2022年度に公共R不動産のメンバーが訪れて「いいな」と感じた公共施設、パブリックスペースをメンバーの一言コメントとともにご紹介します。全国各地から公園や水辺、図書館、道路の社会実験などのラインナップです。気になる場所があれば、ぜひ訪れてみてください!
※公共R不動産による独断と偏見でピックアップしています。
岐阜の未来をつくる場所
みんなの森 ぎふメディアコスモス(岐阜県岐阜市)
https://g-mediacosmos.jp/
どんな気分も多様な椅子が受け止めてくれる図書館
石川県立図書館(石川県金沢市)
https://www.library.pref.ishikawa.lg.jp/
とにかく居心地の良い空間だった。施設に入った瞬間思わず感嘆の声が漏れた、象徴的な円形の大空間。回遊性に優れており、出口が分からず彷徨(さまよ)っているうちに目についた書籍に関心が移り、気付いたら長時間滞在してしまった。円の中心から順に、自由撮影OKな刺激たっぷりクリエイティブなゾーン、従来の図書らしいゾーン、会話禁止の集中ゾーンに緩やかに分類されている。入口近くの書架は「世界に飛び出す」「好奇心を抱く」などユニークなテーマ分類。施設内には子ども用屋内アスレチック、キッチン、3Dプリンタやレーザーカッターもある充実度。何よりも感動したのは座る場所の多さ。百種類(!)の椅子の中にお気に入りの場所はきっと見つかる。家具ではないが座りたくなるような仕掛けも多く、1人になれる空間もうまく散りばめられていていた。本を読む場所ではなく、安心して知的体験ができる場だった。こんな図書館と共に多感な中高生時代を過ごせたらどんなに幸せか。文化立県石川、恐るべし。
日本にもこんな公園がほしい
新北大都会公園(台湾新北市)
https://www.hrcm.ntpc.gov.tw/Home
空港から台北へ向かう電車の中で、外を見ていたら、バスケットコートや広大な芝生広場、カラフルな遊具など何やらおもしろそうな場所がある!と、見つけた台湾・新北市にある全長7.7km、424haの面積の公園。思わず、GooleMapでピンをつけて8ゾーンある中の「熊猴森パーク」へ訪問。台湾の代表的な動物をイメージしてデザインされた100種類以上の遊具や、堤防を活かした滑り台は、なんと31基!中央の芝生広場ではイベントが開催されていて、子供だけでなく大人も楽しそうに過ごしていたのが印象的でした。この公園も含め、台湾で感じるのは、子供向けの遊具だけでなく健康遊具が豊富だったり、ベンチが向かい合わせに置いてあったり、公園が多世代の居場所になっているところ。こんな公園づくりを日本でもしていきたいな。と刺激をもらいました!
いま見直されるグリーンスペースの意義
Camley Street Natural Park(英国ロンドン市)
https://www.wildlondon.org.uk/camley-street-natural-park
大規模再開発が進むロンドンのキングスクロス。Googleはじめ大企業のオフィスが立ち並ぶすぐ裏に、まるで原生林のような鬱蒼とした森があります。しかしこの森ができたのはたった38年前。汚れた運河横の小さなスペースを、自然公園にしようと地元の学生が呼びかけ、地域の後押しを経て緑の楽園となりました。2年間の休園を経て2021年秋に再オープン。新しいビジターセンターも整備され、コロナ禍を経て人気がさらに高まっているとのことです。都会のど真ん中で、都市公園とは違う自然公園の魅力をたっぷり味わえます。
公園沿いに打たれたアンカー、暮らしを育てる複合施設
NEKKO OKAZAKI(愛知県岡崎市)
https://www.instagram.com/nekko_okazaki/
「QURUWA戦略」に取り組む岡崎のまちなか。乙川沿いのプロムナード、乙川を渡る桜城橋から中央緑道を抜けて籠田公園まで、直近で整備された公共空間が注目されるところ、2022年7月22日、中央緑道の途中にあるNTT岡崎ビルの1Fがリノベーションされ「NEKKO OKAZAKI」がオープン。ベーカリーカフェ、クラフトビールショップ、試作工作室、レンタルスペースなどの複合施設でありつつ、中央緑道からの連続性を意識した公園のような場所。インテリアには岡崎ローカルの木や石も使って柔らかな時間の流れるオープンスペース。現地に朝早く着いた日の作業場として使ったり、帰る前に立ち寄ってビール1杯飲んだりして使われ方を眺めてますが、エリアの新しい暮らしのきっかけとなる場所という雰囲気が日に日に強まっている。
下町の路地が客席となる、寛容的な日常の風景
すみだ向島EXPO2022〜夕刻のヴァイオリン弾き〜(東京都墨田区)
https://sumidaexpo.com/
長屋の街並みが残る墨田区京島で年に1回開催される街なか博覧会「すみだ向島EXPO」でのワンシーン。会期期間の約1ヶ月、毎日18時になると長屋の2階からヴァイオリン弾きが現れ、演奏が始まると人々が路地に集まってくるのだ。狭い通路ながらに、まちの人や偶然通りかかった人が入り混じり、その”時報”に聴き入る。
会期の後半には、人が集まりすぎて通行の妨げになることもあったが、子供たちが「とおりみち」のガイドラインをチョークで書き、観覧のマナーが自然とつくられていった。一見するとクレームにもつながる行為だが、皆んなが楽しいコンテンツを、お互いの緩やかな配慮と許容により成立し継続する、なんとも寛容的なまちの風景だと感動した。
まちの人の熱量を引き出し、高めた駅前広場
とよしば(愛知県豊田市)
https://toyocba.com/
