前編では、静岡県沼津市の愛鷹運動公園と一体化した泊まれる公園「INN THE PARK」の仕組みや運営の裏側についてインタビューを行い、そこからは行政の協力体制や基本協定の存在、そして行政と公園利用者の間に入ってINN THE PARKが担う“エージェント機能”の役割などが見えてきました。
公園といえば禁止事項が多いイメージがありますが、INN THE PARKの仕組みが作用することで、公園の活用の幅が大きく広がり、かつての都市公園では見られない新たな風景を生み出しています。
前編はこちら ≫INN THE PARKから見る、公民連携と未来の公園像
今回はINN THE PARKと公共R不動産のメンバーが集まり、公園の活用をさらに広げるため、提案会議を緊急開催しました。
コロナ禍で屋外空間の可能性が見つめ直されている今、市民だけでなく、企業が公園活用に参画することで新たなダイナミズムを生み出し、地域への貢献や新しいサービス提供につなげていけるのではないか。公園をフレキシブルに活用できる土壌があるINN THE PARKがモデルケースとなり、新たなチャレンジを企業と一緒に仕掛けられないだろうか。それがヒントとなり全国の公園活用へと広がっていくような、社会に向けた提案ができないだろうか。そんな思いを込めた提案会議です。
ディスカッションには、公共R不動産/OpenAの馬場正尊、INN THE PARK立ち上げメンバーの伊藤靖治さん、大橋一隆さん、三箇山泰さん、公共R不動産の飯石藍が参加。ゲストとして、都市デザイン/地域の産業/企業の研究開発領域の組織や事業づくりなどを専門とし、今月には雑誌『MOMENT』02を発行した株式会社リ・バプリックの内田友紀さんをお招きしました。
・地元企業と一緒に、地域の新しいインフラとしての公園をつくる
・ナショナルブランドなど、企業の新しいサーピスやプロダクトの実験場にする
主にこのようなテーマが立ち上がり、ディスカッションは進んでいきました。公園の活用に興味を持つ企業や団体のみなさま、ぜひ一緒に想像を膨らませながらご覧いただけたらと思います。
新たなチャレンジ。公園に“みんなのステージ”をつくる
三箇山 これまで愛鷹運動公園では参加者2000人を超える規模の映画祭からプライベートなウェディングまで、大小さまざまなイベントが行われてきました。INN THE PARKはその運営サポートをしてきたわけですが、これからは企業が積極的に公園を活用したり、企業とINN THE PARKが一緒になって新しい公園のあり方を模索していけないかと思っているんです。
飯石 より良い公園をつくり、それを持続させるためにも、企業の参画はすごく健全な方法ですよね。海外の公園において企業との連携はとても一般的で、wi-fiやベンチなどファシリティーが提供されたり、スポンサードによって公園の維持管理費が賄われていたりします。
内田 そこには企業が加わることの意味が問われてきますよね。単純に広告価値としてお金を出すのではなくて、INN THE PARKに共感した企業や市民が一緒にその環境をつくるために出資する、そんな関わり方が大切ですよね。
また、日本の都市や公共空間は、経済的な価値や限られた機能性が重要視されがちでしたが、コロナ禍において誰もが自分の暮らす街を見つめ直したいまこそ、公園が本当の意味でパブリックインフラに変化できるときなんじゃないかと思いました。
三箇山 6月23日から7月末にかけて、INN THE PARKでクラウドファンディングのプロジェクトを立ち上げました。INN THE PARKの前の広大な芝生広場に15m×10mくらいの大きなステージを設置するというものです。
まちの中にあるライブハウスや映画館はいま大変な状況下にあります。そのほか劇団の舞台、幼稚園や小学校の発表会のためのホールなどまちなかで密となる機能を屋外空間に移していく。幅広い世代がいろんな用途で使える“みんなのステージ”を、みんなで資金を持ち寄ってつくっていけたらと思ったんです。
三箇山 こうした取り組みがすごく求められていたという感触があります。いま多くの人が屋外空間の可能性を考えていて、アーティストの方々やイベント運営者の方々など、かなり協力的な姿勢を見せてくれています。そして沼津市からもあっという間に許可がおりました。事前に情報提供や懸念点のすり合わせをしていたので、3〜4日という短期間でOKが出たんですよね。このスピード感にはかなり驚きました。
馬場 やはりここでも基本協定を結んでいることが効いているのでしょうね。このような提案に対しても、沼津市は制度に基づいてオフィシャルにOKだと言えるし、INN THE PARKも民間のさまざまな活動の入り口となっていけるし、もっと全国でこの基本協定が結ばれていけばいいだろうと思います。そこにはもちろん行政との信頼関係が必要になってくると思うけど。
伊藤 そうですね。沼津市の場合は、「INN THE PARKに任せられるなら大丈夫」という3年間で積み上げてきた信頼関係があってこそ、この協定がいきているし、信頼関係と制度との両方があって成立するものだと思います。
