大宮図書館は「大宮駅周辺地域戦略ビジョン」に基づき、「公共施設再編による連鎖型まちづくり」の取り組みにおいて、2019年5月、新たにオープンした大宮区役所新庁舎内に移転しました。その跡地である旧大宮図書館は、「大宮」の由来でもある武蔵一宮氷川神社の参道、氷川参道の二の鳥居のそばに建っています。古くから市民に愛され、市民の記憶に残る憩いのシンボルでもある施設だったといいます。公共R不動産ではその旧大宮図書館の活用方法を探るべく、昨年からお手伝いしてきました。
今回のイベントは、その旧大宮図書館の活用方法を、さいたま市、アーバンデザインセンター大宮(UDCO)主催、公共R不動産協力のもとで、市民や民間事業者、行政が一体となって将来像を考えるパブリックミーティングです。当日は日曜の午後にもかかわらず、受付も長蛇の列となり満席、会場内をぐるっと見回しても老若男女さまざまな人の姿が見られました。大宮市民やプロジェクトに興味がある事業者など、集まった人の数はなんと約100名!
会場となったさいたま市大宮区役所の1階「氷川の杜ひろば」は、2019年5月にオープンしたばかりの大宮区役所のメインエントランスにある広いオープンスペースで、大宮図書館の入り口のすぐ側にあります。全面のガラス窓にスキップフロア、高い吹き抜けのある明るくオープンな空間で気持ちがいい! まさに旧大宮図書館の活用を考えるパブリックミーティングにふさわしいこの場所で話が繰り広げられました。
ローカル経済の拠点、神戸三宮の「KITANOMAD(キタノマド)」からヒントを
始めに、さいたま市大宮駅東口まちづくり事務所所長・西岡康一さんより挨拶があった後、同事務所の岡村雅之さんより、大宮駅東口周辺公共施設再編計画とその取り組みについて説明がありました。
つづいて始まった1部は神戸三宮を中心にファーマーズマーケットやシェア拠点の企画運営によりエリア価値を高める事業を展開されている、神戸R不動産の小泉寛明(こいずみ・ひろあき)さんのゲストレクチャー。
小泉さんによると、神戸は目立った観光資源のない「生活都市」と感じていて、住みやすい街として、より質を高めておくことが必要だと感じたそう。人口が減少傾向にあり、人を増やさないといけない、自分たちの経済を動かしていかなければならない、という中で、小泉さんたちは自分たちのことを「エリアデベロッパー」と呼んで、特定のエリアを定めて集中的にマンパワーを投下して活動してきました。
小泉さんは、もともと神戸R不動産の経営者ですが、「EAT LOCAL KOBE FARMERS MARKET」の開催がきっかけで、よりひろく地域に関わるようになったよう。このマーケットは、東遊園地という国が所有する公園で毎週開催されるもの。最初は誰が野菜を作っているのか、どこで買えるのかを紹介するWEBサイトから始まったそうです。いまでは、神戸市で野菜が作られていることを知らなかった購入者と、大規模流通に乗せて神戸以外の都市に野菜を出荷していた農家とがダイレクトに繋がれる場所となっています。
その後、北野という一等地に非常に魅力的な物件が手に入ったことを契機に、マーケットで繋がった農家さんやクリエーターの面々と、ローカル経済の新しい循環づくりを目指すシェア拠点「KITANOMAD」を立ち上げました。1階には、「EAT LOCAL KOBE」に参加する農家などの野菜・商品が揃うグロサリーショップと、その食材を使った料理を楽しめるダイニングレストラン、2階には移住者やフリーランサーのためのシェアオフィス、ヨガや六甲トレイルランをする人たちのためのスタジオ、アーティストの工房、写真教室やアートや本を取り扱うショップなど、エリアでの生活をより豊かにするテナントが入居しています。
そのほかにも、元外国人マンションや高架下をアーティストに貸し出したり、クリエイター向けのシェアオフィスを展開する中でわかったことは、「人」が「人」を集める、ということ。「この人に会いにきた」「この人がいるから来た」と集まる人々を見て、人が中心であることを考えていかなければならない、と言います。
これらの取り組みを経て、小泉さんは大企業誘致型ではなく、地域の小規模事業主が集まって新しい商売を作っていくローカル経済育成型の方が長続きするのでは、と提言します。埼玉も、大都会東京の隣ではあるけれど、実は非常に多くの農産物を生産しており、農地もたくさんあります。ここ、大宮でも、地域にそのような仕組みがあってもいいのではないか、これからは「地域にあるものを見直して、あるもので作る時代だ」と締めくくりました。