豊田市の駅前整備事業の一環で、3年7ヶ月間という期間での暫定利用として始まった、駅前の芝生広場&公民館&飲食店が融合したような場所。魅力的な飲食店だけでなく、まちで何かやってみたい人に向けたスクールを実施し(実践までサポート!)、オンライン公民館といったゆるいつながりをつくるきっかけを提供したりと、様々な切り口からこの場所を育てていった結果、日常的にまちの人が集う場所になり(高校生は「とよしば集合」が合言葉)、「好きですとよしば」なるコミュニティが運営者の知らないところで誕生し、彼らが主催でイベントや場作りが進んでいるというから驚く!居心地の良い空間的な魅力に留まらず、消費者ではなく当事者として関わる人が増えている事が、とよしばの生み出した最大の価値なのかなと感じます。残念ながら2023年3月末にとよしばとしての営業は終了してしまいますが、この場所で芽吹いた動きが豊田のまちに広がっていくことを願っています。
まちのエアポケット
カガヤキテラス(ミチノサキ)(東京都目黒区)
https://michinosaki.jp/floor.html#floor_04
武蔵小山駅から程近い場所にある小さな複合商業ビル『ミチノサキ』。4階にあるレンタルスタジオ「PARUTA」は、室内の「ヒカリスタジオ」と屋外の「カガヤキテラス」で構成される。カガヤキテラスは予約外の時間は誰でも出入り自由で、1階で購入したパンや近隣商店街で購入した飲み物を持ってくつろぐことができる私設公園としての機能もある。
この場所が生まれた背景は2つ。1つは、縦に細長いビルのアクセスポイントとして、もうひとつのグランドレベルをつくること。2つめは、実はこの場所は有限であること。前面道路の拡幅工事が決定すればまるごと消えてしまう空間でもある(室内空間部分は残る)。その日は未定。であれば、その間を積極的に地域や入居テナントに開こう!と決めたオーナーの意志はファサードデザインの特徴にもなっている。空中階という認知のハードルを越えるため月イチマルシェも開催。都市の隙間をパブリックスペースに変えるアイデアは、行政が管理する収容土地にも応用してほしい事例だと感じた。
工夫を凝らし尽くした社会実験
青葉通り仙台駅前エリア社会実験 MOVE MOVE(宮城県仙台市)
https://machito-sendai.com/
2022年9月23日から10月10日の18日間、仙台駅前で行われていた社会実験。片側4車線のうち2車線を芝生広場、1車線を自転車道に。特筆すべきは、短期間の仮設の場とは思えないほど凝らされた工夫の数々。テーブル、遊具、所どころ斜めに振られたベンチは遊び場や溜まり場に。ストリートピアノの音はスピーカーで会場中に広がる。バス停と欅(けやき)の下ではマルシェ。小高いステージではファッションショーやストリートライブを。夜には焚き火を求めて人が集まる。音、光、温度、匂い、手触り、五感を刺激する丁寧な心遣いが体験を豊かにし、何度も通いたくなる場を作っていた。データ計測も抜かりなし。仙台がこれからどんな公共空間を生み出すのか、楽しみでしかない。
ゆるやかに開かれた水辺
タグボート大正(大阪府大阪市)
https://tugboat-taisho.jp/
厳密な公共空間ではないのですが、水辺にゆるやかに開かれた居場所ができていて、とても気持ちよく過ごせたタグボート大正。尻無川沿いの行政所有の土地を、民間事業者が借上げてつくられた複合施設です。路地裏を散策するようなバラック的な建物のつくられ方も楽しく、フードコート形式の店が多いので、ふらりと入って、たこ焼きとビールを買って、移りゆく水面を眺めながらのんびり、といった過ごしたりもできる気楽さが肝。東京にもこんなゆるい水辺がもっとあったらいいのになあ。
すべての人を受け入れる、自然で自由な空間
鴨川(加茂川)の川縁(京都)
2022年よりはるか前から訪れている場所ですが、私の最も好きな公共空間は「京都・鴨川(加茂川)の川縁・空地」です。音楽を奏で、お弁当を食べ、スポートをし、踊りの練習をし、ただ寝転んで思索し、ペットとの散歩、ジョギング、ただテクテク歩いて、子どもたちが川に入って水遊びをするのを眺め…。地元の人も観光客も、すべての人を受け入れて、ありとあらゆるその人らしい楽しいことが丸ごと許されている場なんです。
多くの公共空間で目にする、行動制限の柵や禁止看板、情緒を壊す舗装や遊具などは極力廃され、自然のままを保全できるよう、訪れる人の意識に入らないような細やかな管理・マネジメントがなされているからこそ。(鴨川の維持管理の市民の歴史や、行政的な条例策定など、話し出したら深いのですが、ここでは割愛)
自然で自由な空間って、なんでこんなに気持ちいいんですかね?私にとって、鴨川の川縁(かわべり)は、誰にとっても心地の良い空間って、どうやって生み出され、維持され、愛され続けていくのかを、行くたびに考えさせられる唯一無二の大切な場所です。
岐阜市立中央図書館を中心とした複合施設。2階の図書館は光がやわらかく開放的で居心地がよく、1階の市民活動交流センター付近には「シビックプライドプレイス」があり、まちに愛着がわくような情報や活動を誘発する仕掛けが見られました。建物の前には広場があり、向いにある岐阜市役所と広場を共有しています。年始の帰省で訪れたところ、お正月のワークショップで凧揚げをしている子どもたちの姿が見られ、穏やかな空気が流れていました。みんなの居場所であり、岐阜のまちの未来をつくる場所。伊東豊雄氏による建築も素晴らしく体感する価値ありです!こんな施設があるまちに住みたいなぁ。