★INN THE PARK クラウドファンディングの詳細はこちら
地元企業と一緒に、新しい社会的・文化的なインフラをつくる
三箇山 今回はクラウドファンディングサービスを使って資金を広く集めていますが、これからステージをつくりいろんなイベントを行っていくうえで、このプロジェクトに賛同した企業にもぜひ参加していただけたら嬉しいなと思っています。
飯石 お金だけでなく、地元の建設業者にステージの素材を提供してもらうなど、いろんな関わり方がありそうですね。
内田 それすごくいいですね。地元企業とはつまり、街とともに育ってきた存在。仕事も暮らしも豊かになることは、彼らの幸せにも繋がりますよね。地元企業と一緒に地域の公園をつくっていけるモデルができたら、きっと他の自治体の参考にもなるでしょうし、そんな会社なら働きたい人も増えそう。
三箇山 このクラウドファンディングだけでなく、恒常的に地元企業とINN THE PARKが関わっていけたらいいなと思っています。60ヘクタールもある巨大な公園で、まだまだ全然活用しきれていないのが現状なんです。
飯石 B to Cをやっていない企業はINN THE PARKのような宿泊施設と直接的に関わる方法がイメージしにくいかもしれないので、一緒に考える時間をつくっていくことから始めるといいのかもしれませんね。
内田 例えば小さなところからですが、地元企業が使っている素材で、子ども用の工作所をつくることもできそうです。地元企業から廃材を提供してもらい、いろんな素材が集まってくる環境をつくる。以前に山形県鶴岡市の子どもアート施設で見かけて、面白いなと思ったんです。各地域のものづくりって、風土や地理背景など、その土地で行われている理由が意外とあるから、子どもたちが素材を通して気づくこともたくさんあるんですよね。素材提供であれば、企業コラボの入り口として始めやすいかもしれません。
大橋 沼津にはアスルクラロ沼津という現在J3のサッカークラブがあって、地元企業のスポンサーがたくさんついています。地元のスポーツチームをスポンサードするように地元の公園に寄付するというカルチャーができてくるといいですよね。
三箇山 アスルクラロ沼津のホームグラウンドはINN THE PARKに隣接する愛鷹運動公園内にあるので、なにかを一緒に取り組むには最適なパートナーかもしれません。
馬場 サッカーチームでも公園でも、地域のシビックプライドの象徴のような存在になれたら、地域の企業も関わりやすいのかもしれないね。アスルクラロ沼津はすでにそんな存在になっているから企業も応援しやすいのだと思うし、INN THE PARKもそれに似た空気感があるから、行政を含めてコミットしやすい構造ができているのかもしれない。やはりその空間や団体からどんなメッセージが発しられているかということがすごく大事になってくるんだろうな。
三箇山 まさにクラウドファンディングで実践しているように、例えば商店街だったり、学校だったり、映画館やライブハウスのような文化施設など、まちなかで密となっている屋内機能を屋外に持ち出していくこと。それがいま僕たちにできることかなと思うし、スピード感をもって実践できる強みもあります。ステージづくりだけでなく、他にもいろんな方法があるはず。まずは社会的・文化的なインフラを地元企業のみなさんと一緒につくっていくことから始められたらいいなと思っています。
理想とする未来像を体験する実験場に
三箇山 もうひとつの軸として、INN THE PARKでは自分たちが理想とする未来像を体現できるような、実験場のような場でもありたいと思っています。グローバルな視点で、ナショナルブランドを含むいろんな企業と一緒に取り組める余地がまだたくさんある気がしていて。
馬場 すでにエッジの効いたイベントが行われていることからもわかるけど、球体テントが象徴となって、INN THE PARKからは「新しいことにチャレンジしていい」という前向きなメッセージが発信されていますよね。例えばINN THE PARKで結婚式をあげたいという人は、既成のプログラムにはない、新しい結婚式を体験してみたいと思っているはず。そういった“トライアル”というキーワードがあるから、チャレンジングな企業や団体がコミットしてくれる可能性はおおいにあると思うな。
大橋 最近PUBLICWAREというプロジェクトを始めました。PUBLICWAREとは、公園や道路、水辺や高架下などの公共空間や都市の隙間をおもしろく使いこなすためのアイテムのこと。すでに屋台やストリートファニチャーなどつくっている人がいるので、それらの情報を一元化するほか、自分たちでも商品開発をしていて、その設置場所としてINN THE PARKを活用したいと思っているんです。
≫PUBLICWAREのインタビューはこちら
PUBLICWAREの最新作として「BOSAI屋台」というアイテムをリリースしました。災害で停電になったとき避難所でスマホを充電できるソーラーパネルをつけた屋台で、「BOSAI POINT」という企業とのコラボレーションで生まれたものです。これからもっといろんな企業とPUBLICWAREを開発していきたいと思っていて、例えば音楽レーベルと一緒にステージがついたトラックをつくったり、スポーツブランドと一緒にバスケットゴール付きトラックをつくったり、可能性は無限にあると思います。
