ハイドパークは、都心にありながら1.4㎢の広大な敷地を持つ、ロンドンを代表する公園。そんなハイドパーク内の湖に、巨大な現代アートが期間限定で浮かぶと聞いて、見に行ってきました!作品名は「ロンドン・マスタバ」。マスタバとは墳墓のことで、7506個のペイントされたドラム缶を、20m以上(エジプトのスフインクスと同じ高さ!)に渡り積み上げた、総重量650トンの巨大な構築物。
実際にハイドパークを訪れると、水面に浮かぶ巨大な台形の塊が、陽を浴びてキラキラと輝いて荘厳な雰囲気。そのまわりを、手漕ぎボートがのどかに取り巻いている様は、シュールなような、馴染んでいるともいえるような…。
とにかく大きい。大きすぎる。いつもの公園の風景に、圧倒的な違和感を投げかけていました。
園内の自然環境にも配慮したというだけあり、作品の上では多くの野鳥たちが休んでいて、気持ちよさそう。
公園を訪れた人々も、写真を撮ったり、作品を見ながらピクニックをしたりと、思い思いに楽しんでいました。
作者のクリスト(Christo 1935‐)は、妻のジャン=クロード(Jeanne-Claude 1935‐2009)と共に、パリのポンヌフ橋を丸ごと布でラッピングしたり、北カリフォルニアを横断する40㎞のフェンスを建てるなど、野心的な作品を数多く作ってきた現代アート界の巨匠。
日本の茨城でも、1991年に水田地帯に1340本の傘を建てるプロジェクトを行っています。
クリストは、300万ポンド(4億4000万円超!)という本作の製作費を、自身の作品写真やアイディアスケッチなどのアート作品を売ることで調達。今回の作品に限らず、すべての作品を補助金などによらない完全な自費で制作しているというから驚きです。
地元自治体や公園管理者(王立公園)との交渉に一年を費やし、ドラム缶を運ぶために70台以上のトラックを使用、しかも公園内は園内の歩行者に配慮して時速1.6㎞の超徐行運転を求められるというハードな制作条件でしたが、クリストにとっては全く問題ではなかったそう。
というのも、先のポンヌフ橋のプロジェクトではパリ市長との協議に9年をかけ、北カリフォルニアのプロジェクトでは、42ヶ月に及ぶ協議、18の公聴会、裁判所も巻き込んだ論争に発展するなど、クリスト作品の実現への道のりは常に険しかったからです。
ロンドン・マスタバはハイドパーク内にあるサーペンタインギャラリーという現代美術館側からのラブコールで実現したこともあり、クリスト作品の中ではスムーズに完成したものなのだそうです。しかもこれ、アブダビに建造予定の作品の8分の1の試作品とのこと。この8倍…もはや想像できません。
ついつい実現過程ばかりが気になってしまいましたが、公共空間にアートがあるっていいなと素直に感動できる体験でした。
なお、作品の展示は9月23日で終了、現在は撤去作業に入っています。
松田東子