公共R不動産の頭の中
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ファシリティマネジメントをハブとした公共不動産活用とは?
ー岡山県津山市役所川口義洋さんインタビュー

公共不動産の売却や貸付だけに留まらない、自治体経営に生かす戦略的なファシリティマネジメント(以下FM)とは?岡山県津山市で始まっている、FMが庁内のハブになって実現する新しい公民サービスのつくり方についてお話を伺いました。

2018年、岡山県津山市で発足した財産活用課は、FM推進係と建築営繕係を統括させた新しいチームです。売却や貸付、保全等の従来のFMの発想に捉われず、公民連携の考え方も積極的に取り入れながら公共不動産の管理・活用を推進しています。

例えば、民間事業者のアイデアやノウハウを活かして公共不動産を活用する「民間提案制度」も2019年に財産活用課が立ち上げた仕組み。財産活用課が民間事業者に伴走し、行政側の様々な調整を担いながら、民間提案型の公共サービスを形にする制度です。

この制度では民間事業者の提案内容を知的財産として扱った上で、随意契約をすることが前提です。2020年には民間提案制度を活用した初の事例、廃園になった幼稚園をリノベーションしたパン屋さん「たかたようちえん」がオープンしました。(詳しくはこちらから

今回お話を伺ったのは、そんな財産活用課を主導する川口義洋さん。戦略的な公共不動産活用を加速させるハブとしてのFMの役割とは?

川口義洋さん
津山市 総務部 財産活用課 FM推進係  参事 兼 係長
1971年岡山県生まれ、1995年明治大学建築学科卒業。
1999年津山市役所に入庁し、16年間建築営繕及び建築指導部門の業務に携わる。
2015年FM部門に異動、それ以降、建築の視点から公共施設のマネジメントや公共空間の利活用などに取り組む。
2018年から旧苅田家町家群のコンセッション事業に関わる。
2019年には全国初の取組となる学校断熱ワークショップを企画、実践。
2020年からグラスハウス利活用事業を主導する。
公民連携とFMの両軸で活動中。

指定管理者と新規事業者が連携!阿波に生まれたグランピング施設

津山市財産活用課では、公共不動産データベースにいくつかの公共施設を登録しています。そのうち、「阿波森林公園」には登録後1ヶ月ちょっとで問い合わせがあったことをきっかけに、公園の一部にグランピング施設「ザランタンあば村」が誕生!これまで公園の指定管理を行ってきた阿波養魚組合と、グラピング事業を行う株式会社ダイブが提携するユニークな運営体制が特徴です。

津山市・阿波エリアの山々と渓流に囲まれたグランピング施設「ザランタンあば村」(※写真はザランタンあば村HPより)

「阿波森林公園内にある「ザランタンあば村」は株式会社ダイブがグランピング施設のノウハウをもとに人材の雇用や運営をバックアップし、地域団体である阿波養魚組合と連携しながら事業を展開しています。指定管理者の自主事業として展開しているグランピング事業での収益の一部は、阿波漁業組合に還元されています。

従来の指定管理者が、自ら単体の力で魅力的な施設づくりをするだけではなく、これからはより柔軟な形で、コンテンツを持つ民間事業者と連携できるスキームが作れると可能性が広がります。

今回のケース以外でも、必ずしも民間事業者が単体で公共不動産にフルコミットすることにこだわらず、得意なこと同士でタッグを組むなどの選択肢がもっとあっていいと思うのです。指定管理者制度など、既存の仕組みやリソースの中でも、こうした公民連携の可能性が広がるような活用の仕方を今後も見つけていきたいですね」

制度の運用が一般的になると、逆に「この制度はこういうもの」というイメージや思い込みに囚われて、運用が硬直化してしまうことも。既存の仕組みの中でも、まだまだ公民連携の可能性は広がりそうだ(作図:公共不動産リサーチプロジェクト)

財産活用課がハブになり、地域の公民連携を加速させる

現行制度を柔軟に活用した公民連携を進めることは、民間事業者・自治体双方にとってメリットが大きいはずだと川口さんは話します。民間事業者からの目線では、すでに行政が一定のインフラ整備を行った施設を使うことで、整備費用や人材面への投資を抑えながら自分たちの事業規模を拡大するきっかけになります。自治体からの目線では、民間事業者の力を借りることで施設や地域に新たな魅力を加えることができ、財政面でもプラスの効果が生まれます。

今回の「阿波森林公園」においてもそんな柔軟な体制づくりが実現しました。この背景にはどんな経緯があったのでしょうか?

