞家の中村雨紅の出身地なのだとか)

山に囲まれた「夕やけ小やけふれあいの里」。施設内も植生がとても豊かな場所です。

農業知識の普及と地域振興を目的にした「文化農園」として平成8年に誕生し、一年中四季折々の自然を味わえ、田植えや稲刈り体験、ニジマスのつかみ取り、動物とのふれあい、陶芸や工作などの体験プログラムも楽しめます。テント泊はもちろん、大浴場も完備した宿泊施設や飲食店も利用できるなど、都内にもかかわらず、様々なアウトドアニーズに対応。そばに流れる北浅川は底面が透き通るほど美しく、夏にはこどもたちが浮き輪で泳ぐほど自然豊かな環境に恵まれています。

敷地内に流れる川。夏は川遊びをする人たちで賑わいます(撮影:公共R不動産)。
春から秋にかけてはポニー乗りの体験もできます(撮影:公共R不動産)。

新たな公民連携施設へ 夕やけ小やけふれあいの里のリノベーションに向け、準備がスタート!

3つの大屋根の連なりが印象的な夕焼小焼館。展示の他、陶芸教室などにも使われています。

都心からの利便性や自然環境面でポテンシャルに溢れた施設ですが、近年利用者は減少傾向。オープンから25年も経過すると建物は老朽化し、時代に伴い人々が求めるレジャーや体験の質も変化します。
そんな中、八王子市としても運営方針を見直す契機となったのが、施設の中長期保全計画で定められていた令和6年度に控える大規模修繕ひとつの「体験施設」を超えた、地域をつなぐ新たな「観光拠点」としてリニューアルすべくプロジェクトが始動しました。そのプロジェクトパートナーとして2021年6月に(株)オープン・エー(公共R不動産)がプロポーザルで選定され、協働で基本方針の策定をスタートさせました。

宿泊施設、おおるりの里。電話(時期によっては往復ハガキ)でしか宿泊予約ができない隠れ家的な存在ですが、浴室からの眺めは抜群。(撮影:公共R不動産)

まずは庁内での合意形成を通して、令和4年度中に「リノベーション基本方針」を策定。令和5年度は、サウンディングやスキームの検討などを経て、「リノベーション基本計画」を作成し、令和6年度には公民連携事業者の募集・選定を行うというスケジュールを考えています。公共R不動産は、民間事業者の経営視点と、リアルな現場の運営視点を持ったアドバイスを行います。メンバーは、プロジェクトの特性に応じて体制を構築。今回は、不動産・建築・管理の知識と実務経験を有するメンバーを中心に、外部の専門家とも柔軟に連携し、前例に捉われない新たな取り組みにチャレンジすることを心掛けています。

公共R不動産がこのプロポーザルに手をあげた理由として、山に囲まれた環境の美しさ、植生の豊かさ、しかもそこに都心から1時間半ほどでアクセスできるという圧倒的な立地のよさに魅力を感じたことがありました。今回は、プロジェクトを主導する八王子市産業振興部観光課の皆さんと公共R不動産チームとの対話を交えながら、さまざまなポテンシャルを持つ「夕やけ小やけふれあいの里」のこれからをご紹介します。

敷地内の御食事処「いろりばた」の縁側にて八王子市職員の皆さんと。左から、荒舩翔哉さん、増沢春佳さん、神津崇さん、白石利和さん、馬場正尊、梶田裕美子。

プロジェクトコアメンバー
・白石利和さん(産業振興部観光課課長)
・神津崇さん(産業振興部観光課主査)
・増沢春佳さん(産業振興部観光課主任)
・荒舩翔哉さん(産業振興部観光課主任)
・馬場正尊(公共R不動産)
・梶田裕美子(公共R不動産)

公民連携で観光施設のリニューアルを進める理由とは?