旧大宮図書館に関わる多彩なパネリストが想いをぶつける
2部は、アーバンデザインセンター大宮の副センター長である藤村龍至(ふじむら・りゅうじ)さんコーディネートのもと、1部のゲストレクチャーであった小泉さん、地元市民代表として氷川神社の権宮司、東角井真臣(ひがしつのい・まさおみ)さん、さいたま市PPPコーディネーターの宮本恭嗣(みやもと・やすし)さん、3人のパネラーによるパネルディスカッションが展開されました。
東角井さんは、大宮を地元とする住民の代表であり、旧大宮図書館の脇を通る大きな氷川参道の管理者でもあります。
「地域の方がなごめる場所、この施設や参道を含めた一帯の活性化の恩恵に預かれる場所になってほしいと思う」という意見には、会場からも拍手が起こります。また、「地域の誇り」「地域愛」という熱のこもったキーワードも出ました。
宮本さんは、PPPコーディネーターとして、さいたま市の財政や全国的に公共施設再編の動きが高まっていることを説明。「旧大宮図書館の活用は、公共施設の統廃合と公民連携による運営の事例としてエポックメイキングになりうる、とても大事なプロジェクト」だと、今回の行政側のプロジェクトへの意気込みを代弁します。さらに「公共性と事業性とのバランスをいかにとっていくのか」「行政がどのようなプロセスで事業者を選んでいくのか」が重要だと、専門家の立場から示唆を投げかけました。
ここで、小泉さんが「ローカルを活性化するためには若者の新規参入以外にも、ローカルな地元民の活力も使うべき」という会場からの意見に回答。
「確かに新しく入ってくる人は30〜40代が多いが、外からの人をどうやって内に美しく取り込んでいくかが重要で、世代を超えて植栽を一緒に管理するなど、共同作業を一緒に行うこと通じてみんなの心が打ち解ける機会を設けるのが役割」だと、事業者側の具体的な取り組みの参考になる手法について語りました。
「スパークアップ」導入で市民も巻き込んだオープンディスカッション
今回は、さいたま市のオープンな会議では初めての試みだという、ITを活用したアンケートアプリ「スパークアップ」を使用。モデレーターの質問に対し、参加者の方の声をリアルタイムに集計し、表示できる対話ツールです。
スパークアップを通じ、最後に会場からどんな利用が望まれるかという質問をなげかけてみたところ、「国際芸術祭会場として使われる流れを生かし、多くの市民が集い、交流し、クリエイティブな活動ができるアートとカルチャーの拠点として活用してほしい」が最も支持された意見でした。そのほかにも「短期的な利益追求の取り組みとせず、文化をここから生み出す気概で仕組みをつくることに取り組むべき」「パブリックマインドに溢れた民間事業者が入って、旧図書館と街をつないで欲しい」など、大宮市民の熱い思いをリアルに共有することができました。
今回のパネルディスカッションで「ローカル」「地域愛」「アートやカルチャー」「伝統芸能」とさまざまなキーワードが出たことをコーディネーターの藤村さんが、振り返り、「さいたま市が今回の多くの意見をふまえてどのような事業として打ち出していくのか、整理をして事業者の公募につなげていくことが重要だ」との示唆を残してパネルディスカッションは幕を閉じました。
地域と一緒に旧大宮図書館を盛り上げてくださる事業者の方をお待ちしています!
登壇したパネラーの方々と、会場に集まった多くの参加者がスパークアップを通してリアルタイムに意見を交わし合うことで、大いに盛り上がり、行政にとっても市民にとっても実りの多いパブリックミーティングとなりました!
現在は事業者の本格公募前のサウンディングというフェーズですので、今回のトークイベントを受けて、図書館なんて1社では大きすぎて使えない…と思っていた、小規模な店舗、ローカルな個人事業主の方々も、ご意見の多かったカルチャーやアート系の企画をお持ちの方々も、「こんなことがしてみたい」という希望、そして課題を、ぜひぜひお聞かせください。たくさんの小さな事業が集積すれば、大きな図書館が多様な方の拠点として再生できるかもしれません。そんなわけで、ご関心を持ってくださったたくさんの方々のご意見を、さいたま市、公共R不動産一同、心から楽しみにお待ちしています!
※サウンディングとは:公募する前段階で、広く意見を聞き、用途や条件を調整するためのプロセス。本事業のサウンディング詳細はこちら