「阿波地域は人口500人以下という小さな規模のエリアですが、公民館やキャンプ場、温泉施設、体育館、児童館などの行政施設がとても多いのです。従来のFMや行政コスト分配の考え方を踏襲したら、ほとんどが廃止しなければいけない状況でした。ですが、公民連携の考え方を取り入れてどうにか稼げる公共不動産に転換できないかと庁内横断型の検討チーム”阿波部会”が立ち上がったのです。その会議体は、合併した市町村の支所機能を統括する地域づくり推進室が主導し、財産活用課も並走しながら、阿波森林公園の管轄である森林課、温泉施設の管轄である高齢介護課などの各施設の所管部署を巻き込みました。

庁内横断型の検討チームでは各部署がそれぞれ得意な役割を果たし、具体的な活用プロジェクトが生まれたら主要なメンバーが機動的に動いたという。(作図:公共不動産リサーチプロジェクト)

特に、たくさんの行政施設のなかでも指定管理者制度を導入している施設をどうにかしたかった。阿波森林公園はもともとキャンプ場だったこともあり、グランピング施設はどうかなと思い描いていましたが、現行の指定管理者にはグランピング事業のノウハウが不足しています。そこで、新たな出会いを期待して登録したのが公共不動産データベースでした。まさにドンピシャの民間事業者の方から問い合わせをいただいたんです」

事業者から問い合わせがあった後は、地域づくり推進室、財産活用課、阿波森林公園の所管部署である森林課のメンバーが株式会社ダイブと伴走し、既存の指定管理者や住民の間に立って様々な調整を行っていったそう。民間事業者にとっては、やはり庁内や地域との調整を引き受けてくれる行政担当者がいるのは大きなポイントです。

既存制度活用の可能性

阿波森林公園の事例において、指定管理者制度の枠組みの範囲内で、それを柔軟に運用することで新たな連携スキームを組んだように、民間事業者の多様な参画方法を用意することは、今後の自治体経営にとって重要なポイントになると川口さんは話します。

「ザランタンあば村の運営体制の実現にあたって、指定管理者制度の仕組みや条例等を丁寧に確認しました。様々な工夫は必要ですが、現行制度活用の可能性を感じるきっかけにもなりましたね。より柔軟に、より様々な形で民間事業者を受け入れられるようになれば、公共不動産活用も活発になるだけではなく圧倒的に行政コストも下げられます。もちろんそのためには自治体側の意識を変えることも必要ですね。

例えば公共図書館を丸ごと”本屋さん”に変えることは難しいですが、一部に本屋さんが入ってもいいと思うのです。大きい公共施設におけるカフェなどの参入も、もっとハードルを下げたい。行政財産だからできないと一辺倒になるのではなく、これからは既存制度を柔軟に捉えることが重要だと思います」

阿波森林公園のような民間事業者からのノウハウ&人材提供型、あるいは施設の一部を使った事業を始める公共不動産版サブリース的発想が広がると、民間事業者にとっての公共不動産活用の敷居もぐっと下がり、活用の幅も広がりそうです。

これからの自治体ファシリティマネジメントチームの動き方

「財産活用やFMに関する部署は自治体の中でも比較的新しく、人材的にリソースが足りないことが多いですが、公共施設の総合管理計画やアセットマネジメント、土地の売却や物件の貸付などは得意なチームです。だからこそ、現場での課題感や地域のニーズを最もよく知る所管部署と連携することでどんどん新しいチャレンジを誘発する可能性があるのです。

逆に、FMと所管部署の連携が足りていないことが公共不動産活用のボトルネックになることも多いように感じます。これからの自治体経営は、FM部署と施設担当部署がいかにうまく連携できるかが鍵だと考えています」

これからの自治体経営は、地域の課題をよく知るチーム(施設担当部署など)と、財政・技術をよく知るチーム(ファシリティマネジメント部署など)の連携による、新しいチャレンジの誘発が鍵。(作図:公共不動産リサーチプロジェクト)

行政財産を普通財産化して売却する従来の手法だけではなく、賃貸やコンセッション、既存の運営施設のへの新規事業参入等、民間事業者の参画を促せる仕組みが増えることで、よりクリエイティブなアイデアによる新たな公共サービスを打ち出せたり、結果的に行政コストが下がるなどの様々なメリットがありそうです。

今回のインタビューでは、公共不動産活用が加速するための様々なヒントをいただいたお話になりました。今後も公共不動産活用の多様な形に注目していきたいと思います。

 

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