内田 コロナをきっかけに大小さまざまな企業が、自社のリソースで社会にできることを考えて、実験的なものづくりも始めていますよね。状況が変わったときにどんな役割を担えるか。そんな実験も含めて、まずはINN THE PARKで試して、それがまちの中に出ていく母体のような場所になるということですね。
三箇山 公園の中にPUBLICWAREのようなアイテムが置かれていて、それぞれ子どもの遊具になっていたり、仕事場になったり、いろんな実験が行われているようなイメージです。INN THE PARKでの実験がまちなかに転用されていくようなサイクルが起こせたらいいなと思っています。
飯石 最近、児童公園の存在が気になっているんです。まちに点在しているけど、大人がひとりでいると怪しまれるし、寛容性がうすい場所になっていますよね。もともと児童公園って目的性の低い場所でしたが、コロナ禍で誰もが自分の住んでいる地域に目を向けるようになってその存在意義も変わってきているように思います。
例えばそこにピクニックベンチがあるだけでも、在宅勤務に疲れた大人の憩いの場になったり、地域の人のコミュニティの場にもなるかもしれないし、BOSAI屋台があったらきっと近隣の人は助かるはず。児童公園のような日常的な場所がアップデートされると、きっと暮らしの質感が変わっていくんじゃないかなと思うんです。
内田 公園には、安心・安全という社会インフラと、偶然性による出会いや創造性の喚起という、両方の要素が必要になってくると思います。INN THE PARKから創造性の高いアイテムが生まれて各地へインストールされていったら、まちがすごく楽しくなるんだろうなぁ。
大橋 先日、R不動産の一番のお得意様でありクリエイティブディレクターの佐藤夏生さんと話していたら、面白い概念を提案してくれたんです。インドアとアウトドアの中間を「ミドルドア」と呼ぼうよって。
PUBLICWAREはアウトドアほどではない都市の屋外空間に簡易なハードを整備していって楽しむためのプロジェクト。そこに、例えばアパレルブランドが公園で過ごすのに適したバッグや服をつくったりしながら参画してくれると、「ミドルドア」としてライフスタイルを提案できるんじゃないかと考えています。
飯石 いまベランダガーデナーが増えていたり、「ベランピング」とか「バルコニスト」とかいう言葉もあるみたいですよ。“ちょい屋外”という需要がすごく上がっているので、そこに言葉とツールが定義されたら、あっという間に浸透しそう。公園着だったら、「パークウェア」みたいな?
内田 私もここ数ヶ月で、めちゃくちゃアウトドアや畑をやるようになりました。そしたら前の服が使えなくて、ワードローブが一気に変わったんです。INN THE PARKでパークウェアが貸し出しされたら、すごくありがたい!開発の過程ではスタッフやお客さんにモニターになってもらうこともできそうですね。
三箇山 それはぜひ企業と一緒に開発してみたいですね!
非常事態のいま、制度や法律のゲートが開いている!
内田 畑をつくれる可能性もありますか?
伊藤 十分あると思います。養蜂しようというアイディアも過去に出ていたりしたんですよ。開墾もできるはず。
内田 「食」って万人に関わるテーマだから共感しやすいし、参加するハードルが低いですよね。実験というコンセプトを考えると、アグリテックやフードテック企業とのコラボも興味深いし、食育という切り口もありそう。
馬場 電動キックボードとか電動自転車とか、モビリティーの可能性もあるよね。
伊藤 公園は夜中には使えないイメージがあるけど、24時間使用の許可がとれれば、やれる実験の幅はもっと広がりますよね。
馬場 国交相の道路局が道路活用のガイドラインを出して、社会に大きなインパクトを与えましたよね。公園でも規制緩和や新しいガイドラインが出れば、自ずとおもしろい実験が起こっていくかもしれない。
飯石 公園では営業行為が禁止されているけど、産業を支えなきゃいけないという危機的状況のいまだからこそ、基本協定があるINN THE PARKが特区になれる可能性がありますよね。
内田 これほど制度や法律のゲートが開いている時期は珍しいですよね。いまこそゲリラが求められているのかもしれません。新しい事例をどんどん生み出していけたらいいですよね。
馬場 ゲートが開いてる!まさしくそうだよね。盛り上がりをみせて、社会的な意義も証明されたら、もう後戻りする必要はなくなるもんね。
三箇山 ゲートが開いているいまだからこそ、企業にはINN THE PARKをうまく活用してほしいし、新しいことをやりたい人がどんどん集まってくる状況をつくっていきたいと思います。
ただいま参加企業を募集中です。INN THE PARKと一緒に巨大な公園での新しいチャレンジに興味をお持ちのみなさま、なにかピンときた企業や団体のみなさま、お問い合わせフォームからご連絡お待ちしております!