まず話題は、リノベーション基本方針の策定にあたり、公民連携という手段を選んだ理由から。プロジェクト始動初期にまず馬場による公民連携の講演会や専門家による事例を含めた研修を庁内で行うなど、各部署間での目線合わせや合意形成をする下地作りから大切にしていたと八王子市の皆さんは話します。

白石さん「経済性や将来性を考えると、行政だけが公共のあり方をリードする時代ではないと思うのです。特に、これからの夕やけ小やけふれあいの里に求められてるのは、地域内外から長く親しまれる持続可能な観光施設へのリニューアル。民間のみなさんと一緒によりよい事業運営をするために、まずは事業者に選ばれる公募要項を設計したい。そのために、基本方針の策定段階から公共R不動産とプロジェクトチームを組んでいます。公共R不動産とご一緒して驚いたのは、プロポーザルの段階から仕様書には記載のない様々な業務の提案があったこと。指示をして動いてもらう、発注者対受注者というような関係ではなく、民間の知見に立った忌憚のない意見をもらい、こちらのモチベーションも引き出してもらいながら、お互いの役割を生かして一緒に進められています。」

梶田「基本方針の策定を委託せずに、庁内だけで進めている自治体も少なくないと思います。ただ、事業の核となる方針を決めるにあたっては、マーケット感覚も重要です。そこで、方針策定という初期段階から外部の専門家と連携して進めるというプロセスの選択は、必要かつ先駆的だと感じています。そのため私たちも、常に民間活用事業者の視点を大切にしながら、観光課の皆さんとディスカッションを重ねています。」

神津さん「基本方針の作成にあたり、民間事業者の立場から意見をくれる公共R不動産とのやり取りを通じて、すでに公民連携が開始している感覚です。また通常の修繕工事だけであれば所轄課は建築課とのやりとりだけで済んでしまいますが、今回公共R不動産のアドバイスを受けて、複数部署をまたいだキックオフミーティングを開催したことで、庁内に事業を進める仲間ができました。このプロジェクトをきっかけに部署を横断したチーム形成にも力を入れていきたいです」

馬場「このプロジェクトの政策的な位置付けはどこにあるのか?計画を実現するためにどんな部署の関わりが必要になるか?多くの人にとって公民連携が初めてのチャレンジになる場合、まずはそんなことを庁内全体で考えるきっかけや、共通感覚を持つ場づくりが大切だと思っています。なので、公共R不動産で基本方針や基本計画など、施設活用の初期段階の事業を受注した際には、必ずこのようなキックオフミーティングの機会を設けるようにしています」

梶田「施設のリノベーション方針によっては、開発の許可や建物の用途変更など様々な手続きをとる必要が出てきます。何をするにしても、一つの部署だけで完結する公共不動産活用はありません。例えば許可を出す場面において、ジャッジする・されるという上下関係ではなく、より良いプロジェクトにするというひとつのゴールに向かって、それぞれが役割を全うする、自分ごととして相談し合えるチーム関係を築きたいんですよね。」

白石さん「八王子市庁内にはもともと、コンサルなどの民間事業者に丸投げするのではなく、職員が自ら考えることを大切にする文化が根付いている気がします。その良さも活かしながら、部署を横断したプロジェクトチームをつくることも構想中です。資産管理課や土地利用計画課、建築課をはじめ、方針によっては、環境、こども、教育……多様な部署を巻き込みながら推進していきたいです」

馬場「公民連携は、あくまでも”公共空間”である必然性を考えることがポイントになると思っています。民間、行政、それぞれの取り組みが”点”として存在してるのではなく、”面”としてのネットワークと広がりが生まれることで地域全体にうねりが生まれる。民間と行政それぞれの投資がうまく混ざり合える”面”ができると、求心力のある場がつくりだされるのではないでしょうか。恩方地域には、既に様々な民間の取り組みも存在しているので、そうした地域の巻き込み方もこれから考えていきたいですね。

「夕やけ小やけふれあいの里」のポテンシャルとは!? アウトドアレジャーを超えた、「アウトドアカルチャー」の創出へ

まだ検討の最中ではありますが、これまで庁内の様々な方と議論をする中で、少しずつ方向性も見えてきています。令和4年度中に完成予定の「リノベーション基本方針」でひとつの軸と考えているテーマは、「アウトドアカルチャー」の創出です。

施設開設当初からの「農業観光」や「地域連携」の精神を受け継ぎながら、地域資源を多角的な観点から「耕し」「育て」「根差す」ことにより、『カルチャー』としての昇華を図れないか?ひとつのアウトドアレジャーの体験施設から、地域をつなぎ・耕す、アウトドアカルチャーの拠点としての役割を果たせないか?そんな想いを込めています。今回の対話でも、あらためてこのエリアと施設のポテンシャルについて語り合いました。

