ロンドンには市長の他に、「夜の市長」がいる?!2019年6月7日、第10回国際パブリックマーケット会議で行われたAmy Lamé氏のスピーチから、24時間眠らない都市をめざすロンドンのナイトタイムエコノミーについて紐解きます。
夜の市長って誰?
日本でも、観光促進の面などから注目が集まっているナイトタイムエコノミー。ナイトタイムエコノミーとは、18時から翌日朝6時までの活動を指します(国土交通省発行『ナイトタイムエコノミー推進に向けたナレッジ集』より。ロンドン市の定義も同様)。
ロンドンをはじめアムステルダムなど一部の都市では、市長の他に、夜間活動における多様な利害関係者を調整するため、「夜の市長(ナイトメイヤー)」という役職を設けています。ロンドンでは、「Night Czar(ナイトツァーリ)」と呼ばれるこの役職、2016年から初代ナイトツァーリを務める Amy Lamé氏のスピーチを聞いてきました。
生活の質を高める取り組みとしてのナイトタイムエコノミー
Amy Lamé氏は、パフォーマー、ライター、テレビ・ラジオパーソナリティとしてロンドンのナイトカルチャー増進に長年貢献し、LGBT+文化の発展に重要な役割を果たしたパブの保存活動団体の設立者でもある人物。
「私のナイトツァーリとしての最も重要な仕事は、ロンドンの全労働人口の3分の1に相当する1.6百万人の夜働いている人々が、昼間に働く人と変わらないサービスや、コミュニティにアクセスできるようにすることです。実際夜勤の人に話を聞くと(彼女はNight Surgeryという夜間に活動している様々な主体の生の声を聞く取り組みを行っている)一番多い質問が、夜中の2時に温かい紅茶はどこで飲める?というものなんですよ。」
まず、働く人あってのナイトタイムエコノミー。ごく当たり前ながら、深夜の交通機関の運行やお店の開業時間延長は、その時間帯に働く人なくしては成り立ちません。需要をどう取り込むか、という視点からだと置き去りにされがちな、供給する側の生活の質の向上が最優先、という方針に、思わず膝を打ちました。
24時間都市をめざすロンドン
2017年7月に、市長はロンドンを世界に名だたる24時間都市にする、というビジョンを打ち出しました。それに先駆け2016年以降需要の高い路線から段階的に地下鉄の深夜運行を開始。2019年7月現在、地下鉄5路線と地上線1路線が金・土曜日に限り24時間運行を行っています。(ロンドンの公共交通機関は公営のため、日本との単純な比較は難しいと感じることも。ちなみにバスの夜間運行の歴史は古く、なんと1913年にさかのぼるそう。)また、パブやライブハウス、LGBT+の集いの場を守る取り組みも行われています。
新たに導入されたパイロットエリア選定事業
さらにこのスピーチが行われた6月7日には、ナイトタイムエンタープライズゾーンとして、先行実験エリアとして選ばれた区に75,000ポンドを補助する事業を始めるとの決定が。ナイトツァーリと共に多様な主体の声を吸い上げる役割を果たしている協議会(the London Night Time Commission)が提出したレポートの提言にこたえる形で実現した事業で、特区をつくって資金を集中投入し、その効果を測る取り組みです。ハイストリート(各町にある目抜き通り。通常商店が連なるが場所によっては空き店舗が増えている)の再生、店舗開業時間やサービス提供時間の延長、夜間労働条件の改善(500,000を超える夜勤の仕事が、市が独自に定めた最低賃金(London Living Wage)を満たしていないことが課題とされています。)などを目指しており、8月9日に対象区が決まるそう。要注目です。
ナイトツァーリお薦めのナイトマーケット
スピーチはProject for Public Space主催の第10回国際パブリックマーケット会議の夜の部で行われたため、ナイトタイムエコノミーにおけるパブリックマーケット(主には深夜早朝からはじまる精肉・魚・青果市場と、ナイトマーケット)の重要性に触れた上で、お薦めのナイトマーケットの紹介も。街全体が活気にあふれ、ロンドンならではのマーケットのエッセンスがぎゅっと詰まったCamden Market、市庁舎の近くなら音楽ライブも楽しめるFlat Iron Squareが一押しとのこと。ロンドンにお越しの際は、ぜひ足を運んでみては?