ゆったりとした芝生広場でくつろぐ子どもたち。

白石さん「この上恩方地域は農業で地域を活性化しようとする取り組みがもともと多く、りんごのもぎ取りやブルーベリーの収穫体験などに取り組んできました。今でいう観光農業のような考え方が昔から根付いている。リニューアルにあたっては、そんなこれまでの地域の文脈を引き継ぎながら新しいことにチャレンジできたらと考えています」

梶田「施設周辺の空き家に作家の方が移住したり、新たな動きが出てきたエリアでもありますよね。もともとの観光農業の文化もあるし、周辺にはハイキングコースもある。そんな地域の観光資源を包括的に考えて、施設がそれらをつなぐハブのように機能する未来を描きたいなと。地域の”点”をつなぐのは公共空間だからこそできる役割のひとつだと思います。これからさらに地域連携も深めていきたいですね」

荒舩さん「僕は埼玉県出身なんですが、八王子市職員になって驚いたのは、東京にもこんな豊かな自然環境が残っていることです。都心からも近いという立地環境の良さに対して、懐かしさを感じるような里山的な自然が残っているところが魅力ですね」

増沢さん「私はやっぱりこの豊かな自然に惹かれていて。そばにある川の他に、施設内にも小川を引いています。もっと生態系が豊かなビオトープをつくったり、学びや体験の要素を膨らませる可能性もあると思っています」

夏の小川。さまざまな植物が生い茂ります。(撮影:公共R不動産)

馬場「勾配の高い山が施設を囲んでいる風景がまずいいですよね、施設内にもすごくワイルドな自然が残っている。とはいえ、単に手付かずの自然なわけではなく、人が丁寧に手を入れて向き合い続けた美しさがある。当時の設計者のこだわりが見える建築物が多いのも面白い。夕焼小焼館の苔蒸した屋根も魅力的だし、ガラスの温室(ふれあい館)なんかは想像力を掻き立てられる余白があって、工夫すれば大化けする可能性があるんじゃないかな」

夕焼小焼館の大屋根。月日と共に苔蒸している。

神津さん「昔、あの温室ではたくさんの種類の植物を育てていたのですが今はやめてしまって。面積的にも大きくシンボリックな施設なので、パーティーやイベント会場にも使えそうだなと、想像が膨らみますよね」

梶田「基本方針が固まったあとは、民間事業者へのサウンディングを行っていくことになりますが、その際に可能性をなるべく狭めたくないという思いがあるので、施設が目指す軸はぶらさず、自由なアイデアが出てくるような与件や要件の整理をしていきたいですね」

以前は苗を育てる温室として使われていた「ふれあい館」。敷地内の段差がスロープで繋がれているユニークな作り

馬場「今回のテーマはアウトドアカルチャーですが、”カルチャー(culture)”と、耕すを意味する”カルティベイト(cultivate)”は同じ語源なんです。さらに、カルティベイト(cultivate)には、”磨く”、”育てる”、”開拓する”という意味も。地域資源をさまざまな視点で耕し、育て、根差すことで、レジャーを超えたアウトドアカルチャーをこの地で生み出す上で、ぴったりな言葉ですよね」

恵まれた自然環境はもちろん、既存の施設をどう活かすか?観光農業の考え方が根付く周辺地域や地域資源でもある事業者や人材とどのように連携するか?ポテンシャルを発揮させるためのポイントも見えてきました。

恩方地区らしいオリジナリティを一緒に考え、施設や地域の魅力を高めてくれるパートナー(民間事業者)と出会うために、これからもさらに検討を深めていきたいと思います。

2023(令和5)年1月28日にはパブリックイベントを開催します。これまで検討してきた内容をもとに、市民をはじめとした「夕やけ小やけふれあいの里」に興味・関心を持つ皆さんにお集まりいただき、当施設の未来を一緒に考えるオープン会議。
詳細は、コチラ(https://www.realpublicestate.jp/post/yuyakekoyake_event/)をご覧ください。

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公共R不動産のウェブ連載『クリエイティブな公共発注を考えてみた by PPP妄想研究会』から、初のスピンオフ企画として制作された『公募要項作成ガイドブック』。その名の通り、遊休公共施設を活用するために、どんな発注をすればよいのか?公募要項の例文とともに、そのベースとなる考え方と、ポイント解説を盛り込みました。
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